打雷
投稿遅れてすみません。これからしばらく、プライベートの方でごたつくせいで投稿速度が遅くなるかもしれません。ご迷惑おかけいたしますが、どうかよろしくお願いします。
ぼなぺてぃんぽ。
「まったく…………酷い目に遭いました」
「アマナさん、大丈夫ですか?」
「誰のせいだと思ってるんですか」
「…………?」
心なしか少しやつれたアマナ様を見て、不思議そうな顔のナナ。
可愛い。
写真を撮れないのが本当に悔やまれる。
「というか、クロさんもクロさんですよ。止めてくれたってよかったじゃないですか」
「ナナが楽しそうだったので」
「………ナナさん、愛されてますね」
「………?そうですね?」
わふっと首を傾げたナナが抱き着いてきたのを受け止めてソファーに座らせ、呆れたように俺を見てくるアマナ様。
咎めるような視線を無視して、視界を手で塞がれた。
柔らかな人肌の感触と、ふわりと香る甘い匂い。
「リーンお嬢様。何か御用でしょうか?」
「………そこは、私が『だ~れだ?』って聞くまで待って欲しかったわ?」
「匂いで分かりますので」
「知っているわ?」
「じゃあなんでやった」とツッコミたいのを我慢して手をのけ、不満そうに頬を膨らませたお嬢様。
可愛い。
じゃなくて。
可憐だ。
いや、そうじゃなくて。
「お嬢様。お飲み物はどうされますか?」
「………ミルクティー、砂糖マシマシ血液カラメで」
「かしこまりました」
なんだか呪文めいた注文を反芻して車両後方のキッチンへ行き、何故か目の前にエリナ様がいた。
いつも通りの能面じみた無表情と、ギョロギョロ不規則に動き回る金色の義眼。
萌黄色の瞳から目を逸らし、回り込まれた。
気まずい。
すごく、気まずい。
「クロさん、お手伝いしましょうか?」
「ありがとうございます、エリナ様。ミルクティー砂糖マシマシ血液カラメでお願いします」
「………んん?」
「ミルクティー砂糖マシマシ血液カラメでお願いします」
「まっ待ってください、砂糖マシマシまでは分かります、血液カラメって」
「お嬢様は半吸血鬼ですので」
「なるほど?」
頭の周りに大量のクエスチョンマークを浮かべながらも、流石に手際よくミルクティーを淹れるエリナ様。
出来るメイドは違うな。
タバコ吸ってばかりのウチの駄メイドと交換したいくらいだ。
角砂糖を1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ入れて。
「………クロさん?砂糖、いれすぎじゃないですか?」
「砂糖マシマシと言われたので」
短剣で手早く手首を搔っ切り、ドボドボと血を注ぐ。
「………クロさん?血、いれすぎじゃないですか?」
「血液カラメと言われたので」
「はぁ…………」
微妙な顔のエリナ様をスルーしてグルグルとかき混ぜ、客室へ運ぶ。
「お待たせしました、お嬢様」
「ありがとう、クロ。ついでにクッキーも持って来てもらえるかしら?」
「かしこまりました」
Uターンしてクッキーを皿に取り、引き返す。
「お持ちいたしま」
「あちゅっ」
皿に盛ったクッキーを机に置いて、可愛らしい悲鳴。
ミルクティーが熱かったのか、お嬢様が涙目になっていた。
可愛い。
「………クロ」
「はい」
「今見たことは全部忘れなさい。いいわね?」
「かしこまりました」
「リーン様、ネコ舌だったんですね」
「記憶喪失チョップ」
「あうっ」
無表情のエリナ様が無表情のお嬢様にチョップされて無表情のまま悲鳴を上げた。
…………なんていうか、二人とも表情があまり変わらないせいで、人形劇じみたことになっている。
言ってはアレだが、少し不気味だ。
「ねぇ、クロ。龍国まで、あとどれくらいかしら?」
「並の車で一週間ほどかかりますが、この列車ならあと3日もあれば着くでしょう。………もっとも、道中で魔物や賊の襲撃を受けなければの話ですが」
「………退屈ね。クロ、何とかしなさい?」
「こればっかりはどうにも。邪魔が入らないことを祈るしかないでしょう」
「最近、龍国の国境付近の村では新政府軍と旧政府軍の抗争が激化していると聞きます。それも厳しいのでは?」
「………クロ、何とかしなさい?」
「邪魔が入らないことを祈るしかないかと」
「………退屈ね」
心底つまらなさそうに呟き、窓の外を物憂げに眺めるお嬢様。
相変わらず代わり映えしない、だだっ広い草原地帯。
いやになりそうな緑の絨毯が地平線まで広がり、青空に、黒々とシミのように浮かぶ雷雲が1つ。
確か…………春雷、だったか?
