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龍に生まれた少年は、異世界令嬢の奴隷になる  作者: 御星海星
異邦にて巨魁は朽ちる
54/78

老人を見たら大抵『生き残り』だと思え


 強い爺っていいですよね(前回投稿日から目を背けつつ)




「なにこれ!?うっま!?」

「それは良かったです」


 ポテチをパクつくメスガキを適当にあしらい、カレールーを煮込んでいく。

 調理中にちょっかいを掛けられるのが嫌で餌で釣ってみたのだが、思ったより上手く行った。

 龍だ何だと言っても所詮はクソガキ、ちょろくて助かる。


「………なんか今、邪悪なものを感じた気がする」

「気のせいでは?」


 ムダに勘のいいクソガキをはぐらかし、カレーを味見。

 ………少し味が薄い、か?

 バターと醤油を少し足して混ぜ混ぜ。

 ………ちょっと物足りない気もするが、こんなものだろう。


「ナナ。食器を運んでもらえますか?」

「わかりました!!」


 ズビシッと元気よく手を挙げたナナに平皿を運んでもらい、釜の飯とカレーを盛って行く。

 町でカレー粉が売ってあったので作ってみたのだが、やはりカレーは偉大だな。

 量が作れて、旨くて、なにより楽だ。

 カレー万歳、インドに栄光あれ。


()()()()()()ですか。久しぶりですね」

「貴女は………」


 キュピルンと変な擬音が出そうなポーズをとる、いつかのジト目の巫女がいた。

 長老の長話を喰らって爆睡していたただの一般通過ダメ巫女だと思いきや、まさかのコイツもドラゴンだった。

 すごく、すごく度し難い。


「どうも、巫女のお姉さんです」

「龍が何やってるんですか」

「ヒマなんです。仕方ないでしょう?」

「はぁ………」

「それより、しばらくぶりのかれぇらいすなんです。早く食べましょうよ」

「わかりましたから、さっさと座ってください。………というか、長老は呼ばなくていいんですか?」

「そんな事をしたら私の取り分が減るでしょう?」

「えぇ………」


 ダンダンと机を叩く駄巫女。

 それでいいのか問い詰めたいが、どうせ無駄か。

 諦めてカレーを皿に盛り。


「なんじゃなんじゃ、旨そうな匂いがするのぅ」

「なんじゃこりゃ?味噌田楽か?」

「んなわけなかろう、ほら、あれじゃよ、あれ」

「アレじゃわからんわ」

「ふがふが」

「歯抜けは黙っとれ」

「儂は知っとるぞい。コレ、アレじゃろ?あれ」

「アレじゃわからんというに」


 なんかいっぱい来た。

 ゾロゾロヨボヨボ好き勝手話しながら入ってくる爺連中と、「うぼぁ」と奇妙な声を上げて白目を剥く駄巫女。

 いろいろ言いたいことはあるが、とりあえず場を黙らせようとして。



「ご飯を食べるなら、手を洗ってからにしてください!!」


 ナナがキレた。

























「つまりムグッ、明日の昼頃にハグハグハグッ、爺様がここに」

「アサカ君、食べるが喋るかどっちかにしよう?」

「ハグハグハグッ」

「そこで食べちゃうのか………いや、いいんだけどね?」


 ガツガツとカレーを掻き込みながら何か言おうとしたアサカ様が、ミカ様に窘められて食べるスピードを倍増させた。

 どこか嬉しそうに甲斐甲斐しく世話を焼くミカ様と、それを見て呆れるカティア様。

 …………ちなみに、アサカ様は既に5回目のお代わりに突入していたりする。

 何故か張り合っていたナナとメスガキが3皿目でギブアップしたことを考えれば、異次元の胃袋と言って差し支えないのではないだろうか。


「というか、ほんとによく食べますね、アサカ様」

「いへひゃいひゅひょこれくりゃいひゃべりゅひょ」

「何言ってるんですか」

「家じゃいつもこれくらい食べてるぞ?………まぁ、帝国は米が高いから、基本パンしか食えなかったんだが」

「然様ですか」

「帝国に来たばかりの頃、親父殿が米を喰えないせいで体調不良になってな。刀を売りかけた時は本当に焦った」

「お義父さん、意外と繊細だもんね」

「………然様ですか」


 ミカ様のイントネーションが若干おかしかった気もするが、まぁ気のせいだろう。

