奴隷はつらいよ
ヤバい、ストックがマジでない。
あれもこれもジョジョが面白いのが悪いんだ。
ボクは悪くない。
そう思いたい。
学院本館、校長室。
歴代校長の肖像画が壁際を飾り、葉巻の煙が、宙に溶けて消えていく。
深々と座椅子に腰掛ける、まるで枯れ木のような老人。
片眼鏡の奥に覗くのは、歳月を経た人間に特有の、深い知性を宿した灰色の瞳。
顎髭を弄んでいた指先へ、ストレスの限界を示すように過剰な力が込められて。
「…………色々と、ああ色々と、言いたいことはある。ある、が、どうせ君は、まともに答えてはくれないのだろう?だが、それでも、あえて聞かせてもらおう………………あの少女は何だっ!?」
学院にナナを連れて行ったその日の、1限目の授業中に呼び出された俺は、学院長とサシで対面していた。
特に呼び出されるようなことはしていないし不可思議に思っていたのだが、どうやら、ナナに関する話だったようだ。
とはいえ、アイツがそんな問題行動を起こすとは思えない。
「学院長。ナナが一体何を?」
「そもそも!学院へ連れていくことを許可されている奴隷の数は、生徒一人につき一体までだ!!理由はわかるか!?」
「生徒間でのいさかいや大会戦での不正を防止するため、です」
なんでも、数世代前のある中級貴族のボンボンが、元傭兵の奴隷ををかき集めて大会戦に出場し、めちゃくちゃに荒らしまわったのが原因なのだとか。
それ以降、生徒が所持できる奴隷の数に制限が掛けられ、その他にもいくつかのルールが新たに制定されたらしいが……………今は関係ないか。
「ならわかるだろう?君のような特異な出自の奴隷を連れているだけで学院の規則に抵触しかねないというのに、さらにもう1人だと!?そんなもの、許可できるはずないだろうが!!」
「ナナに戦闘能力はありませんよ?」
「ウソだ!!基礎能力測定用のゴーレムが、たったの5分で破壊されたんだぞ!?」
「未熟ですね。遅くとも3分以内に片づけろと言い聞かせたはずなのですが………また、特訓が必要なようです」
それなりに戦えるようにしたつもりだったが、やはり、もう少し鍛えた方がよかったのかもしれない。
戦闘員としての資質は過剰なぐらいに高いが、それと反比例して、アイツは戦意が低すぎる。
意志の力が弱いというか、殺意が皆無というか………良くも悪くも、自分が我慢して、傷ついて、それで丸く収まるのならそれでいいと思っている節がある。
自己犠牲の精神は美徳ではあるが、その結果としてお嬢様が悲しまれるような事態は許容できない。
早いうちに何とかした方がいいだろう。
「ともかく、だ。早急にアレを学院から追い出して」
「困りましたね……………リーンお嬢様は、最近、あの奴隷が気に入った様子ですので。無理に御傍から離そうとすれば、一体、どう思われるか」
「だが、ヴァルハリエ君は大公爵家のご令嬢だ。奴隷を2人持っていたとしても、別に問題はないだろうな。……………もちろん、期待はしていいんだろう?」
「ええ」
にやりと下卑た笑みを浮かべた学院長に、笑みを返した。
後で適当に賄賂を贈っておけば納得するだろう。
暴力と権力と財力さえあれば、たいていのことはどうにかなる。
リーンお嬢様がそう言ってた。
周り右して、部屋を出ようとして。
「ああ、君。ひとつ、質問があるんだが……………あの少女は、一体、何者なんだ?」
振り返った視線の先で、葉巻を灰皿に押し付けてもみ消す学院長。
溜息のように紫煙を吐き、老鷹を思わせる灰色の瞳。
「あの少女、恐らくだが、正式な奴隷ではないのだろう?どこで買った?」
……………まるでこちらの心の奥底を見透かすような、腹芸に通じた人間特有の、疲れ切った眼差し。
下手な言い訳は、通じないだろう。
高性能な龍種の脳がはじき出した答えは3つ。
1.本当のことを告げる。
2.恐喝する。
3.何とか頑張って誤魔化す。
1は論外だし2もあまり賢明な選択肢とは言えないな。
