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第11話 白髪令嬢とグラスブルク公爵家

 

 グラスブルク公爵とヴィオレッタの前に立つ私に、公爵が口を開く。


「何故だ……早すぎる。反乱ならば皇帝と皇太子を真っ先に討ちに行くはず!」


 そう思うのは無理もない。普通に考えれば皇族の方が優先順位は上だ。


「皇帝ならば王子たちが討ちに行かれました。大通りでの私の戦いの様子が伝わり、皇帝の護衛は皆恐れて降伏しましたので」


 私は2人にゆっくりと近づきながら言う。

 ヴィオレッタが叫ぶ。


「皇太子が宮殿に残っているわよ! 婚約破棄された恨みがあるでしょ? わたくしたちじゃなくてそっちを殺しに行きなさいよ!」


「皇太子宮殿にはすでに民衆が殺到して包囲されています。皇太子はもう逃げられないでしょうから、あなた方を逃がさないようにこちらから来ました」


 グラスブルク公爵が怯えたように私の目の前まで来た。


「頼む! 考え直してくれ! 助けてくれれば全面的に政治に協力しよう! 我らの家は昔から大臣の職に就いてきた。グラスブルク公爵家を失えば国が上手く回ることは無いぞ!」


「結構です」


 私は剣を抜いた。


「ま、待て! 君に私の領地の一部と奴隷を与えよう! それに宝石でも高価な服地でも何でも言ってくれれば用意する! どうか!」


「奴隷? 貴族が領民を私的な所有物として酷使することは、前皇帝の時代に禁じられたはずですが」


「そんなものは建前だ! 君も使ってみろ、便利だぞ!」


 聞くに堪えない。

 私はグラスブルク公爵の首を斬り落とした。


「ひいぃ!」


 ヴィオレッタが悲鳴を上げて、その場にへたり込んだ。

 剣をヴィオレッタに向ける。


「動かなければ、痛みは一瞬です」


「ま、待ちなさい! わたくしを王子の兄弟に会わせて!」


 後ずさりしながらヴィオレッタが言う。


「何故ですか?」 


「ここで殺されるのは嫌! 兄弟のどちらかが新しい皇帝になるんでしょう? その方たちが私の話を聞いて、それでも処刑すると言うなら受け入れるわ!」


 何を話すつもりかは知らないが、ヴィオレッタが嘘をついたとしてもアステルもロベルトも簡単に信じるような人たちではない。会わせても問題はないだろう。


「良いでしょう。では貴女を連行します。拘束する道具がありませんから、私の後ろに付いて歩いてください。逃げようとすれば気配でわかりますので」


「ええ、もちろんよ。逃げないわ」


 ヴィオレッタが少し安堵した表情で、歩き出した私の後に付いてきた。

 




 皇帝の宮殿は帝都の中でもひときわ豪華で巨大な建物だ。

 玉座がある広い謁見の間に、アステルとロベルトは居た。

 

「セレーネか。その女性は?」


 アステルが問いかけてきたので、私が答えようとするとヴィオレッタが勝手に前に躍り出て話し始めた。


「わたくしはグラスブルク公爵の娘、ヴィオレッタでございます! おふたりの王子殿下にお会いできて光栄ですわ!」


 アステルが怪訝な顔をする。なぜ私に討たれていないのか疑問に思っているようだ。


「俺たちはセレーネと話さなくてはいけないんだ。悪いが少し静かにしてくれないか」


 ロベルトがヴィオレッタに言い放つと、ヴィオレッタは少し不機嫌そうに黙った。

 私は兄弟に報告する。

 

「グラスブルク公爵は私が討ち取りました。この様子だと皇帝も討つことが出来たようですね」 


「ああ、私がこの手で両親の仇を殺した。とはいえ皇帝はもう老人だった。もう生きる気力が無かったのか、私たちの両親を殺す命令をしたことを堂々と認めて、抵抗しなかったよ。やっと討てたのに何の爽快感も無かった」


 アステルがどこか虚しそうに言った。

 戦いとはそういうものだ。むしろ、それで爽快感を得るような人物は上に立つ者として相応しくないだろう。


「あとは、皇太子ですね」

 

「すまないセレーネ。それなんだがな……皇太子は暴徒と化した民衆に襲われて、すでに死んでいる。死体は皇帝と共に別室に置いてあるが、複数の人間に確認してもらった。本人で間違いないだろう」


 アステルは申し訳無さそうに私に語った。

 私が皇太子を直接討てなかったことを気にしているのだろう。


「謝る必要はありませんよ。私はこの手で殺したいほどは恨んでいませんでしたから。ですが、ここまで民衆に恨まれているとは思いませんでした。そんな人と結婚しようとしていたとは私も愚かですね」


「その通りですわ! こんな愚かな女はおやめになって、わたくしを妻とすべきですわ! さあ、皇帝になられるのはどちらのお方ですの?」


 突然ヴィオレッタが騒ぎ出した。


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