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創作世界で幼女に転生したら色々恨まれてしまって、死なないように頑張る話‬  作者: 篠原えれの
西暦2100年 二章 惑星ストリジア
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第二章7 戦艦アルテミス


 「艦長。やはり、大型ピリットとの戦闘は避けられません。どのルートを通っても遭遇してしまいます。」



 管制室にて対策会議が開かれていた。深刻そうな表情で雪平白が告げた。

 今のところ、レーダーには何も反応がない。これは彼女の予知能力で得た情報だ。

 安藤俊則はため息をつきながら整備長であるソーサリーに話をする。



 「α型の修理は終了していたね」


 「はい、完了してます。ですが、パイロットがいません。防衛戦でみんな、この艦を護ってくれましたが…!」



 ソーサリーが俯きながら、言った。防衛戦というのはエルサイア防衛戦のことだ。

 猛攻撃。まるで雨のように弾丸となってピリットが攻めてきた悪夢をソーサリー達は忘れられなかった。

 レッドの隊員を総動員した。1日も休めなかった。日が経つごとに人が死んで行った。

 昨日まで元気だったあの子はコックピットを潰されて遺骨すら回収できなかった。

 それなのにあの悪魔は何度もこの船を襲った。

 止まない、巨大な砲撃の嵐。暴風で全てを投げ払った悪魔。

 α型のパイロットは皆、身を挺してあの悪魔に立ち向かい、そして散った。


 

 「(ほんと、この世界の運命を作ったとか知りませんけど、厄介な設定にしてくれたわ。クソ管理者。どうしてβ型のパイロットよりα型のパイロット適正を少なくしたのよ。アホじゃないの。私だって、アージェリカパイロットの適正があればアージェリカに乗って戦うのに)」



 雪平白は悪態を心の中で吐いた。あの時は敬語でミオに話したが、本当は罵詈雑言をぶつけてやりたかった。

 あんたのせいで何人が死んだと思ってんだ。馬鹿野郎。言ってやりたかった。

 そんなお通夜状態の管制室に一人の少女が名乗りをあげた。



 「安藤艦長。私、α型のアージェリカパイロットやります。適正、あります!!最終試験も合格してます!やらせてください!」



 たまたま作戦を聞いていた、後藤カナン大尉だった。

 その言葉に安藤俊則と雪平白が反応する。



 「大尉」


 「そういえば、後藤さんはα型アージェリカの適正があったわね。だからレッド隊の所属になれたんだものね」



 何故今まで搭乗出来なかったのか。それは簡単だ。

 彼女は防衛戦後に着任したばかりの少女だからだ。

 乗った瞬間α型アージェリカはその巨体故に他のピリットの集中砲火を浴びるからだ。

 全長80mにもなるアージェリカはそれはそれは巨大だ。

 帰還時には15mまで機体を小さくできる優れた機体だが、パイロット適正は著しく低くなる。

 瀬戸一彦ですら艦長の命令を無視し、無理やりα型のアージェリカに搭乗しようとして、意識不明になりかけたぐらいである。

 そんな機体に、乗ると名乗り出た彼女は安藤俊則の孫だ。

 鬱とPTSDでアージェリカパイロットを引退した娘に彼女はよく似ていた。安藤俊則が心配にならない訳がない。

 防衛戦の恐怖を体験していない。スキルも防御に特化した物だけだ。攻撃手段がなく経験値がそもそも足りていない。

 彼の計らいで、カナンはα型に乗らなくていい流れになっていた。

 それを自らぶち壊してくれたので、安藤俊則は大いにため息をついた。

 こうなってしまっては、いくら艦長だからとはいえ彼女の出撃希望を止めることができないのである。

 今、この戦艦は本当に人手が足りなかった。

 猫の手、孫の手。幾らでも借りたいぐらいだった。



 ■



 1日目。戦艦アルテミスは道中ピリットの戦闘はあったものの、既存の中型ばかりで難なく対処。

 日が落ちるまでの編成メンバーは第二部隊のオリバーとキリナ・アイテールの編成だった。

 


