第二章17 後藤カノンは加藤義光を許さない
「偽物消滅確認、■■の復活を確認しました。これにより、相手の目的が明確になりました。プランをCに変更します。」
雪平白がレッド隊に警告する。
今までは、翔一の討伐と後藤カノンの捕獲及び保護が作戦内容であったが、後藤カノンが消滅したことにより、チームを二手に別ける必要性が発生した。本物を探し出さないと、今度は管理者瀬戸ミオの存在が危険に晒される危険があるからだ。
再び瀬戸ミオが天界に渡ってしまうことだけは新政府連合としても防ぎたいのである。
「了解。(■■(アンノウン)が復活した。やっぱり、資料通り彼を見ることができる人が彼を倒しても、■■(アンノウン)が復活してしまうってことなのね。改めて思うけれど、■■(アンノウン)の能力、侮れない。インチキだ)」
カナンは翔一に愚痴を心の中で呟きながら、雪平白の作戦内容を理解する。
「ちょっと、あれ…!」
「ミオ!なんでもう捕まってるんだ。」
アルファルドとミシェルが異変に気付いて叫ぶ。
「予定より少し遅かったね。カノン」
「時間稼ぎ、ご苦労様。やっと捕まえれたわよ」
「ーーっ、う」
そこにはあってはならない光景が広がっていた。
後藤カノンが翔一と合流して、病院に避難していたはずのミオを捕らえていた。
ミオは両手首を縛られていて動けない。意識はあるが、恐怖ですっかり表情を青ざめている。
「私に構わないで、私は大丈夫だから…!!」
「煩いわね、黙りなさい。父さんを殺したくせに、そんな偉そうな態度とってるんじゃないわよ」
「ッーーー!!あ、う、ごめんなさい、ごめんなさい…!」
カノンは宙を飛ぶ。
カノンはミオにナイフを突きつけながら、彼女の両腕を片手で掴んで拘束する。
ナイフのせいでミオは抵抗ができずに異様に怯えている。
能力を使って反撃したい。それでも詠唱どころではないほどに、今の彼女はナイフに対して恐怖を感じてしまっている。
やはりエーディンが診断した、先端恐怖症のせいだろう。
彼女はサリエルが投与してきた薬物の影響により、鋭利なものを突きつけられるだけで異常に恐怖を感じる体質になっている。
義光が意識を覚ます気配もない。手詰まりだ。
そのことを後藤カノンは理解してミオを脅して拘束している。
「あれは、ミオ…?!うそでしょ、じゃぁもう市街地の方に侵入されたってこと…!」
周囲のピリットはマキナ達コアスピア基地所属の軍が対峙してくれているが、その光景に動揺が走る。
遅れて、戦艦アルテミスにも情報が入ってくる。
安藤俊則が問う。
「これは一体、どういうことか。市街地の方に襲撃があったとは聞いておらんぞ」
「こちら、市街地の方が病院も含めシェルターは無事です…!ただ、エーディン・クライス病院長とアヤノ様が意識不明の重傷でして…!病院も、例の管理者がいた病室だけ、破壊されています…!爆音で気付いた時にはもう…すでに…!やられました…!」
コアスピア基地のオペレーターが報告する。それを聞いて、安藤俊則は後藤カノンに出し抜かれたと頭を抱える。
「…これは、完全にこちらの落ち度だな。瀬戸隊長とミシェルだけでも現場に残しとくべきだったか」
「お言葉ですが艦長。それでは、瀬戸隊長は軍の規約に違反してしまいますし、ミシェルだけを置いとけば二人は逃亡してしまう可能性もあります。今回の判断をするには、時間が足りなかったのかもしれませんね。…って言わんばかりない!瀬戸隊長、ミシェルさん落ち着いてください!」
「構わん。そのまま二人にさせてやれ。その隙に待機中の第二部隊は全員発進せよ!」
「ーーーっ、了解です」
安藤俊則の了解が出ると、やはり怒りを抑えられないであろう一彦とミシェルがミオを助けるために行動に出る。
「パージする!」
