龍狼相食む
暴走系ケモミミ妹VSハイスペックシスコン兄貴、ファイッ!!(勝ち目はありません)
悪夢じみた異空間を照らす、腐敗した血のような赤い月。
「ねぇ、クロ。貴方はどんな攻撃をされたのかしら?」
「色々、です。拘束されたり貫かれたり切られたり切られたり、色々されました」
「あら、奇遇ね?私もされたわ?」
「………それは、どういうことでしょうか?」
「次の質問。クロもあのステキ空間に閉じ込められて、私が見えていなかった。違うかしら?」
「………それは、確かにそうですが」
「なら決まりね。ドグラ・マグラ──────戸惑い目が眩む。文字通り、相手を惑わせる幻覚の類かしら?他にも色々と、まぁ、ずいぶんと面白いことやってくれたわね?」
アレがステキ空間だとは思えないが、確かに、お嬢様が認識できていなかった。
一定範囲内に人間を閉じ込め、互いに認識できなくなる魔術、か。
厄介だが、タネが割れてしまえばなんてことは無いな。
だが。
「お嬢様。ナナの攻撃は、回避も防御もひどく困難なものになっています。今のうちに撤退された方がよろしいかと」
「だから言ったでしょう?そんなもったいない事、出来るわけないじゃない。せっかくナナと遊べるのよ?全力でやらなきゃ損しちゃうわ?」
口角を吊り上げて、ニヤリと笑うお嬢様。
本来なら止めたいところだが、とっても楽しそうな顔をしている。
なんていうか、うん。
「………承知しました。援護いたしますので、お好きなように暴れてください」
「ありがとう、クロ。夜が明ける前に終わらせましょう?」
「かしこまりました、お嬢様」
大鎌を振り払い、担ぐように構えたお嬢様が、薄桃色の唇を開き。
「嗜虐趣味・竜騎士」
「起動・被虐首輪………!!」
爆発したような勢いで心臓が脈を打ち、視界が赤く染まる。
ミチリと繊維の裂ける音がして、俺の体が膨れ上がった。
骨格が変形し、服がズタズタに千切れて、全身を覆う黒く艶めく鱗。
額を突き破って角が生え、鬼面に似た甲殻に覆われた顔が、狼のソレのように変形した。
発達した尾てい骨が十文字槍のような尾を形成し、メキメキと軋みながら爪牙が伸びる。
腹の奥で火を焚かれるような熱気と、アッパー系のドラッグじみた全能感。
前腕で地を踏み鳴らし、龍が咆哮を上げ。
「閉じ込める絵画」
「しゃらくせぇ!!」
透明な障壁を一撃で噛み砕き、何の衒いもない体当たりが、ナナの体を弾き飛ばす。
勢い良く宙を舞い、そのまま虚空を走り出すナナ。
よく見れば、両脚からなにか、火炎のようなものが噴き出していた。
火炎噴射の反動を利用した飛行、か。
なかなか面白い事をするが。
「あまり調子に乗るな、仔犬が」
龍の唸り声が空間を揺らし、辺りの魔力が渦を巻いて収束しだす。
咆哮をまともに喰らって魔術を使えるのは、高位の魔物か龍種のみ。
巻き込まれ、体勢を崩して落下するナナに、爪をひっこめた肉球での打撃。
吹っ飛び、土埃を上げて着弾し、銀狼の咆哮。
虚空を歪めて転じた無数の槍を尾で斬り払い。
「狙いは良かったが、相手が悪かったな」
背中のお嬢様を狙った奇襲を、鱗の魔術が食い止める。
まるで剣のような爪が鱗との衝突に火花を上げて、澄んだ音を立てて砕け散った。
鱗を足場に跳び退り、二足のケダモノのようにナナが走る。
弧を描くように駆け、ほとんど反転するような方向転換からの連撃。
腹下あたりに軽い衝撃が響くが、この程度なら何の問題もない。
跳躍して手足を宙に投げ出し、腹ばいになって押し潰した。
「ちょっと、クロ、何をして」
「はらぺこ狼」
バグンと嫌な音がして、腹を思いっきりえぐられた。
肉を咀嚼し、ハラワタを啜るナナが、血塗れの歯をむき出しに嗤う。
ヒトモドキ状態じゃない龍の体を破壊するか。
防御無視系の攻撃か、それとも別の手段か。