選択肢的には3しかないが、それにしてもどうやって。
ギラついた眼を向けて来る学院長へ向き直り、重い口を開いて。
「……………あの、クロさ」
「ナナ?」
「その…………クロ、兄さん?」
4時間目終了後、学院の大食堂。
認識疎外の魔術による隠蔽と情報の遮断を施した一角。
半分くらい泣きそうな顔でそんなことを言うナナと、何故か冷め切った眼で見てくる皆様。
学院長の追及から逃れるために、ナナを俺の妹だということにしたのだが、どうも何かしくじったようだ。
バターを塗ったパンをコーヒーで流し込み、サラダを一息に口に納め。
「魔術での隠蔽は施してありますし、問題ないと思ったのですが………」
「ワンコ君、そうじゃない」
目立たないようにナナの銀髪と青眼は、物理、魔術の双方向で隠匿してある。
黒髪に見えるように魔術で認識を操作し、調合した染髪剤で染色。
眼も同じ要領で認識操作を施し、薄く削って魔術を付与した俺の鱗を瞳にはめ込むことで、色を変えてある。
尾と耳を誤魔化すのは苦労したが、直接触れられたりしなければ、差はわからないはずだ。
本気を出した龍の偽装技術に、隙は無い。
フォークで突き刺したベーコンを咀嚼し。
「兄妹で売られていた奴隷の内、病気で倒れていて最近恢復した妹がナナということになっています。皆様も、そう思ってい」
「クロ殿。ナナに実の家族がいるとは、考えなかったのか?」
…………なるほど。
ナナの外見から判断して、年齢はおおよそ15から16歳といったところ。
獣狩り令を体験した可能性は否定できないどころか、巻き込まれた可能性は高いだろう。
過去に行われた大粛清は、どれも酸鼻を極めたと聞いた。
最悪、目の前で肉親を殺された可能性だってある。
完全にやっちまった。
「迂闊な事をしました。ナナ、申し訳ございません。急ぎ、学院長の記憶を改変してきま」
「クロ。ナナをみなさい?」
「ですがお嬢様」
学院長を洗脳しに行こうとして、リーンお嬢様に首筋を引っ掴まれた。
ゴキリと首から嫌な音がして、視界に、ニヨニヨと頬を緩めるナナがいた。
なんというか、お嬢様には見せられない顔をしている。
………いや、そうじゃなくて。
「………………ナナ?」
「なんですか?クロ兄さん」
満面に笑みを浮かべて聞き返してきたナナに、わずかに怯むも、龍種としての意地で耐える。
俺よりも相手の方が背が高いせいで見下ろされている状態だが、そんなの関係ない。
深呼吸一つ、気合を入れて。
「いえ、貴女の了承も取らずに虚偽の関係を学院長に伝えたのは俺です。不満があるようでしたら、何なりとお申し付けくださ」
「貴女とかそんな、赤の他人みたいな言い方しないでくださいよ。私たち、兄妹でしょう?」
笑顔のまま首を傾げたナナが、そんなことを言い出した。
…………もしかしなくても、なにか、やらかしてしまったのかもしれない。
というか、俺を見るナナの眼がおかしい気がする。
なんというか、こう、妙に湿っぽいような、そんな視線。
身の危険を感じる。
「…………リーンさん。なんか、ヤバくないですか?」
「ヤバいかもしれないしヤバくないかもしれないわ?」
不安げに震えた声音で呟いたミカ様に対し、愉快そうに笑うリーンお嬢様。
まぁ、何も問題ない可能性だってあるんだ、あまり気に負わない方が。
「リーン。はっきり言って?」
「ヤバいわ?」
「ダメじゃん!!」
ヤバいらしい。
もうダメかもしれない。
だが俺は諦めない。
「あの、ナナ。俺は貴女の兄じゃな」
「な ん で す か ?」
至近距離から俺を覗きこんでくる、真っ黒な瞳。
顔は笑っているはずなのに、目に光が一切ない。
とても、とても怖い。
「…………ナナ。本当によろしいんですか?」
「問題ないですよ、クロ兄さん」
にっこりと、嬉しそうに微笑むナナ。
………なんというか、コイツもまともに笑えたんだな。
少なくとも、今までのどこか異常な笑い方よりかはマシに思える。
