メイズ・アサシン・GO to ABYSS
メイドインアビスって、面白いですよね。タマちゃんが一押しです。
迷宮6層、祭祀場。
石畳の大広場に乱立する石柱と、洞窟めいた壁。
壁に掛けられた青松明の燐光が辺りを照らす中、中央には黒曜石の祭壇と、そこに安置された6本の杖。
この杖の中のどれか1つを手に取れば仕掛けが作動し、門番との戦闘が始まるらしい。
「皆様。俺が杖を回収しますので、戦闘準備を」
「みんな、打ち合わせ通りに行くよ。門番出現後カウントツーでボクとミカちゃんが攻撃開始、ワンコ君が足止めしてる間にアサカ君が斬って、リーンが突っ込んでゲームセットだ」
「クロさん、アサカ君、前衛、お願いします」
「さっさと片付けて、打ち上げパーティーとしゃれこみましょう?……………クロ、やりなさい?」
「かしこまりました、リーンお嬢様」
指示されるままに進み、杖を回収。
その瞬間、ガコンと機構が作動する音がした。
宝物庫に放りこむが速いか、大盾を構え。
「………………なにも、出てこないな」
「出現にタイムラグがあるとかは特に聞いてないんだけど…………」
「寝坊したんじゃないかしら?」
「いや、そんなことは無いと思いますけど」
「皆様。お気を付けください。なにか、異常事態が起きているようです」
本来出てくる予定のモノが出てこないということは、何か不測の事態があったということ。
龍眼を最大出力で発動し。
「………どうやら、問題なさそうです。予定とは違いますが、杖も回収しました。ここは、帰投するべきかと」
「早く帰りましょう。お風呂に入ってゆっくり寝たいわ?」
「えぇ………それでいいの?門番から素材取ろうと思ってたのに…………」
「確かに拍子抜けではあるが…………ミカのリスクが減るなら問題ないか?」
「というか、そんな事ってあるんですか?」
「ここのような迷宮は、それそのものが太古の遺物のようなものです。全容が解明されていない以上、このような状況も、ありえない話ではないでしょう」
「…………とりあえず、さっさと帰ろうか。長くいても意味はないみたいだし」
ひとしきり周囲を警戒してから、エレベーターに向かいだす皆様。
祭壇に背を向けて、俺もエレベーターの方へ歩き出し。
「死ねよ、このアバズレが!魔術の指輪・襲火の矢!!」
空を切って飛ぶ、芥子紫色の炎の弾丸。
刺し穿つように飛翔し、リーンお嬢様を直撃する軌道を描いたソレを大盾で防ぎ、鉄球投げ。
金属塊が、実行犯────金髪のクソガキ────の左足をちぎり飛ばした。
盾を放り捨てて突撃し、肩を掴んでぶん投げ、叩き伏せる。
武具創成・突剣で刺剣を作成し、手足を地面に縫い留める。
悶絶するソイツの喉を締め上げ、そのまま絞め落とした。
確保、完了。
「……………えっと、ワンコ君。ソレ、なに?」
「先ほどからずっといたので警戒しておりましたが、案の定仕掛けてきたので制圧しました」
「そうか。自分は気づけなかったな…………ふがいない」
「上位魔術での隠蔽です、仕方ないでしょう。今は無理でも、いずれ気づけるようになれば問題ないかと」
アサカ様が落ち込んだように言うが、実際、龍眼を使用していなければ気づけなかった。
精進しなければ。
「というか、クロさんは気づけたんですね……………」
「クロの探知能力は野生動物以上よ?この程度、余裕に決まっているわ?」
「ワンコ君さ、ほんとに人間?実は獣人だったりしない?」
「さぁ、どうかしら?」
コテンと可愛らしく小首をかしげるリーンお嬢様。
獣人どころか中位の龍だが、黙っておこう。
確か。
「知らぬが仏………だったか?」
リーンお嬢様がそんなことを仰っていた。
世の中には、知らない方がいいこともあるという意味だったはず。
ヴァルハリエ家の一人娘として、色々と、社会の裏を見てきた人だ。
影通りを牛耳る大貴族の令嬢は、言うことが違う。
「ともかく、連行して口を割らせましょう。リーンお嬢様、帰宅次第、地下の拷問室の使用許可を」
