第二章3 ギルド「希望の協会」
協会に辿り着くまで2時間程かかり、あの森からそれなりに離れていたことが分かった。
「やっと着いたね」
「ここまでありがとうございました」
義光は早速シェルヴァの端末を借り、青色の電子パネルを出して、アプリに声を出して貰う。
アプリが思ったよりもゆっくり喋るので、文字でも伝わるようにする。
移動中もアプリの調整をしながら簡単な会話をしていた。
そう言えば自己紹介してなかったと思い名前を入力しようとすると、ちょっとまってねとシェルヴァに止められた。
「?」
「シュテーとさっき話したんだけどね、えっと、君の名前は瀬戸ミオちゃんだと思うんだけど違うかな」
大正解。唐突にシェルヴァに名前を言い当てられて出て来た感想はそれだった。
思わず表情がぽかんとしてしまう。
彼女も随分と悩んでからのカミングアウトだったらしく表情がとても申し訳なさそうだ。
「(思ってたよりも俺有名人だな。まじか、こんな辺境のギルドにも名前と顔が伝わってるってどんなことしたんだ俺は本当に)」
「僕はね、君とは初対面だからカザンが止めようが咄嗟にあの時助けちゃったんだ。あんなすごい子があっという間にただの人型ピリットに殺されるのを見ててもよかったんだけど、罰が悪くてね。」
シェルヴァが話す内容に驚きを隠せず義光は「!?」となってしまう。
シェルヴァは話続ける。
「でも他のみんながね。団長とかエルサイアで君に叩きのめされちゃってるからね。あ、でもシュテーは大丈夫だよ。なんやかんや僕の茶番に付き合ってくれてね。助けてくれたでしょ?反応が厳しいと思うけどまずはエリーアさんと話をした方がいいかなって」
「…ごめんなさい」
予備知識がある義光はシェルヴァが誰のことを言ってるのかもよく理解できた。
どうやらこの5年の間、義光は本当に自分が知らぬ間に色んなことをしてしまったらしい。
義光は何も話せなかった。謝罪の言葉を述べるしかできなかった。
文字を入力する手が震えた。
「(ティー君も会ってるのか俺は、しかもシェルは俺がティー君叩きのめしたとか言ってる。えーー!!!!何してんだ俺!!!!ほんとに!!!!何してんの!!!!!!希望の協会の面子は推しキャラしかいねぇんだよ!!!やめろほんと!!!!)」
ギルド「希望の協会」の団長は一人しかいない。すぐに思い浮かんだ。
ティオ・アウル・イアクブック。愛称は団長で、みんなから慕われてる。
義光はよく彼を勝手にティー君と名前が長いのであとがき等で使っていた。
白い肌に、長い銀髪が特徴的なとても思い入れがあるキャラクターの一人だ。
スペックもかなり高く、剣技や彼が使う魔術は一級品だ。
アージェリカも乗れる。α型やβ型、様々な種類のアージェリカに乗れた。
「(えーーー…これ相当、全く何も覚えてない過去と向き合わないといけない奴だ…もううちの子を傷つけたってだけでダメージが相当でかい。何してんだ俺、やめてほんとに。エリーアにも何かしたんか俺?!嫌だぜ、エリーアと言えばトレシィも絡んでくるからもっと聞くの嫌)」
義光はなるべく冷静に設定を思い返した。
エリーアというのは希望の協会に昔から所属する付喪神の一人だ。
惑星Typ’Aの付喪神で、地球のトレシィとは姉妹関係のような存在だ。
神崎事件の途中から記憶が全くないのでもしかしたらそのことに関する話かもしれない。
エリーアが初代惑星Typ‘Aの付喪神。
人の願いを対価を貰うことで叶える「願い屋」。トレシィは二代目だ。
そう思いつつもシェルヴァが話した真実を心の中で叫ばずにはいられなかった。
「トレシィさんがね、亡くなったの。5年前の神崎事件で。」
その嫌な予感は早々に当たってしまった。
「…!」
義光は知っていた。本編でトレシィが死ぬことを理解していた。
彼女は元々神崎事件で死んでしまうキャラクターの一人だった。
日本の捜査一課に所属する神崎十夜の契約者。
『私のマスターを殺そうとするなんて百年早いわよ』
『なるほど。さすがに来てしまうか、願い屋トレシィ』
彼のピンチにあの場にすぐ増援として駆けつけることができた一人だ。
十夜の危機に間一髪でトレシィが現れてサリエルを牽制した姿が想像できる。
実際ミオが目を覚まして、ミシェルを殺した時に既に彼女がいたのはそのためだ。
本編では魔物化したミシェルを倒した後、サリエルに騙された白夜を助けようとする。
それに失敗してトレシィはサリエルに殺されて命が尽きることが正規ルートだ。