 そうしておこう。


「それで、お爺様がいらっしゃるというのは?龍国行きの軍艦が来るまで、まだ日があったはずですが」

「………軍艦の足の遅さに痺れを切らした爺様が、部下を引き連れて単身、小舟で先行したと、ミカの伝書ネコが」

「伝書鳩じゃなくて?」

「はい。ちょっと待っててくださいね?………おいで、茶々丸」


 居住まいをただしたミカ様がポンポンと軽く手を叩き、着物の袂から豆大福程度のナニカが転がり落ちる。

 手の平に乗るサイズの白に茶のブチ模様が入った毛玉が、モゾモゾと動き出し。


「………ねこ?」

「ねこちゃん、ですね?」

「ねこね?」


 くしくしと顔をこすった猫が、「みゃぅあぉ」と気の抜けた鳴き声をあげた。


「紹介します。この子は茶々丸と言って、猫又………陰陽術で使役している妖怪変化、モンスターのようなものです。ねぼすけですけど、()()()()()()()()ので、こういう時に便利な子なんです。あと、抱っこして寝ると温かいですし」

「湯たんぽですか」

「にゃふ~………かぁいいですねぇ~………」


 畳に寝っ転がってねこと戯れるナナ。

 いささか行儀が悪いが、なんというか、邪魔したくない。

 というか見てて癒される。

 日々の激務と過重労働に疲弊したメンタルが回復していく。



「ナニコレ?ネコ?」



 茶々丸の首根っこを掴んで持ち上げるメスガキ。

 ぐで~んと無抵抗にされるがままの茶々丸。


「なにしてくれとんじゃワレぇ!いてこましたろか!!おぅ!?」

「何言ってんの?」

「あっ、そのっ、ねこちゃん、返して」

「なにか文句でもあ」

「フシャーーー!!!」

「いったぁっ!?」


 バリバリバリッと顔を引っかかれたメスガキが悲鳴を上げて茶々丸を放り出し、畳の上に軽やかに着地する子猫。

 顔面に見事なひっかき傷を作ったメスガキがミャオと鳴いたネコを追って走り出し、少しだけ場が静かになった。

 しょんぼりするナナの頭を撫でて慰める。

 これでよかったのか微妙に気になるが、まぁ問題ないか。

 気を取り直して。


「アサカ様。よろしければ、お爺様がどのような人物なのかお教えいただけないでしょうか?」

「………なんというか、破天荒というか、無茶苦茶な人だな。嘘か本当かは知らないが、弓削士族の反乱の際、敵の本丸に単騎で乗り込んで味方が到着する前に一人で城を攻め落としたとか………」

「バケモノじゃん」

「『右近が来た』の一言で敵が総崩れになったり、鬼を斬ったり、極めつけは、中位の龍を屠ったとかなんとか。他にも色々、物騒な話には事欠かない感じですね」

「中位龍を、ですか………流石にそれはありえないでしょう。というか、信じたくないです」

「でもあの人、龍の牙で刀作ってるんですよ。どこかで拾ってきただけだと思いたいですけど、もしかしたらもしかしたのかもしれませんし」

「………マジですか」

「ヤバいわね?」


 そうか、龍、殺せるのか。

 ヤバいな。

 ワンチャンぶった切られたりしないか?

 というか龍鱗って切ろうと思って切れるものじゃないんだが。


「まぁ、いくら爺様でもいきなり斬りかかってくるような真似はしないだろうし、そこまで心配しなくてもいいだろう。下手に気負う必要はないさ」

「フラグ建ちましたね」


 

 自信満々のアサカ様がそんな事を言って、エリナ様が縁起でもないことを呟いた。


























 矢を弓に番え、キリキリと引き絞る。

 深呼吸1つ、よく狙いを定めて。


「──────シィっ」


 空を切って飛んだ鏃が、草むらに潜んでいた雉の脳天を貫いた。

 暇つぶし兼食料調達で森に来た俺とエリナ様は、狩猟の真っ最中だった。

 初めて弓を触ったが、意外に上手く行ったな。

 帝都の屋敷にあった古い弓と違って、俺の身長を優に上回る、俗に長弓と呼ばれる部類の物。

 扱いにくい上に弦の張力がバカみたいに強いせいでまともに引ける人間がお嬢様くらいしか思い浮かばないが、命中精度と威力は抜群。

 然るべき達人が扱えば、安物の(サタデーナイト)量産拳銃(スペシャル)くらいなら、あっさり量がしそうで怖い。

 


