ボーイ・ミーツ・ガール 後編
圧倒的水着回を深夜に投稿するカタルシスからしか得られない栄養がある。
「うしっ、これで調整完了っと」
「ありがとうございます、カティア様」
「お礼ならエリナに言ってね。あの子があれだけ泣かなけりゃ、私だって作らなかったよ」
ねじを締め終わった腕をゆっくりと開閉し、ウィンウィンと奇妙な作動音。
骨格剥き出しの腕と、関節が2つしかない3本指。
いろいろと言いたいことはあるが、とりあえず。
「コレ、どうやって動かしてるんですか」
「簡単に言うと、ワンコ君の神経と義肢の疑似神経を接続してるんだよ。まぁ、ありあわせの材料で作った粗悪品だからラグは出るけど、その分頑丈に仕上げてるから、単純な強度だけならそれなりなんじゃないかな?」
「なるほど」
試しにフライ返しを握ってみたが、問題なく普通に使えた。
なんというか、左腕が動くことが、ここまでありがたいものだとは思わなかった。
手をしっかりと握り締め、ギャルルルッと奇妙な音を立てて回転する手首。
ホイップクリームとメレンゲを作るのが楽になるな。
ついでに渡された予備の腕を宝物庫に突っ込んで。
「………あの、クロさん。大丈夫ですか?」
背後から戸惑ったような声を掛けられて振り向き、なぜかやたらオドオドするエリナ様。
流石にあの状態の腕を見せるわけにもいかず、引き千切って焼却処分して戻ったら、この騒ぎ………というか、エリナ様が大騒ぎして、急遽義手をつけることになったのだ。
はっきり言って、必要だとは思わなかったのだが。
「問題ありません、エリナ様。ほら、ちゃんと動きますし」
「そうじゃなくて、腕に痛みがないかとか、腕がポロっと取れちゃったりしないかとか」
「取れますよ、ほら」
「ひうっ」
ポロっと腕を取り外して見せて、予想以上に怯えた声を上げるエリナ様。
少し、悪い事をしてしまった気分だ。
が、こういう時にどうすればいいのか、よくわからない。
頭を撫でればいいかと思ったが、流石にそれはないだろう。
………そうだ。
「ウィーン、ウィンウィン、ウィーン、ウィン、ウィンウィンウィン、ウィーン」
「………え?」
「ウィンウィン、ウィーン、ウィンウィンウィーン」
「あの、クロさ」
「ウィンウィンウィーン、ウィン、ウィンウィン、ウィーン」
せっかくなので予備の腕を取り付けてウィンウィンしてみる。
なんていうか、すごく、楽しい。
もひとつおまけでウィンウィンしようとして、冷え切った周囲の視線に気づいた。
ふむ。
「………失礼。少し取り乱しました」
「あの、クロさん、怖いんですけど」
「大丈夫です。それよりも泡立て器を買ってこなければ。ハンドミキサーの威力を示す時です」
「はぁ………」
納得いってなさそうな顔のエリナ様に笑って見せて、口元が僅かにひくつく。
また後で話をする必要がありそうだ。
いや、それよりも先にアイリッシュコーヒーの再現を。
「あれ?クロ兄さん、香水とかつけてます?」
ふわりと、陽だまりと潮騒の入り混じった匂い。
後ろから抱き着かれてよろめき、振り向いた視界に映る、空を流して融かしたような蒼色の目。
押し付けられる熱を感じながら頭を撫でれば、デフォルトで弛んでいた顔がユルユルになった。
ピョコンと跳ねていた綺麗な銀色をした髪を梳いてやり。
「………あの、クロ兄さん?」
何かに気づいたように硬直した。
「どうかしましたか?」
「その腕、どうしたんです?」
「おしゃれだったので義手にしてみました。似合ってるでしょう?」
「あ~………はい、似合ってます、よ?」
「ありがとうございます、ナナ」
微妙な顔のナナの頭をワシャワシャ撫でて。
「………というか、クロ兄さん、やっぱり香水付けてますよね?」
「………本当に少し付けただけでしたが、気づかれるとは思いませんでした。ナナは凄いですね」
「懐かしい匂いがしたので!!」
ズビシッと手を挙げたナナの頭を撫でて、背筋を走るゾクリとした悪寒。
ナナの言う懐かしい匂いというのは、きっと、引き千切った左腕の匂いだろう。
今のところはおとなしくしてくれているが、そもそも俺が意図して生やしたものじゃない以上、いつまたニョキッと生えて来るか分からない。
