告白
時間が………気力が………
ばなな(^O^)
「………疲れた」
湯船に肩まで浸かって空を見上げ、湯煙越しに深夜の星空が瞬いていた。
少し生ぬるい白濁質の鉱泉が、疲れた体に心地よい。
溜息1つ、あくびをして。
「………………疲れた」
いや、マ~ジ~で、疲れた。
もうしばらく働きたくねぇ。
というか、あの爺、元気すぎるだろ。
爺の酒宴とか見ても楽しくねぇんだよ。
晩飯喰い終わってからずっと酒飲んでるし、何故か俺も巻き込まれるし、健康優良児のナナは早々に寝るし。
途中で酔っぱらった変態とお嬢様が乱入してから地獄が倍プッシュ。
まともな大人に助けを求めようとして、気づいたら誰もいなかった。
ついでに希望もなかった。
視界も意識も朦朧と湯煙に溶けて、ただ鈍い頭痛だけがはっきりしている。
浴槽の壁にもたれかかり、眼を閉じる。
わずかに硫黄の香りを漂わせる湿った空気をゆっくりと吸い込み、ガクンと頭が重くなる。
労働の限界を訴える脳髄に身をゆだね、深く、深く沈んで。
「ふぃ~………流石に、少し疲れたねぇ………。というか右近様、あれだけ飲んで大丈夫なのかな?もうお年だし、あんまり無理はしないで欲しいんだけど………まぁ、言うだけ無駄か」
「まったくだ。いくら爺様が生き残りと言っても、もう90過ぎの老人だ。出来れば隠居してもらいたいが、そうもいかんだろうな」
「だよねぇ。あの人が縁側で日向ぼっこしてる絵とか、想像できないし」
沈んで。
「しっかし驚いたよねぇ………まさか、児雷也さんだけじゃなくて、甲賀の人たちまで来てるとは思わなかったよ」
「まぁ、トーマさんたちの無事を知れただけでもよかったんじゃないか?」
「だね。お父さんもお母さんも元気にやってるみたいだし…………それはそれとして、右近様が元気すぎる気はするけど」
「………まぁ、お爺様だしな」
沈んで。
「というか、こうやって一緒にお風呂入るのも久しぶりだよね」
「………ミ、ミカ?なにやって」
「どうせ誰もいないし、別にいいでしょ?」
「………まぁ、それはそうだが」
沈ん。
「うるっせぇんだよさっきから!!風呂場で乳繰り合うんじゃねぇ!!!」
「うおっ!?」
「………え?クロさん?いつの間にいたんですか?」
「最初っから居たわボケ!!」
人が風呂入ってる時にギャーギャー喚きやがって。
こちとら頭痛いんじゃボケ。
せっかく静かにしてたのに、全部ぶち壊された。
というか。
「なんでこんな深夜に風呂入ってんだよ!!頭おかしいだろ!!」
「それ、クロさんもだと思うんですけど」
「そもそも!人がいるとこでいちゃつくんじゃねぇよ!!」
「まぁ、最初からアサカ君を襲うつもりで来たんですけどね」
「えっ?」
ぼそっとそんなことを呟くミカ様と、豆鉄砲で撃たれた鳩のような顔のアサカ様。
なんかもう頭痛くなってきた。
ズキズキと疲弊を訴える頭蓋を掻きむしり。
「…………まぁいい。邪魔して悪かった。俺は上がるから、盛るなり盛るなり好きにしてくれ」
「さかっ」
「そうだな、そうさせてもらおう」
「アサカ君!?ちょっと、ムギュッ」
顔を真っ赤にしたミカ様が、後ろから抱き着かれてへんな悲鳴を上げた。
さっきから微妙に回らない頭を振って、立ち上がり。
「…………んん?」
なんか、変なものが見えたような。
目をこすり、目頭を揉み解し、龍眼を発動。
なんか、変なものが見えるような。
「クロさん?どうかしましたか?」
ミカ様に生えている。
見間違いでも疲労困憊した脳が見せる錯覚でもなく、生えている。
………いや、疲労困憊した脳がナニを見せるとかどういうことだって感じだが、紛れもなく生えている。
WHY?
