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創作世界で幼女に転生したら色々恨まれてしまって、死なないように頑張る話‬  作者: 篠原えれの
西暦2100年 二章 惑星ストリジア
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第二章11 抱え込んでしまったもの

 ーーー契約の更新を確認しました。ミシェル及び瀬戸ミオのスフロンコードを復元します。コード:35678を確認しました。契約の更新に伴ってコード:35678の再起動を始めます。



 女性の声が聞こえた。ミシェルと初めて契約した時の物と同じ女性の声だ。

 義光は契約する必要があった。それはスフロン水晶を再起動させるためだ。

 サリエルが封印されたことで使用することができなくなったスフロン水晶は瀬戸ミオの心臓としか役割を果たさない。

 サリエルの支配からようやく逃れることができたのに義光と瀬戸ミオは無能力者のままだ。

 戦艦アルテミスがサソリ型に追い込まれてるこの状況で何もできないのはあまりにも意味がない。

 契約することで、ようやく義光とミオは戦力となれる。エルサイア防衛戦で何万という命を屠った力を使うことができる。

 胸元のスフロン水晶が青い輝きを取り戻した。

 コード:35678がスフロン水晶の製造ナンバーだと義光は予測する。



 

 「(俺でも、この世界について分からないことはある。それはミシェルのことだ。ミシェルは元々神崎事件で死亡するはずだったキャラクターだ。それが生き残って、訓練校を卒業して、独立部隊セイレーンの翼に所属することになって、専用の機体リジャックまで製作した。リジャックは俺が考えた機体じゃない。完全にこの平行世界においての、オリジナルの機体だ。契約がどうなっていたのかも、このアナウンスだけじゃ判断がつかない。塔が存在することで産まれる、人工精霊という種族がミシェルという現象が全てを曖昧にしてる。)」




 契約の説明は続いた。


 ーーーコード:35678からスフロンコードの経験値が更新されました。瀬戸ミオが契約において使用できるスキルが一新されました。魔法、魔術、超能力、錬金術を体力が続く限り使用可能です。また、各惑星へのアクセス権を獲得しました。任意でアクセスすることができます。


 スフロンコードの経験値は、義光が神崎事件からエルサイア防衛戦において、ミシェル達がサリエルを封印するまでの5年間において、108526人を殺したことによって得たものだ。それは膨大なものだ。義光は推測を続ける。




 「(これまでの話を聞いて分かることがある。俺のせいでミシェルの立場が危なくなっている。それはサリエルのせいだ。サリエルがこの世界で生き残るために、サリエルとミシェルが運命共同体になっている可能性があるってことだ。サリエルを倒したのではなく、封印したって聞いた時から、なんとなくそんなことになってるんじゃないかと予想していた。)」




 アナウンスは続く。




 ーーーそれに伴い、ミシェルのスフロンコードの経験値も加算されます。スキルが強化され、一新されました。魔法、魔術を制限なく使用できるようになりました。体力が続く限り使用可能です。




 ミシェルの契約内容だ。前回は無かったなと思いながら義光は考察を続けた。 




 「(サリエルが死ねばミシェルも死ぬ。そういう呪いを奴ならミシェルにしかねない。俺がこうして再契約することで天界の立場が危うくなれば、今度は天界に封印されていてるサリエルが危ない。天界の封印なんかさせないって躍起になりそうなアイナはともかく、ミカエルなら間違いなく、世界を滅ぼすためにサリエルを殺す。サリエルを殺すことでミシェルという現象を二度と起こさせないようにする。ミカエルなら、俺が新しい契約者を見つける前にサリエルを殺したその場で俺を殺せるはずだ。ミカエルの目的は俺を世界から完全に孤立させることだ。流石の俺も、ミカエルという一種のラスボスを一人で倒すことは難しい)」




 契約のための儀式が終了し、魔法陣が消滅する。

 再契約が完了したことにより、体調が以前よりもよくなったと感じた。

 声も出る。ミオが義光の思考を理解して、協力してくれる。




 「よし」


 「ミオ、喋れるように」


 「再契約のおかげ。また薬物の副作用で倒れるかもしれないけれど、契約のおかげで私も義光も…義光っていうのは管理者のことね、以前と比べてかなり調子が戻ったの。ありがとう、ミシェル」




