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龍に生まれた少年は、異世界令嬢の奴隷になる  作者: 御星海星
異邦にて巨魁は朽ちる
49/78

殺人メイドは路地裏に嗤う

やっぱり欠損っ娘はいいよね


「放しっ、やがれ!!」

「おお、怖いのう」

「ひぐっ………ぐすっ」

「ああ、ほらほら、ライカちゃん、泣かんといて」

「ぴにゃーーーー!!!」

「おい小僧!貴様が怖がらせたせいで、ライカちゃんが泣いてしもうたじゃないか!!」

「知るか!一発殴らせろ!!」


 目の前でぎゃんギャン泣き喚くガキを殴ろうとして、両腕を縛る縄がミシリと軋む。

 わいわいがやがや好き勝手言い合うジジイ共と、耳朶を打つ不快な鳴き声。

 なんかもう腹立ってきた。

 というか。


「テメェら全員、龍だったのかよ!!」

「そりゃあ、のう?」

「むしろバレなかったのが不思議なくらいじゃ」

「生まれたての若僧なんてこんなもんじゃろ」

「ワシらからすりゃ全員若僧じゃろ」

「「「ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!」」」



 この長老たち、全員人化した上位龍だった。

 小国程度なら息吹の一撃で消し飛ばす怪物どもが、何故かみんな仲良く人間ごっこ。

 それだけでなく。


「この里は人間より龍が多いからのぅ、あまり外の人と会うこともないし、まして他所の国から来た上位の龍など、1200年ぶりじゃからな。ライカちゃんが遊びたくなるのも仕方ないじゃろ」

「だから仕方ないってか?」

「そういうわけでもないが………子供のしたことじゃ、許してやってくれんかね?」


 爺がそんな事を言うが、遊びたくなったであれだけ殴られた身としては収まりつかない。

 おさまりつかないが。


「クロ、その辺にしておきなさい?」

「ですが」

「その辺にしろといったのよ?聞こえなかったかしら?」

「………かしこまりました」


 呆れたような声音のお嬢様。

 流石に逆らったらマズいのでこの辺にしておくとして、どさくさに紛れてあっかんべーしてきたガキは後で潰す。

 絶対潰す。

 ぬたっと潰す。

 ミンチにしてやる。


「………クロ?」

「いかがなさいましたか?お嬢様」

「………いえ、もういいわ。それより、貴方達がどうしてこんなマネをしてるのか知りたいわ?」

「そんなもん決まっとるじゃろ、ただの暇潰しじゃよ」


 お嬢様の問いに答えたのは、髭を長く蓄えた、禿頭の老人。


「ひまつぶし?」

「龍は殺されん限り死なんからのぅ。儂らのような上位の龍にもなれば、たとえこの身を滅ぼされようとも、いずれ蘇る。長く生き過ぎて精神が砕けでもしない限り、何度でも、な」

「たまに不甲斐無いのがトチ狂ったりするがの」

「まぁ、なんじゃ。長く生きると、ほんのわずかな変化も楽しめるようになってくるもんじゃ。あそこの原っぱに草が何本生えているかとか、ヤマ爺さんの髭が何本あるか、とかな」

