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第9章 防衛戦_3



「調子はどう?」


 一瞬、死臭の中に花の香りが流れ込んだかと思うと同時に向けられた声に、秋月は一瞬息を止めつつ、諦めたように吐息と共に返答を返した。


「見ての通り、不運ですが元気ですよ」


 実際の所、今まで滅多に起こらない事態を立て続けに経験している自身の運に関しては、彼自身も諦めていた。


「ならよかった。多分、運に関しては今後も好転することはないみたいだから諦めてね」

「そこは正直に言って欲しくなかったですね」


 運という計測不能な事を断言する少女だが、異様な説得力を感じるその言葉に、秋月は苦笑を浮かべるしかなかった。


「ま、悪運はあるみたいだから諦めなさいな」


 そう言って、彼女は構えたMP7を発砲。その痩身に反動を一切感じさせずに一連射すると、三角竜の向こうで狼種の獣が同一箇所の連続着弾で頭蓋を粉砕され、そのまま三角竜の死骸の背中から転げ落ちた。


「秋月、お前はその御方の護衛で下に降りろ」

「え? あ、了解です」


 弾持ちの役目は?とも思ったが、そんな事は考えてない訳もなく、少女の護衛を優先しろという言外の命令だとうという事は予想がついた。まあ、そこで何で新人の自分が要人の護衛に着かなきゃならないという疑問もあるが、それは単純にこの少女に気に入られてしまったという不幸だろう。


「ペアとして五色も加える。一応掃討は終わっているはずだが気をつけろ」

「了解」


 実質休憩に近い命令に、溜息を一つ吐きつつ、弾薬箱を置いて十分に冷めた予備の小銃に持ち替えて立ち上がる。

「それじゃ、よろしく」


 少女が右手を出してきたので、一瞬躊躇しつつも右手を挿し出し、それを握る。

 グローブ越しに感じる華奢な少女の手は、やはり普通の少女の手であり、Aレックスの首を飛ばした膂力は微塵も感じさせなかった。




「さて、じゃあ行くわよ」

「姫様、その前にフードを被ってください」


 ロープを降ろし、降下準備を完了したところで、アボウは溜息混じりに要請した。


「……わかったわよ」


 そして、少女は肩を竦めてかなりゴツい首回りを掴みそのまま金属音を出しながら、後頭部から前頭部の前辺りまで引き寄せて固定する。


「……」


 元の大きさが肩周り辺りまであるせいで、頭部から首回りのシルエットが一直線になった事もあり、見た目にはデフォルメしたペンギンのような有様で、妙に愛嬌がある姿になっていた。


「何?」

「いえ、似合ってます」

「可愛いと思います!」


 とりあえず当たり障りのない事を言ったら、約一名が何故か凄い剣幕で同意を示した。


「……」

「……。まあ、さっさと降下してしまいましょう」


 その剣幕に、秋月はアボウと視線を合わせ、互いに『見なかったことにしよう』という結論に辿り着いた所で、降下準備に入った。


「……では降下して下さい」


 アボウの号令の元、四人は同時に降下を開始した。





「勝手に弾持ち持ってかれると困るんだけど」


 配置を調整し、全域の確認を行っていたところで、住良木が弾切れのついでに銃身を交換しながら声を掛けてきた。


「監査官とその上の直接の要請だ。断れるわけ無いだろう」


 射撃を中断する事無く、合間合間に返答する。

 確かに、立場上救助保障社であっても、監査官の要望はよっぽど無理があるもので無い限りは反対出来ない。

 実際、この場から二人ばかりの人員を抽出された所で、大勢には大した影響は無い。単純に、住良木が眼を掛けている人員が引き抜かれたという事実だけで、それ以上の問題にはならないのだ。