 「ディザイア、クイーン。両機ともに帰還しました。パイロットも無事です」


 「当然じゃ。防衛戦とこれから起きる大型との戦闘を思えば彼らにとって準備運動に過ぎんじゃろ」



 雪平白の報告に、アルテミスが言う。

 次の大型ピリットへの戦に備えて、作戦が書かれた電子パネルを表示する。このプランは既にパイロット達には報告済みだ。


 アルテミスが話す。



 「α型サード機の名前はプロテクトαになったそうじゃの。後藤大尉らしいと言えばそうじゃが、あやつも彼女をアイテールの契約者だと分かってて命名してるのがよく分かるの。俊則」



 その言葉に安藤俊則は頷いた。



 「認証式は済ませた。あとは、我々の戦略と武力で脅威から身を護る。その流れはいつの時代も変わらん」



 認証式。それはアージェリカの機体の名前を起動エンジンとなっているスフロン水晶に名付けて貰う儀式のことだ。

 アージェリカの名称は全てパイロットの性質に合わせて名付けられるため、パイロットが死亡するとその名称がリセットされるのだという。

 初めてコックピットに搭乗する際もパイロット達は共通して少年に出会う。



 訓練校にてアージェリカパイロットの適正がある、適正がないもその少年が決める。

 適正があればその機体はパイロットが死亡するまでそのパイロットが使用できる。

 適正がなければパイロットはコックピットから弾き出されるかそれでもパイロットになることを望んだ場合意識不明者になる。



 何故アージェリカの起動エンジンとなっているスフロン水晶が機体に名付けるのか不明だ。

 何故パイロットの適正も少年が決めるのかも不明だ。



 彼の容姿と声から初代塔コアスピアの管理者ではないかと天界の神達から言われているが、当時の記録がほとんど残っていない。

 彼の容姿を真似た第三者である可能性があるため、立証が不可能だった。


 アルテミスが話しを続ける。



 「ファーストもセカンドも失ってしもうた。残りはサード機のみじゃ。そのパイロットがお主の孫とは皮肉じゃの」


 「それはもうあの子が決めてしまったことだ。13年前のジャンヌ・ダルクと緑の雨からこうなることは覚悟していた。カナンがこちら側。カノンがあちら側に行ってしまったのも、運命だ」



 すると虫の知らせのようにアルテミスは艦内の異変を察知した。

 通信する。



 「桜谷!独房の管理者個体の治療をするのじゃ。すぐに!」


 「了解しました」



 アルテミスのその表情は苛立っていた。

 

 ■

 

 義光は、戦艦アルテミスが出航してから体調が優れなかった。

 


 「(横になればマシになるだろ)」


 

