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龍に生まれた少年は、異世界令嬢の奴隷になる  作者: 御星海星
龍国争乱編
20/78

暴れん坊お嬢様



いいですよね、暴れん坊将軍。

角さん役の俳優さんが好きでした。

助さんは嫌いでしたね。








「クロ、()()が、例のバカ共のたまり場ってことでいいのよね?」

「そういうことです、リーンお嬢様」


 じっとりと湿り気を帯びた蒸気に覆われる、夜の影通り・煙草通り(ヘビースモーカー)

 数十年前に実用化されたという()()()()の影響で、大規模工場の一斉整備が行われる整備週間を除いて、この地区はほぼ一年中、白い霧の海に沈んでいる。

 一見して何の変哲もない酒場や風俗店、賭博場などが立ち並ぶここは、その実、数多くの裏組織や非合法的な品を扱う商人が拠点を構える、影通りの中枢でもある。

 今回の標的は、そのうちの1つ。

 ちょうど半年ほど前に帝都に参入した、禁薬の密売を専門とする集団、豚の蹄(ポークホーフ)

 ナナを監禁していた連中を探し回ること、実に半月。

 屋敷の業務と並行しての調査だったせいでだいぶ時間がかかったが、ついに突き止めたのだ。


「お嬢様。今回の目標は、あくまでナナに関する情報を得ることです。火炎系の攻撃は可能な限り避けるべきかと思われます」

「わかっているわ?貴方こそ、ぬからないようにしなさい?」


 黒革のフードから零れた金髪をひるがえし、お嬢様が巨砲を抜き放つ。

 俺の()()を使用して作成した特別製の[炉]が爆発的な魔力を生み、経路を通じて銃へと供給されていく。

 薬室(チャンバー)に初弾が込められ、引き金が引かれて。


龍麟結界(アブソリュートバリア)

「初仕事よ、ぶっ壊して(デストロイアンド)ぶっ壊す(デストロイ)。パーティーと洒落こみましょう?」


 拠点を包囲する形で物理結界を張り、直後、文字通り耳を聾するような劇音が霧を搔き消した。

 品の良いこじんまりとしたバーが、弾丸の雨に為すすべなく粉砕されていく。



 時間にして、およそ45秒。



 持ち込んだ弾を撃ち尽くし、動きを止める機関砲と、散乱する空薬莢。

 奇跡的に破砕を免れた木の柱が、思いだしたように崩れ落ちた。

 ほとんど更地同然の惨状に立ち込める土煙の奥から、何かが飛翔して。


「ここまでやって、まだ、反撃してきますか」

「あら?根性があっていいじゃない?抵抗も無しに終わられたら、私がつまらないわ?」


 散発的に放たれた銃弾を壁盾で防ぎ、愉快そうに笑うお嬢様。

 あの掃射を喰らって生きていた……………というよりかは、たまたま地下にいて生き延びた連中だろう。

 どっちにしろ、殺せば同じこと。

 斧を抜き放って、敵陣に突撃した。


























「カチコミだお前ら!抜かれんじゃねぇぞ!!」

「ちくしょおっ、なんで頭撃たれて死なねぇんだよ!?」

「誰だよ、憲兵にパクりやがった奴は!ぶっ殺してやる!!」


 階段を下った先、地下通路に入り込むなり、散発的に放たれる銃撃。

 どうでもいいが、拳銃くらいで俺を殺せると思っていた辺り、俺のことはあまり知られていないようだ。

 まぁ、とりあえず。


「武器の使い勝手はいかがでしょうか、リーンお嬢様」

「すごくいいわね、コレ。スパスパ切れるわ?」


 ブンブンと勢いよく大鎌を振り回し、戦闘員を壁ごと斬り伏せていくリーンお嬢様。

 血にまみれていても絵になるな。

 カメラ持ってくればよかった。

 散弾銃を撃ちこんで、大鎌から騎士槍に変形させたお嬢様が、戦闘員の腹をぶち抜いた。

 刺突後の硬直を狙った射撃を頭で受けて、ガレキを投じて抹殺。

 今回の目的が情報収集である以上、長々と相手をする意味はない。

 右腕に魔力を集中させて、前方へ突き出し。


念動力(サイコ)


 ガレキ片を魔術の手で掴み、一斉に発射。

 湿った音を立てて肉やら内蔵やらが弾け、ボロ人形みたいに人が倒れる。

 少しばかり頭が痛むが、誘導性を持たせたりしなければそこまで負担は発生しなさそうだ。

 壁盾を構えて。


盾突撃(シールドチャージ)2連(ツヴァイ)


