大逆転
疲れたンゴ。
「…………また作り直しか」
ヴァルハリエ家帝都邸、深夜の地下工房。
今回は、アサカ様が使われているような日本刀を試作してみたのだが、全くダメだった。
まったく興味を示されなかったというわけではないのが、唯一の救いか。
総試作回数、300飛んで28回。
完全にドン詰まった。
壁に作成した武器掛けに置き、金床に俺の爪を載せて。
「あの~………クロ兄さん?何やってるんですか?」
「ナナ。起きていたんですか?」
扉をわずかに開けて、隙間から室内を覗き見るナナ。
壁に掛けた時計を見れば、時間は夜の三時半。
少なくとも。
「成長期の子供が夜遅くまで起きていると背が伸びにくくなるそうです。大人になってから低身長に悩みたくないのなら、早く寝ることを心掛けた方がよろしいかと」
「……………クロ兄さんって、私よりも背が低いですよね?」
「俺は寝なくても活動できるので」
「寝てください。オーバーワークと徹夜はマジで脳味噌を壊します」
ガシッと俺の両肩を掴み、そのまま工房の外へ引っ張っていこうとするナナ。
抗おうとして、身長差の暴力で抱きかかえられた。
とりあえず。
「ナナ、離してください」
「ダメです!大体なんですか、この、頭のおかしい武器の数は!いったい何の目的で」
「お嬢様がお使いになられる武器を作っているのですが、どうもお気に召されないようで………正直言って、いささか行き詰っています」
「ご主人様!?」
ナナが絶叫じみた悲鳴を上げるが、関係ない。
早く完成させないと、お嬢様に何かありでもしたら、俺はきっと耐えられな。
「クロ兄さん!!一回!ご主人様と相談しましょう!!」
「相談………ですか?」
「ご主人様の需要とクロ兄さんの感性が嚙み合ってないんですよ!!ガムシャラにやるんじゃなくて、相手が何を欲しいのか、知ってから作るべきです!!」
そのセリフに、脳天をぶん殴られたような錯覚を覚えた。
俺は今まで、お嬢様に求められているであろう武器を作ることを考えてやってきた。
だが、俺がこうだろうと思い込んでいたものと、お嬢様が本当に欲していたものが、全くの別物なら?
主人のため主人のためと言っておきながら、俺がやってきたことは、ただの、エゴの押し付けだったわけだ。
………………奴隷失格、だな。
「ありがとうございます、ナナ。おかげで目が覚めました」
「………わかってくれたならいいんですよ。クロ兄さんが無理してるの、見てられなくって」
「別に無理はしていませんよ?」
「え?」
トンチンカンなナナのセリフを訂正し、なにか、おぞましいものでも見るような目が向けられた。
「龍を祀る民に伝わる秘薬の1つに、睡眠不足によるあらゆる悪影響を先送りするものがあります。実際、彼の地の文官たちは眠ることを忘れているそうです」
「あのぉ………それって、かなりヤバめなお薬なんじゃないですか?そもそも、先送りにしても意味がな」
「死ぬまで飲み続ければ、実質、一生眠らないで生きていけます」
「その考え方を捨ててください、今すぐに!!」
「どうせ死んだら死ぬほど眠れる──────素晴らしい言葉だと思いませんか?これぞまさしく、この世のありとあらゆる労働の本質だと、俺は考えています」
「危険思想だ!?」
きゃあきゃあ騒ぐナナを寝かしつけるのに、2時間ぐらいかかった。
「どうですかクロ兄さん!これが私たちの実力って奴です!」
ナナに叱られてから4日後、ヴァルハリエ家執務室。
寝不足らしく目の下にクマを浮かべ、妙にハイテンションなナナ。
綿密に描かれた何かの設計図らしき代物が、バンッと勢いよく執務机に叩きつけられる。
ふむ。
「とりあえず、何をしたかぐらいは言いましょうか?それだけでは、貴女の実力とやらの評価も出来ませんので」
「ご主人様専用武器の設計図ですよ!!」
「………なるほど?」
青くて綺麗な目を輝かせるナナに促されて、設計図に目を通す。
………一応、典型的な[炉]に接続して使う[剣]と[銃]のようだ。
問題は。
「ナナ。何故、武器に変形機構を組み込んだのですか?重量や重心、強度を考えれば、非現実的と言わざるをえません」
「ロマンだからです」
「では、何故、銃を中折れ方式にしたのですか?いえ、そもそも回転式拳銃を使うメリットが」
「ロマンだからです」
これ以上なくまじめな顔をして、バカな事を言うナナ。
「却下だ、バ」
「その判断は甘いよ、ワンコ君!!」
バァンと勢いよく扉が吹っ飛んで、カティア様が乱入してきた。
危うくナナにぶつかりかけた扉の残骸を念動で受け止め、床に置く。
自信満々といった様子で胸を張るカティア様と、その後ろで、脂汗をだらだら流すフィリア。
