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第4話 白髪令嬢とモーゼン伯爵

 

 食事の後、兄弟に連れられてこの屋敷の主人の執務室に来た。

 何者かもわからない私に部屋と食事を提供してくれたのだ。当然、挨拶して感謝を伝えなければならない。


「失礼致します。例の女性をお連れしました」


 ロベルトとアステルに付いて執務室に入ると、品の良い中年の男性が座っていた。


「私達の御主人様、モーゼン伯爵だ」


 アステルに紹介される。

 もしやとは思っていたが、ここはモーゼン伯爵の屋敷だったのだ。


「ヤーレスツァイト侯爵の娘、セレーネと申します」


「侯爵の娘!?」


「静かにしろ、ロベルト」


 私は助けてくれたことを伯爵に感謝し、伯爵と兄弟に今までの経緯を話した。

 この人たちなら、信頼できる。


 伯爵の話によると、モーゼン伯爵領には巡察使が来るという通達はされてはいたが、『白髪令嬢はくはつれいじょう』である私が来ることまでは知らなかったという。

 兄弟は当初は驚いていたが、今は黙って私と伯爵の話を神妙な面持ちで聞いていた。使用人の立場で勝手に口出しをしない、ということだろう。


「まさかあの大将軍、ヤーレスツァイト侯爵のご令嬢が巡察使として来られるとは驚きですな。貴女の名声は我が領地にも届いておりますぞ」


 モーゼン伯爵が少々大げさに話してくる。


「そんな。私は特別な力の無いただの娘です」


「謙遜なさいますな。戦場で貴女に助けられた者も多いのですから」


 そういえば、モーゼン伯爵領の兵と共に戦ったこともあったと思い出しながら、伯爵に伝えるべきことを話す。


「私が命を狙われながらも閣下の領地までやってきたのは、この領地に危機が迫っているからです。もちろん自分の身が危なかったこともありますが」


「ほう、それはどんな危機でしょうか?」


 伯爵が興味を示すように身を乗り出した。

 兄弟は何か察したような顔をしている。


「おそらく、皇太子とヴィオレッタ、そしてグラスブルク公爵家はこの領地を攻める気です」


「ふむ、確かにここは豊かな土地です。それに隠さずに言うと、最近になって領内の山中に金鉱脈が発見されたのです。まだ調査中で採掘はされていませんが……」


 金山があるとなると、狙われる理由としては充分すぎる。

 資源を奪い合うための戦いは幾度も見てきた。


「帝国の巡察使として派遣された私を殺し、モーゼン伯爵の仕業ということにして反逆者の罪を着せたかったのでしょう。そうなれば大将軍である父、ヤーレスツァイト侯爵に反逆者の討伐を命令できます」


「成程。しかも娘を殺されている以上、迅速に出兵し討伐の中心にならなければ侯爵の名誉に傷が付く。戦争になっても隣接しているグラスブルク公爵は兵力をほとんど使わなくて済むということですな」


「ええ、おっしゃる通りかと思います」


 ただし、父が皇太子たちの狙い通りに素直に動くとは限らないが。

 

 伯爵は今後の事を協議するために、領内にいる民の代表者を集めるという。

 私も協議に参加するため、しばらく屋敷に滞在させてもらう事となった。

 




 兄弟と共に伯爵の執務室から退出した後は、応接室でモーゼン伯爵夫人に挨拶をした。

 夫人はとても優しく、親身に私を心配し、服などの生活に必要なものを用立ててくれた。

  

 夫人との対面も終始和やかな雰囲気だった。

 私が眠っていた部屋をそのまま滞在中の自室として使わせてもらうことになり、専属の侍女まで付けようとしてくれたが、侍女の方は断った。

 ヤーレスツァイト侯爵家にも侍女は居たが、私は戦場に出ていることが多く、侍女が近くに居ない期間の方が長かった。身の回りのことはある程度自分で出来るつもりだ。

 

「伯爵も伯爵夫人も、とても立派な方たちでした」


 応接室を出て、廊下で兄弟に話しかける。

 彼らは使用人の立場をわきまえ、ここまでほとんど喋っていなかった。


「ああ、俺たちも子供の頃からお世話になってるからな!」


 ロベルトが嬉しそうに答えた。

 子供の頃からここで働いていたのか。


「おい、侯爵令嬢にその口の聞き方はやめろ。知らなかったとはいえ、先程は無礼な言葉遣いをし申し訳ございません。セレーネ様」


 アステルがこちらを見て姿勢を正して言う。


「いえ、お気になさらず。急に変わるのも違和感がありますし、むしろお2人がよろしければ前のままの言葉遣いで接して頂いたほうが安心できます」

 

「そうか! ありがとうセレーネ!」


「ならば、そうさせて貰うとするよ。ただしロベルト、御主人様や他の方の前では自重しろよ」


「もちろんさ、兄様」


 話しながら歩いていると、私の自室となった部屋の前まですぐに着いた。


「明日からは領内から人が集まってくる。忙しくなるぞ。ゆっくり休むと良い」


「ええ。では、また明日」


「また明日な!」


 こうして、私は久々に人の優しさに触れながら1日を終えた。


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