 全力の突撃で轢き潰し、壁を蹴って反転しながらもう一発。

 龍眼(ドラグアイ)を展開して、このあたりにいる人間は、38人。

 今俺が圧殺した分が11人で、残りが27…………いや、お嬢様が2人仕留めて25人。

 このまま順当に殲滅できそうだが、地下2階の最奥の部屋から、分岐した通路に逃げようとしているものがいる。

 恐らくは、この組織の首領だろう。

 敵わないと判断して即座に逃走にかかる冷静さは買うが、相手が悪すぎたな。

 呼吸を整えて。


「リーンお嬢様。敵のトップが逃亡を企んでるようです。どうか、しばしお傍を離れることをお許しください。俺が仕留めてきます」

「手足ぐらいならもいでもいいけれど、殺したらダメよ?」

「御意」

「行きなさい」


 命じられるが速いか、潜地艦(サブグラウンド)を発動して地面に潜り込む。

 当然視界など利かないが、龍の眼はこんな状況でもモノを見る。

 分厚く重い土中を駆け抜けて。


「ボス!まだしばらくは時間を稼げます!!今のうちに」

「わかっておるわ!それくらい!ここまで登り詰めておいて憲兵なんぞに殺された日にゃ、死んでも死にきれな」


 通路の天井からぬるりとダイナミックエントリー。

 高級そうな服を着たハゲと、護衛らしき筋骨隆々の大男。

 着地ざま、大男の眉間にナイフを叩きこんで抹殺。

 突然の事態に困惑しつつもハゲ頭が抜き放った拳銃を連射し、胴体に軽い衝撃。

 気にせず相手の顔面を掴んで、暗転蝕(ブラックアウト)で気絶させた。

 さて、と。


「探すか」


 手始めに近く似合った引き出しを開けて、顔面を撃たれた。

 どうやら、侵入者用のトラップがあったようだ。

 毒霧も噴き出している辺り、かなり殺意が高い。

 高いが、これくらいじゃ俺には効かない。

 とりあえず、書類は根こそぎもって行こう。

 ナナを改造した組織についての情報があれば最善、ナナの過去に関するものがあれば次善といったところだろう。

 棚やら机やらをこじ開けて書類を回収し、宝物庫(アイテムボックス)に片っ端から突っ込んでいく。

 ついでにワイヤーをハゲに巻いて拘束。

 これで、仮に目が覚めたとしても身動きは取れない。

 まとめて引きずっていこうとして。


「あら?もう終わったのかしら?」

「ちょうど、全部終わらせたところです、リーンお嬢様」


 大鎌を振って血を払い、いつもの感情の読めない笑みを浮かべるお嬢様。

 やはり、絵になるな。

 ……………じゃなくて。


「組織のトップを捉えましたが、リーンお嬢様、いかがなさいましょうか?」

「そう、ね………………せっかくだから、ここで吐かせておきましょう?クロ、叩き起こしてちょうだい?」

「かしこまりました、お嬢様」


 適当に蹴っ飛ばしてから衝撃波(ショックウェーブ)で無理矢理覚醒させて、床に転がす。

 無様な呻き声をあげたハゲが、お嬢様を見て表情を歪め。


「[金の魔女]が、何故、ここにい」

「誰が魔女だゴラぶっ殺すぞ!!」


 クソの顔面に渾身の蹴りを叩きこみ、壁と靴底のサンドイッチに。

 肉を潰し頬骨を砕く、確かな感触。

 追撃をぶちこんでそのまま喉を抉り、わき腹を蹴り上げる。

 鼻っ面に膝をぶちかまして、蹴って、蹴って、肩を蹴り潰す。

 少なくとも、お嬢様を侮辱するような真似をしたコイツを、生かしておくわけには行かない。

 このまま、ぶっ殺してや。


「クロ、ステイ。………それと、治してあげなさい?」

「………わかりました、リーンお嬢様」


 わざと痛覚マシマシで疑似再誕(スー・リバース)を発動し、雑に回復させる。

 愉快そうにくすくすと笑ったお嬢様が、色の薄い唇を開き。


「ねぇ、貴方?最近、銀髪碧眼の奴隷に逃げられたでしょう?」

「て、めぇっ、何がしたい!?なんで俺たちを」

「質問に質問で返すな、よ?クロ、やりなさい?」

「かしこまりました」


 間抜けな事をつぶやいたハゲの耳をそぎ落とし、汚い悲鳴が上がった。

 だらだらと血を流す傷に安物の水薬(ポーション)をかけ、傷を塞ぐ。

 いまだに反抗的な視線を見せるハゲに対し、お嬢様が大鎌を構えて。


「そもそも、私の管轄下で勝手な真似をした以上、こうなることは想像がついていたんじゃないかしら?」

「ぐぅっ!?」


 ハゲの右足が空を飛んだ。

 ドンッと重い音を立てて床に落ちる肉塊と、傷口から蛇口をひねったみたいに溢れ出す血。

 即座に疑似再誕で足を生やし、不思議そうな顔をするハゲ。

 とても楽しそうに、お嬢様が口角を吊り上げて。


「それで………貴方は、死ぬほど苦しんで口を割ってから死ぬのと、口を割ってから死ぬのと、どっちがお好みなのかしら?」


 脂汗を垂らしながらハゲが口を割るまで、そう長い時間はかからなかった。

























「それで、コレがナナちゃんの設計図って訳か」

「そういうことです、カティア様」


 休日の帝都、真昼のマルチリルダ邸工房にて。

 机の上に広げられた巨大な設計図と、それを囲む面々。

 一応、ナナ以外の全員が集合したわけだが…………


