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龍に生まれた少年は、異世界令嬢の奴隷になる  作者: 御星海星
死闘!!

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恋と毒

妹に喧嘩を挑んだ結果、秘技蹴り脚殺しからの真空地獄車で爆発四散してしまい、投降が遅れました。

申し訳ございません。








「ふむ………問題なく撮れていますね。及第点といったところでしょうか」

「テメエなぁ………人に写真撮ってきてもらってその言い方はないだろ」


 ゴブッと溢れかけた血餅を飲み下し、怒りからか眉をひくつかせるフィリア。

 こんな口をききはしたが、実際、素人にしてはかなりいい具合に撮れている。

 被写体がいい分、どう撮っても割合に絵になるのはいいな。

 というかナナがかわいい。

 出来れば生で見たかった。


「まぁ、なんだ。ナナちゃんに変な虫がつかないようにしろよ?バカ貴族の息子に見初められた平民の娘が~なんて、よくある話だからよ」

「安心してください。見つけ次第吊るし上げています」

「………マジか?」

「マジです」


 今月に入って、28人。

 ナナの靴箱に手紙を入れようとしたりナナに話しかけようとしたりナナを連れ去ろうとしたりナナを誘拐しようとしたりナナに告白しようとした罪で、全身の骨をバキバキに砕いて街灯に吊るし上げてやった。