 視界がボヤける、目眩がする、頭痛がする。身体が痺れ動かない。

 とても座ってられるような状態ではなかった。

 オリバー達がピリットを相手に戦う映像をモニターに映し出されても見ることができず眠っていた。



 「(だめだ、水でもいいから飲まないと。脱水で死ねる)」



 立ち上がる。高熱で汗が止まらなかった。

 義光は水をなんとかウォーターサーバーからコップに淹れて飲むことができた。

 咳き込む。吐血する。コップを落として止まらない咳に苦しんだ。



 「(駄目だ。止まらない、何も視えない。誰でもいいから助けて)」



 義光は倒れてしまう。そのまま意識を失った。

 遅れて桜谷が独房に入室した。桜谷は白衣に黒髪が特徴的な女性だ。早速状況を確認し、把握する。



 「アルテミス様が言ってたこと、そういうことね。」


 「薬物の副作用じゃ。報告書からあるとは思っていたのじゃが、思ってたよりも症状が酷いの。治療は可能かの?」



 青色の電子パネルが開いて、会話を再開する。

 アルテミスが桜谷に尋ねる。



 「使用されていた薬物が判明すれば可能かと。アルテミス様。彼女を医務室まで連れてもいいですか」


 「行かぬ。またトラブルが起きても困るからの。必要な機材があれば運ぶよう指示を出すのじゃが、それでもダメかの?」


 「…分かりました。その場での治療、善処しましょう」


 「すまぬのう。保護されてからまだ一週間も経っていないのに、まさかこんなにも速く症状が出るとは思っておらんかった。」


 「問題ありません。彼女をベッドに戻します」

 


 魔法陣を展開する。桜谷は無言で魔術を発動させて、ミオを浮かして移動させてベッドに戻した。



 「監視カメラの映像、見させて頂いてもよろしいですか?」


 「大丈夫じゃ」



 もう一つ電子パネルが表示される。

 桜谷はミオが倒れた経緯、監視カメラで録画された記録を再確認した。 

 確認した後、桜谷は魔術を使ってミオの身体検査をする。



 「これは…!」


 「どうじゃ、薬の方は分かりそうかの?」

 

 「はい。そうですね、やはり地上にない成分の麻薬ばかり使われてます。天界のものでどれも初めて見る薬物ばかりですが、幸いにも私でも分かる範囲の薬物です」


 「ふむ。薬物に関しては後で報告書を出すように。」


 「了解しました。」



 電子パネルに薬物データを表記させて、桜谷はミオを治療しようとする。



 「(気絶しちまったのか、俺は)」

 

 「お目覚め?無理に端末使って喋らなくて大丈夫ですからね。薬の副作用で倒れたんですよ。覚えてますか」



 視界がボヤけるため、誰に話しかけられてるか義光は分からない。



 「(体も動かせねぇな。頷くもしんどいんだが)」


 「辛そうですね。これから魔術で治療を行いますので、大丈夫ですよ」



 心地よい光で包まれ、少しずつ辛い身体が治っていく。

 


 「(前にも、似たようなことがあったような)」



 その時、ぼんやりと思い浮かんだのはサリエルに薬を打たれた時のことだ。



 あの時も優しくされた。その後薬の副作用で、気付いたら戦場にいたなんてことは日常的だった。

 いつの間にか武器を大量に錬成できた。連射したり、魔術の上位互換である魔法を何度も使った。

 それを使って、α型サード機のコックピットを貫いた時のことも思いだした。



 当時のサード機にはアーカイル・ロンドミアの妹サーニャ・ロンドミアが乗っていた。



 「死ぬのは怖い。怖いよ。お父さんとお母さんを殺したあの子が憎いよ。でも、あの子の方がよっぽど苦しそうだなって最後にやっと分かった。だってほら見て、泣いてる。攻撃をやめようとしてるもの。本当だったんだ。助けれるといいね、ミシェル君。バイバイ、お兄ちゃん。生きてーー」



 透視能力を使って、義光は確かにその光景を見ていた。

 あの子は最後まで笑っていた。



 

 「(あ、あぁ、俺は、生き延びて、なんで、あんないい子殺して、俺は助けて貰ってんだ。殺せ、いっそ、このまま、何もするな…!)」


 「心拍数上昇!200?!大丈夫、貴方はもう大丈夫だからーーー!待ちなさい、何するの!」



 治療されて意識がはっきりとするにつれて絶望は増していく。

 エルサイア防衛戦のことを思い出しかけた義光は錯乱して、桜谷がメスを持ってることを知っていた義光はそれを奪う。



 「やめなさい!」

 

 「自殺なぞさせると思うたか!たわけ!」



 それを電子パネル越しに見ていたアルテミスがサイコキネシスで義光が腹を斬ろうとしていたのを止めた。

 


 「(あ、ぁーー死なせて、くれ。頼む)」



 義光は再度意識を失った。

 


  

 


 

 



 


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