お城に行こう!!
短いって?クソ長を分割したんだ、しゃーないだろ。俺は悪くない。
「ナナ。本当に、よく頑張りましたね」
「えっと…………ありがとうございます?」
中間試験終了から1週間後、学院一階、廊下の掲示板前。
若干ずれた事を言うナナと、呆然自失状態のカティア様。
試験の採点が終了して、成績優秀者上位15名までが張り出されていたのだが。
「まさか、ナナが学年一位とは…………正直、予想外の結果ですね」
「えっ、待って?ナナちゃんとワンコ君が1位3位って、ボク、負けてるじゃん。嘘でしょ?」
驚異の全教科満点を取ったナナが1位、文学と工学で大敗した俺が3位だった。
実際、こうなるとは思っていなかったし、想像以上にナナの物覚えがいい。
これだけ賢ければ、色々な雑事も任せられるだろう。
書類整理と会計くらいなら任せていいのかもしれない。
もう少し胆力があれば、パーティーの指令の役割も任せられるが…………そこまで求めるのはさすがに酷か。
とはいえ、嬉しい誤算も一つ。
「あの、カティアさん。私、2位です」
ミカ様も普通に賢かった。
比較的整備の複雑な武器をメインに使っているからか、工学や数学系の科目は得意だったようだ。
歴史学や文学が苦手なようだが、どちらもそれなりに出来ているし、問題ないだろう。
むしろ、問題なのは。
「ウソでしょ?ボク、ミカちゃんにも負けたの?」
「油断大敵という奴ね、カティ。勉強不足だったんじゃないかしら?」
「…………ちなみに、リーンは何位だったの?」
「56位だったわ?」
「人のこと言えないだろ!このおバカ!!」
「カティア女史。ここに、59位の人間がいると言ったら、どうだ?」
「マジすんませんでした許してください」
工学と数学以外でほとんど平均点だったカティア様と、文学以外赤点のリーンお嬢様、そして驚異の全教科赤点を叩きだしたアサカ様。
なんというか、もう、救いようがない。
特にアサカ様は、どうやったらいいのか見当がつかない。
おそらく、今までの私生活のほぼすべてを鍛錬に費やしてきた弊害なのだろうが、基礎の部分から理解できていない節がある。
割と本気でどうしようもない気もするが、諦めるわけにも行かないだろう。
まぁ、とりあえずは。
「ナナ。なにか、食べたいものはありますか?お祝いに、ちょっとしたパーティーでもしましょう」
頑張った人間には、それだけの褒美があってしかるべきだ。
パブロフの犬というわけではないが、リターンがあればそれだけモチベーションにも繋がるだろう。
俺としては、出来ればナナにも、何か努力する目標のようなものを持って欲しいところだが…………今は、ナナに喜んでもらうことが最優先だな。
「…………それは、悩みますね。クロ兄さんの作る料理って基本美味しいですし……………ご主人様に拾われるまで、まともな食事をした記憶もないので、正直、自分の好きな料理もよくわかってないです」
「じゃあ、グラタンにしましょう?」
「なんでリーンが決めてるのさ。順当に考えて、決めるのはナナちゃんじゃ」
「ご主人様がそう言うなら、私はソレがいいです。それなら、間違いないでしょうし」
「えぇ………………なんて言うか君達さ、主体性なさすぎない?」
「そうなんですか?」
「そもそも、俺たちにそのようなものが必要とは思いませんが…………」
「いや、必要でしょ」
「全部私が決めれば必要ないわ?」
「それこそダメでしょ。リーン、おバカだし」
「カティ。言ってはいけないことを言ったわね?」
「うわっ、ちょっと、待っ」
迂闊な事を言ったカティア様がリーンお嬢様に絡まれた。
まぁ、自業自得という奴だろう。
愉快な悲鳴と助けを求める声が響く中、目をつぶって。
「………ナナ。グラタンとローストチキン、どちらが食べたいですか?」
「とりあえず、美味しそうなの全部ください」
「かしこまりました、ナナ」
「ちょっと2人とも!?見てないで助け」
「あら?私以外を見るなんて、酷いじゃない?」
「ミカ、どうすればいい?」