何のつもりか目線で問えば、半泣きになった灰色の瞳。
………なるほど、フィリアも被害者というわけか。
処罰は無しでいいだろう。
まぁ、何はともあれ。
「カティア様。何故ここに?」
「ワンコ君、君は、勘違いしているんだ。あの娘が欲しがっている武器は、合理的な武器じゃない。かっこいい武器なんだよ」
「………どういうことでしょうか?」
「君の作る武器の性能は、確かに凄まじい。最初の大剣も、ナナちゃんの薙刀も、そこらの鍛冶氏が作ったものよりよっぽど優秀だったよ?でも、どこまで行ってもそれだけなんだ」
さっきまでのふざけた様子を感じさせない、細められた金色の眼。
「失礼ながら、カティア様。武器に求められる、求めるべき性能は、合理的か否か、ただそれだけだと考えます」
「普通はそうなんだろうけど、あの子は違うんだよ。ワンコ君も知っていると思うけど、吸血鬼を殺す方法は、大きく分けて3つしかない。森鋼の武器を使うか、灰も残さず焼き尽くすか、吸血鬼自身に自分は死んだと錯覚させるかだ。自分の存在を自分で否定してしまえば、吸血鬼は死ぬ。その逆もまた同様に、生きていると思いこめれば、吸血鬼は滅びない。吸血鬼の弱点のほとんどを克服した半吸血鬼といえども、ね?」
「…………それとこれとに、どんな関係が」
「火花と硝煙、銃の激発と駆動音、そしてなによりも、血飛沫と断末魔。死と暴力に直結するイメージは、それを感じる人間に、否応なしに、生きていることを実感させる。………少なくとも、ナニカを傷つけている間は、リーンが死ぬことは無いだろうね」
………なるほど。
残虐性の高い、派手な見た目の武器を使用していただくことで、リーンお嬢様の生存率上昇につながるのなら、それでいい。
武器の強度問題も、龍の素材なら強引な力技で解決できるな。
「わかりました。ナナ、設計図を作っていただき、ありがとうございます。4日もあれば仕上がるでしょうし、さっそく」
「あの、クロ兄さん。なにか、手伝いましょうか?」
設計図を取って部屋を出ようとして、少し不安そうな眼をしたナナに引き留められた。
なんとなくだが、俺がまた無茶をしないか、心配されているのだろう。
まったく。
「ナナ、安心してください。流石に体を壊すような無茶はしません」
「………わかっているならいいんですよ。ただ、クロ兄さん、いつも働いてるので」
「それが仕事ですから」
ブツブツつぶやくナナに笑いかけるも、すねたように頬を膨らませたまま。
どうしたものかと、少し考えて。
「それに、1時間だけ眠るようにしましたから」
「ダメじゃないですか!?」
「合格よ、クロ。頑張ったじゃない?」
「光栄です、リーンお嬢様」
ヴァルハリエ家地下訓練場。
全長2メートルほどの騎士槍を構えるリーンお嬢様と、粉々に砕け散った打ち込み用の鎧人形。
ようやく、ようやく合格サインが出た。
なんていうか、こう、泣きそうだ。
「しかし…………また、とんでもない武器作ったね。コレ、ちょっとした聖剣より強いんじゃないの?」
「変形機構もちゃんと動いているみたいですし、問題はなさそうですね」
俺の牙と尾の先端の硬質化した部位を融合させ、切っ先に。
魔力を大量に込めて変異させた石炭を俺の血で溶かしたものを各所に彫った溝に流し、薄く削った鱗で覆うことで、[炉]──────俺の心臓を利用した魔力の発生機構──────との接続をよくした。
持ち手に当たる部位には革を巻いて滑り止めもしておいた。
そしてなによりも。
「ナナ。このギミックは貴女が考えたのかしら?褒めてあげるわ?」
「ありがとうございます、ご主人様!!」
柄に仕込んだレバーを引けば、蒸気を噴き上げて流線型の刃が変形し、死神が持つような大鎌に変形する。
細かく削った骨片を組み合わせて機構部を作ったのだが、これがなかなかに大変だった。
屋敷の仕事や学院生活と並行しながらの作業なのもあるのだろうが、これだけで2日もかかった。
突破性能と攻撃力に優れた騎士槍と、切断力と攻撃範囲に特化した高リーチの大鎌。
さらに。
「フィリア。遺物を提供していただき、ありがとうございます。おかげで大変助かりました」
「オレが持ってても特に使い道がなかったからな。問題ねぇよ。………まっ、恩に感じてるのなら何か現物で支給してくれや」
「わかりました。欲しいものがあれば、後でお教えください」
迷宮踏破訓練最終日、大空洞にいた例のバケモノ。
あの後、フィリアに頼まれてアレを回収していたのだが………。
「『全てを穿つ』大鎌、大逆天…………なかなか悪くないな」
バケモノに内蔵されていた、エネルギーの圧縮と放出によるブレードの形成機能を改造し、超高出力のエネルギーブレイドを積み込んだ。