「あの、カティアさん。私たち、要りました?」

「ああ。はっきり言って、自分もミカもこういうのは専門外だ。役にたてるとは思えない」

「皆様にも、ナナの事を知っていただいた方がいいと思いまして」


 ハゲを絞って吐かせたナナに関する情報はいくつかあるが、その中でも最重要と思われる書類があった。

 ご丁寧にも魔術で封印された戸棚に入っていた、それの内容は。


「稀少種族を素体にした生体兵器作成実験の概要の中に、ナナについて記述されたものがあるのですが……………研究者曰く、『完全な失敗作』だそうです」


 異能生体兵器77号についての記述の内容を要約すると、最高水準のスペックを持ってはいるものの精神的に不安定過ぎて使い物にならない、というものだった。

 心理的ストレスや痛み、暴行や流血などをトリガーとして、一種の錯乱状態に陥ることがあるとのこと。

 それだけならまだしも、発作的な夢喰い狼(ドリームイーター)の具現化能力の暴発事故が多発し、結果として、()()()()が決定。

 つまり。


「本来ならばとっくに失敗作として廃棄されていたはずのナナが、なぜか帝都にいるというのが現状です。恐らくは、研究施設の人間が横流しでもして、いくつかの裏組織を経由したのちにこの帝都にたどり着いたのかと」

「少なくとも、帝都の組織や研究者の中に魔導生体兵器の開発を進めている奴はいなかった。そもそも、ナナちゃんレベルの兵器を完成させようと思ったら、最低でも大貴族の後ろ盾が必要になる。金銭的に実行できる人間が限られていて、ボクとリーンの眼に引っかかってない以上、他国の機関がかかわっていると考えた方が現実的だろうね」


 研究や工学関連を牛耳るマルチリルダ家の令嬢がこう言っているということは、ほとんど確実に帝国外の勢力がナナの作成者なのだろう。

 それがどこのどいつかは知らないが、探し出すのは手間がかかりそうだ。

 ただ、はっきり言ってこっちはそれほど問題ではない。

 マズいのは。


「…………問題は、こちらの書類………研究施設における非検体の飼育環境についてです。この書類が正しければ、ナナを含んだ夢喰い狼の人数は58名。いくつかのグループに分けて、大部屋に収容していたとあります」

「えっと………それに、何か問題でもあるのかい?」


 不思議そうな顔のカティア様が、戸惑ったように尋ねてきた。

 実際、倫理的な問題はともかくとして、非合法な研究対象の収容法としては間違ったやり方じゃない。

 問題は。


「少し前にナナと話をしたとき、ナナは、家族や同族がいなかったと言っていました。………要するに、()()()()()()()()()()か、()()()()()()()()()()()()のどちらかということです。噓をついているようには思えませんでしたし、恐らく、自己防衛機能の一種でしょうが…………」

「つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことですか?」

「その可能性が一番高いかと」


 自ら忘れなければ、精神を保てなかったのだろう。

 何物にも代えがたいはずの親兄弟との記憶すら捨て去らなければ、生きていけなかったのだろう。

 心が折れるほど痛めつけられ、虐げられ、打ちのめされ、それ以上に精神に傷を負った、弱々しい子供。

 それが、ナナだ。

 アイツに必要なのは、きっと、同情や共感なんかじゃない。

 優しくしてくれる人と、安心できる家、清潔な服と美味しいご飯、それから温かい寝床、それだけだ。

 少なくとも。


「皆様にも協力をお願いしたいのですが、どうか、ナナの過去を掘り返すようなことはご遠慮ください。夢喰い狼(ドリームイーター)の権能が自らの精神状態に大きく影響を受けるものである以上、記憶の矛盾点(パラドックス)を突きつけられたナナがどんな反応を示すのか予測がつきません。その結果起こる出来事がナナに良い影響を与えるとは、俺にはどうも思えないのです」

「わかったよ、ワンコ君。見えてる地雷に突っ込むような趣味もないし、ナナちゃんの過去には触れないでおくよ」

「そうだな。少し優しくした方がよさそうだ。今度、焼菓子でも焼いて持って行くか?」

「アサカ君、それはまた違うと思う」

「むっ?…………なら、どんな菓子をもって行けば」

「いったんお菓子から離れようか?」


 ………まぁ、なんというか、ナナが大事に思われているようで何よりだ。

 皆様には少し迷惑をかけてしまったが、ナナの心を平穏に保つための必要経費という奴だろう。


「クロ。しばらくの間、夜間業務は貴方とフィリアが担当しなさい?私はナナを抱き枕にして眠るわ?」

「リーン!君、話聞いて」

「かしこまりました、リーンお嬢様」

「お前はそれでいいのかワンコ君!!」

「問題ございません、カティア様」

「違う、そうじゃない」


 頭痛を堪えるような顔で眉間を抑えるカティア様。

 よくわからないが、特に気にしないでいいだろう。

 周りが喧々囂々としだす中、1人書類をまとめた。





まぁ、見たことないんですけど。


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