第二章5 二度目の再開
「ちょうど彼女も目を覚ましたところだわ。シュテー。いいわよ、通して」
「(おいおい、拒否権無しかよ。ミシェルと、相手は誰だ)」
エリーアも返事をする。
義光はあまりにも普通にミシェル達を通されたため困惑する。
「(何もなかったのはアレだな。最初から新政府に俺を渡すつもりだったからだな。そりゃそうだ、このギルドの所属はエルサイアだ。エルサイアに所属してるということは新政府連合にも所属してるってことだ。ここにいる奴らは俺以外全員、軍人だ)」
そう義光が感じてていると、シュテーが疲れた表情で扉を開ける。
ミシェルと、男性二人と女性一人が部屋に入ってくる。
「ごめん。もう離さないって決めたのに守れなくて」
ミシェルが深刻そうな表情で言った。ミシェルの様子に思わず義光も心配になってしまう。
周囲がまた始まったという雰囲気になった。義光はなんとなく状況を察した。
「(あぁ、そうか。ミシェルがいつもこんな感じだとシュテーは疲れるな。合わねぇだろうなぁ)」
シュテーが深いため息のあと、この場を代表してミシェルに文句を言う。
「あ~~鬱陶しい!ずっとこいつこんな調子なんだ。おい管理者!なんか言ってやれよ。なんのために端末あげたと思ってんだ」
「鬱陶しいとはなんだ鬱陶しいとは!俺にとっては深刻な問題だ!」
管理者というのは間違いなくミオのことだろう。シュテーはあきらかに不快そうだった。
一方でミシェルはこの5年でミオを助けるためにこだわりを幾つかポリシーとして持ち合わせてしまったらしく、彼はシュテーの非難に対して異議しかないと言わんばかりの表情で言い返した。
収集がつかなくなるなと察した義光はアプリに言葉を入力した。
「大丈夫。私は、大丈夫だから。迎えに来てくれて、ありがとう。ミシェル。」
「やっぱり、喋れないままなんだね…」
ミシェルは心配そうに言った。
「大丈夫。そんなに思い詰めないで。なにもできなかった私の責任だから。私のせいだから…」
義光は予想していた。
新政府連合が迎えに来るなら、まずミオが怯えない相手を人選するだろうと。そうなると所属が違えど必ずベストな組み合わせをするはずだと予想した。ミオの父親、瀬戸一彦とミオの性別を配慮して女性の隊員一名配備する。それからミオと元契約者だったミシェルが選ばれる。最後に監視役に三人より強いヒューマンが人員に選ばれる。
それでも言葉を返したあと男性二人を見てびっくりし、途中まで入力して慌ててタイピングした。
「お父さん」
「久しぶりだな、ミオ」
「うん。ありがとう、来てくれて」
自分に気付いてくれたのが嬉しいのか一彦は挨拶だけした。色々思うところがあるのだろう、表情は複雑そうだった。
彼はミオとは距離を取り、もう一人の男性といた。
義光の予想通り、その人はとても凄腕のヒューマンだった。視線が合い、名乗ってくれた。
「オリバー・エドワーズ大佐だ。よろしく頼む。」
その流れで女性とも視線が合ったのでその人も名乗ってくれた。2人ともよく知る人だった。
「後藤カナン大尉です。よろしくね」
オリバーもカナンも黒髪だ。2人とも階級がかなり離れてるが一彦と同じ戦艦アルテミス所属で「レッド」のメンバーだ。オリバーは第二部隊の隊長、カナンは第三部隊に今年着任した新入りだ。
「うん」
義光は頷いた。
父親である一彦はもちろん、ミシェルもミオが口数が少ない少女と認識してる。会釈だけで済ました。
今後起こりそうなことを聞きたいとエリーアが言っていたが、このメンバーで大体何が起きるか義光はすぐ予想できてしまった。
「(すっごい本編に関係のある面子ばかりだな。カナンなんか俺に話しを聞きたいばっかりだろ。)」
本当ならエルサイア防衛戦はデメテル派によって起こったことだった。これから起こる可能性は十分あった。
ミオが居なければ後藤カノンと翔一があちらの陣営にとってエース的存在だった。天界に堕ちた後藤カノンは目の前にいる後藤カナンの双子の妹だ。