 しっかり変装もしたうえで強盗の仕業に見えるように財布や金目の物も奪っておいたので、憲兵局は、存在しない身長2メートル30センチの巨人を追い続けている。

 なんでも最近、帝都七不思議の1つが神出鬼没の怪人になったそうだが………それはともかく。


「最近は異端審問官共も派手に暴れてるみたいだし、ほどほどにしといた方がいいぞ?」

「審問官如き、なんてことはないでしょう。皆殺しにして」

「だからそうじゃないんだよ」


 話を聞くには、獣人奴隷を扱う奴隷商や獣人を従業員として働かせている店を襲撃して回っているそうな。

 確かに、今の帝国の法は獣人の人権を否定しているが、ソレは獣人が嫌われている事とイコールにはならない。

 貴族から平民への搾取が酷すぎるせいで人権があっても無くても大差ない以上、奴隷だからという理由で殊更差別されるようなことはあまりない。


 お嬢様曰く、「法は可愛いを否定する要因にはなり得ない」、とのこと。


 事実、富裕層には獣人愛好家なんてものも存在するくらいだ。

 それに奴隷は法律上、所有者の財産として扱われる。

 あれこれと理由をつけて好き勝手に暴れていた連中も、商会からの報復を恐れて、公だって承認を襲うことは無かった。

 それが何故、今になって急に活気づいたかは知らないが、変な事をするならぶち殺せばいい。

 ………いや、下手に動かれる前に、ぶっ潰しておく方が得策か。

 無策で突っ込んでも勝てるが、どうせやるなら一網打尽にしたい。


「フィリア。異端審問組織の拠点とメンバーについて、出来るだけ詳しく調べてください」

「わかった。知り合いの情報屋に手紙を送ってみる。出来るだけ早く仕事してもらうが、それでも2週間くらいかかるぞ?」

「………少々遅いですが、まぁ、問題ないでしょう。目的は連中の殲滅です、同時多方面作戦になるでしょうし、貴女にも働いてもらいますよ?」

「給料は弾んでくれるんだろうな?」

「もちろんです」

「ならよし」


 満足げに頷いたフィリアが、盛大なあくびを零した。

 ふと、窓の外を見れば、茜色に染まった太陽がギザギザに切り取られた地平線に沈んでいくところだった。

 サイドテーブルに置いたコップの中身を飲み干し。


「そこの杖をとってください。そろそろ一日目も終わる頃合いでしょうし、帰る準備をしなければ」

「お前、もう動いていいのか?」

「………実を言うと、結構マズいですね」

「ダメじゃねえか」

「クロ兄さん!やりました、私やりました!!」


 ズバンとヤバげな音を鳴らしてドアが開き、銀色が宙を舞う。

 獲物に跳びかかる狼のような跳躍と、満面の笑み。

 ダイブしてきたナナを右腕で受け止めて抱きかかえ、気合で衝撃を殺す。

 もふもふの尻尾のに顔を叩かれながら下ろし、何かを期待するように目をキラキラさせるナナ。

 溜息を吐いて。


「よく頑張りましたね。今日はシチューにしましょうか」

「愛してますクロ兄さん!!」


 タックルじみた突撃。

 思いっ切り抱き着かれて、人外の膂力に、体がミシミシと悲鳴を上げる。

 脳裏によぎったのは、クマに締め殺される獲物の姿。

 不吉なビジョンを振り払い、逃れようとして、片腕しか動かないせいで逃げられない。

 というか、骨が、砕け。


「ナナさん、その辺にしないとクロさんがヤバいです。吐血しそうですよ?」

「のわっ!?」


 呆れたような声音に驚いたナナが飛び退り、危うくダバッと黒い血を吐きかけた。

 苦く鉄臭い錆びたようなソレを飲み下し、さっきまでのハイテンションはどこに行ったのか、半分泣きそうな顔で見つめてくるナナ。


「ナナ、そんな顔をしなくても大丈夫ですよ。血を吐きそうなのは元からです」

「ダメじゃないですか!!」

「遊んでないで、早くどいてください。治療しますので」


 シーザー様がそう言って俺に近づき、頭に手を乗せてきた。

 前回の焼き直しのように金色が瞬いて、体が熱を帯びる。


「………うん。これでいい感じですね」

「シーザー様。この毒を治すのに、どれくらいかかるのですか?」

「治せるかどうかも分かりません。ぶっちゃけ、今やっているのはタダの対処療法です。

 ………多分ですけど、コレ、龍に由来する毒ですよね?本当なら、こうやって喋るどころか、生きてるだけで奇跡みたいなものなんですよ?

