舞台裏・妹×妹
遅れてすまないンゴ。あと5話くらいでこの章終わるンゴ。楽しみにしておくンゴ。
ふぉあっちゃー。
「ふぅ………ようやく終わりましたね」
誰もいなくなった対抗戦出場選手用の控室。
思いっ切り背伸びして、腕とか足とか腰とか、全部痛いです。
それもこれも全部、お姉ちゃんの過保護が悪いのです。
いくら妹が心配だからって、あんな重い鎧を着せなくてもいいじゃないですか。
…………でもやっぱり、少し嬉しいですね。
お行儀が悪いのを承知でソファーに寝ころんで。
「なんでこうなったんでしょうか」
こんなはずじゃなかった、とでもいうべきなのでしょうか?
おかしいのです。
色々とおかしいのです。
対抗戦に勝つため、学院に圧力をかけて例の狂犬を出場禁止にするのは、計画通り上手く行きました。
噂の狂い犬さんさえいなければ、不確定要素はヴァルハリエさんだけ。
かなり厳しいけれど、それでも、お姉ちゃんなら勝てる。
はず、でした。
なんなんですか、あのふざけた人は。
あんなパヤパヤした虫も殺せなさそうな顔して、相手チームの前衛さんが瞬殺されていました。
ボッコボコでした。
さむらい………?さんもすっごく速かったですし、ちっちゃな女の子も、噂の留学生さんも普通に強そうでした。
ボッコボコじゃなくてもボコにされそうです。
マルチリルダさんは………まぁ、大丈夫な気もしますけど、それでも油断はできません。
ヴァルハリエさんも、なんかヤバいくらい重そうな鐘を振り回してましたし、勝てる気がしません。
もう、あれです、ボッコボコのボコです。
ボコちゃんにされてしまいます。
脅すだけにしておくよう命令したはずの異端審問官さんが、何故かあの人を殺そうとしたことも、予想外でした。
さらに言えば、彼らのために用意した拠点が一昨日の爆破事故で全滅したことも、シナリオから外れています。
………いいえ、正直に言いましょう。
なんかもう、ぜんぶぐっちゃぐちゃなのです。
いろいろ頑張って計画したのに、交渉とかしたことなかったし、相手の人めっちゃ怖かったし、なのに全部ムダになるし、もうほんと、泣きそうです。
心が折れちゃいそうです。
でも、私、頑張ります。
頑張って勝って、お姉ちゃんに褒めてもらうんです。
まだ、まだ敗北が決定したわけじゃありません。
正面から勝つのは………まぁ、ムリそうですけど、それでも、まだ、手はあります。
ある、はず、です。
きっと、たぶん、ある、と思いたいです。
ある、と、いいですね…………。
「はうぅ………どうしてこうなったんでしょう………」
「どうかしたんですか?」
「いえ、色々と頑張ってみたのに、全部むだになっちゃって」
「わかります!たまにそういうことありますよね!!」
「わかりますか!?そうなんですよ!お姉ちゃんがなんでも出来るのが、本当に不思議、で………」
あ、れ?
隣を見て、パヤパヤさんがいました。
「………?どうか、しま」
「きょ、きょきょきょきょきょ!?」
「きょきょきょ?」
「きょきょきょっ!?」
「きょきょ?」
「きょわ、っ、たぁっ!?」
とっさに後ろに下がって、足が滑って背中を強打。
差し伸べられた手を取って、困惑したような顔のパヤパヤさん。
……………すっごく恥ずかしい、です。
というか、すっごく大きいです。
顔年齢は私と同じくらいなのに、すっごく大きいです。
何がとは言いませんけど、お姉ちゃんと同じくらいありそうです。
だいたい0,9お姉ちゃんです。
ナニがとは言いませんけど。
「あの~………大丈夫、ですか?」
「………すいません、取り乱していました」
「何にですか?」
「ナニにです」
「………?」
話が分かっていないらしいパヤパヤさんを無視して服の埃を払い、控室を出ようとして。
「あのっ、すいません!」
「ふにゅっ!?」
陽だまりみたいな暖かな匂いと、後頭部を包みこむ柔らかな感触。
思わず眠くなっちゃいそうな少し高めの体温。
この、無条件に安心して甘えたくなるような感覚は、まるで。
「おねえ、ちゃん………?」
「えと、違います」
はっ!?
「………その」
「はい?」
「今あったことは全部忘れてください。いいですね?」
「あっ、はい、分かりました」
危ない危ない、あと少しで、自我を失ってオギャるところでした。
恐るべし、ヴァルハリエ家からの刺客。
………もしや、こうやって私を懐柔する作戦なのではっ!?
