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龍に生まれた少年は、異世界令嬢の奴隷になる  作者: 御星海星
龍国争乱編
24/78

兄妹喧嘩

小さいころ、よくイマジナリーシスターと喧嘩してました。

なにかあると毎回タマキンをガッされたので、次第に俺が全面的に言うことを聞くようになりましたね。






 真っ暗い夜、森の中、道なき道を四つ足で駆ける。

 木々の合間を縫うようにすり抜け、躱し、ときおり現れる魔物が、俺の姿を見て、怯えたように逃げていく。

 まぁ、無理もないだろう。

 今の俺を見て、逃げない方がおかしいくらいだ。

 黒い毛皮と黒い鱗に、琥珀色の爪牙。

 貌を覆う黒壇の甲殻と、研ぎ澄まされた十字槍のような尾。

 鱗の下で熱く血が脈動し、強靭極まりない肉と骨が軋みを上げる。

 枯れ葉の上を音も無く駆け、木の葉の合間からときおり漏れる月光すら、黒く吸い込むような黒色。

 生まれて日が浅いとはいえ、本物の龍。

 その身体能力は人智など軽く超越する。

 音速を軽く超過し、それでもなお静寂に、夜の森を跳び。


「クロ、寒いから、もう少しゆっくり走りなさい?」

「申し訳ございませんでした、お嬢様」


 不満げに揺れる声と、背中の毛を握りしめる人肌の感触。

 音速を突破しない程度の速度に抑え、熱殺空間(キリングヒートエリア)を最小威力で展開。

 本来なら範囲内の全てを強制的に発火させて殺す魔術だが、うまく調整すれば暖房にもなる。

 件の護送車との距離は、およそ13キロ。

 なかなかの速度だが、龍の追跡からは逃げられない。


「お嬢様。およそ45秒後に接敵します。武装の確認を」

「足止めは任せるわよ?」

「かしこまりました」


 加速。

 思いっ切り踏みこんで突っ込み、ひた走る。

 夜の森に立ち込める薄もやと、そこに混じる排気の臭い。

 背中から、ガシュゥンと独特の作動音が聞こえた。

 片手で大鎌を保持し、もう片方の手で俺に捕まって立つリーンお嬢様。

 体を低く、ほとんど這うような体勢で森を突っ切り、装甲車を視界に捉えた。

 合計14台、隊列を組むように走る先頭車両から、ナナの匂いがする。


「ナナの位置を捉えました。先頭の車にいます」

「わかった。一気に削るわよ?突っ込みなさい?」

「承知」




 彼我の距離、400m。



 強靭な龍の四肢が、接地点を吹き飛ばして加速する。



 300m



 夜風を切り裂いて、音も無く龍が駆ける。



 200m



 加速をそのままに、全身を捻り、照準するように尾の棘を構える。



 100m



 見張りらしき戦闘員が、酷く狼狽した様子で固定型の機関銃に取り付き。







「殺します」

朱月(ロゥタァモンド)八重襲(アハトアハト)




 颶風。




 先頭車両を追い抜きざま、空間が赤く染まり、3台が大破。

 それとほぼ同時に、人間には防ぎ得ぬ龍の一撃が、2台の車を貫通し、衝撃波で千々に引き裂いた。

 ドヤ顔で大鎌を振り払い、バランスを崩して落馬──────()()?しかけたお嬢様の首根っこを咥えて回収。

 そのまま放り投げて背中で受け止め、駆動音。

 連射された弾丸が頭部の甲殻を弾き、それで終わり。

 軽く尾で薙ぎ払い、人体も車体も一緒くたに砕く。

 残り9台のうちの1つに噛みつき、噛み砕き、ナナを引っ張り出した。

 意識がないのかぐったりと動かない。

 が、生きている。

 特にケガもしていないようだし、本当に、無事でよかった。



「クロ、ナナの様子は?」

「命に別状はないかと」

「ならよし。殺して帰りましょう?」

「かしこまりました、お嬢様──────大震砕(アースクェイク)


