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第一章1 「邂逅」全てが祝福されるとは限らない

 「207号室の加藤さんの様態が昨夜から急変しました。救急措置は行いましたが恐らく今夜が峠です」

 

 「分かりました」


 そう医者が告げた。207号室の加藤さん。加藤義光。彼は今年成人したばかりの男性だ。彼は生まれつき病弱だった。よく入退院を繰り返したが、等々それも叶わなくなるほど彼は今回の発作で酷く衰弱した。母親のみが病室で、泣き崩れていた。よくある話だった。


 「どうして、まだ成人したばかりなのに」


 血を吐き、発作に苦しんだ。そんな彼の趣味が物語を書くことだった。彼の夢は作家になることだった。彼は病弱であることを除けば非常に学力が高い優等生だった。



 ーーーーーーなんとか、本は書き上げることはできたな。



 義光は自分の死が近いことはなんとなく悟っていた。

 それまでになんとしてでも幼い頃から夢みていた物語を書き上げると奮闘していた。



 ーーーーー自分の夢を叶えることで精一杯な息子だったなぁ。これ以上生きることができないのが悔しい。



 学校にろくに通うことは出来なかった。それでも成人することはできた。時間だけは膨大にあった。彼は一つと言わず、同じ世界観で沢山の物語を書き上げることに成功した。

 

 何作かは作品として書店に並び、夢が叶った彼は悔いがなかった。

 デザイン等決める時は大変苦労したがイメージ通りのキャラクターが出来上がったと義光は思った。


 「ごめんね、義光」


 本当は母だけではなく、これまで出会ったたくさんの人に会って死にたかった。



 意識が朦朧とする。もうすぐ自分は死ぬ。そんな覚悟をしたその時だった。

 

 世界の時が止まった。

 

 泣いている母は動かない。その場に居た医者や看護師も動きが止まってる。

 


「(なんだ、なんだ。俺はもうすぐ死ぬんじゃないのか。どうなってる…?!)」



 義光はこれから起きることを想像して全身に鳥肌が立った。

 勘弁してくれと思った。どうやら身体は動くらしい。それでも、人工呼吸器に繋がれたその身体では手を動かすので精一杯だ。

 起き上がることはできない。病のせいで息をするだけでも激痛が身体に走る。

 死なせてくれと願った。 



 「あなたが寿命で死んでしまうのをずっと待っていました」



 すると、すぐそこで笑顔で彼に直接話しかけた女神がいた。

 泣いてる母や、義光の容態を診る医師や看護師なんてどうでもいいと言わんばかりに。


 彼女はピンク髪と白いウエディングドレスが特徴的な女神だった。

 義光はその女神を知っていた。



 「(アイナ・デメテル・テスモポロスーーー?俺は走馬灯でも見てるのか)」



 やはり彼女は義光がよく知る女神だった。

 彼女は義光が考えたキャラクターの一人だった。



 「アイナはね、あなたに出会えて感謝してるの。」


 「ーーー。」



 義光は意識を朦朧と警戒しながらアイナの話しを聞いた。それぐらいアイナは彼にとって要注意人物だった。

 もう少し彼が元気だったら叫んでいたに違いない。「絶対嘘だろ」と。

 


 「あの世界を助けて欲しいの」



 アイナは譲らない。気に入らない。アイナにとって、義光が書き綴ったあの物語がどこまでも気に入らなかった。アイナにとっては誰一人救えていなかったから。思い通りにならなかったから。アイナは彼の同意なんてどうでもいいと言わんばかりに淡々と告げた。



 「数多のパラレルワールドで、アイナに唯一会うことができてしまった偽物さん。最高純度を誇った外の世界の神様。グランドマスター」


 「ーーーっ!!!」



 義光が気付いた時には彼女の手は彼の血液で汚れていた。

 激痛で意識が朦朧とする。義光はそれでも死ねないことに歯を噛み締める。



 「やっとあなたを殺すことができて、アイナは満足。まだ足りないけれど、それがアイナが求めていた救済。」



 アイナは話を続ける。義光は意識が朦朧としていて何をされたか理解できなかったが、もう一度身体に激痛が走る。義光は血を吐きそうになるがその体力も残っていない。



 「アイナは加藤義光という存在を消さなきゃいけなかった。加藤義光という存在を消すことで、アイナはあの世界が救われると確信している。」


 「(ーーーーっ、アイナ、お前、ふざけんなよ……!)」



 義光は話せない。口腔内が血の味で広がる。



 「あなたは何も助けてくれなかったから。これは罰よ。」



 アイナの声が冷たく響き空間に渡った。そこで義光の意識は途絶えた。

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