バックボーン・或る殺し屋の憂鬱
閑話です。ストックがつきそうなので、しばらくは執筆に専念します。
少しだけ投降頻度が下がるかもです。
よろしくお願いします。
「…………まったく、損な立ち回りだよなぁ」
今になっても何が悪かったのかはわからないが、1つだけ言えることがある。
この国で平民に生まれるということは、何をやっても報われないことが確定するということだ。
クソみたいな話だが、それが事実。
死ぬような思いをして迷宮から発掘した遺物はタダ同然で買い叩かれ、自分の半生を注ぎこんで完成させた研究理論は、別の誰かの手柄として発表された。
人の皮を被ったハイエナが蠢くこの帝国では、オレのような平民は、決して報われない。
知識としてそれを知っていたとしても、理解している人間は驚くほど少ない。
まだ若くてバカなガキだったオレが、それを認識したころには、全てが手遅れだった。
法外な学費と身分制度に縛られ、飼い殺し。
どれだけ努力しても、探求しても、報われることは無い。
だから、オレは逃げた。
持って行けるだけの研究資材と最高傑作だけを持って、逃げた。
この国の外に出れば、きっと、オレの才能と努力が報われると信じて。
そして。
「結局このザマって訳だ。なぁ、笑えるだろ?パンタロネ」
「……………」
「相変わらずだんまりか。頼むから、なんか喋ってくれよ。オレが悲しくなるだろ」
根無し草。
オレが所属している、非合法な高額依頼や奴隷の売買を専門で手掛ける犯罪者集団の名前だ。
帝国外に拠点があるせいで、本来なら帝国での仕事は請け負っていないのだが、今回の依頼は話が違った。
通常の数倍近い金を積んでおいて、依頼内容は貴族のガキを殺すだけ。
しかも、依頼主も貴族のガキときたもんだ。
きな臭いことこの上ないし、何故、組織の上層部がこの依頼を受けたのかも謎でしかないが、分かることは一つ。
任務失敗は、オレにとって、すなわち死を意味する。
相手に恨みがあろうがなかろうが、殺せと言われれば赤子でも殺すのが、飼い犬の仕事。
たとえそれが、大公爵家の令嬢であろうと、いや、上流階級のガキだからこそ、殺し自体にためらいはない。
ためらいがあるのは。
「アイツラ、めっちゃ強いからなぁ……………」
迷宮に入ってからずっと監視していたが、正直言って、連中の強さは異常だ。
標的の金髪を筆頭に、黒髪のサムライと亜麻色の拳銃使い。
あの3人、正面から挑んでも、不意を突いても、勝てる未来が一切見えない。
赤髪の女はまだマシだが、お供の人形がマジでヤバイ。
あのマリオネットに内蔵されている魔術式が、どのタイプのモノかまるで分らない。
魔法道具に刻まれた魔術式がわからないというのは、それだけでマズい。
相手の手の内がわからない以上、警戒は必須。
一線級の遺物ほどの性能はないだろうが、それでも脅威だ。
とはいえ、やりようはいくらでもある。
相手が殺しに慣れていないクソガキなら、なおさら。
問題は。
「ホント、なんなんだよアイツ。イカれてんだろ」
一番ヤバいのは、金髪の奴隷らしき、黒髪のガキ。
よくて14,5歳にか見えないチビのくせして、異常なぐらいに強い。
オレが発掘した遺物の中でもトップクラスの連中が、まるでカカシみたいに壊された。
あのレベルに達するのに、一体、どれだけ殺してきたのやら。
幸い、隠形には気づかれなかったようだが、得体が知れなさすぎる。
魔力のリソースをほとんど隠密に消費したせいで、断片的な視覚での観察しかできなかったが、それでも十分に伝わってくる生命の危機。
まるで、なにかとてつもないバケモノが人のマネをして遊んでいるような、そんな恐怖だった。
だが、それでも、やらなければオレは死ぬ。
策は練った。
準備も終えた。
後は野となれ山となれ。
「幸運を、か」
特注品の一服に火をつけて、肺一杯に吸い込んだ煙を吐き出す。
薄暗い迷宮の天井へ立ち上る紫煙が、尾を曳いて、揺らぎながら薄れていく。
オレが新人だったころ、相棒が教えてくれた幸運祈願のおまじない。
死神と疫病神は、煙草を嫌うんだったっけな。
そんなことを言っていたアイツが、運悪く降ってきた落石でくたばったのは、内緒の話。
「まっ、気にしないでいいな」
煙草なんざ、吸いたい奴が吸いたい時に吸いたいように吸えばいい。
ゆっくりと強張る指の感触。
頭の奥が冷たく冴えていく感覚に自然と口角が吊り上がり、ちょっとした酩酊感。
吸殻をブーツで踏んづけてもみ消し、武装を確かめる。
次第に大きくなるエレベーターの駆動音が、戦闘開始が近いことを示していた。
………こんなふざけた任務で死ぬ気は、毛頭ない。
絶対に、殺して、生きてやる。
「行くぞ、パンタロネ。たのしいたのしい、お仕事の時間だ」
垂れ下がる前髪を振り払い、脇に置いていたグレーの中折れ帽を目深にかぶる。
椅子に使っていた門番──────森鋼合金製のゴーレム─────の残骸から立ち上がった。
…………腰が死ぬほど痛い。
明らかに座るものを間違えてしまったが、仕方ない。
「………………無事に帰れたら、整体院に行くか」
溜息1つ、銃に弾倉を叩きこんだ。
次回予告
迷宮最深部に到達し、杖を回収した主人公たち。
そんな彼らの前に立ちふさがるのは、焼き焦がすような憎悪を目に宿した、黒い影─────
「貴方、名前は?」
「覚えているだろう!貴様らに不能にされたものだ!!」
「だから名前言えよ」
「地獄からの使者!スパイダーマッ!!」
「デッデーデン!デデデン!!」
「だから名前言えよ」
次回「正義のヒーロー、ブレイキンボール!!」