「それが出来ん奴がおかしくなっただけじゃがの」

「ふがふがふが」

「シゲさん、歯ぁ抜けとるぞ」

「ふごっ………ありがとな、マキ爺さんや」

「それで、どこまで話したかのう?」

「最初から話すか?」

「よせやい。耄碌爺のボケ話なんぞ、聞きとうない」

「そうじゃそうじゃ。どうせ喋るなら、そこの別嬪さんと喋りたいわい」

「なんじゃ?爺のくせにナンパか?」

「やめとけやめとけ、ひっぱたかれるのがオチじゃ」

「イヤよイヤよも好きのウチというじゃろ」

「爺に言い寄られても嬉しかないじゃろ」

「そもそもお前さん、ちゃんと勃つのか?」

「勃たぬなら、勃たせてみせよう、枯れ桜」

「上手い!!」

「そんなこと言うて、ペンペン草がいいところじゃろ」

「なんじゃとぅ!!」


 ギャアギャア喚くジジイ共から目を背け、お嬢様が、頭痛を堪えるように頭を押さえていた。

 尋常じゃない様子に思わず声を掛けようとして。


「クロ」

「はい」

()()を出しなさい」

「かしこまりました」


 やたら目の据わったお嬢様に命令されて、宝物庫(アイテムボックス)からぶっ壊して(デストロイアンド)ぶっ壊す(デストロイ)を取り出した。

 なんだなんだと見守る爺共へ向けて、お嬢様が特大サイズの銃口を構え。



「死になさい」


 えげつない音がした。

 なんかもうよくわからないくらいの射撃音と、頭を撃たれてきれいに吹っ飛んでいく老人会。

 コレが並の人間なら問題だが、中身は龍だし気にしなくていいだろう。

 オーバーリアクション気味に呻いたジジイが、元気よく起き上がり。


「お嬢ちゃん、急に何を」

「黙って質問に答えるのと、もう一発撃たれるのと、どっちがいいのかしら?」

「あっはい」


 ジャキリと銃口を突きつけられて黙る爺。

 ざまぁみやがれ。


「そうね………いくつか言いたいことはあるけれど、とりあえず、1つ聞いていいかしら?」

「なんじゃ?」

「貴方達、龍国の旧政府とツテがあったのよね?」

「ああ、そうじゃが………それがなにか?」

「………旧政府が転覆された時、貴方達が彼らに協力していれば、反乱を潰すくらいなんでもなかったんじゃないかしら?」

担儀庭(ニギニワ)()()()()()の事か………スマンが、儂らに手伝いは出来んぞ」

「人間は脆いからのぅ。手加減を間違えでもしたら国ごと焼け野原じゃ」

「そうでなくても、息吹(ブレス)の余波だけで死人が出るしのう」

「ワシらは人間同士の戦に手を出せん。………いくら手を出したくとも、な」


 わずかに怒気を滾らせたお嬢様の問いに、首を横に振る老人たち。

 ………見て見ぬふり、というよりは、自分たちが動けば被害が拡大することを理解しているからこその傍観、か。

 どうやら、ムダに長く生きてきたわけではないらしい。


「上位の魔物程度なら爪で殴れば死ぬが、それ以上の相手となれば火加減も難しい。地形を変えてもいいなら余裕だが」

虚ろ蛇(あやかし)相手に突っ込んで死にかけたバカが、なんか言うとるわ」

「バカは余計じゃ。だいたいアレは例外みたいなもんじゃろうが」

「まぁ、そりゃあそうじゃが………」


 なんか今、嫌な事を聞いた気がする。


「おい、小僧。お前もアイツには近づかん方がええぞ。ワシらならともかく、生半可な龍じゃ喰われかねん」

「妙な油を纏っとるから爪も牙も通らんし、雷火も流れるだけで大した痛手にならんしの」

「何を考えとるんか、そもそも何も考えてないのかさえ分からんような奴じゃ。肉も硬くて小便臭いだけで喰えたもんじゃないし、奴の縄張りに入りさえせなんだら襲われやせんよ」

「ここらの深い海で不自然に凪いだら、海の底に気をつけろ。さもなくば真下からバクリじゃ」

「言うても、この500年は見とらんがの」

「そういえばそうじゃの」

「寿命でくたばったか?」

「それはないじゃろ。殺しても死なんような奴じゃぞ?」

「儂らみたく寝坊助なんじゃろ」

「まぁなんにせよ、関わるだけ損するような奴じゃ。近づかんことじゃな」

「蒲焼にして食えばうまいかもしれんぞ?」

「だからマズいというに」


 爺たちがごちゃごちゃ好き勝手に喋り出し、一気に収集つかなくなる状況。

 威力と範囲を絞った次元斬(D・ブレード)で縄を切って脱出し。


「ああ、そうじゃ。お嬢さん、町へ行ってみんか?この里で居るよりは暇つぶしになるじゃろ」

「それがええわい。なんなら、あのめんこい狼の娘も連れてってやんな」

「なんなら、儂が送って行ってやろう。儂なら、アンタら全員乗せても5分で着く」

「バカモン、貴様が全力で飛んだら客人が死んでしまうじゃろが」

「わぁっとるわい。ただの冗談じゃ」

「耄碌爺の戯言じゃからのぅ、カタツムリよりちょびっと早いくらいじゃろ」

「さすがにカブトムシよりは速いじゃろ」

「なにおぅ!!」


 ギャアギャア喚く爺を無視して、ちょんちょんと服の袖を引っ張られた。

 横を見て、不満げに頬を膨らませた童女。

 努めて無視して。


「私も一緒に行くから」

「お嬢様、俺は皆さまのところへ行って連絡してきます。何か他にやっておくことは」

「私も!!一緒に行くから!!!」


 キレられた。

























「うぷっ」

「大丈夫ですか?ご主人様」

「なな、背中さするの、やめ」


 お嬢様のリバース音をBGMに、降り立ったのは異邦の街。

 黒瓦の屋根の木造平屋が並び、つむじ風が乾いた土を巻き上げて散らす。

 視線を感じて後ろを向けば、トーテムポールよろしく物陰から俺たちを見つめていた子供たちが、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。