まぁ、龍国の季節は夏のはずだし、春雷とは違うのかもしれないが…………どっちにしろ、こんな良く晴れた日に雷というのも珍しい。
装甲列車の防御障壁なら、雷の1発2発直撃してもなんてことは無いだろうが、少し揺れはするはず。
次第次第に近づいてくる黒雲を他所に、対雷結界の準備にかかり。
「しゃがんでください!!!」
最大出力で障壁を張り、同時にナナとお嬢様を抱きこんで床に突っ伏す。
閃光、轟音、衝撃、断裂音。
2人を庇いながらゴロゴロ転がって、見上げた天井が土煙越しの青空に変わっていた。
刺激臭がツンと鼻を衝き、もうもうと巻き上がる噴煙の中、ゆらりと巨大な影が蠢く。
ほとんど確信といっていいレベルの、『嫌な予感』。
白銀の鱗が日の光を受けて輝きを放つ。
大きく湾曲した5本の鉤爪と、はちきれんばかりに脈動する四肢。
長く伸びた首が仰け反るように天を仰ぎ、その咆哮は世界を揺らす。
一角獣を思わせる捻じれ角と、黄金に煌めく縦に割れた瞳。
純白の、宗教画に描かれた天使のような2対の翼がはためき、無垢の羽が祝福のように舞い散る。
膨大な魔力が空間を軋ませ、虚空に奔る紫電が炸裂。
高らかに吠えた龍の目は、明らかに俺を睨んでいた。
「………どうします?私たち3人で特攻でもしますか?」
「んぁ~………ま、しゃ~ね~か。ペットを盾にすれば3分くらい持つだろ」
「エリナ様、フィリア、列車の動力がまだ生きているか調べて、まだ動くなら可及的速やかに龍国へ向かってください」
「しんがりはどうする?素直に逃がしてくれるとは思えねぇぞ?」
「俺が努めます」
「………かしこまりました」
ぺこりと頭を下げたエリナ様が、義足に似合わない俊敏さで機関室の方へ走っていく。
不幸中の幸いとでもいうのか、脱線こそしていないが、それでも復帰にはしばらくかかるはず。
………その間、相手が待っていてくれるかどうか、だな。
まぁ、ともかく。
「ナナ。俺はここに残って奴の足止めに専念します。貴女はお嬢様の側にいてください」
「………私も、何かお手伝いを」
「半人前の狼に何か出来るとでも?…………心配しなくても、あれくらいの龍なら余裕で勝てます。せっかくですし、かば焼きにでもしてしまいましょう」
嘘だ。
あの魔力量から判断して、相手は中位龍の中でも相当な上澄み、もしくは上位龍の類。
死なず、朽ちず、滅びず、永劫を閲する本物の龍だ。
生まれてたかだか数百年の若僧が勝てる相手ではなく、万全の状態で戦えるならまだしも、隠し棘の毒に蝕まれた今の俺に勝ち目は薄い。
おまけにあの雷撃。
雷龍は、その速さと貫通能力故に、総じて攻めに秀でる。
防御主体の俺のような龍とはそもそも相性が悪く、今の俺の攻撃力では、致命傷を負わせることは不可能に近い。
十中八九、俺は死ぬだろう。
だが、ナナのために時間を稼ぐくらいはできる。
「カティア様。列車の運転をお任せしてもよろしいでしょうか?」
「ちょっと厳しいかもだけど、まぁ頑張ってどうにかするさ。………こんな事を言うのはアレだけど、頑張って生きてね、ワンコ君。君に死なれたら少し寂しいからさ」
いつもみたいに冗談めかした口調と、放り投げられた小瓶。
わずかに魔力を感じるが、これは………。
「上級回復薬。意味があるか分からないけど、即死しなければ何とかなるくらいの効果はあると思うよ」