「お見事です、クロさん」

「ありがとうございます、エリナ様」


 頭をワシャワシャしに来た義手を払いのけて、少ししょんぼりするエリナ様。

 解せぬ。


「しかし………この鳥、美味しいんですかね?」

「いい出汁がとれるそうですし、肉が旨いと聞いたので、今晩は雉飯にでもしようかと」

「炊き込みご飯、でしたっけ?あれ、美味しかったですもんね」

「ええ。懐かしい味でした」

「………クロさん、やっぱりこの国の出身なんですか?」

「さぁ、どうでしょう?」

「それくらい教えてくれたっていいじゃないですか。………それともなんです?人に知られたら困るような事でも?」

「はい」

「即答ですか」


 呆れたような萌黄色の視線を躱し、念動力(サイコ)で確保した雉を回収。

 ………もう一匹ぐらい仕留めていくか。

 龍眼(ドラグアイ)を発動し、あたりを探り。



「………おっ、懐かしいな」


 俺の胸くらいの高さに茂る、緑がかった灰褐色の低木。

 日の光を受けて瑞々しい赤色に色づいたサクランボ大の果実を摘まみ、口に放りこむ。

 かすかな甘みと酸味、ほんのりと舌先が痺れるような、僅かな渋み。

 種を吐き出してもう1粒口に運び、怪訝なものを見るような眼。


「………1つ食べますか?」

「いえ………というか、何なんですか、それ」

「ぐみの実です。結構いけますよ?」

「そうなんですか?それじゃ1粒」


 おずおずといった様子で義手を伸ばすエリナ様。


「あぁ、たまに虫がいるので気を付けてください」

「虫!?」

「そりゃ、虫くらいいますよ。注意すれば問題ありませんから」

「………いえ、結構です。あまりお腹もすいてないですし」

「然様ですか」


 ふるふると首を横に振るエリナ様から目を逸らし、少し離れた草むらに雉を見つけた。

 弓を構え、番えた矢を命一杯に引き絞り。


「クロさん、ちょっと任せてもらっていいですか?」

「構いませんが………飛び道具はお持ちですか?」

「大丈夫です、これがあるので」


 ドヤ顔のエリナ様が、スカートの影からナイフを取り出した。

 ………どこにしまっていたのか知りたいが、まさかめくって調べるわけにもいかないだろう。


「乙女の秘密って奴ですよ、クロさん」


 見透かしたように笑う駄メイドはともかく、この距離でナイフの攻撃をするなら投げるくらいしかないはず。

 これだけ離れていて命中させられるなら、相当なものだが。


「本当に当たるんですか?」

「投げナイフはメイドの嗜みです。………というわけでクロさん、アレに当たったら、私の晩御飯を少し増やしていただきたく」

「何でそうなるんですか」

「クロさんの作るごはん、美味しいですし」

「それは何よりです」


 食欲だったか。

 ふふんと鼻を鳴らしてナイフを構えるエリナ様を眺め。
















「伏せろ!!!」

「えっ?」






 咄嗟に横から飛びついて、そのまま地面に突っ伏した。




 空間を無数の剣閃が舐め尽くし、一拍遅れで全てがずれ落ちる。


 パチリと、刃を鞘に納める音。


 土埃の向こうに、一人の老爺がいた。


 刈り込んだ白髪頭と、顔中に深く刻まれた皺。

 縦一文字に斬り潰された右目と、痩せ衰え、落ち窪んでなお、峻峰を彷彿とさせる顔つき。

 肉が落ちて浮き上がった鎖骨と、もはやミイラと言われたほうが納得できそうなほど痩せた胴回り。

 朽木じみた腕は、油断なく腰の刀に添えられていた。

 このジジイが何かは知らんが、間違いなく、ヤバい。


「エリナ様、立てますか?」

「問題ありません。……どうです?殺れそうですか?」

「もちろん………と言いたいところですが、少々厳しいかと」

「マジですか。逃げちゃいます?」

「御冗談を。ここで仕留めます」

「ですよね~」

「集中してください、エリナ様。部位欠損程度ならともかく、即死してしまえば治療しようがありません」

「わかってます。クロさんもお気をつけて」

「はい」


 両足の剣を展開して体をかがめるエリナ様。

 一歩前に出て盾を構え。





「右近殿!!急に走り出して、一体何を」

「遅いわ甚左!!鬼の()()()じゃ、首刎ねて、アサカの手土産にするぞ!!」



 紺色の袴と白の着物。

 ぼさぼさの髪と髭を伸ばし放題にして、バカみたいにデカい太刀を背負った牢人姿。

 なんか変なのが割って入ってきた。




「………右近殿」

「なんじゃあ!!」

「相手、人間です」

「気配が妖魅じゃ、斬る」

「どう見てもヒトです、右近殿」

「………む、ぅ」

「ほら、刀をお納めください、ね?」

「………わかった」


 何やら不満ありげに唸った爺が、しぶしぶといった様子で刀を鞘に納めた。

 ………新手かと思って警戒していたが、この侍に戦闘の意志はないらしい。

 とりあえず。


「どうします、エリナ様。ここは一度引くべきかと思」

「番………ふふっ、番、ですか。そうですか、そう見えちゃいましたか」


 ニヨニヨと不気味な笑みを浮かべ、恍惚とした顔のエリナ様。

 俗に言うトリップ状態である。

 なんというか、見てはいけないものを見た気分だ。


「あの、エリナ様」

「ハネムーンはどこにします?私的には共和国の大劇場のオペラに行きたいんですけどほら私ってばできるメイドじゃないですか?一応クロさんの要望も聞いておくべきかなってああでも両方行くという手もありますねそれに神教国の大聖堂も捨てがたいですし西方諸国の漫遊旅行というのも」