 ミシェルがこちらの方を見ている。動揺しているのがよく分かった。

 ミオが今話してることよりも、契約前に言った言葉の方が気になるのだろう。




 「基地についたら、サリエルを助けに行くよ。天界の封印もさせない。だから、ミシェル。契約しよう」




 この言葉が、気になって仕方ない。なんで知ってるのかと言いたげな表情だ。

 ミシェルがやりたいことを契約の直前に言い当てることで、何も言えないようにしたのは申し訳ないと思う。

 アルテミス達がいる状況では大きな声ではとても話せない内容だからだ。

 義光も、契約前で結界が張られたから言えたことだった。

 魔法陣の結界には治癒の効果と防御効果のほかに、防音効果と読唇術等で何を言っていたかバレないようにする効果がある。

 それはミシェルも理解しているようで、そこから先のことは言わない。

 アーカイルとセージが話す。



 

 「さすがに契約のおかげだな」


 「出れそうか」




 アーカイル、セージの順番だ。ミオが調子良さそうなのを一同理解した様子だ。



 

 「大丈夫。義光がさっきから急に思い出したかのように、初級魔術しか使ったことないから魔法や魔術がもし使えなかったらどうしようってうるさいんだけど、なんとなく分かるよ。サソリ型、やっつけられると思う」

 

 「頼もしいの。なら大丈夫じゃの」




 自信満々に宣言するミオとそれを聞いて呆れながら納得するアルテミス。

 会話が通じてるのは二人だけで、ミオの突然の告白に周囲は驚く。

 桜谷も驚きながら理解する。




 「えっ!?あっ、それもそうね。」


 「それもそうって、分かるのか。俺はほとんど理解できなかったが。」




 セージが呆れながら言う。理解できないといった様子だ。桜谷は解説する。




 「エルサイア防衛戦の記憶はほとんど無くて、それはつまりどんなスキルを使ったかという記憶がない。サリエルに操られる前に使ったスキル…つまり5年前の神崎事件で使ったスキルしか具体的に行使した記憶がないってことよね。でも大丈夫ってことは、感覚を頼りになんとかするってことで…それってつまり久しぶりに遊んだゲームをぶっつけ本番で練習も無しでいきなりボス戦に挑む人と一緒だよね。しかもやり方をすっかり忘れてる。」


 「はい。でも大丈夫です。なんとかなります」


 「俺は不安でしかないが」




 自信満々に言うミオに、不安を覚えるセージ達。アーカイルがミシェルに聞く。




 「なぁ、ミシェル。お前その時居たんだろ。管理者はなんのスキル使ってたんだ」


 「…確か、風の初級魔術。ウパルクだけだったよ」




 その言葉にアーカイルは絶句し、セージは「俺も出撃する」と言う。

 ミオの言葉はあまりにも信用が無く、管理者が不安を覚えるのも当然だと皆同情した。

 それでもミオはミシェルの手を引っ張って言った。




 「大丈夫。ミシェルと契約したおかげで、ある程度理解できるようになったの。この世界の仕組みと成り立ちを。それが視えてるから大丈夫。義光は多分これがないから不安なんだと思う。いくら知識があったって、サポートがなかったら不安だものね。」


 「サポート…?」


 「補助スキルみたいなものかな。えっと、分類としては魔法の一部だって義光が言ってたよ。」




 ミオの瞳にはしっかりと視えていた。今までの経験が全てデータとして保存され、契約という力を経由して補助スキルとして発動していた。分類としては魔法の領域になる。例え記憶がなくとも今まで培って来たものを頼りにシステムが助けてくれるものだ。


 「だから、行ってきます。セージさんとミシェルはまってて。私一人で、大丈夫だから」


 

 ■





 「よしっと」




 瞬間移動を使って、ミオは戦艦アルテミスの外に出る。この世界だと空を飛ぶなら魔法や魔術より超能力の方が燃費がよくて疲れないという義光の言葉に従って、サイコキネシスを使ってミオは空を飛んでいる。



 「(体温調整オッケー、と。あと状態異常無効化スキルも発動しとかないと。これしとかないと凄く寒いらしいし、状態異常無効化は紫の雨とか隔離結界が来た時に対策できるようにって義光に言われなくても皆から言われたわね)」




 生身でサソリ型を討伐できるからとミオが言うと、そこから更にもう一悶着あった。

 話をまとめて、そこから再度出撃をした。既におおよそは補助スキルによって何を使えばいいのか理解していたのである。




 「私がやらなきゃ」



 