もしそうなったとき、ナナが何を知るにしても、破局は、それだけは絶対に避けなければならない。
もし、万が一、ナナに拒絶されるようなことがあれば、俺はきっと、正気を保っていられなくなる。
だから。
「でもなんででしょうね………なんていうか、シーザーさんみたいな匂いでしたね。元気にしてるといいんですけど………」
「シーザー様ならきっと大丈夫でしょう。ああいう人は、どこへ行ってもうまくやるものです」
「そうですか?」
「きっとそうです。………またいつか、シーザー様と一緒に、海に来れるといいですね」
「ですね!」
罪悪感を押し殺して、嘘をついた。
「ふぅ………少し、疲れたな」
「お疲れ様、アサカ君」
ビーチの方に戻ってくると、上半身にサラシを巻いたアサカ様が、ビーチチェアーの上でぐったりしていた。
パラソルの下でデッキチェアに腰掛け、眠そうに欠伸をしたミカ様が、こっちを見て変な顔をする。
「あの、クロさん?その腕、どうしたんですか?」
「邪魔だったので千切って付けました」
「えぇ………」
呆れたような目線を躱して、コップに注いだ水を一気に飲み干す。
ようやく一息ついて、視界の端を金色の影がよぎった。
「お嬢様。お加減はいかがですか?」
「最悪、ね」
どこから引っ張り出してきたのかトレンチコートを羽織って、ブルブルと震えるお嬢様。
血の気の失せた青白い顔色と、死んだ魚のような眼。
思っていたよりもダメージがデカいな。
とりあえず、何か温かい飲み物を用意した方がいいだろう。
宝物庫からポットを取り出して。
「クロ殿。少しいいか?」
「何でしょうか、アサカ様」
「龍国政府との交渉がついた。向こうのま、まどーせんとうかん?が2隻、迎えに来るそうだ」
「それは、また豪勢な………」
魔導戦闘艦………高威力短射程の砲撃兵装と要塞などの拠点防衛用の障壁発生装置、魔導化海兵隊を搭載した、最新技術による海上要塞。
長年にわたって製作を試み続け、技術不足で頓挫していたのを、近年、帝国海軍技術部が開発した新式の発生炉でようやく実用に漕ぎつけたと聞いていたが…………まさか、そんな大物が2隻も出張ってくるとは思わなかった。
なんというか、思ったよりも大ごとになっている気がする。
「ああ、それとなんだが」
「まだあるんですか」
「その、征伐教会って、知ってるか?」
厄介事の匂いがする。
アルトヘイム神教国の内部には、幾つかの派閥がある。
多宗派との共存、共生を掲げ、穏やかな融和を目的とする『穏健派』。
それとは真逆に、異教の存在を一切認めず、純血の人間以外を攻撃の対象とみなす『弾劾翼賛会』。
祈りの業である奇跡を体系化し、究明しようとする学術系団体『星の瞳会』
神教国の実質的な軍事組織の役割を担う、回復や防護等の奇跡の専門家、実戦集団『使徒の集い』。
国体維持にまつわる財務、渉猟、外交等を受け持つ政治屋の集まり、『ミロダスの掌』。
これらの大規模な派閥の下にさらに無数の分派、異宗派があり、色々と面倒くさい事になっているのだが、それでも、この数百年ほどの間、各派閥の勢力図は均衡状態を保っていた。
ここ、最近までは。
「新興勢力、『征伐教会』。強大な魔獣、延いては龍種の討滅を目的として動く、異端組織。トップの男がかなりのカリスマ性の持ち主らしく、十数年ほどの間でほかの宗派の人員を削り取って、一躍、大派閥の仲間入りを果たしたと聞いていましたが……………何故、そのような連中が、よりにもよって龍国に」
「神教国の事情は知らんが、龍国………特に龍を祀る民は、名前通り龍種と共存してきた国だ。あまり組み合わせがいいとはいえんだろうな」
アサカ様の話では、神教国からの使節団の代表が征伐教会の2番手らしい。
神教国から出立した軍艦はこの里近辺の港に寄港し、俺たち帝国使節団を乗せて、そのまま龍国へ向かう事になるとのこと。
なんというかもうすでに不安しかない。
「それと、もう1つあるんだが………」
「まだあるんですか」
「龍国の反乱軍と連絡がついた。おじいちゃ………俺のお爺様、先代侍大将を筆頭に、各地に散らばってゲリラ戦を展開しているらしい。今のところ、戦力はギリギリ拮抗しているようだ。………もっとも、いつまで持つかはわからんが」
