ダンス・イン・ラビリンス
眠いンゴ
「クロ、なにか、言い訳はあるかしら?」
「面目ございません、リ」
「黙りなさい?」
人形共の墳墓、6階層直下、未知の大空洞。
振り下ろされた軍靴の踵が、俺の背中に突き刺さった。
思いっ切り地面に叩き伏せられ、そのまま後頭部を蹴り潰される。
俺を見下ろす絶対零度の視線と、筋骨を抉られる激痛。
思わず脂汗が浮かぶようなそれに耐え、歯を食いしばり。
「お嬢、それぐらいにしたほうが」
「いいえ、フィリア。バカな犬は、殴って聞かせないといけないのよ?」
「ヒィッ!?」
「怖いよぉ!この人怖いよぉ!!」
ガクブル震えるフィリアとミカ様。
なんとかフォローしたいところだが、消耗が激しすぎてろくすっぽ動けない。
「申し訳ございません、皆様。俺の不手際です」
あのパツキンクソ野郎をぶっ殺しておくべきだった。
それでなくとも、戦闘を長引かせた要因は俺だ。
「…………まぁ、別にいいわ。それよりも、ここからの脱出を最優先に行動しましょう?」
「リーン女史、一体、どうやって脱出する気だ?」
頭上を仰ぎ見ても、6階層を崩落させてできた大穴が、豆粒くらいのサイズにしか見えない。
すくなくとも、翼がなければ上るのは不可能だろう。
リーンお嬢様がどんな策を考えたにしろ、全力で実行し。
「……………脱出経路なら、あるな」
ボソリと思案顔で呟いたフィリアが、懐から何かの地図のようなものを持ち出した。
乱雑に描きこまれた無数の線と注釈の群れ。
子供の落書きのような絵だが、コレは………………
「迷宮地下の地図………ですか」
「ああ、そうだ。探索用の遺物をばらまいて分かったんだが、この大空洞の付近に、大規模な河川とつながった洞窟がある。そこまでの壁をぶち抜いてしまえば、流れてくる水に乗って上に上がれるはずだ」
「無茶苦茶ですね」
「最悪の場合、迷宮を崩落させて証拠を隠滅する計画だったからな。緊急脱出用に持ってきた遺物を使えば、圧死も溺死も回避できるだろうよ」
なんというか、雑な作戦だ。
雑な作戦だが、効果的な事には違いない。
死人が出ないまでも、俺にヒトモドキを解除させることは出来ただろうし、見た目にそぐわず優秀な人間かもしれない。
やはり、資材と研究費は十分に与えるべきだろう。
「というか、迷宮ごと崩せるのか」
「オレ一人じゃ絶対に無理だが、遺物さえあればどうにでもなる。そう、遺物さえあればね!!」
「つまり無理なんですね?」
「その通り!遺物を使えないオレの戦闘能力は、はっきり言ってナメクジ以下だ!!ぶっちゃけ期待しないでくれ!!」
ヤケクソじみた勢いで情けないことを叫ぶフィリア。
………まぁ、道具がないと戦えないのは当たり前か。
それ以上に問題なのは。
「あの金髪の行方が不明なのも、厄介ですね」
「この高さからノーガードで落下したんだ、くたばっただろ」
フィリアが気だるげに嘯くが、油断しない方がいいだろう。
落下しつつ取り出した予備の呪怨藁人形をフィリアに貼りつけ、全員分の落下ダメージを俺がくらう、力押しでの着地術。
俺がここまでダメージを受けたことから考えても、並の人間なら、即死どころかミンチになっている。
死んでいると考えるのが自然だろうが、死体が見つからない以上、生存の可能性は否定できない。
そもそも。
「フィリア、1つ聞いてよろしいでしょうか?」
「なんだ?言っとくが、年を聞いたらタマ潰すぞ」
「あの魔術の指輪は、どこで入手されたので?」
「…………さぁな。オレは知らん。話せないとか口止めされてるとかじゃなくて、マジで知らん。貴族だっていう話だから、どこかで買ってきたか、家宝でも持ち出してきたんだろ」
気だるげに言うフィリアの口調には、嘘をついているような様子は見受けられない。
きな臭い。
非常にきな臭い。
恐らくだが、俺たちを狙ったあのバカの背後に、何かがいる。
だが、ソイツの正体も目的もわからない。
……………少し、調べる必要があるな。
「ともあれ、ソレが最善策なら実行するしかないでしょう。フィリア。具体的な破壊範囲を教えてください。俺が壊します」