「ありがとうございます、カティア様」
ガラス瓶を懐に納め、後ろから肩を掴まれた。
グイと強制的に振り向かされ、不機嫌そうに眉を顰めたお嬢様。
薄桃色の唇が、僅かに開き。
「クロ」
「はい」
「絶対に、絶対に生きて帰ってきなさい。これは命令よ?」
「御意のままに、お嬢様」
一礼し、短剣を抜き放って列車の外へ。
その巨体を揺すった龍が高らかに吠え、風が哭く音。
「クロさん!機関部生きてました、いつでも行けます!!」
「先に行ってください、しばらくしたら俺も追いかけます。…………ナナの子守は頼みましたよ?」
「ええ、わかりました。…………どうか、ご武運を」
「そちらこそ、幸運を」
祈るように吐き出された言葉に短く返し、待ちわびたとでも言いたげに唸る龍が一体。
蒸気が吹きだし、車輪が軌条を噛む音を背負って、短剣を構えた。
銀色の輝きが首筋を掠める。
続く角の一撃を短剣で逸らし、無数に降り注ぐ雷撃を避雷針代わりの金属柱で回避。
すれ違いざまに首に一発叩きこみ、鱗を浅く切り裂いて終わる。
尾の薙ぎ払いを受け止め、ミシリと音を鳴らして体が軋む。
間一髪、叩き潰される寸前で潜り抜け、筋肉の塊が地面を砕く。
巨体をうねらせて反転した龍が、大きく口を開けて。
「多層物理結界!!」
幾重にも重ねて張った結界が雷の奔流を受け流し、電熱に耐えきれずに焼ききれる寸前で撤退。
衝撃波と、頭上から降る龍の牙。
ガギンと噛み合わされたソレを間一髪躱し、槍のように繰り出される爪の一撃。
地を這うように突っ込み、腹部の鱗が薄そうな場所へ突き出した刃が音を立てて弾かれる。
視界を、鱗に覆われた体躯が埋め尽くし。
「ガッ!?」
乱回転する世界と浮遊感。
ろくに制動も効かずに吹っ飛ばされ、地面を抉りながら着弾。
揺れる脳味噌を抱えたまま雷霆をしゃがんでかわし、反撃の怪力線は容易く弾かれた。
列車はまだ地平線の手前で、龍化した俺の戦闘にナナを巻き込むわけにはいかない。
短剣を逆手に構え。
「爆破」
前足の一撃を自爆の勢いで搔い潜り、脚を踏み台に跳躍。
細長い首の、鱗の隙間に切先を捻じ込んで。
「赫華」
渾身の火炎系禁呪が、銀龍の体内で炸裂した。
けして消えず、燃え広がり続ける魔術の火は、過去の大戦において、決定的打撃力を持つ戦略兵器として扱われてきた。
火力と発動速度で他系統の禁呪を圧倒しながら強大さ故に扱いづらいこの魔術も、龍の腹の中で使うなら話は別。
文字通り生きたまま体の中身を焼かれた龍が苦悶の咆哮を上げる。
赤熱した刃を引き抜いて、線路と反対方向に全力疾走。
予想外の火傷に余裕がなくなったのか、血走った目をした龍が翼を広げる。
爆発的な勢いで魔力が収束し、咄嗟に出せる最大出力で障壁を展開。
颶風が吹き荒れ、無数の羽根が流星群のように煌めいた。
広範囲にばらまかれたソレの内、まともに俺へ向かって飛んだのはわずか十数本。
5,6発目までを障壁が防ぎ、7発目であっさり貫かれた。
身を翻し、避けきれなかった左腕に突き刺さる羽矢。
キィイイィィンと甲高く哭いた弾丸が爆ぜ、肉と骨が飛散する。
構わずに突撃し、ギロチンよろしく連なる龍の牙。
反応は間に合わず、背中の肉を削がれながら、かろうじて後ろへ倒れ込んだ。
分厚く重い腕に叩き潰され、踏ん張った足が地面に埋まる。