 魔力を纏わせた右前脚を地面に叩きつけて、隆起、爆砕。

 轟音を鳴らして爆ぜた土塊が、人間を肉塊に変える。

 運よく逃れた十数名が機銃を乱射するも、龍の体にそんなものが通じるはずもなく。

 ナナを背中に投げ上げて、()()の要領で前脚を振るう。

 そのまま、大きく息を吸い込んで。




息吹(ブレス)




 龍の代名詞、高温高圧の火焔奔流が、辺りを呑みこんだ。


























「…………ねぇ、クロ。1つ言っていいかしら?」

「どうかされましたか?」

「この娘、よくこんな状況で寝れるわね?」

「すぴゃー…………」


 炎上する車両と瀕死もしくは死体が転がる地獄のような光景の中、奇怪な寝息を立てるナナ。

 揺らめく焔に紛れて響く断末魔のような怨嗟の悲鳴すら、聞こえていないようだ。

 ()()で鼻をつまみ、ナナが眉を顰める。

 なんていうか、面白いな。


「やっぱり、クロのクッション性の高さが原因かしら?」

「それは…………どういうことでしょうか?」

「クロって、乗り心地がすっごくイイのよ。私も危うく寝るとこだったわ?」

「さようでございますか」


 どうやら、俺は寝具扱いだったらしい。

 俺の素材でクッションでも作ったら、お嬢様に喜んでいただけるのだろうか?

 また、皮でも剝ぐか。


「ふがっ」


 間抜けな悲鳴と、なにかフワフワしたものに手を叩かれる感覚。

 目線を下げて、涙目のナナと目が合った。


「おや、もう起きましたか」

「もう起きましたかじゃないですよ!というか、何で起きたらクロ兄さんにいたずらされてるんですか!?」

「好奇心に負けて、つい」

「子供ですか!?」

「ナナ、ケガはしていませんか?痛いところがあったらすぐに言ってください」

「えと………特にありませんけど……………じゃなくて!!なんで、クロ兄さんがここに」

「私もいるわよ?」

「ちょ、ご主人様、どこ触って」


 なにやらぷんすか怒っていたナナが、お嬢様にもみくちゃにされた。

 どこがとは言わないが押しつぶされたりして大変なことになっている。

 なんていうか、見てはいけないものを見ている気分だ。

 カメラを持ってこなかったことが悔やまれる。


「それで、ナナ、なにがあったのかしら?」

「…………」

「ナナ?」

「えっと……………その、恥ずかしながら、ネコちゃんにエサをあげてるところを後ろから」

「………何やってるんですか、貴女」

「仕方ないじゃないですか!!可愛かったんですよ!猫が!!」


 うみゃーー!!とよくわからない叫び声をあげるナナ。

 普通に元気そうでよかった。

 立ち上がり、服の裾についていた土ぼこりを払って。



「とりあえず、さっさと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ……………う、ん?


 今、俺はなんて言った?


 何を言っていた?


 わからない。



「クロ兄さん!?大丈夫ですか、しっかりしてください!!」


 いや、待て、そもそも、どこから覚えてない?

 俺の記憶がないのはどこからだ?