 この駄メイドめ。


「エリナ様」

「あら?どうしたんですか、クロさん?そんな苦虫を百万匹食いつぶしたみたいな顔して」

「………そんな顔してましたか」

「幸せがそっぽ向いて逃げていきそうな顔でした」

「誰のせいだ誰の」

「さぁ?誰なんですかね?」


 コテンと不思議そうに首をかしげるエリナ様を見て、軽く殺意がわいた。

 苛立ちを押さえながら話を元に戻そうとして。


「あの~………少し、よろしいでしょうか?」

「すっこんでろッ、このケセランパセラン!!」

「ケセランパセラン!?」


 反射的に罵倒して、困惑する牢人。

 ………やっちまった。


「失礼いたしました。それで、何か御用でしょうか?」

「ああ、いや、こちらこそ、かたじけない。その………出来れば、糧秣を売っては貰えないか?もちろん、金子は支払おう」

「あいにく、食べは持ち合わせていませんが、ここから一時間も歩けば里に出ます。俺たちも帰るところでしたし、ご案内しましょう」

「かたじけない」


 ペコリと頭を下げる牢人にお辞儀を返し、ちょんちょんと袖を引っ張られた。


「クロさん、本当に連れて帰って大丈夫ですかね?暴れられたら困りますし、無視した方がいいのでは?」


 声を潜めて耳打ちしてくるエリナ様。

 もっともな心配ではあるが、今回ばかりは気にするだけ無駄だろう。


「大丈夫です。多分何とかなりますし」


 上位龍が十数匹もいるような魔境だ、ちょっとやそっとじゃ問題にもならない。


「そうですか?」

「はい」

「ならいいんですけど………」

「おい、甚左。今どうなっとる」

「このお2人に、里まで案内を頼みました」

「何?鬼の里にか?」

「だから人ですって。………右近殿、斬ったらダメですよ?」

「わあっとるわい、それくらい」

「心配だなァ………」


 馬鹿でかい声で唾をまき散らしながら叫ぶ爺と、幸薄そうな毛むくじゃらの牢人。

 なかなか愉快そうな2人についてくるよう促して、里の方向へ歩き始めた。



























「わっははははははははは!!!!」

「んなぁっ、この爺、いい加減にやめっ」

「それっ、まだまだ行くぞぉ!!」

「わきゃーーー!?!?」

「平和ですねぇ………」

「どこがですか」


 ジジイが披露するメスガキ地獄車を茶請けに緑茶を啜り、溜息が零れた。

 呆れたような目線を逸し、傍にあった煎餅をかじる。

 「あっ、私の濡れ煎餅が」とかなんとかいう駄メイドをスルーして再び緑茶を啜り、そこまでやってようやく、ほっと一息ついた。


「えっと………つまり、お侍様、なんですか?」

「未だ未熟な身ではありますが、一応、父の跡を継いで巌流佐々木の名を名乗っております」

「つまり強いのね?」

「それなりには………最も、爺様や右近殿のような古強者と比べればヒヨッコですが」


 わふっと不思議そうに首をかしげるナナと、恥ずかしそうに頭を掻く牢人。

 ………個人的に、サムライ=チョンマゲのイメージが強かったが、そうとも限らないらしい。

 というか、巌流で佐々木なのに名前が甚左衛門なのか。

 どうせなら小次郎にして欲しかったが………いや、それだと武蔵って名前の剣豪に木刀で叩き殺されそうで怖い。


「まさか宮本伊織とか出てこないよな?」

「おや?伊織殿をご存じでしたか?」

「マジかよ」

「拙者の幼馴染です。小さいのに負けず嫌いで、師範代並みの剣の腕の持ち主で、こんな弱虫な自分を好いて、婚約までしてくれた、いい人です」

「………然様ですか」

「まぁ、武蔵殿には『儂と果し合いをして生き残れないような奴に、娘をやるわけにはいかん!!』なんて言われてしまいましたが…………」

「………強く、生きてください」

「ありがとうございます、小姓殿」


 ニパッといい笑顔で笑う牢人。

 心が痛い。

 ………まぁ、真面目で純朴ないい人みたいだし、あまり警戒する必要はないだろう。

 懸念事項があるとすれば、怒れる大剣豪に頭をぶち割られないかどうかくらいのもので。

 ナナに手を出さないのなら、何もしなくていいか。


「小童!!この程度で目を回すか!!情けない!!」

「ふきゅ~…………」


 情けない悲鳴と喝破に目を向けて、眼を回すメスガキと元気溌剌妖怪爺。

 ざまみろ、だ。


「いいぞジジイ!!オラッそこだっ、ブッ殺してやれ!!」

「怖っ」

「誰が爺だ!!ブッた斬られたいかッ!!」

「怖っ」


 クワッと目を見開いて叫ぶ爺。

 年寄りのくせに物騒な事だ。

 ………まさか、爺だから物騒ってことは無いよな?

 年寄り=歴戦の猛者な修羅の国じゃないよな?