「…………お前、正気か?というか、どんな遺物持ってんだよ」
「最大出力の息吹なら、どうにでもなります。ただし、一度使ってしまえばしばらく動けなくなりますので、回収は任せます」
「………なるほど、龍を祀る民の出身か。道理で強いわけだ、大陸一の戦闘民族を名乗るだけのことはあるな」
「脱出用の遺物の準備をしてください。皆様も、出立の準備を。準備が終わり次第、息吹を放ちま」
俺のセリフを遮って、何か、絞殺されるガチョウのような悲鳴が響いた。
暗く光源のない大空洞に反響する、断末魔の叫び。
一拍、湿った音を立てて、ナニカが飛んできた。
床に落ちてへばりついたのは、赤い血にまみれたミンチ。
怯えたミカ様がアサカ様に抱き着き、へっぴり腰のフィリアとカティア様。
唯一平然としているように見えるリーンお嬢様でさえ、汗の匂いから判断して、それなりに緊張していらっしゃる様子。
直後、闇の中を巨大なものが駆けた。
間違いなく、ナニカがいる。
黒い影の中に、目を凝らし。
「お嬢様!!」
「うみゅう!?」
とっさの判断でリーンお嬢様を突き飛ばし、防御を固め。
俺の右半身が消し飛んでいた。
「ッーーー、疑似再誕、呪具創成・呪怨藁人形!!」
速攻で負傷を修復し、同時にダメージ請負用の人形を作れるだけ量産。
壁盾を構え、全員を庇える位置に立ち。
「城塞防御」
全力で防御し、なおも地面を抉って押し込まれる。
腹の奥に響く衝撃と、砕ける盾。
気合一発、襲撃者を撥ね退けて。
「……………機械、か?」
俺の疑問に対し、高速で金属板が震えるような奇声を上げる四足のケダモノ。
鋼の鎧を纏った15メートルほどの巨体と、長く鋭利な5本爪。
血にまみれた顎の奥に除く金属の舌と、ナイフのような牙。
装甲を連ねた尾の先には騎士槍のような切っ先が光り、全身の鎧の隙間から覗く金属パイプが、吐息のように蒸気を噴き出す。
ときおり体表に走る赤光が生きているように脈打ち、暗がりを照らす。
昆虫じみた3対の眼が、俺を捉え。
「無底沼」
流動する地面が奴の四肢を引きずりこみ、身動きを封じた。
逃れようとするバケモノに、右手を突き出し。
「重圧の腕。お嬢様、今です!!」
「よくやったわ、クロ?─────燃え堕ちる六翼」
暗闇属性の重力の腕がバケモノを叩き伏せ、直後、急速落下した燃え盛る大鐘の一撃が、奴の背部装甲を粉砕。
高重力場と大質量攻撃の連撃に、隙は無い。
このまま封殺して。
「防ぎなさい、クロ!!」
「了解!!」
全力で防御を固めて、体の前でクロスさせた両腕が、半ばまで切断される。
どこに仕込んでいたのか、右腕から巨大な刃を生やし、俺に斬りかかるバケモノ。
比較的無事な右腕で横っ面をぶん殴り、拳が砕けた。
俺の腕を割断して飛び退るバケモノを尻目に腕を再生させて、鉄骨丸を作成。
パキパキと氷がひび割れるような異音が鳴って、砕けていたはずのバケモノの背中が再生していく。
互いに仕切り直し、といったところか。
まるでケモノのようにこちらを睨んだまま徘徊するバケモノを相手に、武器を構え。
「俺が前線で足止めをします。その隙に、出来る限りの攻撃を叩きこんでください」
「ミカ、援護射撃は任せた……………約束する、ミカは絶対に傷つけさせないから」
「……………うん、ありがとう。アサカ君も気を付けてね?」
「ああ、わかった」
俺の真面目なセリフに対して、隣から聞こえて来る会話がひどい。
なんか、この2人だけ空気感が違う気がする。
「ケッ、おさななじみ系のカップルかよ。もげて爆ぜりゃいい」
「フィリア、人の幸福を素直に祝えない人間は嫌われるわよ?」
「お嬢に、万年おひとりさまのオレの気持ちがっ、理解できるわけないだろ!!」
「確かに、理解できないわ?」
「チクショウ!チクショウ!!」
「落ち着いて、フィリア。ボクもおひとりさまだからさ?」
「心の友よ!!」
「わっ、ちょっ、まっ」
呪いをばらまくフィリアをなだめようとして、カティア様が抱きしめられた。
胸元に埋もれる顔が、これ以上ないくらいの不満を示している。
…………ある意味、これも格差という奴なのだろうか?