どこか取り繕ったような声には、しかし確かな安堵が滲んでいた。
………まぁ、身内の無事が知れたなら、こうなりもするか。
「ひとまずのところ、俺たちの目的は継庭現当主、継庭森兼定江籠守の排除、もしくは抹殺だ。2カ月後の大聖堂落成式典で奴が顔を出す瞬間を狙って聖堂に火を放ち、混乱に乗じて首を取り、将軍様をお救いする手はずになっている。リーン女史には、陽動作戦を担当してもらうことになるだろう」
「なるほど。つまり派手に暴れろと」
「そういう事だ。………クロ殿、1つ、聞いておきたいことがある」
「いかがなさいましたか?」
そういえば、お嬢様のことをすっかり忘れていた。
さすがに、そろそろ構わないとマズいだろう。
とりあえずお茶でも淹れて。
「手を引くなら、今のうちだ」
変な事が聞こえた。
「それは、どういう意味でしょうか?」
「言葉通りの意味だ。そもそも俺たちが原因で起こった戦に、皆を巻き込む必要はない。………クロ殿やフィリア女史、エリナ女史のような戦闘員はともかく、ナナのようなまだ小さい子供に殺し合いを経験させるのも、あまりよくないだろう」
真正面からアサカ様を見て、至って真面目な顔でそんな事を言うアサカ様。
なんというか、うん。
「愚問ですね。ここまでついてきて、今更どの面下げて帰れと?」
「だが、ナナは」
「いざとなればこの里に預けます。俺は目的を同じくする友人を見捨てられるほど非情でもありませんし、それに………」
「それに?」
「ナナが拾われたばかりの頃、アサカ様は色々と心配してくださいました。受けた恩を返さないような真似をすれば、それこそナナに顔向けできませんから」
「………すまない、クロ殿。感謝する」
「問題ありません」
グッと深く頭を下げるアサカ様に笑って返し、ちょんちょんと義手を引っ張られた。
横を見て、青を通り越して土気色の顔をしたリーンお嬢様。
………しまった。
完全に忘れていた。
「あの、お嬢様、申し訳ございませ」
「ふきゅう」
「お嬢様!?」
お嬢様がぶっ倒れた。
「あうあうあぅ~………」
「お疲れさまでした、ナナ」
目をグルグル回してノックダウンするナナを労い、自生してたココナッツを割って、中のジュースをグラスに注ぐ。
さっぱりしていて飲みやすいから、つかれている時に飲むにはちょうどいいだろう。
…………お嬢様に色々弄ばれながら血を吸われていただけなのは内緒の話。
そのお嬢様も、お腹が膨れて眠くなったのか、昼寝の真っ最中だ。
最大の不確定要素であるライカは、長老衆に起こられている。
つまり、俺の邪魔をするものはいない。
殻を割って中の白い果肉をナイフで削ぎ落し、研磨の魔術で磨り潰す。
本来なら、戦地で武器の研磨に使う魔術だが、使い方次第では卸し金の替わりにもなるのだ。
磨り潰したものをココナッツジュースと一緒に弱火で煮込み、裏ごし。
粗めのガーゼで絞って。
「カティア様、少し、よろしいでしょうか?」
「なになに?義手に不具合でもあった?」
「これを冷やしてもらえませんか?いかんせん、冷却の魔術は苦手でして」
「えぇ………まぁ、いいけどさ、ボクの魔力量じゃあんまり長く冷やせないよ?」
「問題ございません」
ぶつくさ言いながらボウルに手をかざしたカティア様が魔術を使い、湯気を立てていたココナッツミルクが急速に冷却されていく。
十分に冷えたところで別のボウルを用意し、義手にハンドミキサーを装備して生クリームを泡立てる。
砂糖とココナッツミルクを加えて生クリームと合わせ、かき混ぜる。
かき混ぜる。
さらに混ぜる。
「えっと………ワンコ君、そろそろいいかな?」
「はい。あと15分ほど冷やしていただければ」
「………マジで?」
「マジです」
「あの、もうすでに少し辛いんだけど」
「頑張ってください。夕食後のデザートに使いますので」
「そんにゃ~………」
情けない声を上げるカティア様をスルーしてかき混ぜ、目の前で金色の義眼が蠢いた。
「うおっ」
「カティアお嬢様。よろしければ代わりましょうか?」
「ありがとうエリナ!愛してる!!」
思わずのけぞり、相変わらずの無感情な声音。