「それに、弾持ちって言っても、さっき決めた臨時の配置だ。変えたところで問題無いだろう」


 ちなみに、代わりに弾持ちにされたのは、大下という中堅隊員であり、少なくとも新人の秋月よりも能力で劣っていると言うことは有り得なかった。


「折角格好いいところ見せようと思ったのに……」

「初撃で酔いに任せて不法侵入かました第一印象が拭えるわけ無いだろうに」


 単純に、まだこの世界に染まりきってない初心な新人に刷り込みを行いたいという事なのだが、問題行動が多すぎる彼女がそんな理由で刷り込まれる訳がない。実際、鏑木救助保障社の面々は、大抵が彼女の配下だった事があるのだが、誰一人として彼女の腕前を賞賛しても、代わりに人格には最大限の警戒を向けているという事実がある。

 救助保障の外になれば彼女の本性を知らない人間が騙されるのだろうが、今のところ、彼女が救助保障社に限定したとしても、ヒラサク救助保障社以外の人間に手を出したという話は聞くことは無かった。

 長すぎる付き合い上、何かしら尻尾を掴んでいてもおかしくないのだが、未だにそんな事実を見つけることは出来なかった。


「まあ、外の連中とのゴタゴタを起こされちゃ、溜まったもんじゃないしな」

「何か言った?」

「矢鱈に手を出した結果、こっちが火消しに負われるようになったら困る」

「本音言わないでよ!?」


 実際の所、彼女は最大限リスクを冒さないように行動しており、その分救助保障社に影響が出ることはまず無い。そこは有り難いことではあるが、ソレを言って調子に乗られても困るので、小言で済ます宮川であった。




「調査する対象は時間がかかるんでしょうか?」


 暗視モードのゴーグルで周囲を警戒しながら秋月は差し障りがない程度に気をつけながら問うた。


「欲しいのはこの隊商が何処でトレインにあったかなのでさほど時間はかかりませんよ。……まあ、予想が正しければ初期化されてるとは思いますが」

「……成る程」


 つまりは、何らかの計略の調査と言うことである。

 聞かなきゃ良かった。と今更思いつつ、周辺警戒がてらに軽い足取りで車輌に乗り込む少女に目を向ける。


「中はOK。外の警戒はお願い」

「了解」


 とは言っても、既に掃討が完了した広場に脅威など無く、断続的な発砲音だけが響くだけの時間が流れていく。

「……駄目ね。次行くわよ」


 どうやら、初期化されていたらしい。勝手な初期化はそれなりに罪に問われる筈なのだが、それを無視して行ったとなると、どうやらかなり後ろ暗い事をしていたと言うことなのだろう。


「移動します」


 五色を戦闘に、アボウ・少女・秋月の順番で次の車輌に移動。さっきと同じように調査を行う。

 そして、それを6輛ばかり繰り返したところで、少女が手を打った音が聞こえた。


「ビンゴ」


 どうやら、目当ての情報があったのだろう。すぐさま操作をして内部の記憶媒体を引っこ抜く。


「やっぱり一時間ほど停車していたみたいね」

「予想通りですか。では、次の行動は決まったと言うことですね」


 そういうアボウの声は、手がかりを見つけた事よりも、次の行動が決まってしまった事実に対する絶望感が滲み出ていた。

 恐らく、ゴーグルを外せば今にも死にそうな表情をしているのだろうが、流石に彼に気を遣うのはある意味失礼と思い、放っておくことにする。今のところ、周囲に危険はなさそうだが、万一と言うこともあるので警戒は強めておく。


「解析が終わったらね。……じゃあ、上に戻りましょう。今は兎も角壁の防衛が最優先だし」

「恐らく問題はなさそうですし、帰還しても宜しいのでは?」

「え? だって勿体ないじゃない。折角のお祭りなんだし」

「……解りました」


 どうやら、彼女にとってはこの戦闘はどんちゃん騒ぎのお祭りにしか見て取れないらしい。

 少なくとも、片手間レベルで行っている警備保障の面々も、楽しんでいるというよりは仕方なしに手伝っているだけに過ぎない。戦闘を楽しむ人間は居るにしても、受け手の現状で楽しめる人間は数少ない。