 ミオは、戦艦アルテミスで目覚め特に契約してから、この補助スキルによって義光が喋るのではなく「自分で自由に喋ってもいいんだ」と気付かされた。実際、義光はミオが表で喋ってる間は何も言わないようにしている。小学生になってからの義光との付き合いが影響し、義光の話し方がうつり気味だった彼女は今まであまり喋れなかったモヤモヤもあり、以前よりも明るく喋れるようになっている。




 「(お父さん達はーーー…あそこか)」



 目視でサソリ型とレッド隊の場所を確認する。

 オリバーの機体ディザイアと一彦のサドネスが巨大化したサソリ型を迎撃していた。

 彼らの会話はオペレーターの雪平白に頼んで聞こえるようにして貰っている。

 



 「一彦!!サソリ型の後ろ、尻尾の方を狙え!そのあと俺がサソリ型の全体を焼く!」


 「了解ッ!」




 オリバーが一彦に命令する。一彦の機体「サドネス」なら、大鎌槍を生かして尻尾を迎撃することは可能だろう。

 その側で、サソリ型の弾幕を回避しながらキリナが詠唱していた。




 「千の輝き、天の音色、惑星喰らうその聲は地獄への扉。宇宙ラの名において創造主であるアイテールが命じます。」



 彼女が操縦する機体「クイーン」は巨体に視えるデザインだが小回りが効き、スピードも出る機体だ。チャージ中であっても問題なく動かせる。 

 高速移動をしながら詠唱をするサポートは残念ながらついてないので、それは彼女の腕前の見せ所だ。

 サソリ型の足元目掛けて弾幕のように色鮮やかな矢を繰り出した。その矢は彼女の体力が続く限り繰り出される。




 「【アロー・ニードルシャワー!】」


 「ーーー!!」




 矢が刺さる。煙があがる。見た目以上に殺傷能力があるその矢はサソリ型に命中すれば爆発した。




 「これでも喰らいやがれッ!」



 