龍形態の俺の鱗に問題なく切り込めたし、不足はないだろう。
射程はデフォルトで5メートル、収束と圧縮を甘くすることで、65m範囲内が有効射程距離になる。
問題を上げるとすれば。
「お嬢。ソレは確かに強力だが、消費魔力が多すぎて一発きりしか使えねぇ上に、武器を振れるようになるまで、5分間の冷却時間が必要になる。よくよく考えて撃ってくれ」
「開幕でぶっ放せばいいのね?」
「ちげぇよ、なんでそうなるんだよ」
「お嬢様。せめて何らかの手段で足止めをして、回避や反撃ができない状況で使うべきかと」
「なら、クロを相手に抱き着かせて、クロごと叩き切るわ?」
「リーンさん!?」
「…………そうですね、確かにそれが最適解かと」
「クロさん!?」
実際問題、真っ二つに叩き切られる程度なら余裕で再生できるし、手足の1本2本なら即座に復帰でき、頭を破壊されたとしてもしばらくすれば回復できる。
龍種の防御性能とタフネスを最大限に活用すれば、俺が身を挺して足止めし、その隙に必殺の一撃を叩きこむ戦法も実用性を帯びて来る。
「ねぇ、リーン、ワンコ君にどんな調教したの?」
「特に何もしてないわ?」
「ウソだ、絶対ウソだ、素でこうはならないでしょ」
「でもなっているわ?」
「………なるほど?」
納得いってないらしい顔のカティア様はともかくとして、一部の戦士が使う戦闘技能には、自身の受けた衝撃を反撃に利用するものがあるらしい。
そういったものを身に着けるのも、有効な手段になるだろう。
後は。
「リーンお嬢様、本当にその銃でよろしかったのですか?」
「問題ないわ?」
リーンお嬢様が選ばれた銃は、はたして銃と言っていいのか疑問な代物だった。
3メートル近い砲身と、その後ろに付属した大型の機関部。
総重量194キロ、俺の鱗と体から生えた水晶、その他いくつかの鉱石を鋳溶かして鍛えた合金で銃身を作り、幾重にも鋼糸を巻いた上から革で補強。
同口径の弾丸のおよそ1,5倍の炸薬を充填し、俺の血を染みこませた特別製の弾には、先端に重金属のカバーをかぶせ、貫通力を上昇させてある。
廃熱機構や給弾用の弾帯など、全ての設計はナナがこなしてくれた。
正直言って俺には何一つ理解できないし、よくわからない代物だったのだが。
「マウザーBK‐31・個人携帯仕様です。発射速度は毎分3600発、発射時の初速は時速1600キロ。飛竜くらいなら一瞬でミンチにできる、正真正銘のモンスターマシンです」
ドヤ顔のナナには悪いが、はっきり言ってやり過ぎだと思う。
市街地は論外として、迷宮内を含めた通常の戦場、陸戦海戦山岳戦など、どのような状況を想定しても、こんなデカブツを暴れ回らせるようなシチュエーションが思い浮かばない。
ついでに言えば、威力が高すぎて目標だけを撃ち抜くような真似も出来ない、完全な欠陥品ではあるが。
「ナナ殿、コレは、人間に扱える品なのか?」
「反動で死にますね」
「ダメじゃないか!!」
「ですが、ご主人様の膂力ならこれくらいは扱えるかと。とっても固いのでつっかえ棒とか盾の代わりにもなりますし、背中に副腕を装備することが前提にはなりますが、片手での運用も可能なはずです。…………まぁ、反動で吹っ飛んじゃうかもですけど」
「クロを足場にすれば問題ないわ?」
「君達さぁ!もうちょっとワンコ君に優しくしようよ!!」
「問題ございません、カティア様」
リーンお嬢様が喜ばれているんだ、苦労した甲斐は十分にあったな。
長文注意、読み飛ばしても問題ないです。
大逆転=大逆天
こういうダジャレみたいなネーミングが好きなんですよね。
特に好きだったのは、西尾維新先生の人類最強シリーズの潜水艦、ブレインスパーク=脳散らす=ノーチラス。
もうね、天才かと。
一時期狂ったように読んでたし、今でもたまに猛烈に読みたくなります。
ただね、時間がないんですよ時間が。
少し前までメンタルブレイクしてたせいで全く書けなくなってたし、今だって万全じゃないし、でも言い訳しても意味ないし、結局書くしかないんですけどね。
書くの楽しいし。
書くの楽しいけど次から次にアイデアがわいてくるのに自分の技量が足りてないから書けないし、結局、ここにあげてるのだって武者修行みたいなもんですけどだったら他にも出すとこだせやボケナスとか思ってても日和っちゃうし、自分がどうしようもないグズで、いっそきたねぇ花火にでもなりゃあいいと思って、でもそうなったら書けないななんて思ってたりするんですよ。
だから、書きます。
長文失礼しました。
もしよろしければ、高評価やらブクマ登録やらイイネやら感想やら全部よこしやがれください。
ポチってくだけでいいんで、オナシャス。




