ある魔法使いと助手の異世界蹂躙記 もう手遅れだとか、遅すぎるなんてことは、ないんだよ と君は言った
俺は草原で大の字になって寝転んでいた。
色々と理由があり、今はもう何もしたくない気分なんだ。
そう、今更なんだ。もう何もかも手遅れになってしまった。それというのも、全部俺が悪かったのか? 解らない。
頭の中で堂々巡りをしているうちに、不意に俺の顔に影が差す。逆光でも解る、きらびやかな金糸のような髪。パーティメンバーであり、幼馴染のエルフ、ルシアだった。
「なーに黄昏てんのよ、あんたらしくないない」
「うるせー。俺はもう何もかも失ったんだ。信頼も……パーティも」
「だからヤケになってこんな所で時間潰してるの?ダッサダサー」
……相変わらず人の傷を抉るようなことを平気で言うが、絶世の美人は何を言っても大体平気だからいいよな。と我ながら僻みっぽくて思わず苦笑してしまう。
「何よ、いつもみたいに言い返してこないの?ないの?」
「だってよ……俺が今、何ができるってんだよ」
完全に拗ねたような俺の態度に、ルシアは心底呆れたように大きく溜息をついた。
「あのね。アンタがどう思ってるかは知らないけど。この世界はさ」
そこで、ルシアは俺のわざわざ俺の隣に腰を下ろして、碧空を見上げて、力強く言い切った。
「もう手遅れだとか、遅すぎるなんてことは、ないんだよ」
なんてことのない言葉。反論しようと思えばいくらでも思いつく。知ったふうな口をきくなとか、お前に何が解るんだとか。でも、俺はそのどれも選ばずに、ルシアを見上げて口を引き結んだ。
そんな俺に向けて、ルシアは顔を合わせて、目を笑みの形に変える。
「まだ間に合うよ、エリオン」
「本当にそう思うか? ルシア」
「うん! だってエリオンの事一番解ってるの、私だからね」
「そう、か。じゃ、まあちょっと行ってくるわ!」
俺は寝転がっていた状態から足を大きく上げ、その反動で一気に立ち上がる。
「ちゃんと謝るのよ?」
「ああ、ペルルの下着盗んだのと、シャリアスの風呂覗いたのと、ルシアは――まあいいか。じゃ、行ってくる!」
しゅたっと手を上げてダッシュをしようとした所を、ルシアにガッシリと肩を掴まれた。
「あ、あのー、ルシアさん? このままだと皆の所に行けないなーって」
「ま て や」
「嫌です! だってエリオン絶対殺すって目してるもん!」
「何がもんだこのドスケベ外道! アンタそんな事本当にしてたの!? てっきり誤解だと思ってたのに――いや、待って。私には何をしたって?」
「そのことはいいじゃないですかー」
「簡潔に」
「はいっ! 寝てる間に胸触りました!」
俺の正直かつ大胆な告白に、ルシアは顔を真赤にして腕を振り上げ――。
「手遅れだわこのアホタレーーーー!!!」
碧空に、小気味よい平手打ちの音が響いた――。