「汝、目を塞ぐことなかれ、現実とは、かくも残酷なものである────────カティ。残念だったわね?」
「うるさいよ!?」
「皆様、来ます!手筈通りに!!」
焦れたように跳びかかってきたバケモノの牙が鉄骨を引き裂き、硬鱗を付与した壁盾が奴を押しとどめる。
その直後、目の眩むような火焔が炸裂した。
「付呪・矢玉避け」
展開した胸部装甲から放たれた銃弾の雨を、魔力量に物を言わせたゴリ押しで弾く。
高速で叩きこまれた爪牙の連打を真っ向から受け止め、散弾銃をぶちかます。
金属装甲の表面で弾かれたソレを他所に一歩踏み込んで、壁盾の叩きつけ。
後ずさったバケモノを追って前に出る。
盾の上端を顎にぶつけ、俺とバケモノを一緒くたに撃ち抜く大火球。
右肩を食い千切られ、カウンターの一撃が奴の鼻っ面を叩き割る。
複眼じみた眼球に、指を突っ込んで。
「鎔鉱刀」
瞬時に生成したナイフを白熱させて起爆。
高温の金属片にドタマを吹っ飛ばされ、負傷を感じさせない尾の刺突。
正面からガードをぶち抜かれ、閃いた鈍色の輝きが、俺の両足を刈り取った。
即座に再生して右腕を殴り、まるで解けるようにして消えていく刃。
物理的に収納されている機構というよりは、高温・高圧の力場のようなものらしい。
蒸気を噴き上げる全身のパイプから判断して、焼き切る類のモノのようだ。
常時発動できるような代物ではないのが救いか。
大口を開けたバケモノを振りかぶった鉄骨で迎え撃ち、叩き伏せ。
「抜刀術・錆び腐れ!!」
「全力で突け、カピターノ」
「廻り穿つ炎の剣・双砕!」
「援護射撃、撃ちます!!」
「喰らって死んどけ、デク人形が」
一文字の剣閃が奴の胴体を割断し、傷口を押し広げる人形の切っ先と、炎上した大鐘の連撃。
腐り落ちながら立ち上がったバケモノの、修復途中の脳天が粉砕され、突き刺さったパイプ手榴弾が爆ぜる。
土煙で遮られた視界の中、金属光沢が煌めき。
「万有引力!」
皆様を俺の背後に庇い、肉と金属が衝突する音。
龍眼の視界に、壁に張り付いて昏倒するフィリアが見えた。
と、同時に、喉の奥から鉄錆臭いものがこみ上げる。
…………肋骨と内臓がほとんど全損したか。
藁人形がうまく起動してくれてよかったが、戦力が一つ減ったのも事実。
鉄骨を投げて時間を稼ぎ、疑似再誕を発動。
視界の先に、鈍色のモノが放り投げられた。
赤茶けた錆になって消えていく奴の装甲と、何食わぬ顔で再生を得たバケモノ。
俺の防御を貫通できる攻撃が少ないことが唯一の救いだが、それにしたってヤバい事に変わりはない。
次の手をどう打つか思案を巡らせる中、バケモノの背中が裂けて。
「ッ~~~~!?ワンコ君!!全力で防げ!!!」
「かしこまりました!!」
切羽詰まった悲鳴が聞こえ、俺の胸に突き刺さる金属の槍。
射出装置らしき背中の機構から白煙が噴出し、宙に漂って消えていく。
咄嗟に張った障壁が、全て砕かれた。
恐らくは奥の手だろうが、この程度、なんてことはない。
むしろぶっ刺してくれようと、引っこ抜きにかかり。
「ガァッ!?」
鉄杭が爆ぜ、俺の右半身が消し飛ぶ。
霞む意識で疑似再誕を使い、敵を見据え。
「オッ、オォ!!」