抱き着こうとしたカティア様を押しのけて義手がボウルを引っ掴み、僅かに固まりかけていた内容物がたちまち凍りつく。
凝固しかけたところを思いっきり掻き混ぜて、ぼたっとした塊状のジェラートができた。
「クロさん、これくらいでいいですかね?」
「助かりました、エリナ様。………しかし、便利な魔術ですね」
「そうでしょう。私と結婚すれば一家に一台冷蔵庫がついてきますよ?」
「何でそうなるんですか」
「さぁ、なんででしょうね?」
無感動な声に振り返って、照れ隠しのように首をかしげるエリナ様。
綺麗な萌黄色の瞳と、窪んだ鎖骨の曲線に落ち込む玉の雫。
無造作に接いだ生身の身体と義肢の継ぎ目、汗に濡れて艶めかしく色づいた肢体に、目が釘付けになって。
「………クロさん?どうかしましたか?顔赤いですよ?」
「なんでもありません、エリナ様。大丈夫です」
「本当に大丈夫なんですか?体調が悪いなら、素直に言ってくださいよ?」
「だいじょうぶです、問題ありません」
近づいてきたのをむりやり引き剥がし、抱き着かれた。
抜け出そうとして腕を抱え込まれ、柔らかいものが当たって潰れる感触。
クラクラしそうなくらいの甘い匂いと、少し困ったように、不安そうに眉を顰める整った顔。
色々とグチャグチャになりかけた感情を抑え込み。
「クロさん。本当に、私を貰ってくれてもいいんですよ?」
耳元で囁かれた言葉にクラっと来て、俺はあっさりと意識を手放した。
「ここですかっ!?ここでいいんですねっ!?」
「いや、ナナちゃん、流石にそれは死んじゃうかなって」
「ナナさん!!思いっきりやってください!!」
「アマナちゃん!?ちょっ、待って」
騒音で目が覚めた。
横の方に目をやって、何故か砂に埋められた変態が、ナナにスコップで頭をカチ割られていた。
何があったのか気になるが、まぁ、気にするような事でもないだろう。
後頭部に感じる柔らかな感触と、薪の燃える、パチパチという音。
白煙の向こうに透けて見える空は、深く黒い、澄んだ夜の青色に染まっていた。
………どうやら、眠ってしまっていたようだ。
いやに重い体を起こし。
「ダメですよ、クロさん。まだ寝ててください」
色白の指が頬を撫でた。
声のした方を向いて、エリナ様が逆さまに見えた。
「あの、エリナ様、なにを」
「膝枕です。見て分かりませんか?」
「何故膝枕を?」
「さぁ、なんでですかね?」
コテンと首を傾げたエリナ様が、そのまま俺の顔を覗きこんできた。
鼻と鼻が触れそうなくらいの距離で、能面じみた無表情が僅かに微笑み。
「エリナ様。そろそろ離して」
「イヤです。もう少し楽しませてください」
ぎゅっと捕まえるように抱きしめられた。
振り払おうとして、駄々を捏ねる子供を寝かしつけるように、抑え込まれる。
というか、近。
「………クロさん。心臓の音、すごくドキドキしてますよ?」
「貴女には関係ないでしょう。放っておいてください」
「あれれ?ひょっとして照れてます?」
ニヤニヤといたずら好きな猫のように笑うエリナ様から顔を背けて、両手で頬を挟みこまれた。
………なんというか、すごく、恥ずかしい。
だが、悪い気分じゃない。
むしろ、しばらくこうしていたいくらいだ。
「エリナ様も、緊張していらっしゃいますね。恥ずかしいんですか?」
「………正直、心臓が口から飛び出そうです」
「俺もです」
気恥ずかしそうにはにかんだエリナ様に釣られて笑い、そんな他愛もない事が、何故か無性に愛おしく思えた。
なんとなく手を伸ばして、上下反転したままの顔に触れる。
「………あの、クロさん?」
「意趣返しというやつです」
「………ちょっと、意地悪じゃないですか?」
「そうでしょうか?」
拗ねたような言葉に笑って返し、そのまま頬に指を這わせる。
焚火の火を受けて翡翠のように煌めく長くて綺麗な髪に触れて、やんわりと手をのけられた。
気まぐれ屋の猫のような、言い表しがたい可愛らしさ。
ぷい、と目線を逸らそうとしたのを手で押さえ。
「まったく………主人に雑用をさせて、自分は好きな子といちゃついてさ、恥ずかしくないの?」
邪魔が入った。
「と、研究が恋人の耳年増が申しております」