 何より背後には家に当たるシェルシティがあるのだ。

 下手を打てない分、余裕を感じる程の余分はなかった。


「じゃあ、先戻るわよ。貴方たちは早く上がってきなさい」


 そして、その一言と共に少女はアボウと共に跳躍。十数mはある壁の上に飛び上がって行った。


「……」

「降りる時にロープ必要無かったのでは?」


 そもそも、飛び上がれるなら、着地も可能な筈である。恐らくは、単純に少女がロープ降下したかっただけなのだろうという想像に頭を抱えつつ、先に気を取り直した五色が秋月の肩を叩いた。


「……登ろっか」


 彼女のどこか諦めきった表情に、彼も同様の表情を浮かべると、重量物満載の身体を壁の上に引き上げる作業を開始した。




「お疲れ様」


 垂直にロープを登っていき、身体を壁の上に引き上げようとしたところで、伸ばされた手を視界に収める。


「戦闘はもう良いんですか?」


 壁の上の光量に、暗視パットを外して伸ばされた手を掴みつつ、その手の持ち主の住良木に問いかける。

 本来、火力の中心になっている彼女がここに居ると言うことは、弾切れのついでか、もしくはトレインが収束したかである。


「大体はね。見ての通り、キャットウォークの電源も復帰したし」


 そして彼女は、秋月を力尽くで身体を壁の上に引き上げつつ、隣の五色も腰を掴んで引き上げる。


「ま、次派が有るか解らないから、こうやって弾補充に来たわけ。二人とも、余裕があるなら弾持って」

「あ、はい。了解です」

「了解」

「一応、あの女の子は門の上で合流して戦闘に参加してるわ。まあ、敵が弱くてご不満のようだけどね」


 そう、弾薬集積所に向かう道すがらに言われ、視線を門の上のキャットウォークに。

 降りる前に住良木が陣取っていた、三角竜から飛び乗ってくる獣相手の迎撃拠点に居座っている少女の姿と、仕方なしといった風で彼女と銃口の向きを合わせ、もしもの撃ち漏らしを警戒しているアボウの姿があった。


「一等監査官もアレじゃ哀れな中間管理職ね」


 苦笑する住良木に呆れつつ、弾薬集積所から弾薬箱を取り出す。

 本来なら訳のない作業なのだろうが、絶対に少女に危害を与えられないと言う緊張の為に、実際以上に疲れているようだった。

 正直、巻き込まれたくないので無視したい所であるが、流石は監査官の中でも最上位と呼べる人物らしく、傍目には疲弊した様子は見せてなかったが、彼の内情を知るものが見れば、微細な身体の強張りから常に必要以上に緊張しているのは確かだった。

 まあ、一等監査官が高々救助保障社の人間に、そんな無様を晒してる時点で、結構大変な立場なのは新人の彼であっても容易に想像が出来た。


「ま、あんなのを見せつけられたら、こっちも頑張る他無くなるわけだけど」


 実際の所、一等監査官がそこまで気を遣う人物の世話を任されているのである。護衛の大半は彼らに任せられるにしても、自分達の負担が減るとは思えなかった。

 既に契約が結ばれている以上、割に合う仕事である事を祈るしかないのである。




 そして、数時間と経たずにトレインは終息した。

 規模から見れば未曾有の危機と言った所だったが、終わってしまえば完勝と言って良かったろう。

 だが、結局夜通しの殲滅作業になったために壁の上には疲れ切った警備保障社の人間は座り込んで思い思いに休みつつ、殆ど戦闘してなかった為に体力の余裕がある予備隊が警備を行っており、それだけでは手が足りないので、まだ体力の余裕があるヒラサク救助保障社の面々も警備を続けて居た。


