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第一章5 ミシェルと瀬戸ミオ


 「えっと、お姉さんの...所属はどこですか?一般の方じゃないですよね」



 知ってるから聞きそびれそうになったと義光は冷や汗を流す。ミシェルも「確かに」とライベルトのことが気になるのか頷く。



 「あぁ、そういえばまだ名乗ってなかったな。私の名前はライベルト。所属は警視庁ーー...あー、刑事だって言えば分かるか?」 



 それを聞いてミシェルは驚く。



 「ライベルトさん軍人さんじゃないの?立ち回り方とか、かなり凄かったのに」


 「あー、軍の方も兼務してるよ。今の所属が警視庁なんだ」



 その説明を聞いて、ミシェルは納得する。ライベルトはミオとミシェルをじっと見る。特にミシェルの方を見て、深くため息をつく。




 「お前、かなり変わった精霊だな。」


 「...やっぱり、分かります?」


 「あぁ」




 ライベルトはミシェルが普通の精霊でないことにすぐ気付いたようだ。そこでミシェルはこれまでの経緯を話した。




 「ミオちゃんも大事なことだから聞いて欲しい」 


 「うん」



 亡くなってしまった彼についてミシェルは話した。名前は村上アスカと言う。 

 ミシェルは村上アスカが異世界ストリジアに行った際に友達が欲しいと強く願い生まれた精霊であることをライベルト達に正直に話した。



 「ということは、お前は生まれてすぐ村上アスカと契約したんだな」



 ライベルトの言葉にこくりとミシェルは頷く。



 「はい。その時、アスカ君はまだ5歳でした。親御さんにかなり叱られましたけど、アスカ君が説得して私を護ってくれたんです。ミシェルは友達だからって。あの時アスカ君は私を護ってくれたのに、私は護れなかった...ごめんなさい、ごめんなさい...」



 村上アスカが死ねば、契約は解消されミシェルの存在を保ってくれるシステムは存在しなくなる。 

 ミシェルも生きるためとはいえ、村上アスカが死亡してからすぐにミオと契約したことに罪悪が湧き謝り泣き出した。 



 「ミシェル...」


 「それでも、ミオちゃんは私のパートナーでいてくれますか?」



 義光は前世知識で村上アスカの両親は事故で既に死亡していることを知っている。彼が亡くなったことによるトラブルは回避できることを把握していた。それでも、ミシェルが相当参ってる姿を見て申し訳なさそうにする。



 「...うん。少しずつ、お互いのこと分かっていこう。ミシェルは、私が護る」


 「ありがとう...!」



 ミシェルの満面の笑顔を最後に、義光の視界が真っ暗になった。


 

 「ここ、どこ?」



 目を覚ます。体のあちらこちらが痛い。よく見ると身体の全身がロープで椅子に括りつけられている。それ以外は何も分からない真っ黒な空間だった。



 「目覚めたかい」


 「誰...?(誰だ。神崎の兄か、サリエルか?どっちにも会いたくない)」



 男の声が聞こえる。誰だろうか。義光は考える。目の前の男も気になるが、どうやってここまで連れて来られたか義光は覚えてない。意識を朦朧とする中で、注射が腕に刺されたのを感じた。



 「(なにしてんだ、注射?!ふざけんな絶対ろくでもない薬物だぞこれ。)」


 「いいかい。瀬戸ミオ。今日から君はこの僕、サリエルの奴隷だ。君のことはよく分かる。だから殺さず利用する。もちろん、君に拒否権は無い。」



 全然よろしくない。ふざけるな。義光は淡々と狂気的に告げるサリエルの言葉を拒絶した。



 「どう...いう...こと..?」


 「もうじきそれは体感することになる。だからお休み。」



 その言葉で義光は完全に意識を失う。抵抗しようとするが体の自由が効かない。どうしようもすることができない。

 次に目を覚ました時には義光はミシェルを殺していた。



 「ミオちゃん、よかった…正気に戻ったんだね」



 全身血だらけのミシェルが笑顔で言った。義光は気付く。ミシェルを殺したのは紛れもなく自分だ。契約した能力を使い、サリエルの命令に従った。

 魔術を使って一方的にミシェルを痛ぶったことを思い出した。

 ミシェルが人工精霊が齎す現象(友人)として再生できないように、本来なら精霊しか使えない魔法、精霊歌を管理者権限を使って実行した。

 実行した精霊歌は「ミシェルという現象の停止」。

 これによってミオとミシェルの契約は破棄され、ミシェルの肉体は塔コアスピアによって強制的に破棄される。消滅する。



 「えっ、あっ、えっ…?!」



 ミオは、義光は必死に考えた。どうして目の前のミシェルは死にそうなのか、どうすればそれが止められるか考えた。護ろうとしたものが一瞬で壊された。涙が溢れて止まらない。ライベルトはどこだ。義光は考えた。記憶を必死に遡る。ミシェルが消滅したことで契約の証である首筋にあったスフロンコードが消える。契約の際に聞いた女の人の声も聞こえる。



 ーーーーーミシェルの消滅を確認しました。契約は解除され能力が使用できなくなりました。



 「(なにがあった...?!)」



 どうやって自分は使えるはずのない精霊歌を使ったか考えた。精霊歌は精霊でないと使用できない。名前の由来にもなるほどだ。それから精霊歌を実行するにはスフロン水晶や結晶石が必要だ。義光はそれらを持っていない。