だから、なんとなく身の危険を感じるのは気のせいだろう。
そうに決まっている。
嫌な予感を頭から振り払って、コーヒーを飲み干した。
「あのっ、クロ兄さん!ちゃんと戦ってください!!」
「そう言われてモバシッ!?」
「クロ兄さん!?」
大鐘アッパーカットに吹っ飛ばされ、そのまま壁に激突した。
俺を見たナナが悲鳴を上げ、直後、同じようにすっ飛んでくる。
俺より少しばかり背の高い体を抱きとめて、全力ダッシュ。
連続して放たれた鉛玉────訓練用のゴム弾────が一拍遅れで床を弾き、突撃してきた人形兵を大盾が押しとどめる。
6限目、大訓練場での戦闘訓練。
俺とナナ、リーンお嬢様とカティア様の2対2で試合をしているのだが。
「ナナ!せめて当てるか、相手がいる方に撃ってください!!散弾銃ですよ!?」
「そんな無茶なひゃうんっ!?」
おぼつかない手つきでモタモタと装填し、引き金を引き、あらぬ方向で散弾が弾ける。
魔導兵器を利用した戦闘に慣れてもらおうと、薙刀ではなく、直剣と散弾銃を使ってもらったのだが………どうやら、ダメだったようだ。
というか、はっきり言ってヘタクソすぎる。
あれだけ薙刀を使っていたのが信じられないくらいに弱い。
自分の尻尾を踏んで顔面から倒れかけたナナを支え、軽機関銃をぶっ放す。
散弾銃よりも反動や照準のブレは大きいが、俺の筋力なら問題なく抑え込める範疇だ。
相手が龍ならともかく、広範囲に弾をばらまけるというのは、対人戦における大きなアドバンテージになる。
大盾を地面に突き立てて防塁代わりにし、弾倉を引き抜いて装填。
ぶっ放そうとして、危機感に従って跳躍。
振り下ろされた人形の腕に対し、一歩踏み込んで。
「オッ、ラァ!!」
全力で振りかぶった壁盾を人形兵に叩きこみ、そのまま粉砕。
マスケット銃の連続射撃を顔面に喰らいながらも、操り糸を引っ張って。
「ちょ、嘘でしょ、待っ」
「申し訳ありませんが、しばらく寝てもらいます」
悲鳴を上げたカティア様を一本釣りよろしく引き寄せて、無詠唱で発動した暗転蝕で触れて昏倒させた。
これで残るはお嬢様のみ。
軽機関銃を構えて。
「絡めとる悪魔」
「きゃっ、ぁあ!?」
「ナナ!?」
お嬢様の影から噴出した、奇怪なヌメリを帯びた、軟体動物のような触手。
全身に巻き付かれ、絡めとられて吊るされるナナと、大鐘を振り回すリーンお嬢様。
リーンお嬢様で特注した戦闘用メイド服に触手が絡まった結果、胸元やら腰回りやらが強調されて、色々とインモラルなことになっている。
謎の逡巡を感じつつ銃剣を装着し、投げ槍のように構え。
「旋斬撃」
空を切って回転しながら飛んだ刃が、ナナを拘束する触手の根元に深々と突き刺さる。
もちろん、それだけで拘束が外れることもなく。
小首をかしげたリーンお嬢様が、大鐘を投じようと身を捻り。
「念動力」
超至近距離で放たれた弾丸が、触手を引き裂いて千切り飛ばした。
魔術による念力を用いた、遠隔射撃。
数を増やしたり複雑な運動をさせようとすれば難易度も跳ね上がりそうだが、引き金を引くだけなら余裕でできる。
やり方によってはもっと便利に使えそうだが、検証はまた後ですればいい。
ちぎれて落下した触手が、地面に触れると同時に解けて、元の影に還る。
落ちてきたナナを受け止めつつ、生成した鉄骨丸を片腕で振って。
「いい判断だけれど、少し焦ったわね?」
「そうでもございません、お嬢様」
弧を描いて真横から迫る大鐘を、だらりと脱力した腕で受け流した。
極東の島国に伝わる武芸という話だったが………やはり、人間の技術は便利なものだ。
少なくとも、お嬢様への反逆行為とはみなされないらしい。
突き刺すように伸びた鎖を弾き、どうするべきか頭を巡らせて。
「寄生────────ナナ、暴れなさい?」
「ご主人様、なにをっ!?」
抱えていたナナが悲鳴を上げ、直後、眼球に鋭い痛み。