「喧嘩売ってるなら買うけど、どうする?」
「大変申し訳ございませんでしたカティア様どうかお許しください」
「ダメ」
「そんにゃ~」
呆れたような声と足音に横を見て、なぜかぐしょ濡れのまま、フリル付きの水着姿で仁王立ちするカティア様がいた。
おどけた声にビキリと青筋を浮かべ、ベゴンとなかなか痛そうな音のデコピンが一発。
「うっぎゃあぁ!?」と余裕ありげな悲鳴を上げてエリナ様が転がり廻り、顔面から砂に放り出される。
口の中がジャリジャリする。
「まぁ、別にいいよ。ボクが勝手にやったことだし、プルチネッラとカピターノを使ったから、結構楽に終わったしさ」
「からくり人形ですか」
「そういう事。あと、罰としてエリナはワンコ君にしばらく膝枕しておくように」
「何でそうなるんですか」
「さぁ、なんでだろうね?」
キョトンと首をかしげるカティア様がそんな事を言って、なし崩し的に膝枕。
気持ちいいから別にいいが、俺の自由意思はないのか。
無いんだろうな。
「それとワンコ君、シャーベット、貰えるかな?」
「かしこまりました、カティア様」
「ぎぶみ―あいすくりん」と妙なポーズでねだるカティア様に、ガラスの器に盛ったシャーベットを差し出す。
宝物庫にいれていたので、出来立てほやほやのやつだ。
実に嬉しそうに相好を崩したカティア様が、スプーンで大きく掬って口に放りこみ。
「あの、一気に食べると頭が痛く」
「~~~~っ!?」
手遅れだった。
額を押さえてジタバタするカティア様に、エリナ様が甲斐甲斐しくグラスの水を差しだした。
「お嬢様。ゆっくり、お飲みください」
「………ありがと、エリナ。だいぶマシになった」
渡されたソレを一気に飲み干したカティア様が、ほっと息をつく。
流石に懲りたのか、少しずつ食べることにしたらしいカティア様が、何かを思い出したようにポシェットに手を突っ込んで。
「せっかく準備したのに、忘れるところだったよ。そろそろ始めよっか」
「始めるって、何を」
「た~まや~!!」
突然大声で叫んだカティア様が握っていたナニカのスイッチを入れ、ヒュルルルルと風切り音。
暗い海の奥、水平線の際で、幾条もの光が空へ駆けあがり。
夜空に、華が咲いた。
ドォン、ドォン、と音を鳴らして、色とりどりの光が爆ぜる。
枝垂れ落ち、燃え尽きる火の華が、夜の暗がりを一時掻き消して乱れ咲く、非日常的な光景。
スイカにかぶりついていた狼少女も、眠りこけていた半吸血鬼も、国を追われた侍と忍びの主従も、半妖精のメイドも、砂に埋まった変態と、それを掘り起こそうとしていた幼女も、皆、一様に。
長い時を生きた古い龍たちでさえ、目の前の花火に釘付けになっていた。
「絶景だねぇ………柄にもなく肉体労働に精を出した甲斐があったよ」
「お嬢様、これは」
「花火って言ってね、このあたりの伝統文化なんだってさ。面白そうだったから、少しやってみようと思って」
「然様にございますか」
とりとめのない会話を他所に、火の弾は打ちあがり、爆ぜ、宙に溶ける。
しだれ柳のような紫紺の光が夜空を流れ落ち、金色の牡丹が大きく咲いた。
「綺麗ですね、クロさん」
いつの間にか立ち上がっていた俺の横で、義肢の少女が恍惚然とした様子で呟いた。
俺の視線に気づいたエリナ様が、はにかむような笑みを浮かべ。
「今度は、2人っきりで見れるといいですね」
夜の砂浜の暗がりの中、満天の花火を背負うように立つエリナ様が、他のどの花火よりもきれいに見えた。
年上メイドお姉さんルート、あると思います。
次回予告
圧倒的ヒロイン力(53万)を見せつけ、ライバル()との差を突き放すエリナ様!!
四肢欠損年上天然メイドという属性過多は、果たして読者に受けるのか!?
ミホシヒトデの性癖全開サクセスストーリーが!今!始まらない!!
「この次回予告って何の時間なんですかね」
「主人公被害者の会では?」
「それって死亡組だけですよね?」
「死人に口がないといつから錯覚していた?」
「愛染様ですか」
「一体、いつから私が花鳥風月を使っていないと錯覚していた」
「ナナ、それ死神ちゃう、駄女神や」
「花鳥風月!!」
次回「水着回終了!閉廷!!解散!!!」