 「(設定無視も大概にしろよ...!俺は契約者で能力を使えるが、普通の人間と変わりないんだぞ。ミシェルみたいに精霊じゃない)」



 結晶石は塔の近くに行けば作成することができるが一度使えば壊れてしまう。スフロン水晶は塔の最上階でしか作成することができない代物だ。最上階に行くことは容易ではない。何ももっていないことから結晶石でも渡されたかと思ったが、幾ら予備知識が抱負な義光でも現段階では情報が少なく判断ができなかった。このままだとミシェルが消えてしまう。それは嫌だ。

 ライベルトとサリエルの声が聞こえた。



 「ミオ!!くそう、歌が終わってしまった。ミシェル、消えるな!!」


 「それ無茶振りって言うんだよ。死ぬことができない君と違って、彼女はきちんと命を終えられるんだ」


 「うるせぇ!てめぇがミオを使って勝手にやったことだろうが!」



 ライベルトはサイコキネシスを使ってサリエルを牽制する。サイコキネシスのエネルギーは膨大だ。砲撃のように解き放たれる。



 「これでもくらいやがれ!」


 「【ファントム】」



 サリエルはその全ての攻撃を回避し、黒い矢印を大量に召喚して解き放つ。ライべルトは大太刀を使って矢印を切っていく。大太刀には魔術や魔法を無効化する効果が施されている。

 


 「またこの矢印、これだから堕天使はめんどくせぇ!」



 ミシェルを助けられるヒントはライベルトが持っていると義光は予想した。サリエルは絶対に教えてくれない。妨害してくる。そう考えてると十夜の声も聞こえてきた。



 「あまり一人で無理しないでください」


 「分かってら。お前も意識をもってかれないようにがんばりな」



 よく見ると十夜も既に出血過多で、衣服が血だらけだ。ライベルトによって治療された跡があるがサリエルの「呪い」の効果だろう、表情が苦しそうだ。隣には彼の呪いを解除しようと躍起になってるトレシィもいる。ライベルトが言う。トレシィは頷いて、目の前の死体についてぼやく。



 「トレシィ任せた」


 「もちろん。まさか白夜が私達が辿り着くまで殺されてるとは思ってもなかったけど」


 「誰が殺したか…あんま思いたくないが、白夜を殺したのもミオだ。サリエルの奴、酷いことしやがる」 



 目の前の死体。それは真っ二つに胴体が割れた男だ。容姿からそれが十夜の兄神崎白夜であることが分かる。

 


 十夜は尋ねる。兄の死は悲しいものだ。

 しかし、サリエルから彼は外なる神を呼ぶために両親を殺したと聞いている。兄の死よりも、唐突に告げられた両親の死の方が十夜にとって衝撃的だった。兄のせいで両親が死んだことや、誰一人として家族を守れなかったこと、知らぬ間に天涯孤独になっていたことから、彼の心情はとても複雑なものとなっていた。

 ミオは同僚の妹だ。ミオと同僚の瀬戸神無月へは申し訳ない気持ちの方が強いだろう。



 「それは、能力で確認したことですか」


 「あぁ。私の透視能力は過去視も複合してるからな。死体を通して視えるんだよ。ミオは魔術を使って白夜を一瞬で殺した。…サリエルに命令されてな」


 

 義光は改めて、サリエルのことが恐ろしく感じた。


 神崎白夜は今回の事件の主犯だ。そしてそれを唆したのは他でもないサリエルだ。サリエルと彼は契約関係だ。神崎白夜を殺したということは、サリエルは今無契約者で、神から得た「加護」のみでライベルトを圧倒していることになる。


 天界の天使は大抵神に属し「加護」を得て強靭な力を得る。

 それはアイナことデメテルが世界のルールを改変したことにより成り立つ。


 今、サリエルは「契約」しなくとも天界の神から得た「加護」のみでライベルト達を圧倒している。ミシェルと神崎白夜をミオに殺させて、ライベルトと一対一の有利な状況を作り出したのは紛れもなくサリエルの実力なのだと。


  

 サリエルは笑みを浮かべる。


 

 「この光景、彼女に見せてあげたかったんだよね。せっかく助けたのに自分で壊しちゃったら救済なんて、どうでもよくなっちゃうよね」


 「この野郎やっぱりわざとミオを正気に戻したか」


 

 ライベルトはそんなサリエルが許せなかった。ミオの何かを知ってるサリエルが彼女を一方的に弄んで傷つけてる様が許せなかった。

 だからその何かにライベルトは掛けた。正気に戻った彼女なら理解して実行してくれるだろうと、サリエルの呪縛から逃れられるだろうと。



 「ミオ!!スフロン水晶だ。てめぇの心臓の代わりになってる、それで精霊歌を歌えた!!さっき歌えたんだ。もう一度ミシェルを「再起動」してやれ!!まだ間に合う、歌え!!!!歌わないと絶対一生後悔する。ミシェルを再起動させるための歌のコードは768だ。アヴァリー・コアスピアを使え!!!!それがてめぇの管理者としてのスフロンコードだ。歌を聞いて、コードを聞き取った私に感謝しな!!」



 ライベルトは叫んだ。もう精霊痕を残して消えてしまったミシェルを抱きしめたまま離さないミオに向けて。


 

 

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