 その爆発に便乗してサドネスがサソリ型の後方、尻尾の付け根部分を狙って何度も切りつける。

 矢を放っていたキリナは異変に気付いて一彦達に忠告する。




 「一彦さん、下がってください!」


 「なに?!」




 サソリ型は倒れそうになる。しかし、倒れそうになるのを見計らってサソリ型はジャンプした。

 高く、100mの巨体を諸共しないと言いたげに自慢の足と尻尾を使って、再生しながらジャンプする。

 ジャンプだけで生じる衝撃波は計り知れない。大きなサソリ型の咆哮と津波と共に一彦達は飲み込まれそうになる。




 「護ります!!」




 カナンだ。左腕の負傷なんて、なんともないとばかりに「プロテクトα」を動かし、彼女のスキル「防衛プログラム」を起動させる。




 「すまない、助かった」


 「タイミングはばっちりでしたよ、カナン」




 防衛プログラムのおかげで、一彦やキリナは津波に飲み込まれずに助かった。




 「喰らえ、ディザイア特性の砲撃だ!」


 「ーーーー!」




 サソリ型のジャンプに巻き込まれなかったオリバーは、サソリ型が着地した瞬間を狙って追撃に出る。

 砲撃が何発も繰り出さられ、赤色や青、様々な色のエネルギー物質が放出される。

 全弾、命中した。命中したことによって煙が発生する。



 「ちょっとそこから動かないでくださいね!」



 アルファルドだ。サソリ型を重力場を作って足止めしようと、スキルを展開する。



 「ーーーーー!!」 



 重力場が展開されて、サソリ型は身動きができなくなった。

 それを見ていたミオは思わず笑顔になる。ミオが居ることは分かっていたのだろう、カナンから通信が入る。




 「すごいでしょ。ミオちゃんが来なくても、私達だけでも十分やれちゃうんだからね」


 「確かに。いい感じに命中したし、アルファルドさんの重力も上手い感じに発動できてる。これなら私、任されて出てきたけどいらないんじゃないーーー」



 そう思っていると、義光から警告を受けた。ミオはぞわりとした悪寒も感じる。




 「いや、まだだ。油断するな」


 「えっ、義光?ーーーーー!!」




 煙で見えないはずなのに、ミオはサソリ型と目があったような気がした。



 「       」



 ギョロリ。瞳の部分はさっきまで閉じて見えてなかったのに鋭くこちらの方を睨まれたような気がした。

 その圧は凄まじい。冷や汗が出てしまうぐらいには恐ろしい殺意を感じた。

 未来予知を感知したキリナがすぐに声を張り上げる。

 オペレーターである雪平白もこの未来を察知するが、あまりに急に確定した未来だ。指示を出す暇が無い。




 「触手型の高速攻撃が来ます、それも複数。カナンの防衛プログラムで防ぐのは無理です。回避に集中してく

ださい!!」




 鋭く尖った触手が無数にサソリ型の体内から解き放たれる。キリナが警告を言い終わるよりも前にそれは起きた。



 「嘘っ」



 思わずミオは声に出してしまう。

 幸いにも触手はこちらまでは届かない。しかし射程内に入ればミオもただでは済まないだろう。

 義光は警告する。




 「あれはレッドの皆だけだと厳しい。キリナとカナンは生き残れるだろうが、アルファルドや親父はかなり厳しいはずだ。当然、オリバーさんも。長引けばまた誰かが被弾する」 




 重力で身動きができないはずのサソリ型は、足や胴体だけ拘束されて、体内から飛び出た触手は重力を無力化できるようだった。

 拘束できると人はどうしても「大丈夫だ」という安心感を覚えてしまう。それが油断を生む。




 「大鎌槍が、クソ」


 「レッド隊、撤退してください。管理者と交代します」




 超高速で接近する触手の猛攻撃を回避しきれずにサドネスの大鎌槍が破壊された。

 それとほぼ同時に雪平白が指示を出す。

 撤退をするための最速ルートも表示され、レッドの一同はそれを見て戦艦アルテミスまで帰還する。


 その光景を見てしまったミオが、慌てて義光に尋ねる。




 「どうしよう、義光。お父さんが危ない」


 「しばらくは大丈夫なはずだ。撤退するためのルートは雪平さんがやってくれてるはずだし、彼等も無理はしないはずだ。サソリ型…というよりも大型ピリットの特徴とも言えるんだが、この触手は一度出ると、この空域の生命反応を全滅させるまでこの状態を維持するはずだ。レッド隊には速いところ撤退して貰って、高火力系の魔法か超能力で叩くのがいいだろうな」


 「なら、みんなの撤退を手伝わないとだね。使えるスキルを一通り確認したんだけど、どれもかれもこのままだとどうしても巻き込んじゃうし」




 方針を確認したミオは、電子パネルを開く。通信相手はオペレーターである雪平白だ。




 「雪平さん、回避ルートのプランを私も見せてください。皆さんの撤退を手伝います」


 「えっ、あ、構いませんが、こちらになります。人命に関わって来ますので、状況に応じて対処してくださると助かります。」




 まさか手伝ってくれるとは思ってもなかったのか、それともそんな情けはいらないと思ってるのか彼女の表情はぎこちなかった。

 それでも、すぐにプランを表示してくれた。そのおかげでミオも義光もレッド隊の行動ルートを理解できた。



 「了解です。ありがとう、雪平さん」



 ミオは笑顔で返した。


 ■




 「この、また私なの?!こんな大量に、いっぺんに回避しろって言う方が無茶苦茶よ!」




 半泣きになりながら撤退してるのはアルファルドだ。

 彼女が唯一使えるスキルである重力が効かないのは痛手だろう。




 「怖くなんかないんだから!絶対生きるって誓ったんだから!これぐらいやって見せるわよ!!」




 どうしても回避できない触手は初期装備の一つであるビームライフルを使って迎撃する。

 彼女の機体も小回りが効く。高速移動なら簡単にできるだろう。

 オリバーも触手を相手にしながら話す。武器が残っている彼はまだ余裕がありそうだ。




 「そんな生き急がなくても、大丈夫だぞ。俺らも残ってる」


 「分かってます。でも、ただただ速く撤退して生還したい。私が望むのはそれだけなのよ…」




 アルファルドが涙ながらに言う。触手の数が多い。油断ができない。ストレスでしかなかった。

 そんな二人に、一彦も合流する。連携して触手を倒せる位置まで合流する。

 一彦は損傷した大鎌槍の代わりにビームサーベルやビームライフルを使っている。

 ちょっとした回避ならこの装備でもなんとかなるのだろう。一彦が言う。



 「ここは連携を取るのも大事だ。俺も槍を持ってかれた。サーベルでなんとかする」


 「えっ、瀬戸隊長が大鎌槍を…?!珍しいですね」




 アルファルドが驚く。頷きながら、一彦がカナンに確認する。




 「カナンは無事に撤退できたみたいだな」




 カナンは通常サイズのβ型に搭乗してるアルファルドと違い、大型サイズのα型アージェリカに搭乗している。

 真先にサソリ型に狙われやすいという理由で、雪平白の指示でキリナが瞬間移動を使って先に撤退している。

 電子パネルを使って、オリバーはカナンと会話する。キリナも一緒だ。




 「はい、なんとか。すみません、先に撤退させて頂いて」


 「必要でしたら私もすぐ駆けつけますので」


 「もしもがあれば頼む。今は大丈夫だ」




 カナン、キリナ、オリバーの順番で話す。お互いの状況を確認する。

 アージェリカの警告音がコックピットに鳴り響く。

 サソリ型の咆哮だ。




 「ーーーー!」

 