「やれやれ、警備保障社の面々の質的向上も難問ですね」


 その様を見て溜息を吐いたのは、漸く身体の強張りを解いたアボウだった。

 まあ、トレインが発生しても滅多な事では最低位の監査官が出向くことは無い。

 だから、『対処出来ている以上問題は無い』と判断していたようだが、その実力に関してはお眼鏡には叶わなかったらしい。


「数が多いと言っても警備保障の人員もそう易々と確保出来るものじゃないだろう?」


 肩を竦め宮川はアボウの呟きに応える。


「雨宮君達の警備保障ぐらいは頑張って欲しい所ですな」

「あそこの人員も救助保障並に少なかったと思うが……」


 実際の所、雨宮の警備保障社は少数精鋭主義で、シティ内部の治安維持に特化している。

 ここ最近の急進派の躍進で、シティ内部での治安確保のために精鋭の警備保障社が必要になるだろうとの判断で、ヒラサク救助保障社やその協力各社から人材を集め、準救助保障社と呼べる程の練度を持つ警備保障社を組織している。

 その為、壁の警備業務にはどうしても手が足りないのが現状だった。


「彼女のお陰で内部の治安は確保出来ていますが、その弊害で他の警備保障社の有能な人材が減ってしまっているのは困ったものです」


 そう、雨宮が引き抜いたのは警備保障社でも有能な人材だったため、平均的にはさして変動は無いものの、警備保障社各社で慢性的な現場指揮官が不足しているのである。

 もっとも、その代わりにシティ内部の治安が劇的に改善した訳なので、痛し痒しであるのだが。


「流石にこのご時世だ。治安維持のあいつらを解散させる訳にもいくまい」

「そうですね。……まあ、三等監査官辺りに再訓練を指示しますか」


 何事も無いかのように呟いたアボウの言葉であるが、この結果、このシェルシティを護る警備保障社各社の人材が、持ち回りで文字通り死ぬほどの再訓練を施されたのだが、それは彼らの知ったことではない事実であった。


「さて、警備保障の連中の休憩が終わった辺りで俺達も解散かね」

「そうですね。そろそろ姫様も暇を持て余してるご様子ですし、私達は早めにお暇いたします」

「そうか。……お疲れ様」

「ご丁寧にどうも」


 内心では相当気疲れしていたアボウは、宮川のねぎらいの言葉を素直に受け取った。

 嫌味の成分が多分に混じっていたものの、それでも心底からの同情もあったので、それを無視する程恥知らずでは無かったのだ。




 そして夜が明けた所で、関門内部のトラックの検査は終了し、入れ替わりに大量の重機が待機。そして、門が開くと共に、大型のブルドーザーがエンジン出力にモノをいわせて門外に積み上がった獣たちの死骸の除去を開始する。

 獣とはいえ死体である。放置していればいずれ疫病の原因となるので、早々に穴を掘って埋める必要があったのだ。

 ブルドーザーに続いてトラックとクレーンが展開し、早々に簡易的なバリケードを設置し、安全を確保すると、最後にショベルカーが死体処理用の穴を掘り始める。

 今回は三角竜のような大型の獣も混じっていたので、かなり大がかりな穴が必要になるわけだが処理自体は一ヶ月もかかるまい。


 問題は、その一ヶ月の間、この関門が使用不能になる事だが。一応外苑部にはシティを囲むように普段は使用されない道が残っているので、大したことにはならない、と思う。

 実際の所、わざわざ外周を回って関門に入るキャラバンなど居ないし、居たら居たで怪しすぎて徹底的に調査されるので道があっても使うことがないのだ。


 なので、現時点で道として使えるように外周の整備も開始している。

 もっとも、安全が確保出来ない外周部なので、整備するのは一見すると装甲車にも見える街道工事専門の工作車輌が行っている。


「そろそろ良いか」

「ええ、お陰で無事に乗り越えられましたよ」


 鏑木の呟きに金谷警備保障の社長も安堵の表情で感謝を述べる。

 実際、三角竜の『群れ』まで出てきた今回のトレインは未曾有の危機と言って過言ではない事態だったのである。

 ソレを無事に乗り切った以上、これ以上の戦果はないと言えるだろう。

 ついでに、壁の損傷は軽微で、大量にこびりついた血と肉片の清掃の方が大変と言った有様で、最大の損傷としては、関門の扉が僅かに歪んでしまったので、その修復が必要になったという程度である。