「好きに使いなさい。私を狙った以上は、ソイツも死ぬ覚悟はできていたはずよ?」
「えぇ………」
「そもそも誰なの、このバカ?心当たりある?ボクは知らないけど」
「………コイツ、自分とミカを襲った奴だ」
苦虫を嚙み潰したようなアサカ様の声音で、思いだした。
俺がミカ様とアサカ様を助けた時に、金玉を蹴り潰した奴だ。
もう一人いた気もするが、よく覚えていない。
………………まぁ、なんでコイツがいたのかはわからないが、動機はなんとなくわかる。
「逆恨み…………でしょうね」
「逆恨み?」
「はい、カティア様。俺が以前、コイツの金玉を蹴り潰したのを逆恨みしたのかと。なぜリーンお嬢様を狙ったのかはわかりませんが」
「クロ殿には勝てないと踏んだから、だろうな。腑抜けた玉無しめ、反吐が出そうだ」
「アサカ君、悪人面になってるよ?」
「それにしても、コイツ、頭悪い事するわね。クロ、地獄を見せてやりなさい?」
「かしこまりました、リーンお嬢…………お嬢様?」
ちょっとお嬢様には見せられないような顔のアサカ様から目を逸らし、ちょっとお嬢様には見せられないような顔のお嬢様と目が合った。
……………いや、なんというか、ここまで悪人顔のリーンお嬢様も珍しい。
だが、それがいい。
思いっ切り踏みつけられたまま罵倒されたい。
いや、そうじゃなくて。
「リーンお嬢様、僭越ながら早急に撤退すべきかと。この程度のザコが1人で6層にいることもそうですが、コイツは魔術の指輪を使いました」
魔術の指輪は、さまざまな魔術を封じた使い捨ての魔法道具だ。
使える魔術の格は、禁呪クラスの大魔術を封じたものから、多少の才能があればサルでも使えるようなものまでピンキリだが、最低でも金貨1枚は下らない。
お嬢様に向けられたアレの価値は不明だが、少なくとも、大貴族でもなければおいそれと使える代物ではないはず。
つまり。
「恐らくは、コイツ以外に外部の協力者がいます。そいつが誰かはわかりませんが、この迷宮に潜伏している可能性が高いでしょう。警戒は必須かと」
「へぇ、オレに気づいたんだ?チビのくせに頭回るのな?」
銃声、轟音、衝撃。
次の瞬間、俺のどてっぱらから、血が噴き出した。
「クロさん!?」
「問題ございません、ミカ様。かすり傷です」
即座に障壁を展開して、ナイフで傷口から弾丸を抉りだし、疑似再誕を発動。
傷口を修復しつつ龍眼を使い。
「…………出来れば、所属と名前を早急に明かし、投降していただけないでしょうか。そうしていただけるのなら、最低限生きていけるだけの権利は保証いたします」
「ワリィけど、お貴族様のペットになる気はねぇんだ。そっちこそ、さっさと死んでくれよ。墓前に酒ぐらいは備えてやる」
何もなかったはずの虚空から滲み出るように現れたのは、暗い藍色の髪を雑に束ねた、一人の女だった。
灰色の中折れ帽と、真っ黒なトレンチコート。
サングラスで隠された目元とニヤケ笑いに、やたらと胸元を強調する構造のスーツ。
艶消しの塗られた拳銃を左手で弄び、迷宮には似つかわしくないハイヒールが、石畳の床を踏み鳴らす。
襲撃者の正体は不明だが、分かることが1つ。
「失礼ながら、公然わいせつ罪で自首されたいのなら、迷宮ではなく憲兵局へ出頭されることをお勧めいたします。もし必要なら、案内いたしましょうか?」
「いらねぇよ。誰が痴女だ。撃つぞ」
「ご自覚がおありで?」
「…………」
拳銃のグリップが軋むほどに握りしめ、途端に押し黙る襲撃者。
珍奇な服装の理由は不明だが、どうやら地雷だった模様。
俺には関係ない話だ。
壁盾を前面に押し出し、散弾銃を腰だめに構え。
「まぁ、貴女の服の悪趣味はともかく、1つだけ忠告させていただきます」
「なんだ?命乞いなら聞か」
「5対1の状況で俺1人に集中するのも、いかがな事かと。ド3流の殺し屋さん?」
「ッ!?」
声にならない悲鳴を上げて防御態勢をとった襲撃者に叩きこまれる、横殴りの一撃。
盛大に吹っ飛ばされて壁にめりこみ、そのまま落下して倒れ伏す襲撃者。