 自分の足元が、粉微塵に崩れていくような感覚。


 めまいがする。

 体が、酷く寒い。


「ちょっと、クロ兄さん!!」


 思い出そうとすれど、湯を注いだインスタントコーヒーのように、全てが解けていく。


 沸騰した記憶の中、わずかに見えたのは、フワフワした毛並みの仔犬を抱えて笑う少女の姿。


 頭が痛い。

 ギリギリと呻く脳味噌を抱えたまま、頭を金属塊に叩きつけた。

 額が裂け、血が流れ落ちる。

 熱された鉄塊が肉と皮膚を焼き、血の焦げる臭い。

 握りしめた爪がピキリと砕け、血を吸った地面が赤黒く染まり。





「落ち着きなさい、クロ。情けないわよ?」

「申し訳ございません、リーンお嬢様。醜態を晒しました」


 両足で立ち上がり、目眩と立ち眩み。

 耳鳴りが激しい、が、大した問題じゃない。



「醜態って言うか…………大丈夫なんですか?」

「ええ。この程度なら問題ありません」

「…………本当に、大丈夫なんですよね?」

「大丈夫です、タフなので」

「………いや、そういう問題じゃないですよね、アレ」

「ですから、問題ない」



 ナナの後ろ。


 ぬばたまの暗がりに、半死の人影が銃を構えた。


 咄嗟に前に出て庇い。




 乾いた銃声が3回。




 一発は虚空を、もう一発は俺の頭を撃ち、







 ナナが、よろめいて倒れ込んだ。






 細い喉から絞り出されるような絶叫。

 駆け寄ろうとして、物理的な圧力さえ伴うようなそれに、吹き飛ばされた。

 思わずたたらを踏み、キィィィンと高周波じみた反響の中、銀色が艶めく。




 ザワザワと囁くような音を鳴らし、肩口で切りそろえていた銀髪が、長く長く伸びる。


 パキパキと砕けるような音を鳴らして、獣同然の爪と牙が剥き出しになる。


 金色の瞳に射貫かれた。

 いつの間にか昇っていた満月と同じ金色の、狼の瞳に。





「ナナ!何をして」

「所属不明勢力による当機への損傷を確認。被害状況把握。被害は軽微。損傷率8%。直ちに修復を開始。………付近に強大な敵性反応を検知。3大原則に基づき第一級戦闘武装を展開。殲滅を開始します」






 咄嗟にお嬢様を庇えたのは奇跡だった。

 耳が潰れるような轟音とマズルフラッシュ。

 大量の弾丸が全身に突き刺さり、炸裂。

 ナナの右手から、銃身が突き出ている。

 直後、それが引っ込んで。


戦車殺し(パンツァートート)


 間の抜けた炸裂音。

 高速で飛翔した弾丸を弾き飛ばし、着弾地点が爆ぜた。

 少し、マズいか。

 隙を見計らって、口を開き


「お逃げください、リーンお嬢様。少々、手荒い戦闘になるかと思われ」

「イヤよ。久しぶりに遊べそうなのに、そんなもったいないことできるわけないじゃない?」


 拒否られた。

 後ろを見れば、今にも鼻歌でも歌いそうな笑顔のお嬢様。

 ………仕方ない、か。


「前線は俺が努めます。くれぐれも、前に出ないように、無茶な真似は避けてください。こちらの勝利条件は、ナナに暗転蝕(ブラックアウト)をかけること、絶対に傷を負わせないことの2つです。それを忘れないようにしてください」

「わかってるわ、それくらい。貴方には、私がヤンチャな飼い犬と遊んで怪我をするような間抜けに見えるのかしら?」


 虚空が歪み、現れたのは、回転する鎖状の刃を持った剣に、高速で振動する刃の斧。

 大型の杭を内蔵した破城槌に、大小無数の鉄球の群れ。

 ひとりでに浮遊する兵装を睨みつけ、騎士槍を抜き放ったお嬢様が、中腰に構えた。

 出来れば逃げていただきたかったが、仕方ない。

 一歩踏み込んで、彗星じみた拳の一撃を受け止めた。

























超音波振動斧(ヴィヴロアクス)

武具創成(クリエイトウェポン)岩石盾(ロックライクシールド)