「ま、今回は完全に優位な状態での戦闘だったからな。先日のゴブリン退治に比べればマシな所だろうし、何より――」


 そこで鏑木は言葉を切り、背後の関門に併設された施設に視線を向ける。


「終わったら直ぐ休めるからな」


 本来ならば、休息する余裕も無く、数日掛けて帰還する必要があるのだが。今日はゆっくり大浴場で休んだ後にその足で帰宅出来るのである。

 想定外の仕事ではあったものの、その利点だけは助かると言って良いだろう。


「確かに、救助保障は給料は良いですが、その問題がありますしね」


 まあ、救助保障でも大きいところは専用の浄水車輌を持ってシャワーまで使える大規模な車輌隊を持っていたりするが、小規模なヒラサク救助保障社にそんなものはない。

 作戦直後にリラックス出来る環境というのは、ヒラサク救助保障社の面々にとっては極上の贅沢なのである。


「つー事で、後処理は任せる」

「はい、お疲れ様です」


 そう言って、撤収を指示する鏑木に苦笑しながら、警備保障の社長は苦笑を浮かべた。

 手間がかかる仕事を押しつけられた形ではあるが、実際の所救助保障の面々が居なければ、三角竜の対処が間に合わなかった可能性があったのだ。

 その際に受けたであろう甚大な被害を思えば、その程度の面倒事ぐらいは笑って請ける事ぐらい訳ない事なのであった。




「で、解析の結果は?」


 来たときに乗ってきた大型の護送車輌に乗り込んだ少女は、アボウが助手席で手早くハードディスクからのデータ抜き取りを終わらせるのを待って問いかけた。


「どうやってこちらが敷設したケーブルを使わずに連絡を取り合っているのかと思いましたが、タネが解れば何ということではありませんでしたね」


 少女の問いに、アボウは苦笑を浮かべつつ、後部座席のスクリーンにデータを転送した。


「積み荷のリストと、データの改竄と思われる地点です」

「成る程ね。何らかの偽装を施して通信ケーブルを使ってると思ってたけど、もっと単純な方法だった訳だ」

「ええ。しかし、コレは流通関連に相当なシンパが紛れ込んでいるようですね」


 方法は何ということはない。専用の無線中継器を用意し、街道沿いに設置しているだけである。だが、そのメンテナンスや足りない分の電力確保の為の燃料補給など、かかる手間を考えればキリが無い上に、それらの資材を余分に運ぶ為には流通関係と口裏を合わせ、出発と到着時の資材の変化を隠蔽していたと言うところか。

 キャラバンは特定の資材だけを運ぶ定期便以外にも、顧客の要望に応じて様々な品物を運ぶ臨時便がある。


 定期便はチェックが厳しい以前に別の資材が混じっていると目立ってバレる上、キャラバンの規模もかなり大がかりなモノになるから途中停車も難しいから使われる事は無い。

 だが、臨時便は様々な資材を積み込む関係上、その中に通信装置維持用の資材が紛れ込んでもおかしくない上、予め送られている資材と数が合っていれば問題とされる事は無い。

 チェックを受けるとはいえ、膨大な量に及ぶ臨時便の荷物を帳簿を何度も確認して調べることはない上、『帳簿と合っているのだから問題無い』という理屈で納得しない者はほぼ居ないだろう。

 恐らく、全てがこの企みに関与している訳ではなく、一部が協力して上手く誤魔化していると考えられる。


「となると、目標は?」

「いえ、流通関係は後回しにしましょう。それよりも、こちらが連中の情報網に気付いたと知られる前に、通信を盗聴しておきたいわ」

「……そうなりますか」


 こうなると、問題はどうやって行うかだ。

 現状、解ったのは通信方法と中継器のおおよその位置だけ、そして、それらの情報を元にどうやって通信を盗み見るとすれば、方法は大体想像がついた。


「早速、あの子達に手伝って貰わないとね」


 楽しげに呟く少女の声に、アボウは自身の胃が激痛で悲鳴を上げているような錯覚に陥った。

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