 「回避!!持ち堪えろ!!」




 一彦が叫ぶ。アージェリカの警告音はサソリ型の攻撃ーーー鋭く尖った触手に、反応している。

 サソリ型の攻撃が、オリバー達を一斉に襲う。




 「そいつはもう見切ったぜ!」




 オリバーがサソリ型が放った、鋭く尖った触手をディザイアの赤いブレードを使って破壊する。

 全て破壊することに成功する。




 「さすがです!オリバー隊長!」


 「アルファルド、後ろだ!」




 アルファルドがオリバーを称賛すると、一彦が真先に異変に気付いて警告する。

 複雑に描かれた銀色の魔法陣が、アルファルドの機体の背後に展開する。

 サソリ型の咆哮と共にそれは解き放たれる。




 「ーーーーー!!」


 「えっ?!」



 気付いた時にはもう遅い。銀色の魔法陣の正体は転移系の魔法陣だ。

 魔法陣から超高速で、複数の鋭く尖った鋭利の触手が解き放たれる。

 一彦やオリバーではアルファルドをすぐに助けられない。

 まともに喰らえば、アルファルドは致命傷から逃れられない。

 彼女の機体「桜」は大破する。




 「くそ、間に合わない!」



 一彦が叫ぶ。




 「ーーーー!(死にたく、ない!)」



 突然のことにアルファルドは対処できずに目を瞑ってしまう。

 当然ながら、カナンの防衛プログラムもその触手は貫通してしまう。

 戦艦アルテミスからの援護は期待できない。



 諦めかけたその時、触手がアルファルドの機体を貫通することなく高く、金属が破裂する音が鳴り響いた。




 「ーーーーさせないよ!!」


 「えっ、これ、あの子がエルサイア防衛戦で使ってた技?・・・私、護られてるの?」




 鋭く尖った鋭利の触手を、ミオが魔法を使って防ぐ。いずれも無詠唱だ。

 幾つも繰り出される触手がアルファルドに到達する前にミオの魔法に捕捉されて破裂して消滅する。


 

 「ミオ」

 


 一彦もミオの技には見覚えがあるのだろう。あの技には何度も苦戦を強いられた。

 何度も窮地に陥られたことがある。困惑して、呆然と触手が破壊されていくのを見ることしかできなかった。




 「なるほど、助かった」

 



 オリバーは対して困惑せずに、状況を理解して行動を再開する。

 やり返しと言わんばかりに、ディザイアの赤いブレードを使って衝撃波をサソリ型目掛けて繰り出す。



 「ーーーー!!!」


 

 オリバーの衝撃波をまともに喰らったサソリ型が悲鳴にも似た雄叫びをあげる。

 使ってからミオも驚く。特に詠唱した訳でもないのに迎撃できている。初めて使ったのにも関わらず、とても手応えがあった。




 「反射的にやってしまったけど、なにこれ。無詠唱発動って奴?イメージだけで発動してる?」



 ミオの状況を理解した義光が警告する。



 「普通は、このレベルの技はアイナとかが愛用して使う技だ。アルテミスとかでも使うのを躊躇う。対象を問答無用で消滅させるというシンプルな技だが、とんでもなく体力を消費する燃費が悪い技でもあるんだ。この技を使った反動が後で絶対に来るぞ。どうせならもっと確実にサソリ型をやっつけられる魔法を使え。」


 「ええー?!だって、アルファルドさん助けられるならこれが一番てっとり速いって思ったんだもん」




 納得がいかないと言いたげなミオに、まだ分からないか、と呆れながら義光が言う。




 「確かにそうだが、周囲に対しての配慮が足りない。シンプルで強力な技はエルサイア防衛戦でも使ってると考えた方がいい。理性がなくても、簡単なイメージで全てを壊してしまえるような技は、使わない方がいい。言われないにしても、親父やアルファルドさんが困惑する。セージさんとか、アーカイルとかもな」