重圧に耐えきれなかった腕が裂けて血が噴出し、ミチリと体の壊れる音。
盾にした短剣が砕け、銀色の爪が降り。
「起動・被虐首輪」
繰り出した鉤爪が奴の腹を捉えた。
鱗と肉を砕き、抉るように存分に撃ち抜く。
脳味噌でナニカが騒めくような感覚と、圧倒的な全能感。
たたらを踏んだマヌケの顔面に尾を叩きこみ、甲殻を斬り裂く確かな手応え。
苦し紛れの息吹を岩壁が防ぎ、鼻っ面を噛みに来た首をあべこべに食い千切る。
バカげた量の血が噴き出し、肉片が飛散する中、龍の絶叫が大気を揺らす。
魔力を練り上げて。
「腐蝕滅!」
隠し棘の毒を魔術で模倣した広範囲無差別攻撃が炸裂。
辺り一帯の大地が融け落ち、草も木も土も腐敗していく。
当然俺も巻き込まれるが、構うものか。
怯えたように雷龍が後ずさり、あらかじめ展開していた無底沼・百手捕手に盛大に嵌った。
慌てたように雷龍が藻掻き、紫電を纏うも、もう遅い。
全力で踏ん張って。
「龍の息吹!!!」
黒い極光が迸った。
龍が自らの肉体を分解して放つ窮極の魔術攻撃は、射線上の全てを消し飛ばす。
空間を軋ませ、大気を断裂させた咆哮が雷龍を飲みこみ、その影を掻き消した。
地平線の向こうまで大地を引き裂き、虚空に幾重もの円環を刻んで消えていく。
猛烈な脱力感に襲われて倒れかけ、雷撃に撃たれた。
はるか上空、右半身をいくらか抉られながらも、颶風と赤雷を纏って飛翔する龍の姿。
反撃しようとして、急降下からの一撃がもろに入る。
前に出て、脚に力が入らずに崩れ落ちた。
喉の奥からせりあがった血反吐が口の端から零れ、目の前の地面を赤黒く染める。
鞭のような尾の薙ぎ払いをもろに受け、揺れる脳と意識。
連続して放たれた雷が着弾するたびにわずかずつ肉が弾け、視界が明滅する中、気合だけで噛みついて血と肉の味。
甘く歯に響くソレを咀嚼もせずに飲みこみ、脇腹にめりこむ牙の感触さえ無視して肉を齧り取る。
振り下ろされた鉤爪が端から潰れていた左目を引き裂き、首元に噛みついて咬筋力で叩き伏せた。
そのまま首を噛み千切ろうとして、バカげた筋力に振り払われる。
吹き飛ばされ、無差別に降り注ぐ凄まじい威力の雷撃。
肉と皮が焼き焦がされる感覚に思わず怯み、喉を食い破られた。
地面に崩れ落ち、放たれる羽弾の雨。
連続する衝撃に仰け反り、かすむ視界の奥で、龍が雷を纏う。
呼応するように収束する雷雲と紫電。
直後、大気が爆ぜて吹き飛ばされた。
何もわからないまま跳ね起き、再びの猛打。
咄嗟に岩壁で周囲を囲い、すでに叩きのめされた後。
華奢な体躯に似合わぬ膂力の殴打に怯み、一歩退いた脇腹に激痛。
軽々と撥ね飛ばされ、視界の端、高々と吠える銀雷を帯びた龍の姿。
やけにゆっくりと流れる世界を雷電の奔流が埋め尽くし、全てが途絶えた。
スパークガールシンドローム。やっぱり日光電工さんは偉大なんやねって。
次回予告
いきなりドラゴンから一方的にノックアウトされてしまった主人公!!
目が覚めた時、彼がいたのは怪しげな廃館だった!!
怪しさマシマシのパーカーの男、迫るマルノコ、カビゾンビを殴り飛ばすゴリス!!!
なんかいろいろ終わってる状況で、それでも必死に頑張る主人公!!
「まじかよ」
「お前、なんか変だぞ」
「クソッ」
「誰なんだろこの人」
次回「おいでよバイオの森」