灼けた鉄棒を突きこまれたような激痛の中、眼に刺さったナニカを引き抜こうとして、後頭部に鈍い痛みが走った。
「しかし…………クロ殿があそこまでやりこめられるとは、思わなかったな」
目が覚めた。
医務室のベッドに寝かされているようだ。
感触からしてあちこち包帯で巻かれているようだし、なにより、両目を眼帯で塞がれているせいで、ロクに物が見えない。
匂いから判断するに、お嬢様とカティア様、ミカ様とアサカ様がいらっしゃるようだ。
残留した匂いから判断してナナもいたようだが、匂いが妙に薄い。
しばらく前にこの部屋を出たようだ。
体内時計が正しければ、今は放課後のはず。
ナナがいないのが少し気になるが、とりあえず。
「申し訳ございません、リーンお嬢様。無様を晒しました」
「うおっ!?」
「あっ、起きてたんだワンコ君」
「別に問題ないわ?次はもっと頑張りなさい?」
俺の頭のすぐそばで座椅子がわずかに軋み、ページをめくる音が聞こえた。
お嬢様が本を読んでいらっしゃるようだ。
最近、新しくホラー系の小説を読み始めていたから、多分それだろう。
一昔前の本のようで、ページ閉じの糊の匂いが特徴的だったからよく覚えている。
確か題名は。
「霧の館にて………でしたか」
「ええ。ありきたりな展開だけれども、それなりに楽しめるわ?」
遠征作戦中に森で遭難した軍の一個小隊が、迷い込んだ洋館で弾丸の通じないバケモノに惨殺されていくという筋書きだったはず。
ストーリは本当に平凡だったが、作家の表現力が抜きんでていた。
「なんていうか………意外ですね、リーンさんが本読んでるのって」
「そうかしら?」
「こう見えて、リーンって結構なインドアなんだよ。家でいる時は基本的に本読むか寝るかの2択だからさ」
「こう見えては余計よ、カティ。また押し倒されたいのかしら?」
「なんでそうなるかな!?って、リーン、待って」
抗議の声と、なにか重量のあるものが床に倒れ込む音。
今のお二人に話しかけて邪魔をしても悪いし、気配から察するに、ミカ様は絶賛フリーズ中の模様。
ナナのことだから無茶はしていないと思うが、出来るだけ早く様子を見に行きたい。
わずかに痛む体を堪え、口を開き。
「………その、クロ殿。1つ聞いていいか?」
「なんでしょうか、アサカ様」
「クロ殿が使ったアレは、どこで覚えた?いや、身内に似たような技を使うものがいてな?もしかしたら、知り合いなのかもと思ったのだが」
「極東の武術を独学で真似ました。アサカ様の身内の方かは存じませんが、同様の技ではあるかと思います」
実際、東方の武術を書き連ねた書籍から自力で学んだわけだし、それに。
「………どうにも最近、俺の防御を貫通して攻撃できる人物と戦うことが多いように思いまして。純粋な防御力ではなく、技量による防御を習得しておくべきかと」
本来であれば、俺のような龍種は、基本的に、鍛えることも技術を磨くこともない。
理由は単純、その必要性がないからだ。
相手が龍でもなければ負けることは無いし、そもそも、龍相手に小細工は通用しない。
龍種であるという事実は、それだけで、最強生物の一角として存在しうる理由になる。
だが、人間は違う。
斬られて死ぬ、潰れて死ぬ、落ちて死ぬ、爆ぜて死ぬ、抉れて死ぬ、撃たれて死ぬ、溺れて死ぬ、凍えて死ぬ、焼けて死ぬ、砕けて死ぬ。
雷に打たれても、毒を喰らっても、失血多量でも死ぬ。
飢えて、乾いて、苦痛で死ぬ。
孤独や退屈でさえ、人を殺すという。
ひどく脆く、貧弱で貧相な、数が多いだけの種族。
それ故に、人は技術を磨いてきた。
自分たちよりも圧倒的に強靭な怪物を相手取るために武器を鍛え、防壁を築き、土地を開墾した。
組織だった社会を整え、軍をつくり、バケモノを討滅して自らの生存域を作り上げる。
弱く生まれたが故の、心血を注いで命を賭けた、生き残るための努力。
………………まぁ、それだけやっても中位以上の龍には通用しないというのが、何とも言えないところだが。