大鐘をフルスイングした体勢のまま、自慢げに嗤うリーンお嬢様。
ざまぁみろ、だ。
「とりあえず、コイツらは私が回収するわ?色々聞かなくちゃいけないもの?」
「待って、リーン。金髪は学院に引き渡した方がよくない?」
「おいおいおいおい。なんで、オレがノックアウトされた前提なんだ?」
ドンッと音がして、俺の腕が宙に舞う。
熱風が吹き荒れ、迷宮の壁に刻まれる一文字の斬撃痕。
内蔵が逝ったのか口から血を吐く襲撃者が、巨大な機構の肩に担がれていた。
バッタのような金属の2本脚と、双剣を携えた長腕。
まるで蟲のように膨れた胴体では、いくつも飛び出た排気管が、不規則に蒸気を漏らす。
瘦せ衰えた老人か、さながらミイラを思わせる顔面の中央で、鈍く赤い光を放つ単眼。
機械で作られた不格好なキメラのような怪物。
「半自動駆動戦闘人形・パンタロネ。オレの半生をかけて造り上げた最高傑作だ。越えられるもんなら、越えてみやがれ」
鋼の塊が、雄叫びを上げた。
突っこんできた機械をいなし、連撃を叩きこむ。
鉄骨丸でブッ叩いてみたがへこむ様子はなし。
反撃とばかりに撃ち出された榴弾を盾で受け、吹き飛ばされた。
「ウッソでしょアレ!?ほとんど全武装遺物じゃん!!」
「おっ?わかるのか赤髪!この良さが!!」
嬉しそうに嗤った襲撃者が俺目がけて弾丸を連射し、盾を貫通して肉を抉る鉛玉の感触。
最大硬度で防御壁を張り、疑似再誕を発動。
直後、盛大に首の肉を持っていかれた。
単純な高火力攻撃────────いや、違うな。
「防御不能攻撃、ですか。どこで入手されたのか、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「初見で見抜くかよ……………。破壊砲。魔力を消費して、あらゆる防御を無効化する、オレの虎の子だ。盾を構えようが何をしようが、オレの射線上の全ては破壊され」
「特殊弾装填・散弾砲!」
「ぶっ壊せ!カピターノ!!」
「うぉあぁ!?」
なにやらドヤ顔で口上を垂れ流す襲撃者を、散弾状のつぶてが強襲した。
両手でグリップを握りしめ、しっかり狙いをつけるミカ様。
大げさに飛びのいた襲撃者を穿つ人形の剣。
振り回され、大上段から叩き下ろす大鐘が、パンタロネを圧し潰す。
大質量の金属塊をはね飛ばして跳びかかってきた鉄塊を大盾で防ぎ、双剣の連打を気合でしのぐ。
迷宮の床にゴリゴリ押し込まれ、押し返そうとした瞬間、引きこまれる。
俺の両腕と左足が割断され、錆び砕かれた。
「すまん、クロ殿!!」
「問題ありません!」
コイツ、アサカ様の加勢を予測して、俺を斬らせやがった。
脳味噌のないデク人形ではなく、知性のあるデク人形だと考えるべきか。
散弾銃を捨て、右腕を突き出し。
「牙!!」
魔術で編んだ不可視の牙が、パンタロネの片腕を切り落とした。
2撃、3撃と叩きこみ、装甲をわずかに刻んで躱される。
鉄骨丸をぶん回して投擲し、衝撃と轟音、そして火花。
誘導弾頭に迎撃されたか。
あんな物騒なものまで積んでるとは驚きだが、関係ない。
ぶっ殺すまで、だ。
「クロ、アイツを生け捕りにしなさい?」
「かしこまりました、お嬢様…………今、なんと?」
「遺物に精通していて戦闘もこなせておまけに美人で胸が大きい。こんな優秀な人材を殺すなんてもったいない事、出来るわけないでしょう?生け捕りにしなさい?」
「ですが、お嬢様」
「コレは命令よ?」
異議を申し立てようとして、酷く冷たく澄んだ、赤い月のような眼。
…………これは、テコでも動かないな。
「承知いたしました、リーンお嬢様。少々お待ちいただけますでしょうか?」
「あのステキな鉄人形の相手は私がしてあげる。好きに動きなさい?」
「どうか、ご武運を」
「そっちこそ気張りなさい。──────廻り穿つ炎の剣」
火炎を纏った大鐘がパンタロネの装甲板を粉砕し、床に叩き伏せる。
襲撃者がお嬢様へ拳銃を向けた瞬間に、全速力で突撃。
左腕を粉砕されるが、知ったこっちゃない。
