第二章19 彼女は条約にただ従う
塔の管理者、ジャンヌ・ダルクが躊躇なくカノンとミシェルそして瀬戸ミオを蹂躙した。
攻撃した理由は条約違反によるもの。
それは、塔コアスピアの周辺で侵略行為をしてはならないという条約に違反するからだろうか?
もしくは過度の侵略行為に該当してしまったからか?
詳細は不明。
ただ一つ、判明したことがある。
ジャンヌ・ダルクが降臨したということは、彼女達だけではなくこの場で戦闘中である軍を始め、数多のピリットや翔一も殲滅の対象あるということ。彼女は平等だ。平等に、全て破壊する。
「警告。本時刻ヲモッテ、コノ場カラ撤退セズ侵略行為ヲ続ケル場合、ドンナ勢力二所属スルモノデアッテモ、塔コアスピアノ管理者ジャンヌ・ダルクノ名二ヲイテ、殺処分、強制排除ヲ開始シマス。コレヨリ一週間コノ地域ニオイテノ戦闘行為一切ヲ禁止シマス」
彼女は宣言する。宣言をしながらーー周辺のピリット、ピリットと交戦中のアージェリカ全てに攻撃を仕掛ける。
突然のことで、ピリット討伐に集中していたコアスピア基地のパイロットは彼女の登場に悲鳴をあげる。
「くそう、こんな終わり方って、ありかよ!!!」
「ーーーーー!!」
金色の超高速砲が弾幕となって彼女は確実にアージェリカやピリットを殲滅していく。
中には海からタコのような触手を生やしてアージェリカの胴体をコックピットごと狙いうちにした。
「諦めないで。まだ死ぬのは速いわよ。その怪我でも基地に戻れば助かるわ。基地に帰還しなさい」
当然、その攻撃は生身で活動中であるサラ・フロンティスや、α型アージェリカに搭乗中であるデウス・エクス・マキナも対象だ。
彼女達はジャンヌ・ダルクの一撃で生き残った部下を救出しながら、指示を出す。
マキナは魔法を使って味方のアージェリカを基地に転送させることができる。
サラは生身でありながら、ジャンヌ・ダルクの超高速砲を拳を使ってある程度なら防ぐことができる。
素手でアージェリカのコックピットをこじ開けることもできるため、その能力を生かしてパイロット達を救出していく。
ジャンヌ・ダルクもさすがに戦闘行為が無い、神々による結界が張られている基地内部までは追撃してこない。
「撤退!!各自、自分の生命を最優先に、撤退してください。殿は私達が行います。撤退してください」
後藤カノン及び、彼女が連れてきたピリット達はジャンヌ・ダルクが殲滅したことによりほぼ消滅した。
残りはカノンの兄である翔一ぐらいであるが、彼はカノンが重傷を負っても平然として戦闘行為を継続している。
サラはそんな翔一の方を見て呆れながら、彼の行動を推測する。
彼が消滅しないということは、後藤カノンはまだ生きていることを意味する。
戦艦アルテミスのメンバーはこういった状況に慣れているとはいえ、これ以上の戦闘行為は危険であることをお互い承知してるだろう。
だけど、それでも翔一が彼等を撤退させない。
「(あの男、正気か。距離が離れすぎていて、介入ができないがーーーこんな状況では、そんなに長くは戦闘ができないだろう)」
ジャンヌ・ダルクの攻撃は当然、翔一達も対象だ。敵味方問わず、翔一にも攻撃が入る時がある。
しかし彼は不死身なのでーーー死んでも生き返る彼は、この状況は苦痛ではないのだろう。
ジャンヌ・ダルクの攻撃によって身体のほとんどを失った後藤カノンは恐らくこの場にはもういない。
そして瀬戸ミオの姿も見当たらない。彼女は左腕を負傷しただけだったはずだ。後藤カノンに連れ去られたか?