「アサカ君、関わっちゃダメだよ?」
「わかった。クロ殿、先に教室に行くが構わないか?」
「ええ、もちろんです。しばらくしたら追います」
「待って!ワンコ君、マジで助けて!!」
「…………あの、クロ兄さん。なんなんですか、コレ」
「粗末ですが、俺からのプレゼントです。受け取ってください」
普段よりも少し豪華な夕食の後、ヴァルハリエ家の地下訓練場。
俺がナナに押し付けたのは、螺旋状の紋様を刻んだ長柄に反り返った肉厚の刃を拵えた武器──────薙刀だった。
龍の牙から刃を削り出し、龍骨の柄に接合。
鱗から採取した繊維と革とを幾重にも編み込んだ革紐で覆い、角の破片を石突に。
俺の血を染みこませた上に魔力を籠めて、呪術的に強化した逸品だ。
遺物のような特殊効果や大逆転のようなギミックこそないが、純粋な性能で言えば俺の設計した武具の中でも最高の出来になっている。
隠蔽の魔術刻印を施してあるので、傍目には、普通の鋼鉄製の武具としか思えないだろう。
我ながら、いい仕事をした。
「えっと、私、もう持ってますよ?」
「以前ナナに渡したものは、、本来であればリーンお嬢様がお使いになるはずだったものです。当然、重量や重心などは、リーンお嬢様が使われることを想定して作成しました。どうせなら、ナナに合わせて新造した方がよいかと思い」
「あの、クロ兄さん?これって、ご主人様の武器と同じ素材なんですよね?」
俺のセリフを遮って、顔を青ざめさせたナナが、まさしく恐る恐るといった様子で尋ねてきた。
…………ふむ。
「そうですが、何か問題でもありましたか?」
「問題しかないですよ!!コレ、龍の武器ってことですよね!?そんな高価なもの、ほんとにいいんですか!?」
「自作したので、実質タダです。問題はありません」
「だから!それを売って屋敷のお金にするとか、私なんかより強い人に渡すとか、もっとこう、あるじゃないですか!!」
「落ち着いてください、ナナ。尻尾が逆立ってます」
「今それを言いますか!?」
青くて綺麗な目をグルグル回すナナをなだめ、ふにゃりとへたれたオオカミ耳と、銀色の尻尾。
なんていうか、手間のかかる妹の面倒を見ているような気分だ。
どこか、妙になつかしい感じがする。
……………いや、違う。
俺は、確かに、どこかで似たような経験をしている。
思い出せないくらい古い記憶が、頭の片隅で産声を上げる。
黒い仔犬を抱えた、黒髪黒目の幼女。
モザイクがかかったみたいにかすれた顔なのに、なぜか、彼女が笑っていると直感した。
心臓を絞めつけられるような郷愁と、帰郷願望。
薄靄のようなソレを捉えようとした瞬間、ぐらりと視界が回って、立っていられなくなって倒れ込む。
胃袋の中身が焼けるような熱と一緒に喉をせり上がり、口の奥に溢れた酸っぱいものを吐き出した。
涙に歪んだ床に、半分消化された夕食が、ビチャビチャと汚らしい音を立ててまき散らされた。
内臓がすべてひっくり返ったような形容し難い感覚がして、粘ついた胃液しか吐けなくなるまで吐き続けた。
口の中に残った固形物を吐き出し、鎖骨が、酷く痛む。
脳味噌の奥で、がなり立てるように何かが叫ぶ。
強迫観念のようなソレを、叩き潰すように手を振り払って。
「…………兄さん!!クロ兄さん!しっかりしてください!!」
「ナ、ナ……………?」
半分泣きそうな顔をしたナナが、俺を手を取っていた。
熱・消毒の魔術で後始末をして、宝物庫に保存していた水差しから冷水を飲み干す。
……………頭痛が、わずかだが引いてきた。
何があったのかはわからないが、分からなくても別にいいだろう。
きっと、体調不良の類に決まっている。
「申し訳ありません、ナナ。心配させましたね」
「そうじゃなくて!本当に大丈夫なんですか!?しばらく、仕事を休んだ方が」
「単なる、体調不良でしょう。あの程度なら、どうということはありません」
「クロ兄さん!ゲロ吐いたりするのはマジでマズいです!!ヤマダさんとかタニヤマさんとかも大丈夫だとか言って過労死したんですよ!?」