 振り下ろされた薄刃の斧を岩石の盾で弾き、真っ二つに斬られた。

 龍体ならともかく、この体で喰らえば致命傷だろう。

 曲芸じみた軌道を描く鉄球群と鎖状の剣を躱し、剣の追撃をいなして地面にめりこませる。

 距離を詰めて暗転蝕を発動し、インパクト寸前で躱された。

 まるで狼のような動きで飛び退ったナナが、右腕を突き出し。


「させると思ったのかしら?」


 騎士槍のカチ上げが銃身を夜空へ撥ね上げ、ばらまかれる大量の弾丸。

 どこにあれだけの武装をしまっていたのか知らないが、無限に弾があるとも思えない。

 武装を破壊、もしくは使い尽くさせてから拘束するのが最善だろう。

 とりあえず。


「お嬢様。気を抜かないでください」


 お嬢様の足元に散らばったボール状の物体を蹴り飛ばし、空中で爆発した。

 対人用の爆弾の類か。


「あら?貴方は守ってくれないのかしら?」

「もちろんお守りいたしますが、それとこれとは話が」

「突っ込むわよ、ついてきなさい?」


 俺の返事を待たずに特攻を仕掛けるお嬢様。

 背後からの駆動音に振り向けば、いつの間にか復活したらしい回転剣。

 再び作成した岩石盾で圧し潰し、お嬢様を狙った鉄球を体で受ける。

 皮が千切れ、肉が渦を巻いて爆ぜるが、それだけだ。

 この程度じゃ、死んでやれない。

 拳を握りしめて。


「肉弾戦といきましょうか」


 懐に潜り込み、真下から突き上げる掌底は、ギリギリで躱された。

 スウェーバックの勢いを載せた回し蹴りを腕で防ぎ、至近距離からの乱射をノーガードで喰らう。

 弾幕じみた拳の乱撃に撃たれながら前進し、足を薙ぐ鎌のような蹴り。

 脛に直撃したソレを掴み、引っ張ろうとして、こめかみに衝撃。

 殴り飛ばされ、ほとんど同時に首に絡みついてきたナナの脚を振り払う。

 どれもこれも、並の人間なら一撃死するような威力だが、龍には関係ない。

 伸ばした腕がナナの肩口を掴み、伸びきった関節を斧に叩き切られた。

 腕が吹っ飛び、自由落下するのを傍目に、魔力を練り上げて。


念動力(サイコ)──────お嬢様、ナナの拘束を!!」



 魔術の腕でナナのメイド服に干渉し、強制的に跪かせた。

 感触からして2,3秒持てばいい方だが、それでいい。

 跳躍で距離を取ろうとして、お嬢様に後ろから足払いを喰らったナナが盛大にすっ転び。


絡めとる悪魔(ヴァラケルトモンスタ)………こんな形で使いたくはなかったわ?」

「言ってる場合ですか」


 暗がりから湧き出た無数の触手がナナに絡みつき、縛り上げる。

 どうせすぐに破られるだろうが、数瞬の隙は出来る。

 弾丸じみた勢いで向かってくる武具の群れに、拳を構えて。


(ストライク)


 身を翻しざま、斧の刃を側面から砕き、返す一打で回転剣を破壊。

 全方位から同時に飛翔した鉄球を狩猟霊(ハンティングウィスプ)を付与した破片で撃墜し、正面から迫る破城槌。

 もろに喰らい、杭を叩きこまれながらも、打ち付けた両掌に確かな手応え。

 前傾姿勢で突貫し、一気に距離を詰めて。



緊急(エマージェンシー)自爆措置(プロトコル)SC1000(ヘルマン)



 虚空が揺らぎ、痙攣し、鉄塊が降る。

 猛烈な危機感に駆られるままに障壁を展開し、お嬢様を抱きかかえ。




着火(イグニッション)