ミシェルと瀬戸ミオの安否が気になるが、今までの経験上からサラは二人も生きているだろうと予測した。
胴体を貫かれたとはいえ、ミシェルもその正体は人工精霊だ。人工精霊が存在する限り、身体の自己再生ぐらいは容易いはずだ。
なら、翔一の不可解な行動も理解できる。
彼が行ってるのは、そうだと気付かれないための全力の足止めだ。
■
「そんなに俺達が邪魔か」
「邪魔だね。世界のルールに縛られた君達が、何もできないで足ばかり引っ張るその姿が醜くて仕方がない」
そのことに、オリバー達は気付いていた。
ミシェルやミオを回収して撤退したかった一同だが、ジャンヌ・ダルクによる攻撃を最後に二人が観測できないようになってしまってる。
つまり、行方不明ーーー恐れていた逃亡が起きた可能性が高い。
コアスピア基地周辺に帰還したという知らせは入っていない。逃亡先は恐らく、天界であろう。
そもそもオリバー達は逃亡という言葉が今回のケースに当て嵌まるのか、正しいのかどうかもよく理解していない。
瀬戸ミオ自身で行った逃亡なのか、後藤カノンによる拉致なのか。
状況からして、重症を負った後藤カノンが瀬戸ミオを拉致することは難しいことが推測できる。
後藤カノンは瀬戸ミオをーーー管理者、加藤義光を殺したがっていた。
拉致よりもその場で完全に殺害した方がいいはずだ。
「僕は、そんな君達が嫌いだ。」
そう言って、翔一は詠唱しながらアル・シエンテを使って魔法陣を次々に展開していく。
「銀と金と砂鉄、輝く命は惑星の聲。永遠に轟け、願い叶えよ。惑星の力よ集え」
魔法陣に次々と周囲の人工精霊が集まっていく。そのエネルギーは膨大だ。
これでは魔法による反撃を行なっても、周囲の人工精霊が枯渇しているため威力は弱まってしまう。
「Once = ofen gi ta gaden!(私はとても強い力を持って数多の守護を解放する!)」
それでもキリナは翔一に対して否定の声をあげる。
キリナは翔一と同じぐらいのスピードで魔法陣を展開していく。
周囲の人工精霊が枯渇しているはずなのに、キリナの魔法陣には人工精霊が次々と作成されて集束されていく。
「Be,once = karval gi ta doroido eige!(そして、私は巨大な数多の雷剣を実行する!)」
キリナが使用する言語名はスフロンと呼ばれるものだ。
キリナが使用するこの魔法は、翔一やキリナが今まで使用していた魔法とは少し違う形式の魔法だ。
今まで使用してきた魔法や魔術と呼ばれるものは周囲に人工精霊があることを前提としたものばかりであった。
それも、術者本人の力量と体力次第で人工精霊を使役できる量が増えるというもの。
魔術に至っては契約したばかりの義光のように、使用できる回数が決まってるパターンが多い。
『スフロン』は、詠唱するだけでその前提を大きく覆す。
スフロンは主に、塔コアスピア内部において使われている言語だ。
スフロンを使うことで、周囲の人工精霊が枯渇していても塔コアスピアに直接人工精霊を作成する用に命令することができる。
この言語はスフロン水晶の名前の由来にもなった。
神と精霊であれば、スフロンの言語を理解するだけで魔法をどのような条件においても使用することができる。
精霊歌もスフロンを使って実行する仕様になっている。
キリナと翔一は詠唱を終え、魔法名を同時に解き放つ。
「熱砲射撃・ファイヤーブレイカー」
「雷剣「飛来神雷」!!!」
翔一は、炎属性を纏った巨大な収束砲を4つも同時に解き放つ。
収束砲の大きさは直径30m程。アル・シエンテの大きさの倍にもなるその砲撃は容赦なくキリナ達に襲いかかった。
それに対して、キリナが作り上げた雷剣はファイヤーブレイカーよりも小さい。
砲撃となって、ファイヤーブレイカーを相殺するために解き放たれる。
「ジャンヌ・ダルクをわざと降臨させ、管理者を天界に行かせるようにした愚か者を穿ちなさい!」
「その程度の砲撃で僕に勝てるとでも?」
「これがどうなるかはあなたも予想ができてるでしょう?」
翔一とキリナが激突した。