やけに重い回し蹴りを左腕で受け。
「援護飛ばすよ!ワンコ君!!」
砕けた腕に魔術が絡みつき、駆動音をならして動き出す。
肩口を引っ掴み、相手の懐へ体を滑り込ませ、跳ね上げた。
そのまま投げ飛ばそうとして。
「吹っ飛ばせ、パンタロネ!」
「くぅっ!?」
可愛らしい悲鳴を上げたリーンお嬢様が、俺の方へ飛んできた。
進路にあるのはガレキの山。
リーンお嬢様を照準する、大型のバズーカーを思わせる重火器。
逡巡は一瞬。
襲撃者を放り捨て、リーンお嬢様を抱き庇い。
「忠実な飼い犬なら、そう来ると思ってたぜ?」
「アッ、ガァッ!?」
ズブリと音がして、神経を焼いた鉄の棒で削られるような、熱を帯びた激痛。
俺の腹に突き刺さった鉄杭と、その先端で瞬く光芒。
嫌な予感に従い、お嬢様を放り投げ。
「知ってるか?ドリルは最強なんだよ」
視界がぶっ飛び、意識が途絶える痛み。
白目を剥いて卒倒しそうなのを堪えて、砕けるほど歯を食いしばり。
「筋肉大膨張」
「ウッソだろオイ!?」
筋肉を肥大化させた圧力でドリル刃を粉砕し、同じく肥大化させた両腕で襲撃者を抱きしめ、さば折りにかかる。
相手の肉と骨をへし砕き、破壊する、その確かな手応え。
そのまま、上半身と下半身を破断しようとして。
「オレを守れ、パンタロネ」
横合いから放たれた砲撃に吹っ飛ばされた。
血飛沫と肉片が飛び散る中、ほとんど瀕死の襲撃者と、疑似再誕で治療を終えた俺。
様子からして、右腕と肋骨が2,3本は折れていそうだ。
そもそもこっちは5対2だし、パンタロネとやらが大鐘の下敷きになっているので実質5対1。
……………流石に、この状況で戦闘を継続するとは思えないな。
「どうでしょうか、そろそろ投降していただければ、こちらとしても大変助かるのですが」
「だから言っただろうが、オレはペットになる気はねぇ。お貴族様に尻尾振るぐらいなら、舌ぁ噛み千切って死んでやる」
「ならば、何故、このような場所に?自身の主義主張に基づいて殺すのではなく、金の対価に人を殺そうとする段階で、すでに自由意思のない奴隷なのでは?」
「………ぶっ殺す。やるぞ、パンタロネ」
「皆様は機械人形の相手を!こっちは俺が受け持ちます!!」
静かに呟いて突っ込んできた襲撃者の連続蹴りを鉄骨丸で受け、下段から刈り上げる一撃を前に出て受け止める。
防御不能攻撃を連発できる手練れを相手取るには、皆様は少々脆すぎる。
襲撃者を行動不能に追い込むか、パンタロネが動かなくなるまで時間を稼ぐのが、俺の役目だ。
鉄骨でぶん殴り、こめかみに叩きこまれた回し蹴りを根性で耐え、殴り飛ばした。
「そもそも!テメェもあのパツキン貴族の奴隷なんだろ!?なら、オレと同じじゃねぇかよ!!」
「俺の存在意義は、リーンお嬢様の道具であり続けることです。金銭が目的の貴女とは違います」
「うるせぇんだよ!!」
八つ当たり気味に叩きつけられた前蹴りを鉄骨で防ぎ、返す一撃で叩き伏せる。
連撃をぶちこんで思いっ切りぶん殴り、突き出された銃身を払い落とす。
床に転がった拳銃を踏み砕き、一気に懐へ。
密着し、みぞおちに右掌の甲をそえて。
「鎧殺し」
握りしめた左拳を叩きこんだ。
東洋の小国に伝わるという戦闘技術の1つ、重装の鎧騎士にとどめを刺すための武芸と聞いていたが。
「なかなかどうして、便利なものですね」
「コフッ、ひュ…………て、めぇ…………ッ!!」
肺をやられたのか、うずくまってかすれるような呼吸を繰り返す襲撃者。
…………とはいえ、ここまでボコボコにして戦意を喪失しないのは想定外だった。
並の人間なら血反吐をぶちまけてくたばる程度の力で殴ったが、殺意は1ミリも衰えていない。
手足を砕いて縄で縛るか、暗黒系統の魔術で意識を奪うか。
あまり手荒なことはしたくない。
「とどめを刺すわけにはいかないしな」
………………正直言って、俺はコイツに、ある種の同族意識のようなものを感じている。
いや、正確に言えば、憧れか