広範囲を薙ぐ払う弾幕を、万有引力で引き寄せた。
魔術で強化してあるのか燐光を放つ弾丸を喰らうたびに、肉が弾け、骨を砕かれる。
眼窩を掻き混ぜる鉛玉の感触と、飛び出たはらわたの寒々しい熱さ。
グラッと膝から崩れ落ちそうになるのを気合で耐え、踏みこみ。
喉の奥から粘ついたナニカが迫上がり、息を吐こうとした喉を乗っ取って滑り出る。
大空洞の床にばらまかれる血反吐と、ズタズタに裂けた服越しの、冷たく湿っぽい感触。
血のこびりついた、乾いた唇から、穴の開いた風船に空気を入れるような、間抜けな音が鳴る。
俺の喉をぶちぬいて壁に縫い付けた尾が、勢いよく引き抜かれた。
力の入らない体がズルリと滑り落ち、無造作な横薙ぎに吹っ飛ばされる。
2回、3回とバウンドし、仰向けに見上げる天井。
指先が、ピクリとも動かない。
………………油断し過ぎた、か。
いくら龍とはいえ、人化している時に殺されれば死ぬ。
生まれた種族にあぐらをかき、鍛錬と警戒を行った末路が、このザマだ。
まったく、兄として情けないにも程がある。
この程度でへばるようじゃ、アイツに、アイツらに合わせる顔がない。
男は根性、だ。
歯を食いしばり、気合で立とうとして、急に力が入らない。
苦労して視線を下げ、脛を突き破って骨が飛び出ていた。
反対側の脚も、途中で変な方向に折れている。
足が折れてちゃ、立ち上がれない。
なるほど、道理だ。
なにやらガヤガヤと聞こえるが、寝かしてくれ。
落胆とあきらめ、途切れ途切れの意識の中で、ゆっくりと目を閉じて。
「………………?」
俺の唇に、なにか、やけに熱くて柔らかいものが押し付けられた。
甘く湿った、全身に活力が流れ込むような感覚。
一度離れたソレが口の中に滑り込み、まるで貪るように、こびりついた血を拭われる。
脳天から指先が次第次第に熱を帯び、止まっていた心臓がバネ仕掛けのように蠢めき、全身に血を巡らせるのを知覚した。
傷口が焼けるように熱くうずき、再生していく。
酔ったような全能感のままに、立ち上がり。
「随分と遅いお目覚めね、クロ?」
「申し訳ございません、リーンお嬢様、遅くなりました」
渾身の一撃が肉迫していた奴の装甲をぶち砕き、そのまま殴り飛ばす。
俺の隣でリーンお嬢様が悠然と微笑み、唇についていた赤いナニカを舐めとった。
若干ドギマギしつつ、奴隷の首輪に手を添えて。
「あわせて頂戴、クロ。嗜虐趣味・猛獣使い」
「起動・被虐首輪…………!!」
お嬢様から俺に与えられた遺物、被虐首輪は、単純なや罵倒、拷問に折檻、動物扱いなど、主人から人間扱いされなかった経験を記録し、それに応じて魔力を発生させ、着用者の能力を底上げする効果を持つ。
それに合わせてリーンお嬢様の暗黒属性魔術で俺の体を操作することで、一時的な超強化が可能になるのだ。
両手を床につき、四足獣のように構え。
「突撃しなさい!!」
ゆるりと腕が振り下ろされるのと同時、床を踏み砕いて全力の突撃。
壁にめりこんでひしゃげていたバケモノへ突貫。
振るわれた腕刃を正面から突破し、そのまま壁へ叩きつける。
直後、風切り音が響いて。
「斬り裂いて突き崩しなさい!!」