「あれ?誰このお爺さん。こんな人いたっけ?」


 後ろへ振り向いて、スポーツウェアを着た変態がいた。

 目と目があって、何を勘違いしたのかウィンクを飛ばしてくる変態。

 こっち見んな。


「なんじゃあ!!なんか文句でもあるか!!」

「いや、特にないけどさ………ま、いっか。私はクラリス、クラリス・フォン・アルトリア。よろしくね?お爺さん」

「………右近時貞守兵衛。侍じゃ」


 屈託なく笑った変態と握手するジジイ。

 なんか、こう、無性に腹が立つ。


「………クロさん。あの人、誰ですか?」

「変態です」

「お姉様が変態なのは知ってます。あのおじいさんは誰なんですか?」


 違和感を覚えて振り返り、何故か少し離れたところにアマナ様がいた。

 なんで距離を取られてるのか知らないが、まぁ、いいか。


「客人です。森で迷っていたようなので、とりあえずこの里まで案内しました」

「そうでしたか………なんか、どこかで見たことあるような気がして、どこかで会ったのかな、と」


 不思議そうに眉を顰めて、首をかしげるアマナ様。

 俺はよく知らないが、高名な剣士なら、意外と顔が割れていたりするのかもしれない。

 知らんけど。


「ああ、そうだ。1つ聞いていいですか?」

「どうかされましたか?」

「アサカさんとミカさんがどこに行ったか知りませんか?ちょっと聞きたいことがあったんですけど、朝から見当たらなくて」

「お二人なら、確か川の方へ釣りに向かわれたはずです。………もしかして、まだ帰られないのですか?」

「はい。あの2人なら大丈夫だとは思うんですけど、少し心配で………」


 不安そうに少しだけ目を伏せるアマナ様。

 ええ子や。

 どっかの変態と違ってええ子や。


「………なんか今、不当な評価を受けた気がする」

「正当な評価だ、バカ」

「バカって言った!?今バカって言った!?」

「バカはバカで十分でしょ?」

「アマナちゃんまで!?」


 悲鳴を上げて突っかかってくる変態の顔を掴んで押さえ、実妹に罵倒された変態が膝をついて崩れ落ちる。

 泣き喚くバカを無視して、雉の下処理をすっかり忘れていた。

 今から始めれば、晩飯時までには間に合うだろう。

 とりあえず。


「毟るか」

「何を!?」


 変態が、「いやぁあぁあ!!!」と猟奇殺人事件に遭遇した市民のような悲鳴を上げて、頭を庇いながらバックステップ。

 何をどう勘違いしたのか大体わかったが、それはそれとして無性に腹が立つ。

 ちょうどいい機会だ、この世界にも毛刈り隊があるということを教えてやる。

 宝物庫(アイテムボックス)から取り出したバリカンを構え。



「見てくれっ、クロ殿!!大物だぞっ!!」


 聞き慣れた、やたら弾んだ声。

 里の入口で、ちょっとした馬車くらいの大きさの()()()()()()()を担いだアサカ様が、とてもいい笑顔で笑っていた。

 色々ツッコみたいことはあるが、とりあえず。


「なんですか、それ」

「山椒魚だ!鍋にして食うと旨いぞ!!」

「………どこで獲ってきたんですか」

「襲って来たから返り討ちにした!!」

「………然様ですか」