誰の寄る辺も必要とせず、どす暗く粘ついた裏道を、自分の脚で踏みしめていこうとするコイツを、ほんの少しだけ羨ましいと思っているのだろう。
俺はお嬢様に仕えることだけを望んでいるし、それ以外の道など考えもつかないが、それでも、ふとした拍子に思うことがある。
『リーンお嬢様に拾われなければ、自分はどうなっていたのだろうか』
もしかしたら、別の誰かに仕えていたかもしれないし、犯罪者集団に加担していたかもしれない。
ただ言えるのは、幸運なことにそうはならなかったということ。
こんな仮定に意味などないし、この状況でするものでもない。
だからこそ。
「死か降伏か、お好きな方を選んでください」
「………お前、マジで言ってんのかよ。頭おかしいんじゃねぇのか?」
「リーンお嬢様が貴女を引き込むように命令なさいました。あの方は気まぐれではありますが、無為な事はなさいません。貴女の技術にそれだけの価値があると判断されたのでしょう」
「……………あぁ、そうかい。光栄だね」
膝をついたまま荒い息を吐き、苦笑いの襲撃者。
しばらく虚空を眺め、何かを悟ったようにモゴモゴと呟く。
ズンッと腹の底に響く轟音と、地響き。
振り返れば、パンタロネの巨体が地面に沈んでいた。
いろいろとズタボロの皆様に比べ、金属のボディーには傷一つない。
「……………パンタロネを停止させた。降参だ。命には代えられないしな」
「こちらとしても、そう言っていただけてありがたいです。正直な話、パンタロネ────あなたの作った機械人形の相手は、今の皆様には少々荷が重すぎたようなので」
「だろうな。俺の生涯をかけた傑作だ、そう簡単に、壊されてたまるかよ」
「とりあえず、当面の間、貴女を屋敷の座敷牢で監禁させていただきます。しかる後に研究に必要な物資や金銭、設備面での援助を開始」
「ああ、ちょっと待ってくれ」
俺の話を遮った襲撃者が、左手を懐に突っ込み、紙煙草を口に咥えた。
黙って俯いたまま、沈黙する襲撃者。
何をしたいのかよくわからない。
「すまんが、火をつけてくれないか?ヤニが切れた」
「……………かしこまりました」
魔術で小規模な火を出し、煙草の先に付けた。
迷宮の床に座り込み、深々と煙を吸い込む襲撃者。
重傷者が喫煙というのもどうかと思うが、あまり言わない方がいいだろう。
灰を落とし、満足そうに紫煙を吐いた唇が、性悪な三日月のように吊り上がる。
「流石ね、クロ。この土壇場での人材確保、褒めてあげるわ?」
「光栄です、リーンお嬢様」
リーンお嬢様に、褒めていただけた。
なんというか、これだけであと100年は戦える気がする。
「ねぇ、貴女。名前を教えてくれるかしら?」
「組織での活動名は回転草。本名は売った」
「そう、ね…………フィリア、なんてどうかしら?」
「…………は?」
「貴女の名前よ。タルタルウィードなんて舌を噛みそうな名前、呼びづらくてしょうがないわ?」
「………おい、ペット。お前、ずいぶんと苦労してるだろ?」
「そんなことはございませんが」
「どうだか」
愉快そうにケタケタと笑った襲撃者が、灰の長くなった煙草を左手で握りつぶした。
ヨロヨロと片膝をついて身を起こし、俺へ左手を差し出す襲撃者。
その手を握って、助け起こそうとして。
「魔術の指輪・地崩し!!」
血塗れ泥まみれ埃まみれの惨状で立ち上がり、腕を掲げる金髪野郎。
虚空に亀裂が走り、その奥から溢れ出す、翡翠色の閃光。
アレは、ヤバい。
全力で防御を固め。
「お前ら全員、道連れだ!!」
床がほつれ、ねじ切れるように消滅し、眼下に覗く奈落。
何かを掴もうとした手は、虚しく空を切った。
次回予告
おいでませ奈落ツアーに招待された主人公たち!
迷宮の底で待っていたのは、まさかのあの人物で──────!?
「いけ、ピカチ〇ウ!!アイアンテイル!!」
「ピギャアアァス!!」
「クロ!すてみタックル!!」
「え?」
「すてみタックル!!」
「え?」
次回「スタンド・バイ・ミー」、「さよなら」