 閃光が爆ぜた。

 障壁越しでも感じる、内臓を揺らされるような衝撃と熱波。

 辺り一帯を吹き飛ばし、掘り返す一撃。

 正直言って、冷や汗が止まらない。

 あれの直撃をもらえば、いくらお嬢様でも命に係わる。

 爆炎が吹き散らされて、煙の奥に覗いたのは、無傷で佇む無表情のナナ。

 一瞬だが、俺の障壁に類似したナニカが張られているように見えた。

 どうやら、仕切り直しのようだ。

 厄介だな。


「いかがなさいましょうか、リーンお嬢様」

「頑張って正気に戻すか気絶させるかして連れ帰る。これ以外は認めないわ」

「承知いたしました。呪怨藁人形(カース・ワラドール)を預けておきます。ご武運を」


 即興で作成した藁人形5つを投げ渡す。

 これだけあれば、しばらくは凌げるはずだ。

 手早くケリをつけるべく、前に出て。

























「搭載している通常兵装の減少を確認。敵性反応健在。現状戦力での殲滅は不可能と判断。メイン疑似人格による自動戦闘プログラム(オートキルモード)を停止。マクスウェル内燃機関作動。秘匿兵装を解放。夢喰い狼(ドリームイーター)の権能による殲滅を開始します。()()()()()()()()()()()()()()()()



 ナナの口元が、裂けた。

 そう勘違いしそうなくらいの歪な笑顔と、殺意とも悪意とも違う、おぞましい圧力。

 異常な雰囲気が、爆発的に膨れ上がり。





戸惑い迷い目が眩む(ドグラ・マグラ)




 後ずさり、咄嗟に障壁を張り、両手足を同時に持っていかれた。

 地面が、空気が、世界が、怯えたように歪んでいる。

 視界の端に映ったのは、パントマイムじみた様子で虚空を殴りつけるお嬢様。

 なるほど。


「侵入不能の結界ですか。ちょうどよかった」


 疑似再誕(スー・リバース)で手足を生やし、満月が赤く染まっていた。

 赤黒い月を背負い、死んで腐ったような眼で宙を睨み、ケタケタと狂ったように笑うナナ。

 正気を削ってくるような嘲笑を堪え、焦点の合っていない金色の瞳と、眼があった。

 ボコボコ音を鳴らしてナナの体表が波打ち、変色し、見たことのないデザインの制服へと変わる。

 菊を象った金刺繍の帽子を被り、気取った動作で笛を咥えたナナが、手を振り下ろして。



如月駅の怪(ニガツビョウ)



 高らかに鳴る笛の音。

 後ろから何かに押されて前に倒れ込み、地面がなかった。

 いやに粘ついた世界で横を向き、急速に迫る鉄色の壁。


 全身に衝撃が奔った。


 体がバラバラになりそうな激痛の中、必死に立ち上がり。


俎板の上の(ニゲラレナイ)


 叩きつけられたバカげたサイズの鉈を弾き飛ばし、追撃を受け流して地面にめりこませる。

 少し皮を削がれたが、この程度、軽傷にも入らない。

 深呼吸一つ、魔力を練り上げて。


爆破(エクスプロージョン)


 爆破の勢いで俺自身を射出し、急接近。

 勢いに任せて、拳を繰り出し。


閉じ込める絵画(アイオンリーラビュー)


 薄い膜に一撃を阻まれた。

 獲物を嬲って遊ぶ猫のような、嗜虐的な視線。

 空間が軋み、造られたのは、身の丈ほどのペン。

 まるで槍のように構えられたそれが、ひとりでに宙を舞って。


君なんか死んじゃえ(バットアイヘイチュー)


 ズバンと音がして、喉の奥から血反吐がせりあがる。

 世界が砕け、落下するガラス片と、額縁だったものの残骸。

 俺を串刺しにしたペンが振り払われて、雑に地面に叩きつけられた。

 傷を塞ぎ、即座に走り出して、眼前には大きな人形の顎。

 渾身の跳躍で躱。


頭蓋割り人形(オトナのオモチャ)一難去ってまた火難(フライパンから火中へ)


 ジジッと空気が焦げ付いて、発火。

 全身を火に呑まれるが、この程度の熱じゃ火傷にもならない。

 無視して着地し、ナナへ向かって全力疾走。

 思いっ切り踏みこんで。


聖者の磔刑(セント・ダイハード)