いや、マジでなんで?
らんまか?1/2なのか?
「なぁ、ミカ」
「どしたの?」
「ひょっとしなくても、バレたんじゃないか?」
「………あっ」
何でもない事のように放ったアサカ様の言葉は、珍しく正鵠を射ていた。
「………つまり、どういうことかしら?」
「隠していてすみませんでした」
「本当に、申し訳ない」
「やふ~………茶々はかぁいいですねぇ~………」
不思議そうに首を傾げるお嬢様の前で、ミカ様とアサカ様が頭を下げた。
少しざわつく周りの空気を無視して、畳の上で寝っ転がって猫と戯れるナナ。
可愛い。
可愛いのでとりあえず写真撮る。
可愛い。
なんかもう全部めんどくさくなってきた。
このままずっとナナを愛でていたい。
「えっと、アサカ君が女子っていうのはまだ何とかわかるんだけどさ?ミカちゃん………ゴメン、ミカ君?が男子っていうのが、なんというか、こう、違和感があるといいますか………」
「あ、ミカちゃんで大丈夫ですよ?昔からずっと女装………というか、女として育てられたので」
「………マジ?」
「マジです、マジマジ」
気まずそうに言い淀んだカティア様が、なんでもないようなミカ様の声に変な顔になった。
「ほら、私の家って忍者じゃないですか。色仕掛けとか、他にも色々出来るように仕込まれたんですけど………学園に入学するとき、ついうっかり女性として登録してしまいまして」
「龍国では、家は基本長男が継ぐ風習でな。家族に男が生まれなかったから、俺が男として育てられたんだ。そのせいか、女学生の制服を着ていると、どうにも落ち着かなくて………ならいっそ、男子生徒として生きた方がいいなと」
「然様ですか」
少し後ろめたそうに苦笑いする2人。
というか、ミカ様、男子だったのか。
「匂いに違和感がなかったせいで気づきませんでした。なにか、秘伝でもあるのですか?」
「あっ、それ、私も気になってたんだよね。香水とかもしてなさそうだったし。アサカきゅんは手触りが女の子だったから変だと思ってたんだけど」
「………なんか今、変な事聞いた気がするんですけど」
俺の鼻を誤魔化すレベルの技があるのか聞こうとして、変態とエリナ様に微妙に遮られた。
「秘伝………というか、色々といじくられてますので、匂いに違和感がなかったならそれじゃないですかね?クロさんは、まぁ、鼻が利きますし」
「位置や人数、性別程度なら匂いで判断できるので。本気を出せば、体臭や発汗量、汗の臭いなどから色々と」
「クロさん」
「はい?」
「………それ、私に使ったら、クロさんを殺して私も死ぬので、そのつもりでいてください」
「はぁ………わかりました」
何も隠さず正直に言って、浴びせられる殺人的眼光。
何が琴線に触れたのかわからないが、まぁ、逆らうような事でもない。
素直にうなずいておく。
とりあえず、目下のところ問題は。
「というわけでアサカきゅん、ちょっちお茶しない?」
「何言ってんだテメェ」
「ぐべっ」
変な事を言いかけた変態をぶん殴って止め、潰れたカエルよろしく床にへばりつく変態。
「………ちょっと少年?流石に酷くないかな?」
「ナナの情操教育に悪いのでやめてください。というか死んでください」
「そこまで言う!?」
ギャーギャー喚く変態を踏んづけて黙らせ、視線を感じた。
ネコを抱えて仰向けに寝っ転がったまま、不思議そうな顔をするナナ。
可愛い。
じゃなくて、
「ナナ、どうかしましたか?」
「ああいえ、何話してるのかなって」
「ミカ様が男だったって話です」
「なるほど?」
コテンと首を傾げたナナの頭を撫でて、「ぬふ~………」と満足そうな溜め息。
畳の上をコロコロ転がるナナ。
可愛い。
メイド服に皴がつくのでやめて欲しかったりするが、可愛いのでオッケーです。
「………まぁ、今更な気はしますけどね。ミカさんの性別がどうであれ、ミカさんがミカさんだってことは変わらないわけですし」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