カナンは天界から大切な妹を取り戻したい一心で軍人になった。アージェリカパイロットとして適正はあるが戦闘の才能はなく、訓練校を初等科から大学部までの過程を乗り越えて卒業した努力家だ。一方でカノンは天界でデメテルと契約したことにより戦闘の才能を開花させた。この世界での戦い方を熟知した天才だ。
二人とも戦艦アルテミスの艦長安藤俊則の孫だ。両親もアージェリカパイロットだった。
そう考えてるとオリバーがミオに伝える。
「移動のプランだが、ここからまずはエルサイアに移動する予定だ。港に待機している戦艦アルテミスと合流する。最終的にはコアスピア基地が到着予定地だが、道中はどうしてもピリットの連中との戦闘は避けられない。ここで一方的な俺の案なんだが、新種等のアクシデントに遭遇した場合の協力の要請は可能か?」
その言葉に、とくにミシェルが「今言いますか」と言った表情でオリバーをガン見する。一彦も少し動揺した様子を見せたが、カナンも含めこの場にいる全員、彼が上官だということは理解してるのか誰も反論しない。
義光は少し考えたあと返事した。
「協力の要請を受け入れます。」
「ミオ、いいのか。本当に」
「相変わらず過保護ね。あまり彼女を擁護しすぎるとまた孤立するわよ」
ミシェルが動揺しながら言った。エリーアは気にしなくていいとミシェルに遠回しに言う。周囲は鎮まる。
オリバーがあぁ、忘れていたという表情で話す。
「それからだが、例え心を読めないからと言って嘘の情報を流しても無駄なことを忘れるな。俺達は、お前の情報全てを信じない。そういうプランもあると検討するだけだ。お前のせいで何万という命が消えたことを忘れるな。俺の部下も、お前の父親の上官や部下も何人か死んでる。それを忘れるな」
オリバーの表情は完全にミオを見下していた。義光は何も言い返せなかった。
5年間の記憶がない等、この時ばかりは関係ない。人が死んだ。大勢亡くなった。この事実は変わらない。
「…」
オリバー・エドワーズ。彼の外見は二十歳前半に見えるが、軍人としてはこの場の誰よりもベテランだ。
彼は契約の効果で不老のスキルを得て、彼の身体はいつまでも老けない。実年齢は今年で60歳になるはずだ。
シュテーが警告する。
「はやく移動を始めた方がいいぜ。ここは安全だが、周辺にはピリットの大群が発生する予知が幾つも出ている。あまり時間は無い」
「分かってる。移動は手筈通り、ウォーター3に管理者を搭乗させる。ウォーター3が後藤大尉だ。つれていけ」
「了解!」
オリバーの支持の言う通り、カナンはミオの手を引いて部屋を後にする。
「(冷たい手だ。ここまで来るまで、大変だったんだろうな…)」
義光は結局、何も言えないままエリーア達の方を見て会釈した。
助けてくれて、ありがとう。そんな感謝の気持ちも抱きながらカナンの機体に乗り込んだ。
カナン達の機体は皆β型のアージェリカだった。ミシェルのリジャック、オリバーのディザイア、一彦のサドネス、カナンのプロテクト。
オリバー達の機体はパイロットの性能に合わせてデザインされたものばかりだった。
「レッド隊、発進するぞ!」
レッド隊はギルド「希望の協会」を後にした。
カナンの機体、プロテクトに乗り込む。やはりコックピットは空洞になっており、全体が外の景色が見えるようになっていた。
速く移動するためか振動が伝わる。
「ごめんね。ミオちゃん。ちょっと揺れるけど我慢してね。」
「(あの時はすぐやられたからな。あまりGを感じなかったんだ。耐えるしかないな)」
ミオは頷いて返事した。揺れるせいでうまくタイピングできないのだ。
カナンは明るい性格で、いい子だ。
青色の通信パネルが開いた。
「戦艦アルテミスのCIC担当オペレーター、雪平白と申します。以後、お見知り置きください。管理者瀬戸ミオ。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
カナン機に向けてのみの通信だろう。義光はタイピングして会釈した。
もうすぐ結界の外に出る。




