化け物狼の末路
彼は化け物狼目掛けて駆け出した。完全に丸腰で。化け物狼は嬉しそうにその口を開いた。獲物が
自分から飛び込んできたとでも思ってるのかも知れない。ずらりと並んだ鋭利な牙が今にも彼の体を食いちぎろうとしていた。
「駄目!避けて!」
思わず声が出た。今さら叫んだところで急には止まれないことなんて解っているけれどそれでも、叫ばずにはいられなかった。。
「っし!」
彼の体に牙が触れるギリギリで彼は体を捻って噛みつきをかわして化け物狼の下顎を殴った。痛そうな音が鳴る。と言うより実際かなり痛かったらしい。明らかに怯んでる。
「ふむ。」
彼は数歩程下がって、距離を取った。殴った手が痛いのかぷらぷらと振っている。
「硬い。鉄板を殴ったかと思った。」
聞こえてきた言葉に戦慄した。鉄板並みの硬度を持つなんて考えられない。明らかに固そうな殻を纏っている訳でもないのに。
「さて、どうしたものか。」
彼はほんの少し考えてから体勢を整えた化け物狼に向かっていった。今度は手に何かを持っている。
化け物狼も自分に反撃してきた相手を警戒してか噛みつきを行わず爪で引き裂きにかかった。
上から振り下ろされる凶器をかわして彼は化け物狼の毛を掴んでその体を登り始めた。
「よいっしょ。」
鬱陶しそうに体を震えさせる化け物狼の体にしがみつきながらひょいひょいと登っていく。
「さーて。」
彼は化け物狼の頸に何かをかけた。細長い紐?
まさか爆弾の導火線とか?…子供がそんなの持っているわけないか。じゃあ、あれはいったい?
「せーの!」
彼は両手を思い切り引いた。化け物狼の首が締まる。かなり苦しいのか化け物狼は滅茶苦茶に暴れだした。それこそテレビで見るロデオの様に。彼は平然とけれど、確実に力を込めながら締め付ける。
「グルゥゥゥ…。」
段々と化け物狼の元気が無くなっていく。あれだけ激しかった抵抗が嘘のように弱々しい。
「ラスト!」
止めとばかりに彼は両手に握った紐の先端を引っ張る。ごきっと嫌な音がした。途端に化け物狼が泡を吹いて倒れた。舌をだらんと出している。
「ひぃ。」
「ん。大丈夫?」
私が小さく悲鳴をあげると彼は心配そうな声で聞いてきた。驚いた事にフードが外れてない。
「う、うん。」
化け物狼から目を反らしながら頷くと彼は小さく息を吐いた。
「えっと、お疲れ様?でいいのかな?」
「さぁ。」
なんとも間抜けな会話を振ってしまった事を後悔しながらふと思い出す。
「あ、名前…。」
「ん。ああ。自己紹介まだだったっけ?」
「うん。」
「まぁ、離れてからでいいか。死体の側は嫌でしょ?」
確かにと私は頷いた。そうしな私達はその場を離れることにしたのでした。