ムムムッと眉を寄せて考え込み、けろっとそんな事を言うナナと、心底嬉しそうにはにこむミカ様。
なんというか、見ていて癒される。
日頃の重労働の疲労が急速に癒されていく。
実はナナ、マイナスイオン的なサムシングを発生させてるんじゃなかろうか。
急須から注いだ緑茶を啜り。
「………隠し事というならば、俺だって幾つも隠し事をしています。俺だけでなく、お嬢様も、カティア様も、エリナ様も、フィリアも、クラリス様もアマナ様も、きっと。
それに、仲間だからと言って隠し事をしてはいけないということもないでしょう?誰にだって言いたくないことの1つ2つはありますし、それが普通なのではないでしょうか」
いつの間にか静まり返っていた場を見渡し、湯呑の中身を一息に飲み干す。
唇を湿らせて、口を開き。
「少なくとも、俺は皆さまに秘密にしていることがありますし、それを話す気もありません。そんな人間に、秘め事を責める権利があると思いますか?」
にっこり笑って見せて、何故か少し引かれたような気がした。
解せぬ。
「………ちなみに、それって話してもらえたり」
「地獄を見たいというのなら、構いませんが」
「いえ、結構です」
恐る恐るといった様子の問いかけに冗談混じりに返して、プルプルと首を横に振るエリナ様。
割と本気で否定された。
つらい。
溜息を噛み潰して、立ち上がり。
「………少し話し過ぎましたね。俺は山椒魚を絞めなくてはいけないので、これで失礼させていただきます」
「なんかすっごいパワーワードが聞こえたんだけど」
「今から捌けば、今晩の食事にぎりぎり間に合うはずなので」
「なるほど?」
「というか、あれって本当に食べれるんですか?」
「御馳走だな。小ぶりなのを捕まえて焼いておやつにしていた。かば焼きにすると旨いぞ?」
「………アサカさんって、ひょっとしてけっこうな蛮族だったりします?」
「?」
背後でキャピキャピと何やら姦しく喋る皆様。
武具創成で作った棍棒を担いで、屋敷の裏庭でいまだ痙攣するオオサンショウウオのところへ向かった。
山椒魚は、フグとすっぽんを合わせたみたいな味がした。
とっぷり日の暮れた、夜の森。
暗く黒く深く、墨を流したような暗がりと、木の葉の影から覗く星明り。
虫のささやきに混じって吹いた涼風が、ゆるりと頬を撫でていく。
深呼吸1つ、あくびを噛み殺して。
「それじゃ!!第一回肝試し大会、始めていきましょう!!!」
「お姉様、うるさいので黙って死んでください」
「辛辣だ!?」
相変わらずバカ丸出しの大声で騒ぐ変態が、冷え切った罵倒を受けて膝をついた。
いいぞアマナ様もっとやれ。
「というか、肝試しって何なんですか?」
「みんなでお化けを見に行くの。楽しいわよ?」
「こんな夜遅くに大勢で押しかけて、お化けさん、迷惑しちゃわないですかね?」
「お化けさんは不眠不休なので問題ありません」
「お化けブラックすぎませんか?」
「そうでもないかと」
何故かお化けの身を案じるナナに適当に返し、なおも不安そうに眉を顰めるナナ。
可愛い。
ナナかわいい。
朝顔柄の浴衣に締めた紺色の帯と、銀髪に挿した朱金色の簪がよく映えている。
じゃなくて。
「そもそも、どこにいくつもりなんですか?」
「お爺さんに聞いたんだけどさ、この森の奥に、誰も使ってない古い祠があるらしくてね?3チームに分かれて時間を空けて出発、チーム1とチーム2がこのお札を置いて行って、チーム3がそれを回収してくる、と。何か質問はある?」
何故か猫と狼のデフォルメイラストが描かれたお札を取り出し、首をかしげながらそんな事を言う変態。
こっちみんな。
「チーム分けはどうするつもりですか?どう決めようとしても一悶着ありそうですが」
「そこは平等にクジ引きで、ね?」
「なるほど」
浴衣の胸元から神社においてありそうなおみくじの筒を取り出す変態。
どこにしまっていたのか気になるが、なんとなく、知らない方が幸せな気もする。
というか、なんでおみくじ?