 龍化した長老衆の1人の背中に全員で乗り込んで、およそ15分。

 推定159キロほどの空路はなかなか愉快だったが、乗り物酔いという奴なのか、お嬢様とアサカ様がダウンしてしまった。

 ………正直言って、浄化(クリーンアップ)を使えば、乗り物酔いくらい普通に治せる。

 治せるのだが、掛けようとした瞬間にナナの殺人的眼光を浴びて中断してしまった。

 自分が介抱したいから余計な事はするなということなのだろうが、なんというか、情操教育を間違えてしまった感が否めない。

 でも注意は出来ない。

 

 臆病者と笑うなら笑え。

 俺はナナに嫌われたくない。


「それで、どうしましょうか。私とナナさんはお2人の看病をするとして………」

「ボクはいろいろ1人で見て回るよ。エリナとワンコ君は、ライカちゃんの子守担当で」

「カティア様。お小遣い、使い過ぎないようにしてくださいね?」

「いやだな~ボクがそんなことするわけ」

「どさくさに紛れて変なものを買ったりしないでくださいね。前に買ってきた変な壺、結局部屋の隅でほったらかしのままじゃないですか」

「いや、アレはほら、時間が無くて」

「ともかく、余計な物、必要のないものは買わない事です。無駄遣い厳禁、単なる好奇心やお遊びで散財しないように」

「ああもうわかったから!!ちょっと見てまわるだけだからぁ!!」

「お姉様、どうします?」

「そうだね………お金は多めに持って来てるし、少しくらいなら使ってもいいかな?」


 クドクドと説教されたカティア様が悲鳴を上げて頭を抱え、まともなフリをしながら顔のニヤケを隠せていない変態と、そんな姉の痴態を見ていないのか見ていないふりをしているのか、至って平然とした態度のアマナ様。

 俺たちと一緒に来た爺さんたちは、すでにヨボヨボと行進を始めていた。

 1つ、大きく背伸びをして。



「行きましょうか、エリナ様」

「ですね」

「ちょっとーー!!無視すんなーー!!!」


 キャンキャン喚くチビを無視して、歩き出した。































「見てください、クロさん。似合ってますか?」

「ええ、似合ってます」

「こらー!無視すんなーー!!」


 後ろから肩を叩かれて振り返り、何故かケモミミと尻尾をつけたエリナ様。

 ナナが見たら激怒しそうだが、元が良いのもあってかなり似合っている。

 遠巻きにこっちを見ていたちびっ子が、義眼に怯えて逃げたのはご愛敬。

 というか、何故ケモミミ?


「龍国では、帝国のように獣人に対する迫害がありません。そのため、人間(ヒューム)獣人(ビューマ)の間に混血児が生まれることも珍しくないのですが………耳や尾を持たない者が獣人に扮して生活することを選ぶことも多いようで、こうした仮装用の小道具が発達した………と、そこの売店の店員さんが教えてくれました」