手刀一閃、頭上から降った尾を斬り飛ばし、流れで放った貫手が、金属製の頭蓋を貫いた。
そのまま内部構造を引きずり出し、握りつぶす。
奴の尾が俺の喉へ繰り出され、あべこべに尾針が砕け散る。
爪牙の連撃を片腕だけで受け止め、ラリアット。
雑に振るったただの殴打が、右肩をグシャリと抉り潰す。
首根っこを引っ掴み、巨体を持ち上げ。
「砕きなさい!」
踏み込み、渾身の上段回し蹴り。
背部装甲を完全に捉えた爪先が、金属板を粉砕して叩き割る。
続けざまの掌底が奴の腹を撃ち抜き、掴んで投げ飛ばす。
腹の奥で熱が渦を巻き、吐き出した呼気の熱量が空気を歪める。
四肢が、ミシミシと音を立てて軋み。
「一気に決めるわよ!臨界超過・奴隷剣!!」
身体強化に回していた魔力の大半を拳に込め、錬成したのは特大の曲剣。
負荷に耐えきれず断裂した腕で、獲物をぶん回し。
「全力で防ぎなさい!!」
特大剣の軌道を無理やりに捻じ曲げて地面に突き立て、炸裂音。
刃の峰を貫通した鉄杭の先端が俺の右肩を裂き、衝撃にぶっ飛ばされて壁に激突。
後頭部に走る激痛に目を見開き、朦朧とする意識の奥で、ナニカが咆哮をあげた。
周囲の大気が渦を巻き、バケモノの眼前に生まれる、小さな太陽にも似た火球。
深紅から緋色、白へと色合いを変えて、大空洞の暗がりを染め上げる、圧倒的な熱量。
回転し、収束し、膨れ上がるソレが、ひときわ眩しく光り輝き。
「自爆しろっ、パンタロネ、カピターノ!」
悲鳴じみた絶叫が響き、バケモノに絡みついた人形2体が、文字通り爆発四散。
怯んだようにチャージが強制終了され、バケモノのアゴで暴発。
上半身を吹き飛ばされて、それでもなお、即座に再生を開始するバケモノ。
腰だめに構えた刃を叩きこみ、横薙ぎの一撃。
再生途中の上半身を切り裂き、タックルをもろに喰らった。
思いっ切り吹っ飛ばされ、壁に激突。
咄嗟に曲剣を掲げて防ぎ、防御しきれずに押し切られた。
ズドンと腹に突き刺さった爪を、引き締めた筋肉の圧力で捕まえて。
「抜刀開闢・十文字」
「特殊弾装填・死金属弾!!」
キラリキラリと閃いた十文字の剣撃がバケモノの体を寸断し、壁に跳弾した弾丸が、奴の脳天からケツまでぶち抜いた。
勢いあまって倒れ込むアサカ様と、魔力欠乏でぶっ倒れるミカ様。
体勢を崩したバケモノを蹴飛ばして、大上段から刃を振り下ろす。
そのまま2撃、3撃と叩きこみ、大きく振りかぶった4発目が直撃する寸前で、横合いからの衝撃に弾き飛ばされた。
「ッ、また、厄介そうなモンを!!」
バケモノの体表から滲み出た水銀状の半流体が、まるでバリアか何かのように高速回転しつつ奴を覆っていた。
強度検証のつもりで足元のガレキを投擲し、硬質な音を立ててガレキが吹っ飛ばされた。
まるで焼き切れたように体積が半減している。
全方位をカバー可能な攻性障壁、といったところか。
見え透いた時間稼ぎだが、回復されるとマズい以上、一気に決めるしかないな。
現状動けるのは、俺とリーンお嬢様と人形抜きのカティア様、ダメージが抜けきっていないのかフラフラのフィリアだけ。
そのリーンお嬢様も、嗜虐趣味の反動で疲労困憊の様子。