「誰ですか、その2人は」
ナナの言うことは支離滅裂としているが、少なくとも、ふざけているようには思えない。
俺のことを案じてくれているのも分かるし、おそらく、施設にいたころの精神的外傷が関係しているのだろう。
なんとなくの予想でしかないが、知り合いに強制労働の犠牲者がいたのかもしれないな。
「もう大丈夫なので、落ち着いてください。少し、具合が悪くなっただけです」
「信じられません!病院に行くか、せめてお医者様を呼ぶとか」
「不要です。人一倍頑丈なのだけが俺の取り柄ですから」
「クロ兄さん。まだいけるはもう危ないなんです。本当に、ほんっとうに、無茶しないでください。クロ兄さんが死んだら、誰がご主人様の介護をするんですか」
「俺は死なないのでその想定は無意味ですね。……………そろそろ寝る時間でしょう。ナナ、上へ戻りましょうか?」
「待ってください、クロ兄さん。まだ話は終わってな」
「暗転蝕」
何かを言おうとしたナナの頭に優しく触れて、そのまま意識を奪う。
ぐったりと倒れかけた体を抱き留め、記憶噛みで直近10分ほどの記憶をあいまいにしておく。
ナナに、余計な心配をさせるわけには行かないのだ。
いやに重い体を背負って、地下室を出た。
「……………ねぇ、クロ。今からでも帰れないかしら?」
「諦めてください、リーンお嬢様」
血で染めたような色合いの装飾過剰なドレスを着て、控室の姿見を覗きこむリーンお嬢様。
不機嫌そうに眉をひそめ、せっかく整えた金髪を弄る姿すら、いっそ一枚の絵画のような美しさがある。
写真を撮りたくなるのを堪えて、ドレスアップに注力する。
できれば誰かに手伝って欲しいところだが、生憎と、この部屋にいるのはお嬢様と俺だけだ。
金細工の施された大理石の柱と、複雑な模様の織り込まれた絨毯。
シャンデリアの淡い光が室内を照らし、不機嫌そうなお嬢様。
ここは帝城の控室。
今日は、年に3度のみ開かれる、帝国貴族の当主を招いての晩餐会。
できれば、ナナかフィリアにも来て欲しかったのだが、連れてこれる従者は1人までとのこと。
対応能力の問題で、俺が選ばれることになったのだ。
とはいえ、そこに異論はない。
問題なのは。
「お嬢様。どうか、観念してください」
「イヤよ。こんなところに居たら、頭がおかしくなるわ?」
そんなことを言うリーンお嬢様に無理やりに化粧をして、椅子に座らせる。
心苦しくはあるが、大公爵家令嬢としての、最低限の体裁は整えてもらわねば。
それに。
「リーンお嬢様。いずれ帝国に反旗を翻す、その時まで、計画を知られてはなりません。不信を抱かれるような行動は、極力避けるべきかと」
「クロが焼き払えばいいじゃない?」
「ダメです」
「ねぇ、リーン。流石に、短気過ぎない?」
唐突に投げかけられた声に振り返り、いつの間にか、ドアの前にカティア様がいた。
いつ現れたのか、まるで分らない。
…………まぁ、大国の貴族、それも最上位ともなれば、姿隠しの秘宝の1つ2つ3つくらい、持っていない方がおかしいか。
とりあえず。
「カティア様。ご存知かと思いますが、ここはリーンお嬢様の控室です。不要な立ち入りは、お控えください」
「それくらいわかってるさ。今日のボクは、お父様の従者として来たんだ。ちゃんと用事だよ」
「カティ。何かあったのかしら?」
「皇帝陛下が、リーンに顔を出すようにって」
「クロ。帰るわよ?」
「いけませんお嬢様」
即座に身を翻して扉の方へ向かったお嬢様の前に立ちふさがり、そばを通り抜けようとするのを右にずれて防ぐ。
フェイントをかけて抜けようとするリーンお嬢様を押しとどめ、不機嫌そうな顔のお嬢様。
「リーン。潔く諦めな」
ニコリと、これ以上ないくらい良い顔でカティア様が笑った。
次回予告
皇帝から呼び出しを喰らったお嬢様。
不気味に嗤う老醜を相手に、お嬢様がとった行動とは──────!?
「よくきたのぅ、ほら、せんべい出してあげるから」
「ちぇすとー」
「ぼぎゅう!?」
次回「皇帝・マストダイ」