「然様ですか」

「おーい!聞こえてますかーー?」


 まさかコスプレの概念があるとは思わなかった。

 恐るべし龍国。

 どっちかといえば帝国………というか、帝国上層部が異人種に対して狭量すぎるだけの気もするが、それにしても時代を先取りしてることには変わりない。

 じゃなくて。


「エリナ様、それ、買ったんですか?」

「買わなかったら万引きじゃないですか」

「いや、それはそうですけど」

「安心して下さい。お金はちゃんと払いましたし、クロさんの分も買っておきました」

「いい加減、こっち向けーー!!」


 なんか、嫌な事を聞いた気がする。


「今、なんと?」

「クロさんの分も買ってあります。せっかくですし、ナナさんとお揃いにしておきました。これが出来る女というやつです」

「………もしかしなくても、それを付けろと?」

「付けないのですか?」


 ゴソゴソと懐をまさぐったエリナ様が、黒色の犬耳カチューシャと同色の尻尾を取り出した。

 本気なのか冗談なのか探ろうとして、獲物を見つめる肉食獣じみた、捕食者の目。


「クロさん、試しに付けて」

「申し訳ありませんエリナ様少々急用を思い出しましたこれにて失礼させていただきます」

「あっ」


 全力バックステップからのなりふり構わない必死の逃走。

 急制動を掛けつつ裏路地へ滑り込み、上から降る影と作動音。

 咄嗟に身を翻して、左腕に軽い衝撃と炸裂音。

 縄に身体を絡めとられて横転し、横向きの視界に、歩み寄ってくる義手が映る。


「対人捕縛用炸裂弾──────使うことは無いと思っていましたが、用意しておいて正解でしたね」

「なんでそんなもの持ってるんですか」

「私は出来るメイドなので、常にあらゆる事態を想定しているのです」

「本当に出来るメイドはそんなこと言わないのでは?」

「うるさいですね、少し黙っててくださいっと」


 不機嫌そうに呟いたエリナ様が、どこから取り出したのか、俺の腕くらいありそうな大きさの鉄杭を地面に突き刺した。

 表面に刻まれた魔術紋がかすかな光を放ち、妙な魔力の流れを生む。


隠し杭(ステイク)………帝国の最新技術を詰め込んだ隠密用魔道具の試作品です。範囲こそ狭いですが、今の私たちは誰からも見つかりません」

「エリナ様、何を」

「………申し訳ありませんが、私はどうにも、人と話すことが苦手な質でして。こうでもしなければ、まともに話せないと思いました」

「………んん?」


 何をする気なのか問おうとして、そこで初めて、エリナ様がいつにもまして挙動不審な事に気づいた。

 わずかに赤くのぼせた頬と、照れ隠しのように高速回転する義眼。

 ウィンウィンと音を立てて義手の指が爆速で開閉し、しゃがみこんで俺を見下ろす萌黄色の瞳の中にはグルグル回るウズマキ。


「えと、その………ですね、クロさん、単刀ちょきゅっ」


 噛んだ。


「………単刀直入にお尋ねいたします」

「ここからシリアスに持っていくのは無理があるのでは?」

「うるさいです。…………クロさん、1つ、質問させていただきます」

「なんですか?」

「クロさん、貴方は一体、何なんですか?」


 曇り空を背負って俺を見下す萌黄色の目が、怯えたように震えて見えた。
























「ナニ………と聞かれましても、答えようが」

「そうですね、言い方を変えましょう。………貴方は、本当に人間なのですか?」

「逆に、何をどう見たら俺が人外に見えるのか教えて欲しいですね」


 思ったより確信をついてきた問いに揶揄うように返し、端正な口元が僅かに歪む。


「いろいろと言いたいことはありますが、確信したのは、列車を襲撃した龍の足止めに行ったときですね。………はっきり言って、私は、クロさんの生存を諦めていました。ところが、蓋を開けてみればクロさんはほぼ無傷、しばらく昏倒していましたが、それだけでした。龍と戦って無傷で生き残るなど、人間に出来ることじゃありません」

「相手に殺す気がなかっただけです。戦ったといっても一方的に殴られただけですし、運が悪ければ、俺だって死んでいました」

「ダウト。現場には、少なくとも2体の龍の体組織が散乱していました。状況的に考えて、2体の龍が貴方を放置して殺し合いを始めたか、貴方が龍種2体を退けたかのどちらかしかありません。どちらにせよ、生還した貴方が人外の実力者であることに変わりは無いはずです」


 残念、エリナ様。

 俺がその龍です。


「………なんか今、すごくバカにされた気がしたんですけど」

「気のせいです」

「そうですか?内心、『何コイツ真面目ぶってんだプギャー―ス!!』とか思ってませんか?」

「なんなんですか、それ」

「知りませんよ」


 というか、この人、物真似上手いな。

 ナナもそうだったが、周囲の観察が得意だったりするのだろうか?

 ………いや、ナナに限ってそれはないな。

 どっちかというと、野生動物が親とみなした生物の真似をするのと同じ気がする。


「………なんか今、別の人のこと考えてましたよね」

「気のせいです」

「そうですか?」

「はい」

「別のこと考えてましたよね?」

「気のせいです」

「………まぁいいでしょう。それより、貴方がなんなのかについてです」

「何といわれても、ナナの兄でお嬢さまの奴隷としか」

「ダウトパンチ!!」

「がふっ」


 ぶん殴られた。

 むっちゃ痛い。

 というか、ダウトパンチって何?


