第一章2 コアスピア
義光は死んだ。もう自我を保てれない。このまま消滅するだけだ。それなのに、アイナとは違う少女の声が聞こえた。
ーーー加藤義光の魂の保護に成功。これより、塔コアスピアを経由して地球への転生を開始します。
幼い声だ。人間的な発音が微かに残る。アイナ以外に義光を利用しようとする神様がいる。自慢ではないが義光は創作した全キャラクターに嫌われている自信がある。こんなことが起きても不思議ではなかった。
ーーーようこそ。我々は貴方を歓迎します。グランドマスター、加藤義光。
言って、声はそこで途絶えた。
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「学校に行ってきます」
義光は小学4年生になった。10歳だ。はっきりと前世の記憶を思い出したのは小学生になってからだ。今世の義光の名前は瀬戸ミオだ。
「(金髪幼女好きだぜ?好きだがそれはまた別問題。髪の毛長いのって鬱陶しいんだ。この髪、完全に姉貴の趣味だし、髪切りたい)」
義光ことミオは病気をすることもなく平凡な学生として暮らす女の子だ。容姿も父親似で金髪、赤い瞳は母親似だ。髪型はツインテールで、長い金髪が特徴的だ。いいとこ取りである。
服装に関しては男っぽくてもいいよと許されたミオであるが、髪だけは「ダメ。綺麗にしてあげるから切らないで」と十歳離れた姉に言われ、母も「似合ってるから」と放置され、この髪型だ。
「(今日もがんばるかぁ)」
テレビではB地区で変死体が発見したというニュースがやっていた。
「最近物騒な事件が続いてるから、できるだけはやく家に帰ってきてね」
「うん。お姉ちゃん、気をつける」
そのニュースを見て、ミオを心配してくれたのは姉の瀬戸ナルミだ。高校を卒業してすぐ、店を手伝う姉は面倒見がよくしっかり者だ。ミオの家は喫茶店で、5人家族だ。ミオは末っ子になる。義光は前世知識により、この家庭のことがよく理解できた。何故か。それは父親と8歳年が離れた兄のおかげだ。
「(もうそろそろ神崎の事件が起きる時期だな。これだけは回避しないと下手したら俺が死ぬ)」
周辺事情のことはよく理解した。父は軍人で最前線勤務のため滅多に帰ってこない。母と姉で喫茶店を経営する。兄は警官で、警視庁で捜査一課の一員として働く捜査官だ。まだ未成年だが兄は15歳で訓練校を卒業していて、優秀な契約者として重宝されている。この世界は少しでもパイロット適正があると父のように前線に駆け出されるため、成績優秀者は未成年でもそういった現場での活動を許されている。そんなことを考えてると、ニュースの内容が天気予報に変わった。いつもの癖で義光は天気予報を見た。
「次は世界の天気予報です。今日は世界的に見ても海上においてピリットが発生する確率は低く、平和に過ごせる一日になりそうです。では、コアスピア基地の天気から見ていきましょう。地球側のコアスピア基地では概ね晴れるでしょう。ストリジア側のコアスピア基地では雪が降ってますね。エルサイアでは晴れ時々雪の予報になります。突風に気をつけましょう。」
「(いつ見ても斬新な天気予報だよなコレ。世界的な需要が塔コアスピアと、その先にある惑星ストリジアに片寄ってるせいだけどよ)」
義光は改めて、この世界の世界観を思い出した。塔コアスピアは日本の太平洋側に紀元前から存在する。呆れるほど長い塔だ。その塔は惑星と惑星が繋がっている。その惑星が、地球と惑星ストリジアだ。惑星ストリジアは地球と似た環境の惑星だが、知的生命体が人間のみである地球に対して、様々な種族が住む。
神、天使、竜人、魔族、精霊、獣人、エルフ、ドワーフ、ヒューマン等、多種族だ。惑星ストリジアは神と天使が天界に住み、それ以外の種族は下界に住んでいる。