 両腕に突き刺さる、透き通った青の楔が、俺を空中で磔にした。

 直後、肋骨から背骨までを抉るように貫く螺旋の矛先。

 槍が引き抜かれると同時に再生して、走り出し。


死刑台の侏儒(ガンゲルメンライン)


 ミチリと、肉の裂ける湿った音が耳に響いた。

 半ば地面から這い出し、俺の脚に噛みつく、無数の小人。

 絶叫混じりの産声を上げるバケモノどもを踏み潰して、比較的無事な片足で跳躍。

 余裕ありげにニヤニヤ笑いを浮かべたナナが、指を鳴らして。


いたずらネコ野郎(チェシャキャット)

「逃がすかよ」


 ナナの体がぶれて、転移する寸前、肩口を引っ掴むと同時に浮遊感。

 内臓全部がひっくり返るような気色悪さに吐きかけ、だが捉えた。

 気合一閃、思いっ切り地面を踏みしめて、拳を撃ち抜く。

 肉と内臓を揺さぶる確かな手応えと、衝撃に浮く小柄な体。

 気絶し、眠るように崩れ落ちた体を抱きとめる。


 ………脈は、あるな。


 屋敷に戻って精密検査をしなければ確かなことはわからないが、目立った外傷はない。

 そうとう手を焼かされたが、どうやら、どうにかなったようだ。

 ガラスの割れるような音がして、空を仰ぎ見れば、冒涜的な色合いだった夜空が、元の夜闇と星空に戻っていた。

 夜の冷たい空気が、妙に心地いい。

 少し肌冷えしそうな涼しさと、達成感に塗れた疲労。

 お嬢様の声に振り向いて、なにか温かいものに思いっ切り抱きしめられた。

 俺とナナを一緒に抱きしめて、ぽろぽろと涙をこぼすお嬢様。

 柔らかな人体の感触と、少しだけ血錆臭い、甘い匂い。


 どうしたものかと少し悩んで、お嬢様の背中に腕を回した。


 至近距離で俺を見上げたまま、リーンお嬢様が何かを呟く。

 が、声が霞んで聞こえない。

 聞き返そうとして。











「──────ぁ、?」











 声の代わりに血が出た。

 激痛に震えながら下を見て、腹に突き刺さった巨大な刃。

 空は赤黒く渦巻き、病人の喘鳴に似た風が哭く。

 蹴り倒され、這いつくばり、狂気を孕んだ金眼に見下される。


ねぇねぇ騙された?(シュレディンガーの狼)


 傷口を塞ぎ、立ち上がって、横っ面に一撃。

 淀んだ空気に逆立つ銀尾にナナが腕を突っ込み、取り出されたのは、人の首など容易く刎ねそうな裁ち鋏。

 大きく開かれたソレが、思いっ切り振りかぶられて。







なんでも裁断機(エンガチョ)

狂い月(ウィルダァモンド)



 鋏の刃が斬り飛ばされて宙を舞い、地面に突き刺さる。

 身の丈ほどの大鎌を振り払う、金髪の主。

 差し伸べられた手を取って立ち上がり。



死がふたりを分か(グッバイフォー)

「面目ございません、お嬢様」

「もとからそんなものないでしょう?」


 何かしようとしたナナを、会心の峰打ちと掌底が弾き飛ばした。







次回予告


暴走状態に突入したナナを止めるるべく、戦いを続けるクロとリーン。

全力を出し切れない奴隷()と、向こう見ずな大公爵令嬢(半吸血鬼)

苦戦の果て、2人は自らの妹を、彼女を救い出せるのか──────?




「自爆するしかねぇ」

「カバディカバディカバディカバディ」

「くぁwせdrftgyふじこlp」

「ブーーーン⊂二二二( ^ω^)二⊃」

「ドーーン!!」

「もうヤダ………この妹…………」

「ねぇ、クロ。コレ、どうにかならないかしら?」

「残念ですが、どうにもならないかと」

「シュワッチ!!」



次回「この妹、最狂につき」


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