やっぱりこの国、なんというか日本の匂いがする。
「んで、もう引いちまっていいのか?」
「オフコース!!赤、青、黄色で色分けしてあるから、同じ色を引いた人で集まってね。ズルしちゃダメだよ?」
「んなことしねぇよ………」
やたらハイテンションな変態のセリフにうんざりしたように返したフィリアが、ガラゴロとクジを振って一本引き抜いた。
もっかのところ、問題は誰と一緒の組になるか、だ。
当たり枠は、ナナ、アマナ様、カティア様、ミカ様、アサカ様、フィリアの穏健派&真人間チーム。
外れ枠が、お嬢様、変態、エリナ様、メスガキの人格破綻者軍団。
というかぶっちゃけ、まともなのが1人でもいてくれたら、最悪ソイツをスケープゴートに出来るしむしろ全力でそうする。
卑怯者と笑わば笑え、俺はもう疲れた。
もうキチガイ共の相手はしとうない。
南八幡大菩薩、願わくばなんかいい感じに采配し給え。
困った時の神頼みをしつつ、えいやっと引き抜いたクジは青。
青。
蒼。
BLUE。
ナナの眼と同じ色。
戦隊ものなら大抵冷静沈着な頭脳キャラのブルー。
冷静さと知性を表すブルー。
大抵短髪眼鏡のブルー。
丁寧口調で優男のブルー。
なお、奇妙な冒険のホワイトアルバムは除くものとする。
とにもかくにも、青は縁起がいい………気がする。
少なくとも、黄色はダメだ。
お調子者、バカ、アホ、間抜け、すっとこどっこい。
黄色はそんな色だ。
この状況では、縁起が悪すぎる。
だがしかし、俺は運命に勝った。
もはや怖いものなど何もな。
「おっ、クロさんも青色ですか。私と一緒ですね」
少ししゃがんで俺と目線を合わせて、なんだか嬉しそうに先っぽが青く塗られたくじを見せつけてくるエリナ様。
まだだ、まだ終わらんよ。
大丈夫だ俺、落ち着け俺。
諸行無常色即是空七転八倒。
まだ、終わったと決まったわけじゃ。
「あれ?ひょっとして少年も青組?」
「うげっ」
いやな予感がして振り返り、やたらキラキラした目の変態と、苦虫を食い潰したような顔のメスガキ。
大きく息を吸って、吐いて、やたら痛みを訴える頭を抱えて。
「ケヒッ」
もうダメかもしれない。
女装男子は大正義だと思います。
次回予告
全開から大幅に遅れてまさかの日常回!!
疲労困憊した脳味噌で文章を捻り出すヒトデは限☆界☆突☆破状態!!
頭のいかれた作者が送る、ドキワクハートフルファンタジー、エルデンリング!!(違)
「ケヒッ、ケキャキャキャキャ!!」
「どうしましょう、クロさんが壊れました」
「んhせるいrんせうfむんfgm3rmヴ3」
「どうしましょう、作者が壊れました」
「逆に考えるんだ………壊れちゃってもいいさ、って」
「それもそうですね」
「いや、ダメでしょ」
「うぅぅぅっらっはぁああぁあぁあああぁ!!!!!!!!」
次回「公然わいせつ罪現行犯逮捕」
よい子のみんなはマネしないでね!!