彼等は塔コアスピアから発生する人工精霊と呼ばれる目に見えない精霊や、太陽から発生する太陽エネルギーを使って、様々な能力を行使することができる。魔法、魔術、超能力、錬金術、武術等能力の種類は様々だ。なお、地球人は能力を行使することができない。人工精霊や太陽エネルギーを使役することができないからだ。何れも塔コアスピアは、地球と惑星ストリジアが貧困や武力や文明の違い等で戦争が起きないように条約を結んでいる。
1.契約をしなければストリジア人と地球人は地球において能力を使用することができない。
2.契約相手は地球人とストリジア人でなければならない。
3.契約すれば地球人とストリジア人は能力を使用できる。
4.侵略行為は塔周辺において一切を禁止する。また塔周辺以外においても過度な侵略行為は禁止する。
5.条約に違反した場合、能力を使用する度対価が発生する。または塔の管理者が仲裁を行う。
塔コアスピアには管理者が存在する。管理者は不老不死であり、様々な能力を保有している。任意で世代交代することができる。歴代の管理者は老若男女様々で、世代交代するために過去から偉人を現代に転生させ、管理者に選ぶことができる。そのため、この世界の住民達は前の世界と違って転生という概念は比較的身近に存在するものとなっている。
「(だったけなぁ、世界観。難しいんだよ、この世界。自分で考えてて頭が痛くなる)」
特に時間も考えずにテレビを見てると、姉のナルミが心配して話しかけてくれた。
「ミオ、もう学校に行く時間よ。確かにお父さんもマキナさんも、エルサイアに行ってて寂しいのは分かるけど、遅刻するのは駄目」
「わっ、えっと、ごめんなさい」
「またぼーっとしてたでしょ」
ナルミの言葉に、義光もあれこれ考えすぎたと反省する。そうしてると、兄の神無月が声をかけてくれた。
「じゃあ途中まで俺がミオ送ってくわ。職場まで道のり一緒だし」
「うん。お願い。久しぶりに帰ってきたと思えばまた仕事なのね。少しはお休み貰えばいいのに」
そう言う姉のナルミの言葉に、神無月の表情が少し怖くなった。
「悪い。とてもじゃないが休めれる状況じゃない」
「お兄ちゃん、また事件?」
「そんなところだ。葬式にもでねぇといけねぇしな」
その表情と、葬式の話、B地区の住宅で遺体が発見したニュース、それらの話を照らし合わせて、義光は全てを察した。事情を知らないナルミは神無月に聞く。
「誰か亡くなったの?」
「あぁ」
「(朝のニュース、情報規制で誰が亡くなったか分からなかったけどもしや亡くなったの佐藤係長か?!あっ、だから兄貴こんな怖い表情してるのか)」
あまり話したくないのだろう、神無月の返事は淡々とした。
「それじゃあ、姉貴。また。行くぞ、ミオ」
「うん」
ミオはナルミに見送られて、神無月と学校まで行った。
ーーーいや、我ながら無茶苦茶でしょこの犯罪。無能力者は絶対回避できないなこれ。
義光は表情を引き攣った。夕方。帰り道。トラップを踏んでしまった。それは根本的に使用が法律で禁止されている魔術だ。それはトラップが発動すれば転移するのは子供だけというものだ。スフロン語を知り尽くした者なら簡単に作れてしまう魔術だ。小学生以上の大人は触っても反応しない。発動したらそのトラップは消滅する。
そこは死体と血だまりで溢れた。
地獄のような場所だった。
悲鳴が聞こえる。義光は左足の痛みに気付く。捻挫しているらしい。うまく足が動かない。しかもロープで両腕を縛られている。状況は絶望的だ。
「お願い、殺さないで!その人は!」
ミオと同じぐらいの少女の悲鳴が木霊する。チェーンソーの音が子供の悲鳴をかき消して血しぶきがあがったのを見た。少女が守りたかったその子は死んだと義光は察した。他にも少女やミオと似たような境遇の子供はいたが、皆揃って首輪を付けられているのを義光は見た。
「(どうにかして脱出する方法を考えないと、本当に死ぬ。俺はまだ生きてるのか?それすら分からない。あの首輪の奴ら、中身魔物なの俺知ってるからな?!儀式の生贄に使う魔物だって、俺はどうなんだ。まだ、人間か?)」