 というか、なんで生きてるんですか」

「生まれつきタフなもので」

「………それ、タフってレベルですか?」

「さぁ、どうなんでしょうか」


 呆れるシーザー様を他所にベッドから下りて、ふらつく体を杖で支える。

 なんというか、まぁ、我ながら酷いもんだ。

 どうにかしたいところだが、果たしてどうにかなるものか。

 いやに重い体を引きずって歩き。


「クロ。調子はどうかしら?」

「申し訳ございません、リーンお嬢様。醜態を晒しました」


 金色の髪が躍り、赤い目に見据えられた。

 面白くないものを見たような、不満げな表情。

 これ以上の無様を晒さないように、血の塊を飲み下し。


「気に入らないわね」





 俺の唇に、なにか、甘く柔らかいものが押し付けられた。

 異常に狭まった世界の中、俺を抱きしめて口付けるお嬢様。

 思わず後ろに逃げようとして、肩を掴まれて押さえつけられる。

 甘く熱く湿ったものを口の中にねじ込まれ、蹂躙される。

 粘ついた水の滴るような音が、鼓膜を侵食するように響く。

 沸騰しておぼつかない体で、なんとか振り払い。




「ねぇ、クロ。左腕の調子はどうかしら?」

「…………痛い?」


 ぎゅうっと手の甲を抓られて、わずかな痛み。

 感覚こそ鈍いものの、死んだ肉をぶら下げているのではなく、あくまでも生きた肉の感触。

 手を握ろうとして、問題なく動く。

 左腕に、感覚が戻っていた。


「………マジかよ」

「マジよ。()()しただけだから根本的な治療にはならないけれど、普通に働く分には問題ないわ?」

「ありがとうございます、お嬢様」

「えっ、いや、今の、どういうことですか?なんで、キスで毒が治って」

「私は主でクロは奴隷でしょう。そういうことよ?」

「………いや、わかんないんですけど」


 フフンと自慢げに笑うお嬢様と、呆れ顔のシーザー様。

 よくわかならいが、体が動くならそれでいい。

 心なしか、左目の視界もわずかに回復したような気がする。

 手を握りしめて。


「………ナナ。なんですか、その顔は」


 視線を感じて振り返り、むうっと頬を膨らまして俺を睨むナナ。

 カワイイ。

 じゃなくて。


「ジェラシーです。羨ましいです。羨ましいんです」

「うん?」

「大体なんなんですか、ご主人様は!!キス魔ですか!?キス魔なんですか!?」

「そうかもしれないわ?」

「そうかもしれないわ、じゃないですよ!今まではなんとなく見逃してましたけど、いい加減そのあたりを清算して」

「帰ったら同じことをしてあげるわ?」

「大好きです愛してますご主人様!!」


 キャンキャン吠え立てていたのが一転して、飼い主に甘える犬のような動きで、ナナがお嬢様にじゃれついた。

 どうでもいいが、さっきのお嬢様の声マネ、上手かったな。

 なんだかんだで器用な奴だ。


「ねぇ、エリナ。ボクもリーンの家にお泊りしていいよね?」

「ダメです。ご当主様からなんとしてでも家に連れ帰すように命じられております」

「そんにゃ~」

「ごねてもムダです。さぁ、いきますよ」

「リーン、また明日ね」

「さようなら、カティ。しっかり休みなさい?」

「大丈夫、疲れるほど動いてないから!」


 駄々を捏ねたカティア様が子猫にするみたいに摘まみ上げられた。

 お嬢様のセリフに情けない事を言って返して、三つ編みにした赤髪が揺れる。

 ………従者が主人をあんな風に扱っていいのか疑問だが、まぁ、カティア様なら気にしなさそうだ。


「ほら、もういいでしょう?屋敷に帰りますよ?」

「………なぁ、ペット。ナナちゃん、大丈夫かね?」

「いざとなれば俺が暴れます」

「………なるほど、そりゃ、心強いな」


 部屋の隅で混乱していたシーザー様を回収し、荷物をまとめて背負って、部屋を出た。





























「何も解決してないじゃないですか!!!」

「うおっ」


 ヴァルハリエ家、リビング。

 夕食を終えてソファーに寝そべっていたナナが唐突に叫び、それに驚いたフィリアが火のついたタバコを服の上に落とした。

 「あぢゃぢゃぢゃぢゃ!?」と間抜けな悲鳴を無視して本を読むお嬢様と、突然の事態にオロオロするシーザー様。

 服を繕っていた手を止めて。


「ナナ。どうかしましたか?」

「ご主人様!いい加減、誰が好きなのかはっきりしてください!!」

「………うん?」


 ナナが変な事を言い出した。


「大体ですね!ご主人様はいろんな人に手を出し過ぎなんですよ!クロ兄さんと私にもキスしてますし、カティア様にも手を出してますよね!?」

「キスまでならしたわ?」

「やっぱりそうじゃないですか!!もうちょっと、こう、相手に誠実にですね」

「可愛かったから仕方ないじゃない?」

「可愛かったらキスしていいんですか!?クロ兄さんも、何か言ってやって」

「ナナ。お嬢様に理屈が通じると思わないことです」

「そんなバカな!?」


 ハイテンションのまま話をふってきたナナにド正論で返して悲鳴を上げるナナ。

 ワナワナと肩を震わせたナナが、諦めたように溜息を吐いて。


「………そうですね、質問を変えます。ご主人様は、誰か、好きな人はいますか?」

「………好きな人?」


 青い狼の瞳が、シャンデリアの光を受けて星のように輝いた。


「はい。私は、ご主人様を愛しています。大好きです。無茶苦茶にして血を吸って欲しいです。痛いのはイヤですけど、それでも、ご主人様に喰い殺されるなら本望だって、胸を張って言えます」

「………へ?」

「ご主人様に拾われなかったら、私は、あのまま野垂れ死んでいました。クロ兄さんにも会えませんでしたし、こんないい服を着て、街を出歩くことも出来ませんでした。ご飯も、ベッドも、服も、全部、ご主人様に貰ったんです。だから、少しでも、ご主人様に恩返しがしたいんです。ご主人様の命令なら何だって、喜んでやります。

 ………でも。でも、です。あんまり他の人を見られると、寂しいんです。私がご主人様を縛るなんておこがましいのはわかってます。正しくも何でもない、ただの嫉妬なんだってことも、分かっています。

 それでも私は、ご主人様を独り占めしたいんです。

 私だけを見て、私だけを、愛して欲しいんです」

「ナナ、何を言って」

「ご主人様」

「ひゃうっ!?」



 ナナに詰め寄られて、リーンお嬢様が聞いたことのない悲鳴を上げた。

 ほとんどキスをするような距離で、薄い唇が開き。









「もう一度言います、ご主人様。大好きです。結婚してください」

「ちょっと、ナナ、待って」

「待ちません」


 慌てふためいたお嬢様が後ろに逃げようとして躓いて、ソファーに倒れ込んだところを押し倒される。

 いつものふわふわした様子はどこへ行ったのか、()()の獣の瞳孔が、突き刺すような意志を見せた。

 お嬢様に跨ったナナが、獲物の喉笛に喰いつく狼のように動き。



















 ガラスの砕ける音。


 空気が硬直し、透明な破片が降り注ぐ中、カンッカンッと硬質な音を立てて、こぶし大の手榴弾が投げ込まれ。










物理結界(バリア)!!」



 衝撃と爆音。

 床と絨毯だったものがバラバラに吹き飛び、粉塵が舞う。

 何が起こったのかわからないが、襲撃されたことは事実。

 感覚を、最大限に研ぎ澄ませて。



念動力(サイコ)