 「……!分かった、気をつける」




 ミオが義光の考えを理解すると、アルファルドから通信が入る。


 

 「ありがとう。助かったわ。あの技にはびっくりしちゃったけど、大丈夫よ。味方だとこんなに頼もしいのね」


 「アルファルドさん…。」




 彼女の言葉にミオは申し訳なくなる。義光が言っていたことはこういうことだったのか、理解した。

 オリバーが会話に入ってくる。




 「俺達三人は一足先に撤退する。助けてくれたおかげで道を作れそうだ。あとは任せる」

 

 「………」




 一彦も会話に参加してたが、終始無言だった。会釈だけで終わる。

 


 「(お父さん……)了解です」

 






 「プランΔ、発動するぞ!」


 「了解!」




 オリバーがそういうと、一彦とアルファルドの三人で陣形を組み、サソリ型の防衛網を突破することに成功する。

 



 「ディザイア、サドネス、桜。三機ともに帰還しました!パイロットも無事です」


 「やったの。あとは瀬戸ミオがサソリ型を討伐するだけじゃ」



 多少の戦闘後、三人は無事に戦艦アルテミスへと帰還した。

 雪平白の報告に、アルテミスや安藤俊則は安堵する。


 

 そう、あとはもう瀬戸ミオがサソリ型を討伐するだけでいいのである。




 「ーーーー!!」


 「何度来たって同じだよ」




 サソリ型が次々に針状にしたエネルギー弾を放つ。まるで弾幕だ。 

 鋭く尖った物は何も見るのが初めてではない。

 最初と同じ感じであれば、それを回避するのは容易だろう。



 「ーーーーッ?!(何っ?!これ、怖い)」


 「詠唱だ。使うのは炎系の魔法でいい」



 ここに来て、ミオと義光はぞくりとサソリ型に恐怖を感じた。



 「×××××」



 するどく尖った物を見るのが恐ろしい。あの鋭利なものが怖い。

 あれを見続けてはいけない。あの鋭利なものから声が聞こえる。

 義光も本能でそう感じ取り、すぐにミオへ指示を出す。




「【イコル・マ・バーニング!】」(強力で、巨大な炎よ出でよ!)




 黄色の魔法陣を展開して魔法名を唱える。炎の魔法だ。

 キリナが使っていたものよりもそれは威力が高く、砲撃のように発射される。

 但しそれはキリナが使っていたものより魔法陣の展開が遅い。 




 「ーーーー!」




 炎は、超高速で解き放たれた鋭く尖った針状の弾幕を相殺した。

 それでも弾幕は続く。



 「焼き払えっ!!」




 炎を乱射しながら、ミオは次の魔法陣を展開する。一刻も速く、サソリ型に近付くためだ。

 人の存在感は大事だったんだとミオは初めて気付いた。

 父や、アルファルドを死なせたくなかった。皆が助かるまでは無我夢中だったから気付かなかった。




 「すごく善戦してますね。それにこの技は初めて見るものです。」


 「スフロン魔術を更に強力に使えるよう人工精霊に命令させて魔法として応用させたものじゃが…妾にはどう見ても、ミオも管理者も、無理をしとるように見えるの。バイタルは正常じゃが、トラウマか何かかの?サソリ型は倒せるじゃろうが、妾はいつでも彼女を救出できるように待機する。」



 状況を解析しながら、雪平白にアルテミスは言う。

 


 「了解です」


 「とりあえず今は、なんとか戦えておる。妾達も援護射撃するのじゃ」



 戦ってる彼女は焦りを感じながらも義光の指示もあってギリギリまで行動できていた。



 超高速で接近してくるまるで針のような弾幕は苦手だ。

 するどく尖った鋭利のような尻尾が嫌いだ。

 



 「やだ、やだ、嫌だ。もう人は殺したくない、嫌だ!!」


 「落ち着け、そんなに人工精霊に命令を出さなくてもサソリ型は倒せる!」




 ミオは耐えきれずに涙を流す。さっきまでの威勢の良さはもうどこにも見えなかった。

 義光の声も聞こえていない。




 「死んじゃえ」




 もうサソリ型を見たくもないと言わんばかりにミオは問答無用で魔法を解放する。

 それは灼熱の爆風がサソリ型を飲み込み、海をも消滅させる勢いだった。



 「回避ーーー!!!離脱する!!!」



 その威力を察したアルテミスが、援護をやめて回避に集中した。

 ミオの魔法に巻き込まれないための緊急手段だ。


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