「急に何を」

「気を付けてください、クロさん。質問は既に………拷問に変わってるんですよ」

「えぇ………」

「クロさんが、ナナちゃんやリーン様の事を大切に思っているのは分かります。ですが………ですがもし、カティア様とリーン様の利害が背反するようなことがあれば、私はあの方をお守りしなければなりません。

 ………教えてください、クロさん。貴方は、一体何なのですか?

 どの獣人とも亜人(デミ)とも似つかず、龍種と戦えるほどの人間離れした戦闘能力を持ち、しかも貴方には、一切の経歴がありません。まるで貴方という一人の人間が、ある日ぽつんと湧いて出てきたかのように、唐突に、ヴァルハリエ家に雇われています。はっきり言って、怪しすぎます。………もちろん、私個人としては、クロさんの事を信用しています。それでも………貴方は、強すぎる」


 茶化すような態度から一転して、警戒心を露わにした萌黄色の瞳。


「………正直に言って、私は、貴方と戦いたくありません。貴方を傷つけたくない、殺したくない。それでも、お嬢様に命じられたなら、私は貴方を殺してしまうでしょう。………お嬢様は、野良犬同然だった私に、全てをくださいました。眼も、足も、腕も、存在意義さえも。

 私は、お嬢様に救われたのです。あの方が望むことを為し、あの方の手足となって壊れるまで動くことが、私の望みです。………ですから、どうかお願いします、クロさん」


「貴方が何者であっても、たとえ人でなくても構いません」



「どうか私に、貴方を殺させないでください」



 最後の方は、ほとんど絞り出すような声だった。



 ………俺はエレナ様の過去に何があったか知らないが、それでも、この人が主人のためならなんだって出来るというのは分かる。

 死ねと言われれば、躊躇いなく自分の喉笛を掻き切って死ぬだろう。

 俺と同じ、主のために全てをかなぐり捨てることができる人間だ。

 だからこそ。




「俺はお嬢様の奴隷で、ナナの兄です。それ以上でもそれ以下でもありません」

「………つまり、純粋な人間じゃないんですね」

「そこの解釈はお好きなように」



 俺に出来るのは、エリナ様と殺し合いにならないことを祈るだけだ。



「………わかりました。とにかく、貴方がお嬢様の敵とならないことを祈りましょう」

「そうですね。俺も貴女を殺したくありません」

「………それは、私がクロさんより弱いと、そう言いたいのですか?」

「違いますか?」

「………今のは、流石に少し腹が立ちました」

「何をする気で」


 ゆらり、と幽鬼のように立ち上がるエリナ様。

 わずかに怯み、義手に握られたケモミミと尻尾に気づいた。

 猛烈に、嫌な予感がする。


「ねぇ、クロさん?」

「待ってくださいエリナ様、話せばわかるというではありませんか。ここはやはり落ち着いて知性的な対話を以て事態を」

「問答無用です」

「ちょっ、待っ、アーーーーッ!?」

「おいコラーー!!アタシを無視する………な?なにやってんの?」

「おや、ライカ様。ちょうどいいですし、貴女にも八つ当たりしましょうか」

「八つ当たり!?八つ当たりって何!?」

「観念してください、ライカ様。主に私のストレス発散のために」

「ちょっと、待って、ウキャー―――!?」





 その後、色々と、本当に色々とあったが。




 とりあえず。




 エリナ様を怒らせるとマズいことがわかって、俺と童女が少し仲良くなった。









そのうちこのメイド、眼から殺人光線発射しそう。




次回予告



「せっかくだしさ、海行こうよ、海!!」


尊厳破壊ケモミミコスプレ回を乗り越えて、奴隷と主人は海へ行く。


浪のさざめき、海猫の鳴き声、どこまでも続く水平線と、降り注ぐ陽の光。



「ナナさん、右です、右に三歩行ってください」

「こっちですねっ、と!」

「そのまま前に4歩、左に一歩進みなさい?」

「はい!!」

「んん?ちょっと、ナナ、待って」

「ここですか!?ここでいいんですね!?」

「やりなさい?」

「う、りゃあぁああ!!」

「がばっ」



次回「砂浜埋没式人間スイカ割り」




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