逆に言えば、龍のスペックで人間の技術を使えば、それだけ圧倒的ということ。
つまり、めっちゃ硬くなる。
「少なくとも、俺は皆様全員を含めた、パーティー全体の盾です。どんな状況でもどんな相手でも万全の働きができてこそ、優れた道具なのではないでしょうか?」
迷宮でフィリアやゴーレムと戦った時だって、俺が龍の能力にあぐらをかかずに鍛錬していれば、皆様を危険な目に合わせるような無様は晒さなかったはずだ。
リーンお嬢様には褒めていただいたが、事実は事実。
今回は運よく死人を出さずに済んだが、次もそうなるとは限らない。
もう2度と、あんな醜態を見せるわけには行かない。
「…………ねぇ、リーン」
「なにかしら?」
「ワンコ君、大事にしなよ?」
「そうね?」
労わるような手つきで、俺の頭を撫でるリーンお嬢様。
暖かい、血の通った指先の感触と、わずかに甘く香る匂い。
……………ま、ほどほどにやればいいか。
気合を入れて上半身をベッドから起こし。
「リーンお嬢様。ナナがどこにいるか、分かりますか?」
「ワンコ君が医務室に担ぎ込まれるまでは一緒にいたんだけど、ベッド脇でじっとしてると思ったら突然泣きながら出ていったよ?なんとなくだけど、リーンの寄生がショッキング過ぎたんじゃないかな?」
「…………たしかに、その可能性は否定できないわ?行って謝るべきね?」
「道理で、匂いが薄いわけです。今ならまだ追えますが、リーンお嬢様、いかがなさいますか?」
その瞬間、室内の空気があからさまに凍り付いた。
全身に突き刺さる居心地の悪い視線を受けて、口を開き。
「………失礼しました。場にふさわしくないことを口走ってしまったようです。申し訳ございません」
「いや、そうじゃなくて、ワンコ君、匂いで人が区別できるの?」
「はい。気候や湿度、風量、風向きなどの影響はもろに受けますが、ざっと半径200キロ圏内は探知可能領域です。その気になれば、発汗量や汗の臭い、体臭などから心情や性別、直後の行動なども判別で」
「ワンコ君!ボクらに向けてその能力を絶対に使うな!!これは命令だ!!」
「かしこまりました、カティア様」
叩きつけるような怒気に逆らうことなく、首を縦に振る。
よくわからないが、何かが気に障らなかったらしい。
歯向かうようなことでもないし、別に問題ないだろう。
「ともかく、今はナナをどうするかが最優先です。あと30分ほどは問題なく追えますが、それ以上時間がたつと、少々厳しくなるかと」
「…………まぁ、ナナちゃんが危険な状態じゃないなら、放っておくべきだと思うよ?あまり無理に距離を詰めても、ロクなことにならないだろうし」
「わたしもそう思います。ナナさんだって、1人で考えたい時もあるんじゃないですか?」
「今は放っておいて、帰ってきたら抱きしめて撫でてあげればいいわ?今晩の抱き枕にしましょう?」
本気か冗談かよくわからない顔で告げるお嬢様に、放置するべきだというミカ様とカティア様。
唯一、アサカ様だけが何か言いたげな顔をしているが…………まぁ、そこまで深く考えるべきじゃないだろう。
疑似再誕で損傷を修復し、ベッドから起き上がろうとして。
「……………血?」
龍の嗅覚が、ナナの匂いに混じる、血液の鉄錆臭さを捉えた。
とても嫌な予感がする。
顔面に張り付いていた包帯を引き裂き、跳ね起きる。
「どうしたの、ワンコ君?」
「すみません、皆様。少々急ぎの用事が出来ました」
「ちょっ、クロさん!?」
匂いの方向へ、全力で走りだした。
次回予告
最愛の妹の危機に走り出す主人公。
全力で走る彼の目の前に現れたのは、まさかの人物で──────!?
「走る走る俺たち」
「流れる汗もそのままに」
「いつかたどり着いたら」
「君にうちあけられるだろ」
「お嬢様、何やってんですか」
「さぁぷうっ!?」
「お嬢様!?」
後ろ向きで走ってたお嬢様が、マンホールの中へ落っこちた!!
次回「不思議の国のお嬢様」