 ニパっといい顔で笑うアサカ様。

 ビクビクッと痙攣する山椒魚。

 痙攣する山椒魚。

 痙攣する山椒魚。


「生きてる!?」

「まだ締めてないからな!!」

「マジですか」


 だが、まぁ、丸々と肥えていて確かに旨そうだ。

 山椒魚、か。

 確か調理に時間が掛かる部類の生物だったはず。

 北里魯山人曰く、「どれだけ煮込んでも身が柔らかくならなかった」そうな。


「………明日の朝から調理を始めれば、晩には食べられるでしょう。わかりました、鍋にします」

「本当か!?そうか、鍋か!!」

「はい」


 何故かやたらハイテンションなアサカ様に答えたはいい物の、調理法が思いつかない。

 締めて捌いてぬめりを落として、そこから水と酒で煮て、だったか?

 というか、塩が山ほどいるぞ。

 海まで行って海水から塩を作るか?

 となれば、今日は徹夜になるな。

 まぁ。


「ナナが喜んでくれるならいいか」

「だな!ついでに俺も喜ぶ!!」


 にしてもまぁ、相当厄介なブツを持ち込んでくれたな。

 余ったらエリナ様に冷凍してもらって、宝物庫(アイテムボックス)にぶち込んどきゃ良いか。

 それと。


「アサカ様。ミカ様はどちらへ?」

「ミカなら、用事があるから寄り道すると言っていた。ひょっとしたら(ネツキ)の知り合いでも見つけたのかもな」


 アサカ様の口から飛び出たニンジャ的フレーズを務めて無視して。



「おう!!山椒魚か!!!唐揚げにするぞ!!」

「ふん、邪道だな。山椒魚はやはり鍋こそ至高」

「若造が知ったような口を利くな!!老い先短い老人に、喰いたいものを喰わせてやろうという気はないのか!!」

「そもそも、唐揚げなんてもの、うちの爺様くらいしか食わな」




 馬鹿でかい声を上げて唾をまき散らす爺と、したり顔でヒートアップしたまま硬直するアサカ様。

 妙な空気が立ち込める中、ドタバタと足音が響き。




「アサカ君大変!!監視役の児雷也さんが、右近様を見失っちゃったって」

「お爺様!?なんでここに!?」

「ぬ?久しぶりじゃのぉ、亜沙香(アサカ)。元気にしとったか?」



 絶叫が響き、実に気持ち悪い好々爺然とした顔で爺が笑った。





次回から、2週間に一回、土曜日の深夜の投稿になります。

もしかしたら3週間に一回になるかもしれません。

みなさんご存じ、受験の悪魔に襲われたのです。

書ける限り書きますが大学デビューもしたいのですいません許してください何でもしますから。

では。




「ということがあったんじゃよ」

「つまりどういうことだってばよ」

「しばらくさぼるけどボクチン悪く無いもんね!!」

「ちょっ、流石に誤解が」

「死ぬべきね?」

「殺しましょう」

「ぶっ殺そうか?」

「死ぬべきだな」

「介錯は任せてくれ」

「シノビエクスキューションしましょうか?」

「コイツラ………よくも筆者に向かってそんな口を」

「だって無能だし」

「ね」

「ゲブバラッ!!」



次回「ヒトデ、死す」 デュエルスタンバイ!!



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