シェルヴァの話は止まらない。
「トレシィさんは君を助けようとした。そんなトレシィさんを君は容赦なく殺した」
「…!(想像はしてたが、結果を聞くとつらいな。何も言葉が見つからない。俺はほんとに、なんでもしたんだな)」
喋れない義光は黙って話を聞いた。
具体的に何をしたか覚えてない以上、端末を使って話しても火に油を注ぐだけだろう。
シェルヴァはエリーアを通じて、トレシィと親しい間柄だった。
「(…しかも、俺がアレで死んだらミシェルが世界を敵に回しててでもシェル達とか殺しそうだしな。考えたくもない。それに俺に遭遇したことがあるなら、ミシェルが俺を探してるっていうのもシェル達は知ってそうだ。だから、あの時シェル達は助けてくれた。)」
シェルヴァは優しい。優しくて正直な性格だ。
だから、理不尽に弱い。
助ける時は助けるし、真実を告げる時は嘘で誤魔化さずに告げる。
あの時助けてくれたのは、義光に酷いことをされてもピリットによる災厄で自分以外に悲しむ人がいることを知っていたからだ。
「そのことを忘れないで。サリエルに操られてたことは知ってるから、自分がやってしまったことを全部受け入れろなんて言わないけど。君のために亡くなった人がいることを忘れないで。その上で、エリーアさんとも話して欲しいって、僕は思う」
「(分かった。今は何も答えることができないけれど。俺もエリーアと話したい)」
義光は結局何も端末を使って話すことができなかった。
頷いて、シェルヴァはゆっくり義光を希望の協会まで案内した。
「(…ほんとに綺麗だな。デザインしたのと一緒だ)」
希望の協会は祭壇があり、一番奥には虹色のステンドグラスが飾られていた。
この世界の希望の協会のデザインを考えた人は後々出てくるだろう惑星Typ’Oの付喪神オリアがデザインしたという設定になっている。
具体的にデザインを考えたのは義光だが、ここでは彼女が創造したということになっている。
ステンドグラスには天空神アイテールの絵が施されている。
この世界のアイテールは女性だ。金髪で、これから会うエリーアと容姿がかなり似ている。
余談だが、彼女達の違いは瞳の色だ。アイテールは青色でエリーアの瞳の色が緑色だ。
「シェルちゃん、外回りご苦労様。シュテーから話は聞いてるわよ」
「ありがとう。ごめんね、忙しくしちゃって」
エリーアが出迎えてくれる。シェルヴァの言葉に、エリーアは義光の方を見て話す。
「全然大丈夫よ。…なんだ、あの時と感じが全然違うじゃない。普通の女の子ね。中身はなんか、男の子ぽいけど」
勘がいいのだろう。エリーアはミオの容姿を見ただけで性質を見抜いた。
「(男の子ぽいっていうか男です。ああ、それを伝えれたら楽なんだが文字入力もできないってどういうことだよ。書こうとしたら10秒ぐらい急に視界がブラックアウトして意識がなくなるんだよ!!!)」
その勢いに任せて義光も性別について話したいところだ。
だがそれについてはNGワードに触れるらしく、もう試したくないと義光は落胆する。
ここに来るまでにシェルヴァで試したら視界が10秒ぐらいブラックアウトして意識を失った。
あまり試すのはよくないことなのだろう。
義光の様子を見ながらエリーアは話を続ける。
「貴方が元に戻ったということは、政府の情報規制が入って分からなかったけれど、サリエルの封印に成功したって話だったら今朝のニュースで知ったわ。おめでとう。これで彼…ミシェルも少しは報われるわね」
「(これ、俺どういう反応したらいいんだ?!怒らないってことは、黙って聞いとけってことだろうか。エリーア、怒ると怖いんだよ。ここは、頷こう)」
今日あったニュースをエリーアは話した。
お祝いされシェルヴァにあれこれ状況を話してもらったばかりの義光は反応に困った。
ミシェルにシェル達が会ったことがあるおかげでエリーアの反応が柔らかいのが救いだろうか。
手が震え、端末を使って文字を入力することができない。
義光は素直にその言葉に対して頷いた。
「おかげで国は5年続いたエルサイア防衛戦が一時的にとはいえ締結したってお祭り騒ぎよ。防衛戦と言えばそうね、戦場で貴方のお父さんにもあったわ。とても強いのね。何度か助けられたわ」
「お父さんに」
エリーアから父の話題を聞き、義光は初めて端末を使って会話ができた。
そうだ。
義光はこの5年の間、神崎事件を境に一度も家族に会ってないことを思い出した。