しばらくは、まともな戦闘は無理だろう。
…………被弾覚悟で押し切って、そのまま切り殺すか。
剣の柄を左手で逆手に持ち、右手の甲を前面に押し出す。
覚悟を決めて、全力で踏みこみ。
「おい、ペット。あの流体装甲は破壊してやる。お前は本体をブッ殺せ」
「…………正気ですか?」
明らかに青ざめた顔色のフィリアが、俺の斜め後ろに突っ立っていた。
俺の茶化すようなセリフを気にも留めず、左腕を突き出すその様子には、ふざけたところは見受けられない。
恐らくは、なにかとびっきりの隠し玉でもあるのだろう。
「なるほど、俺はどうすればいいので?」
「カウントスリーで突っ込め。…………恐らくだが、奴のガードを剥がせる時間は20秒程度だ。その間にケリをつけろ」
「了承しました。フィリア」
防御体勢を解き、構えていた大曲剣を肩に担ぐ。
ディフェンスを捨てて、全速力で突っ込み。
「援護飛ばすよ!起動・多重歯車砲!!」
「感謝します!!」
回転流体の一部が解け、俺を狙って繰り出される、無数の流体金属の槍。
ハリネズミ手前の俺の頭上を鉄杭の群れが飛翔し、金属同士がぶつかりあい、砕き合い、大空洞に火花が散る。
直後、まるで蛇のように軌道を曲げた切先に、どてっぱらをぶち抜かれた。
ヤスリのように神経を削る灼熱と、傷口から流れ込む溶融した金属が、俺の体を猛烈な速度で侵食していく。
動きを停めた俺の右ひざと左腕に金属が突き刺さり、無理矢理に踏み出した足と奴隷剣の重さに負けた腕が、バキンと硬質な音を残して砕けた。
神経をシェイクされる感覚に呻き、障壁まであと一歩のところで、刃が地面に突き刺さる。
そのまま、ぐらりと倒れ込んで。
「連鎖崩壊線、くらった相手は死ぬ!!………ってな?」
ふざけた声音が聞こえて、次の瞬間、鈍色の障壁が消滅した。
振り返れば、白煙を上げる金属製の左腕を難儀そうにぶら下げ、無理矢理作ったような笑みを浮かべるフィリア。
無事な足で踏ん張り、剣の柄を咥えて、咬筋力と首の筋力で引っこ抜く。
峰を手で掴んでぶん回し、体ごと倒れ込む渾身の一太刀。
装甲を叩き壊す確かな手応えの中、フル稼働した背筋で刃を突きこみ、ありったけの魔力を流し込んで。
「奴隷撃!!!」
奴の正中線を貫いたまま、奴隷剣に使用していた全魔力を解放。
一切合切を消し飛ばす魔力爆発が、奴のボディーの8割強を粉微塵に砕く。
爆破の反動で吹っ飛ばされた視界に映る、さっきまで値は比べ物にならないぐらいゆっくりと、だが確実に再生しつつあるバケモノの姿。
ほとんど死に体の体で、拳を握りしめ。
「双天襲!!」
金色の閃光が奔り、バケモノを貫く。
両拳を前に突き出し、残心するお嬢様の背後で、燃え尽きたようにバケモノが爆ぜた。
次回予告
ハプニング続きの迷宫踏破訓練を終えた主人公。
想定外の苦戦に実力不足を痛感した奴隷は、あることを決意して────?
「お嬢様。しばし、お暇を頂きたく」
「え?」
次回、最終話。「竜の帰郷」
(薄々気づいてると思いますがこの次回予告は九割九分九厘ネタです。なに?あからさま過ぎて今更だって?君みたいな勘のいい読者は嫌いだよ。伏線頑張って張ってもすぐ潰してくるから)