 空を切って飛翔した弾頭を魔術の手で掴み取り、軌道上へ投げ返して大爆発。

 月も照らさない夜の中、一瞬、例の異端審問官共の紋章が、黒煙と火焔に照らされて見えた。

 ………なるほど、察するに、お嬢様かナナ、もしくはシーザー様が人間でないことがばれたか。

 後ろを振り返って、何が起こったのかわからない様子のナナと、放心状態のリーンお嬢様。

 シーザー様は情報過多ゆえか部屋の隅で気絶している。

 壁の大穴から侵入してきた黒づくめが、フィリアに撃たれて落ちていった。

 大きく息を吸って、ゆっくり吐いて、頭をむりやり落ち着かせて。



「フィリア。皆の守りは頼みます」

「どうする気だ?」

「俺の責任です、アイツラを皆殺しにします」

「おい、ちょっと待」



 拳の一撃で墳進砲(ロケットランチャー)の弾を殴り飛ばし、飛び降りた。


























「おい、貴様、この屋敷に例のオオカミがいることは分かっている。今すぐ差し出すというのなら、我らに牙を剥」

「黙れや、ダボが」


 武具創成(クリエイトウェポン)鉄骨丸(テッコツマル)

 ずしりと重い金属塊が黒ローブの脳天を砕き、真下から掬い上げる打撃が別の1人の顔面を剝ぎ取った。

 振り回して横薙ぎが仲良し三人組を抹殺し、短機関銃(サブマシンガン)を構えたバカに投擲。

 ぐしゃりと潰れて血泥になったソレを尻目に、懐から引き抜いて投げたナイフが、屋敷に近づこうとしていた1人の後頭部に根元まで埋まる。

 即座に斧を生成し、抉りこむような双剣の刺突を叩き割る。

 顔面に撃ち込まれた弾丸を噛み砕いて吐き捨て、そこらのプレハブ小屋から千切り取ったトタン板の先端が首を撥ね飛ばした。


 …………今回のこの襲撃は、俺の怠慢によるものだ。

 異端審問官がナナを狙う可能性があると分かった時点で、片っ端からぶち殺すべきだった。

 俺の役目は()を守ることなのに、それを怠った。


 妹を守れずに、何が兄なものか。

 龍でも何でもない、ただのグズの思い上がりが、ナナを危険に晒した。


 だが。



「俺がグズならテメェらはそれ以下だ」



 ナナの恋路を邪魔したコイツラを、許すわけには行かない。


 殺さなければならない。

 1人残らず、完膚なきまでに、殺し尽くさなければならない。

 俺の妹の、可愛い可愛いナナの邪魔をした罪は、重い。

 あのナナが、いつも受け身の体勢だったナナが、自分から進んでお嬢さまに告白したタイミングで襲撃を掛けるようなバカは、殺すしかない。

 というか万死に値する。

 つーかぶっ殺す。


「貴様、さっきから何を言って」

「テメェのせいで!ナナがお嬢様に距離を置かれでもしたらよぉ!どう責任取るんだ!?あぁ!?」


 バカをいったバカに膝蹴りをぶちかまし、浮いた体を叩き潰す。

 鉄骨を生成してぶん殴り、3連撃。

 しっかり肉塊になったところで威力を最小限に抑えた息吹(ブレス)で薙ぎ払い、まとめて消し飛ばした。

 斧を構えて薙ぎ切り、腹を掻っ捌いて抹殺。

 不利を悟ったのか、一斉に逃げ出すバカ共。

 量産したナイフを両手に持ち、振りかぶって。



「っ、ごぼ、えぇ………っ」



 ガクンと膝の力が抜けて、地面に崩れ落ちた。

 びちゃびちゃと汚い音を立てて口の端から血が噴出し、半ば液状化した臓器と肉の味。


 隠し棘の毒が、とうとう体の内側を壊し始めたか。

 浅く、喘息のような呼吸をし、喉がひりつく。


 構うものか。


 気の遠くなるような苦痛の中、投擲したナイフが、肉を貫いた。








この主人公、いっつも血ぃ吐いてんな。





次回予告



妹の告白を邪魔されてブチ切れたお兄ちゃんが、帝都の夜を駆ける!!

全身ボロボロ常時スリップダメージのお兄ちゃんが、クソ雑魚レイシスト集団を散☆滅するために編み出した方法とは!?



「やっぱ座標攻撃って………最高やな!!」



次回「一人大空襲」




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