どちらにせよ、この程度かすり傷ですらない。
「如月駅」
「さっき見たぞ、それ」
突っこんできた列車に息吹を撃ち込んで消し飛ばし、渾身のタックル。
追撃のヘッドバンドで地面に埋め込み、ナナの姿が消えた。
気配を追って上を向き。
「或る医師の慈愛」
「牙」
降り注ぐ刃の雨を牙の一噛みで粉砕し、降ってきたナナに肉球パンチ。
弾き飛ばして2発目のボディプレスをぶちかまし、カウント4で吹っ飛ばされた。
プロレスなら判定勝ちだが、ここはリングじゃない。
弾丸じみた勢いで突っ込んできたナナを受け流して。
「どこでもワンワン」
「クトルゥフかよ」
周囲のガレキから伸びるように飛来した青黒い触手を土壁で防御し、息吹でまとめて薙ぎ払う。
さて、と。
どうやってナナを止めよう。
正直言って、コイツを止める方法が思いつかない。
息吹も爪も牙も尾も、直撃すればナナは一撃で死ぬ。
殺さないような攻撃手段となれば、暗転蝕ぐらいか。
それだって、全力で手加減しなければナナが脳死する。
拘束系の魔術もあるが、加減を誤ればナナを押し潰しかねない。
かといって、並大抵の手段じゃナナは止まらないだろう。
バッテリー切れを待ちたいところだが。
「まぁ、たぶんガス欠しないよな、コイツ」
龍眼で見たナナの心臓部から、ほとんど無限に近い魔力が噴出していた。
マクスウェル機関…………マクスウェルの悪魔か。
確か、永久機関の名前だったか?
どうやって完成させたかは知らないが、もし名前の通りなら、とんでもない代物だ。
近代化に成功して間もないくらいの世界基準からすれば、オーパーツもいいところだ。
少なくとも、俺は永久機関の止め方なんて知らない。
溜息を飲みこみ。
「巨岩兵」
「太陽の光の剣」
ナナを拘束するべく創り出した即席の岩人形が、光る剣に突き刺されて一撃で爆散した。
鋼鉄はおろか魔法合金にすら引けを取らない強度の外殻を持つゴーレムが、一撃。
バカげた攻撃力だ。
原作通りのチート性能なら、俺でも危ういだろう。
連打できないことを祈って爪を弾き、側面に『100t』と書かれたハンマーが脳天に振り下ろされる。
頭殻で受け止め、反撃の尻尾を躱すナナ。
技のレパートリーが多くて、羨ましい限りだ。
お嬢様を狙った投げ槍を尾で砕き、わずかに亀裂が奔った。
………恐らくだが、ナナの攻撃にはいくつか種類がある。
チェーンソーやパイルバンカーなどの物体としての本質を伴ったものと、戸惑い迷い目が眩むのような物理法則等を無視して発動する概念的なもの。
前者はまだしも、問題は後者。
俺の鱗や甲殻でも防ぎきれない可能性がある。
取れる手段が限られる以上、あまり危険なことは出来な。
「クロ、30秒でいいから、ナナを拘束しなさい?」
「どうするつもりだ?生半可な手段じゃ、反撃を喰らって死ぬだけだぞ」
「黙って言うことを聞きなさい。潰すわよ?」
「わかった。30秒だな?」
「ええ、やって頂戴。…………もしもの時は頼んだわよ?」
「オッケ…………おい待て、今なんて」
なにやら不穏な事を呟いて、お嬢様が飛び降りた。
華麗に着地し、そのままナナに向かって全力ダッシュするお嬢様。
虚空から薙刀を抜き放ち、当然のごとく大暴れするナナ。
ハハッ。
「何やってんだお嬢様!?」
「早く、ナナを止めなさい!!」
盛大な斬撃音を残して刃が飛び、大鎌がそれを斬り払う。
変形した騎士槍と薙刀がかち合い、両者同時に得物を手放しての殴り合い。
お嬢様の拳がナナのみぞおちに突き刺さり、ナナが思いっきり血を吐いた。
血を浴びたお嬢様が口角を吊り上げ、直後、尻尾での一撃に跳ね飛ばされる。
肋骨が折れて肺に刺さりでもしたのか、口の端から血を零し、それでもなお嗤うお嬢様。
もうヤダ怖い。
「いいわね、すごく良いわ!!ナナ、貴女最高よ!!」