だとしたら、この場に長居するのは危険です。
逃げるみたいで癪ですが、これは逃亡ではありません。
戦略的撤退というものです。
だから問題ないのです。
急いで、部屋を出て。
「あの、1つ、お願いしても、いいですか?」
「………なんですか?急いでいるんですけど」
「そのっ、もしよかったら!私と友達になってください!!」
「………えっ?」
なんか、変な事を言われた気が。
「私、今まで友達がいなかったんです!ほかの人は物騒だし、話しかけようとしたら睨まれちゃうしで、もう大変で……………。でも、貴女となら、上手く話せそうな気がするんです!!」
「えぇ~………」
やたらキラキラした目を向けて来るパヤパヤさん。
面倒です。
………というか、私が友達になってあげる理由も義理もないんですよね。
適当にあしらって、帰。
………………そういえば、私に友達って、いましたっけ?
私の周りには、昔から、たくさんの人がいました。
けれど、けれども、『友達』って言えるような人は、いたのでしょうか?
お屋敷の本で読んだ親友というものは、一緒に遊んだり、ふざけあったり、笑い合ったり、街でご飯を食べたり、お泊り会をしたり、他にも色々な事をするものでした。
そんな事をした覚えは、ありません。
せいぜいが、粘ついた声のおべんちゃらくらいのものです。
友達とは、たまに喧嘩をしたりするものらしいです。
私は、喧嘩なんてしたことありません。
そんな事をしてくれた人は、いままで1人もいませんでした。
「………そう、ですね。わかりました。友達になってくれますか?」
「ありがとうございます!えっと…………すみません、お名前、教えてもらってもいいですか?」
「………貴女、名前も知らない人と友達になろうとしてたんですか。私の名前はアマナ・フォン・アルトリアです。以後よろしくお願いします」
「ナナです。よろしくお願いしますね、アマナさん!!」
わふっといい顔で笑うパヤパヤさん。
………もしかして、思ったよりいい人なのかもしれません。
ええ、きっとそうです。
お姉ちゃんも、人を見た目で判断してはいけないって言っていました。
………でも、カワイイは正義とも言ってましたね。
………あれ?
「そうだ、アマナさん。明日の準決勝戦、見に来てくれますか?」
「ごめんなさい、私も試合があるので。本当なら見に行きたかったんですけど」
「そう、なんですか………残念です」
目に見えて分かるくらい落ち込むナナさん。
………一瞬、決勝戦で戦うかもしれないと言っておこうと思いましたけれど、その時まで内緒にしておいた方が楽しそうですね。
我ながら酷い気もしますけど、友達ですし、これくらい許されると思います。
ふと時計を見て、もう少しでお迎えが来る時間。
馭者さんを待たせるのも悪いですし、そろそろ帰らなきゃなのです。
席を立とうとして。
「ナナ。そろそろ帰りますよ?」
後ろからの声。
私と大差ないくらいの身長に、屋敷の執事さんたちが着ているような燕尾服。
ナナさんとそっくりな、けれど、どす黒いといった方がいいような、イヤな色の眼。
頭の中を見透かすようなソレに、少し怯んで。
「クロ兄さん!私、友達が出来ました!!」
「そうですか。よかったですね、ナナ」
「はい!!」
ナナさんが狂犬さんに抱き着いて、頭を撫でられてにへらと笑う。
………なんていうか、ナナさんってワンコみたいですね。
狂犬さんも思ってたより小さかったですし、噂みたいに物騒じゃないのかもしれません。
「お初にお目にかかります、アルマ・フォン・アルトリア大公爵令嬢様。ナナと仲良くしていただいたこと、お嬢様に代わってお礼申し上げます。………ナナ、先に行ってください。1つ用事が出来ました」
「わかりました!アマナさん、また明日!!」
「また明日です、ナナさん」
元気に手を振って出ていくナナさんに、手を振り返して。
「アマナ様。少々、お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ。構いませんけど………」
「異端審問官とは、どのような繋がりで?」
「………え?」
異端審問官?
なんで、バレ。
「先日襲撃を仕掛けた異端審問官の拠点から、貴女の名義で書かれた契約書を見つけました。契約内容はナナとお嬢様の殺害。つまり、貴女は俺の敵ということです」
「………えっ!?」
いや、えっ、はっ!?
まって、まってください。
えっ?
ちょっと、意味が分からな。
「なるほど。やはり、シロでしたか」
「………え?」
「申し訳ありませんが、鎌を掛けさせていただきました。察するに、ナナが対抗戦に出れないようにしたかっただけで、異端審問組織を使って殺そうとしたわけではないのでしょう?」
「………へ?」
え、いや、えっ?
うん?
かま?
かま……ってなんです?
えっ?
