1:此処は何処でしょう?
「花嫁様、花嫁様。ご気分は如何ですか?」
眠い。もう少し寝かせて欲しいのに、何かに身体を揺さぶられる。放っておいて、と腕を伸ばしてみたら――ぐにゃりと滅茶苦茶不思議な感覚のものに触れた。
「ひゃ、っ!?」
思わず一気に意識が覚醒する。そして、慌てて辺りを見回してみるとそこには。
「あぁ、お目覚めになりましたか。花嫁様。良かった。もうお城に着きましたよ」
スライム、と表現するしかない生き物が、人の言葉を喋ってました。
「っ――!!?」
思わず上げそうになる声を必死に抑える。え、ナニコレ。怖いんだけど。ちょっと待って、何がどうなってるの?
意識を失う前のあのやり取りは何だったのか。夢? それとも今こうしているものまで全部夢なのか?
「花嫁様? どうかされたのですか?」
というかなんで私は、このスライムさんに花嫁だなんて呼ばれているんだろう。花嫁、花嫁。私の認識が間違ってなければ、それはこれから結婚する、または結婚した後の人物に使われる言葉だった気がするんだけど。
恋愛をしてみたいと言ったらいきなり結婚とか、いやそもそも此処は何処なのか。どうして私はスライムと馬車っぽいものに相乗りしているのか。
というか、さっきこのスライム、城に着くって言っていたような?
「……あの、状況を説明して頂けませんか」
私に理解できる言葉を使っているのならば、と目の前のスライムと意思疎通を試みてみる。するとスライムはその身体をぷるぷると小さく揺らしてから、喜んで。と多分笑顔を浮かべて居たぐらい愛想のいい返事をしてくれた。
「貴女は、魔王様の花嫁に選ばれました。この世界には時折転生者が現れるのですが、大概彼らは魔王様と敵対する勇者に選ばれます。ですが今回の転生者……貴女はその素質をお持ちでないようで。ですがその容姿はあまりにも美しく、勇者になるならば先に殺してしまおうと様子を伺っていた魔王様が貴女を気に入られ、自分の花嫁にすることを決められました。だからこれから貴女は魔王様の居るお城に向かう所です」
理解が追い付かないというか、色々と突っ込みたいところが多すぎて頭が痛い。――私に勇者としての素質がない事は良い。別に勇者になろうなんて思ってなかったし、私の願い事的に多分チート能力は与えられないと思うし。勇者候補となりかねない転生者を殺す為に様子を伺っていた魔王も、まぁ仕方ない。自分の敵となるかもしれない存在を野放しに出来ないのは分かる。
だがその、魔王が私を気に入って、花嫁にしたい?
「どうしてそうなった!?」
いやいや、だって有り得ないでしょう。なんでそうなるの。美しい容姿って何? だって私はただの一般人でそれこそ美人とも呼べないような平凡な女だったんだよ? 誰かに告白されたこともないし。それこそ容姿を褒められたのなんて子供の頃の親視点の可愛いぐらいなレベルの。
「どうして、と言われても……魔王様の趣味ですので。私はもう少し肉付きの良い女性が好みですね」
「それは味の好みとしてじゃありませんか!? えぇなんで、なんで? 私の願いはどうなって、」
言い掛けて、嫌な予感が過る。――そういえば私、運命の相手を、人って限定したような記憶は、ない。
「さぁ、そろそろ着きますよ。花嫁様。魔王様に沢山可愛がって貰って下さいね」
「ひっ、」
だからってこれは、あんまりじゃないだろうか。運命の相手がモンスターとか、しかも魔王とかって。いやそんなジャンルもあった気がするけど、だからって自分がそうなるとか。――私はただ、普通の、欲を言えばイケメンとの甘酸っぱい恋愛をしてみたかっただけなのに。
こんな、こんなのって。
「ふざけるなーーーーーーーーっ!!!!」
やり直しを要求する!!