「グッ、ガァアアァァアァァ!!!!」
「アッハハハハハハ!!怯んでないで全力で来なさい!コレは命令よ!?」
地面に血痕を残しながら引いたナナに対し、正面から突っ込んでいくお嬢様。
苛立ちと焦燥感を抑え込み。
「龍の一睨み」
視界に入った全てを呪殺する龍の悪視を自傷覚悟で肩代わりした上で、ナナ個人を対象にした拘束へ改変。
全身から血とか肉とかが噴き荒れるが、まるで見えない腕にでも掴まれたように、ナナが動きを止めた。
が、思った以上に抵抗が強い。
というか、マズ。
「お嬢様、あまり長く持ちま」
「裏カエル」
虚空から零れ堕ちたカエルのぬいぐるみが鉤爪に引き裂かれ、吹っ飛んできたお嬢様を咥えてキャッチ。
わずかに、血と鉄錆の味。
剥き出しの筋繊維と骨格。
お嬢様の腕が裏返っていた。
裏ガエル………ダジャレかよ。
若干げんなりしつつ、酩酊を発動し。
「少し、我慢してください」
「ギッ、ィイ!?」
筋繊維が剥き出しの腕を喰いちぎった。
即座に疑似再誕を発動して腕を復元し、肉を咀嚼して飲みこむ。
甘い肉を食み、噛み砕き、体に活力が満ちる。
「クロ!?貴方、何を」
「リーンお嬢様。今から30秒だけナナを止める。はっきり言ってクソめんどいが、アンタの頼みだからやってやるんだ。しくじったりすんじゃねぇぞ」
「誰に口をきいているのかしら?」
生えたばかりの腕をにぎにぎしたお嬢様が、俺を睨む。
鮮血を流し込んだような、赤い、挑発的な瞳。
「テメェが何をする気かは知らないが、ナナを、俺の妹を泣かせてみろ。真っ当に殺してもらえると思うなよ?」
「…………少し、調整が必要みたいね。わかったわ、ナナを拘束してちょうだい。一回で決めて見せるわ?」
「ならいい。行くぞ」
地面を踏み砕いて突貫し、迫る刃を正面から砕く。
繰り出された薙刀を噛んで止め、咬筋力に任せて強引に奪い取った。
鉛玉の雨を正面突破して、肉迫。
大上段からの鎖鋸の一撃を爪で砕き、一瞬だけ、抑えていた速度をトップギアまで撥ね上げた。
運動体のエネルギーは、速度の2乗×質量の½。
龍の巨躯が超音速で通り過ぎれば、それだけで、たいていの生物は行動不能になる。
吹き飛びこそしなかったものの、案の定膝をつき、倒れ伏すナナ。
今ので気絶しなかったのは偉いが、それだけだ。
脳天に暗転蝕を撃ち込もうとして。
「みんなくたばる爆弾王」
影が落ちた。
上を向いて、一条の稲妻のように堕ちる、弾丸じみた鉄塊。
逡巡はわずか、魔力を練り上げて。
「龍の息吹!!!!」
莫大な魔力の結晶体である龍の肉体を分解して放つ、窮極至高の一撃。
熔鉄の性質を帯びた魔力砲撃が炸裂し、爆裂の余地すら与えずに上空の全てを消し飛ばす。
鉄塊をあっさりと飲みこみ、蒸発させ、あまつさえ空間断絶に亀裂を入れるほどの、絶大な破壊。
音も光も空気も、全てを等しく焼く、必殺の『牙』。
放射を終え、四肢の力が抜けそうになるのを堪える。
……………少し、消耗し過ぎたか。
しばらくは、龍の息吹は撃てそうにない。
が、今はこれで十分だ。
体内に篭った熱のせいか、思うように体が動かない。
わずかに鈍い体を動かして、ナナの方へ向き直る。
警戒するような唸り声と、獣じみた金の瞳。
「ガァッ!!」
突撃からの爪を爪で受け流し、肉球の一撃。
着地し、盛大に土ぼこりを上げて突っ込んできたナナが、巨大なんて言葉では足りないような砲を構えて。
「火急の窮、或る技師の最高傑作」
「温いぞッ!」
眼球への狙撃を咥えて防ぎ、放り捨てた。
転がった砲弾に大地剣を放って誘爆し、巨砲を持ち上げての直接殴打。
頭殻と鉄槌がぶつかり、金属のひしゃげる音。
反動からか、たたらを踏んだナナが、手加減しまくった重圧の腕に押しつぶされる。
接近し、至近距離から目を覗きこんで。