恐る恐る、義光は自分の首元を触った。首輪はない。まだ、生きている。あのチェーンソー男に殺られて、魔物になっていない。そのことが分かると、より具体的に義光は周囲を見渡す。
「がはっ」
悲鳴をあげた少女が血だらけで壁にぶつかった。まだ意識がある。義光はすぐに彼女の種族が背中から生えてある翼から精霊であることが分かった。額にあった契約者の印。スフロンコードが消える。彼女のその人はたった今死んだのだ。彼女も無能力者になった。力の依代を亡くした彼女はこのままだと消滅してしまう。彼らに利用されてしまう。
「(このまま放置しててもあのチェーンソー男に殺られる!動け、義光。いや、この場合だとミオか!どっちでもいい。このままだと死ぬぞ!)」
義光は話す。どうせチェーンソー男は来てしまう。なら、することは一つだ。
「契約して」
「ーーーー?!」
義光は確信した。この少女なら契約してくれると思った。契約、それはこの世界の地球において惑星ストリジアの能力を行使するために重要なものだ。
そして、少女の名前はミシェルだ。彼女は今契約しなければ消滅してしまう精霊であることを義光はよく理解していた。何故ならそのまま少女を放っておけば、魔物化し、後にやってくる捜査一課のメンバー達を苦戦させる怪物になることを義光は知っていたから。なら、助ければいい。彼女もこの事件において被害者なのだから。
二人を中心に魔法陣が展開する。契約専用の魔法陣だ。
少女は無言で義光の契約を受け入れた。
「がぁっーーーーー!!」
チェーンソー男が、チェーンソーを振り回しながら攻撃する。衝撃音が凄まじい。契約が完了するまで、義光達は世界に護られる。チェーンソー男が何度も魔法陣を破壊しようとしてもこの時ばかりは二人は護られるのである。
「私の名前は瀬戸ミオ。あなたは?」
「私は...私の名前はミシェル。アスカ君が死んじゃったの、辛い、辛いけど、死にたくない!アスカ君も生きてって言ってた!契約を受け入れます。どうか、私を守って」
左足の怪我が治る。両手首を拘束したロープも消失した。ミシェルも体のあちらこちらについた傷が完治する。ミシェルの存在は契約によって確立する。二人は手を繋ぐ。あとは契約の言葉を唱えるだけだ。契約のための結界も、5分しかまってくれない。
「フェアトラーク!」
その言葉を唱えた瞬間、時間が停止した。女性の声が聞こえる。
ーーー武器属性は銃。主属性は風。副属性は爆風、嵐。魔術と魔法の適正はありますが、超能力は使えません。また、適正属性以外の魔術及び魔法は使えません。魔力量は低質量。魔法は1日につき1回のみ使用可能です。魔術は体力が持つ限り使用可能。違反をしてないため、対価は発生しません。新たな契約者、瀬戸ミオ。無事を願います。
契約が完了する。ミオと義光が使える能力を女性が説明した。それを聞いて、義光は充分だと感じた。
時間停止が解除されるとあのチェーンソー男が真っ先に攻撃する。
やるなら、このタイミングだ。魔術は体力と知識さえあれば何発でも撃てるが子供の体力で出来るのは五回だ。それも初めてで、どこまで出来るか分からない。それでもやるしかなかった。
「ウパルク!」
(風よ!)
「がぁっ」
魔法陣が解かれた瞬間。義光はすぐにチェーンソー男めがけ風の魔術を解き放った。契約の証、スフロンコードが首筋に浮かぶ。
ウパルクは体力的には少し走ったぐらいの消耗量だ。他の初級魔術も大体同じぐらいの体力でなんとかなることをミオは知っていた。
ミオはチェーンソー男を怯ませることに成功する。初めての魔術。属性が風で使えるならこれしかないと思った。魔術を使用した体感も、少し疲れるぐらいだ。確かにこれなら連発できると義光は思った。
「行こう」
「うん!」
この場から逃げたい。義光はその一心で、ミシェルの手を引いた。