「………騙したんですか!?」
「申し訳ございませんでした。ナナの安全のために必要な事でしたので」
「………まぁ、それなら別に、いいです、けど………」
「チョロイなコイツ」
「ちょろ?」
なんか今、すっごく失礼な事を言われた気がします。
「恐らくですが、貴女の指示に干渉して内容をすり替えた者がいます。ナナの邪魔をされかけたのは業腹ですが、まぁ、今回は見逃しましょう」
「ありがとうございます、クロさん………で、いいんですよね?」
「お好きなように呼んでいただければ」
というか、見逃す、なんですね。
もしかして、なにかを間違えてたら見逃されなかったんでしょうか?
前言撤回します。
この人、物騒です。
「………それと、無礼を承知で、1つお願いしたいことがあるのですが………」
「なんですか?」
「ゴブッ」
ビシャリと水音がしました。
口をハンカチで押さえた指の間から、赤黒いものが滴って、床に零れます。
肺病で亡くなってしまった爺やと、同じ症状。
「クロさん!?」
「俺は、あと2年と経たないうちに死にます」
「………え?」
………え?
死?
死ぬって、どういう。
「人体を内側から破壊する宿痾です。俺は、いずれ死ぬでしょう。それ自体は別にどうでもよいのです。俺の生き死になど、些細な問題でしかありません。ただ………ただ、俺は、ナナを残して逝くことが、どうしようもなく怖いのです。
俺が生きている間なら、何があっても、どんな敵がナナを襲っても、俺はナナを守ってやれます。ですが、それじゃ足りないんです。ナナは、あの子は、酷く脆い。ずっと傍にいて助けてくれる人が、支え合える人が必要なんです。
守るべきものがあれば、人は、強くなれる。
ナナには、互いに助け合える人間がいるのです。
俺は、ナナが幸せになってくれればそれでいい。
いつも笑って、前を向いて歩いてくれればそれでいい。
あの子のこれからが、優しく、温かいものであってほしい。
暴力とも、悪視とも、罵倒とも無関係な、優しい道を、誰かと一緒に笑いながら歩いていて欲しい。
ナナの人生が、幸せな物であってほしい。
………俺が生きて、体が動いている間に、ナナに何を遺せるか、考えました。
単なる武器や防具じゃだめだ。
それはナナを守れても、幸せに出来るようなものじゃない。
思い出や経験も、いずれ風化していくでしょう。
でも、人間関係なら?
あの子のこれからを、長い長い道を、一緒に、笑って歩いてくれる友達が出来たなら、それはきっと、ナナを満たして、助けてくれる。
だから、どうか、お願いです」
「ナナを、幸せにしてあげてください」
「あの子の、友達でいてあげてください」
…………正直、驚きました。
仮にも大公爵家の人間に頼み込んでおいて、しかも『妹の友達になってくれ』なんて、聞いたことないです。
コレが私だからよかったものの、意地悪な相手なら斬首刑ですよ?
首ちょんぱされちゃうのです。
でも、まぁ。
「私も友達いませんでしたし、こっちからお願いしたいくらいです」
「ありがとうございます、アマナさ」
「クロ兄さん!いい加減話し過ぎです!!」
「ぐびゃっ」
後ろからぶん殴られて悲鳴を上げるクロさん。
後頭部から煙が上がってますけど、大丈夫なんでしょうか?
というか、ナナさんまだいたんですね。
………さっきの話、聞かれてませんよね?
大丈夫ですよね?
「ほら、クロ兄さん。さっさと行きますよ。ご主人様が暇すぎて鳩時計のものまねに凝りだす前に」
「それ、どういう状況なんですか」
「申し訳ありません、アマナ様。またいずれ、お会いしましょう。それでは」
「アマナさん、また明日です!!」
「ちょっと待ってください。ヴァルハリエさんに、なにが」
クロさんを担いだナナさんが、部屋の外へ走り去っていきました。
ポカポカ殴られながらも楽しそうでしたし、やっぱり、兄妹の仲がいいのはいい事です。
…………お姉ちゃんにやったら、喜んでもらえますかね?
また今度、やってみましょうか。
ドアの向こうの騒音が遠ざかっていく中、椅子から立ち上がって。
「………いたた。筋肉痛かもです」
明日の対抗戦、大丈夫でしょうか?
ヒトデマンからのお願い。
高評価とかブクマとかいいねとかレビューとか全部よこしやがれください(強欲で強欲な壺)
次回予告。
ついに始まった対抗戦決勝。
パニック状態の妹2人と、対峙するお姉ちゃんとご主人様。
どす黒い影が舞台裏で蠢き、乾いた銃声が、強引に劇の幕を引く。
獣血が流れ、惨劇の中、奴隷は病んだ体を抱え哭く。
喧噪の中、目を覚ました怪物は彼の首を狩り。
次回「咬殺の夜に」