ミシェルがリジャックを戦艦アルテミスに瞬間移動させ、生身で空中戦闘ができるようにする。ミオを助けようとカノンに急接近する。
「ミオを離せ!!」
「あら、頭に血が上って単細胞になってしまったの?お馬鹿さんね」
「ーー僕の存在を忘れないでよ」
ミシェルの行動を予測していたカノンが、ミオを盾にしながら後方に回避する。
翔一が、アル・シエンテを使って一気に前に出る。
「お前なんか、どうでもいい!加速せよ(アクセル)!」
「お前の相手は、俺達がする!!」
今のミシェルはリジャックを切り離したばかりで、アル・シエンテを防ぐだけの能力は持ち合わせてない。
ミシェルは身体を急加速して翔一を回避する。そして、その相手を一彦達に一任する。
「私だって、みんなの役に立ってみせるんだから」
「三流契約者の癖に、舐められたね」
「その三流契約者に足止めされてるのはてめぇだぜ!」
アルファルドが、アージェリカ「桜」を使って能力を底上げする。
彼女が得意とする能力は重力場を発生させることだ。
少しではあるが、これでアル・シエンテの動きを足止めできる。
隙を狙ってアーカイルが「ギリザン」のビームサーベルを使って斬撃を繰り出す。
「喰らいやがれ、とっておきの10連撃だ!」
「なるほど、君は接近戦が得意なタイプか」
翔一は回避することができずにただ攻撃を喰らうだけだ。
アル・シエンテ本体にダメージが入ってるのが分かるが、アル・シエンテが装備してる武器にダメージが入ってる気配が無い。
「(手応えがない、ちぃッ!そういや、隊長達は能力でこいつをぶっ倒してたな!)」
「気付くのが遅いよ。砲撃・トライデントレーザー」
「回避しろ、アーカイル!」
一彦が警告するよりも速く、翔一がアル・シエンテを使って「重力場」の効果を打ち消す。アーカイル目掛けて至近距離で砲撃を繰り出した。
アーカイルは回避しようとするが間に合わない。直撃コースだ。
「(間に合わない…!)」
「させないよ!」
「なるほど、やるね」
カナンが防衛プログラムを展開。アル・シエンテの攻撃からアーカイルを護る。
翔一は予測していたのだろう。自分の姿が見えないカナンが攻撃を防いだことに対してそこまで驚いていない。
一彦がカナンに防衛プログラムを展開するように支持を出して、それをカナンが実行することができる人間であるぐらいは理解していた。
「私はみんなを護ることしかできないけれど、負けないよ」
「ーーーー君、めんどくさいね」
なら、カナンから消そう。翔一はそう決めた。
すると悲鳴が辺り一面に響いた。
アーカイルや他のパイロット達がその悲鳴の正体に気付く。そのあんまりな光景に表情を青ざめる。
「おい、あれ…!」
アーカイル達が見ているのはカノンの方だ。
翔一に邪魔されて行けないが、それでも嫌でも目に入った。
「これ以上近付いたら次は指を一本ずつ折るわよ。目を潰してもいいわね。殺すだけだとつまんないから、こうやってちょっとずつ壊すのよ」
「ーーーっ、」
「やめろ、それ以上なにもするな…!」
カノンは笑顔でミオの右耳を切り落とす。
いくら能力で自己再生するとはいえ、激痛に堪らずミオは泣き叫ぶ。
「痛い、いや、助けて、」
「誰が治していいと言ったの?悪い子ね。」
「ーーーーッ!!!」
再生した右耳を見て、カノンは容赦なくミオの左耳を削ぎ落す。
あまりの激痛に意識が飛びそうになるが、カノンの能力の一つだろうか、ミオは気絶できなかった。
ミオは苦痛のあまり泣き叫ぶ。
「次、耳を治しちゃったらもう一度右耳を切り落として、鼻も切り落としちゃうからよろしくね」
「ーーーっ、う、」
助けて欲しいと願うが誰も助けに行けない。ミシェルは当然、周囲も助けに行けばさらに危害を加えると脅されているから。
こんなに苦しんでいるのに、義光が起きてくれない。ミオはこの状況を恨んだ。