「束縛視」
相手の精神を侵食して拘束する呪術にかけた。
抵抗されやすいうえに射程も短いが、拘束には十分だ。
ギリギリと筋骨を軋ませながら、それでも藻掻こうと呻くナナ。
視界の端を、なにか黒いものが通り過ぎた。
渦を巻くように羽ばたき、飛翔する、コウモリの群れ。
一気に距離を詰めて人化したお嬢様が、ナナを押し倒して。
「血の婚姻」
そのまま、ナナの首に噛みついた。
異常発達した八重歯が血管を食い破り、血に濡れた舌が傷口をまさぐる。
ジュルジュルと音を立てて血を啜り、飲み干していくお嬢様。
暴れていたナナの動きが、次第に、弱々しく、頼りないものになっていき、やがて完全に止まってなお、吸血は終わらない。
流石に、マズい。
「おい、お嬢様。それ以上やるつもりなら殺すぞ」
「安心しなさい、クロ。もう終わったわ?」
ぐっと唇を拭い、あっけらかんと舌様子で言うお嬢様。
ナナの顔色はかなり悪いが、確かに、生きてはいるようだ。
ひとまず、命に別状はないだろう。
問題は。
「なぁ、ナナに何をした?後学のために、バカな俺に教えてくれよ」
目の前で薄ら嗤う吸血鬼が、俺の妹に何をしたか、だ。
事と次第によっちゃ、生かしておくわけには行かない。
静かに、牙と爪を構え。
「ナナを上位眷属──────吸血鬼の花嫁に変異させたわ?ちょっとおバカさんになるけど、それ以外に特にデメリットはないわね。強いて言うなら、私に血を吸われると幸せになるくらいかしら?」
「そう、か……………」
なんとなく問題があるような気もするが、ナナの寝顔がすっごく幸せそうなのでジャッジに困る。
不安なことなど何1つとしてないような、そんな寝顔。
つつきたい。
………まぁ、問題があればお嬢様を殺せばいいか。
「すみませんでした、お嬢様。ナナの身に何かあってはいけないと思い」
「別にいいけれど、後始末は任せるわよ?私は先に、ナナと一緒に屋敷に帰るわ?」
「かしこまりました、リーンお嬢…………お嬢様?」
ナナをお姫様抱っこしたまま、足元からコウモリの群れへ変貌していくお嬢様。
いつもの微笑を浮かべて、お嬢様が口を開き。
「ねぇ、クロ。貴方、石破ラブラブ天驚拳って知ってるかしら?」
迸ったのは、どこか異質な響きを帯びた、かすれたような音。
理解も人智も及ばない、おぞましいものを聴いたような、そんな感覚。
「いえ、寡黙にして存じませんが」
「そう、ならいいわ?ちゃんと片付けて帰ってくるのよ?」
「承知いたしました」
つまらなさそうに鼻を鳴らしたお嬢様が、直後、無数のコウモリに分裂した。
夜明け前、薄明りの差す空を、黒い影が飛翔する。
一礼してそれを見送り、辺りを眺めて。
砕けて散らばった車体と、隆起した地形。
特大サイズのクレーターに、無数の人形の残骸と、赤黒いシミのようなモノ。
龍鱗の破片が散乱し、焼け爛れて半ばガラス化した地面。
幸い、ナナの戸惑い迷い目が眩むの範囲外に被害は無いようだが、それでも、証拠隠滅が必要な面積は莫大。
戦闘中は奇跡的に人通りがなかったが、それもいつまで続くか。
正直、逃げだしたい。
逃げ出したいが、お嬢様の命令だ。
逃げるわけには行かない。
頭を抱え、眉間をほぐし、盛大に、それはもう盛大に溜息を吐き。
「掃除、するか」
武具創成でホウキとチリトリを作成した。
次回予告
激闘の果て、自らの家族を取り戻した主人公たち。
1人微睡む狼は、何の夢を見るのか。
「おい!◆◆!!お前、俺のプリン食ったろ!!」
「しらない!3個一パックの4人家族に配慮してないプリンとか、知らないから!!」
「食ってんじゃねぇか!!テメェ、今度という今度は」
「お兄ちゃんなんか大っ嫌い!!」
(金玉が握り潰される音)
「はぅあぁ!?」
次回「妹に勝てる兄などいない」




