ギルドで話題になるアレ
俺たちが転送されたのはアストレアス王国のエドナという街だった。
特に何もない平凡な街だ。
「ねぇ君、これから私はどうしたらいいと思う?実はねさっきから何度やっても戻れないんだよね、天界に……」
気の抜けた声で俺に話しかけるミカエル様。
「まぁそのうち迎えに来てくれるんじゃないんですかね?」
「そんな軽い気持ちでいいのかな!?」
「それよりミカエル様のカードはないんですか?」
「……私のことはミルって呼んでね、この世界での神話は君がいた世界とあまり変わらないから騒ぎになると面倒臭いからね……あと様付けと敬語はいらないよ。カードはギルドに行けば作ってもらえると思うから……取り敢えずギルドに行こうか」
本当にしょげてるな、そんなに悪いことしちゃったのかな?そういえば俺のカードはどうなっているのだろう?
さっき胸ポケに入れたカードをみてみる。
俺のスキル欄にはなんと、『剣士のセンスS級』と書いてあった!
「ミカエ……ミルこれ見てくれよ『剣士のセンスS級』だぞ、これってすごいよな!?」
「これはすごいね!いい特性を引き当てたね!」
ミルは嬉しそうに笑ってくれた。
やはりミルはいい人(?)なのなのだろう。勝手に異世界に連れてきたのに、俺に怒ろうとしないし。
ミルはとても親しみやすくて、優しい感じがする。
「ミル、俺のこともハヤトって呼んでくれよ」
「そう?じゃあ、そうするね」
そんなことを言いながら歩いていると突然、男性に話しかけられた。
「そこの少年、君の服を少し見せてもらえないかな?ああ失礼、私はこの街で服屋をやっている者だよ」
「?構いませんけど……」
うん、普通に話せてる。天使の力ってすごいな。
それにしてもこの人どうしたんだろう?
そう考えながら横を見ると、ミルがしまった、という顔をしていた。
すると男性が話してきた。
「この繊維はなんだ!?見たことがないと思ったがこれほど強い糸は見たことがない!教えてくれ、これはなんという名前の繊維なんだ!?」
分かったぞ。この世界には化学繊維がないんだ。魔法技術が科学技術より発達しているからだ。とするとこれはオーバーテクノロジーってことになる。
とりあえずミル先生にご助力願うのが先決だ。
そう思って横をみると、今度はほっとしたような顔をしたミルがいた。
どういうことだ?
するとミルが口を開けた。
「おじさま、なんならこの服、買い取られてはいかがですか?私たちは東方の地から旅をしてきた者です。私たちの国では少し技術が進んでいて強い糸があるんです。詳しいことは分かりませんが買ってみませんか?」
「なんですと!?本当ですか、買った!!」
それから程なくして男性の店に着いた。
そして俺のシャツとズボンを売った。金貨一枚をもらったんだが価値がわからん。もちろん変わりの服も買った。
ちなみにしっかり看板の字も読めた。看板によるとここはボルドー洋服店というらしい。さっき話しかけてきた人がオーナーのボルドーさんだという。
俺たちはボルドーさんにお礼を言って店を出て、店で聞いたギルドの方向へ歩き始めた。
今回のことでよく分かったが、ミルはどうやらかなり口達者のようだ、気をつけなくてはいけないな。
それより気になったのはミルがしまったという顔からほっとした顔になったことだ。
「そういえばミル、なんでお前、最初焦ったような顔になっていたんだ?」
「ああ、それはね。私の服には高度な魔法的な術式が施されていて人間では絶対に作れないレベルの強度になっているんだ、偽装もしっかりしてあるけど、なくなると困るからちょっと焦ってたんだ」
なるほど、納得だ。確かに神器級のものであろう大天使の服が流出してしまったら大変だろうからな。
そんなことを話しながら歩いていると、すぐギルドに着いた。
「じゃあ中に入るよ?」
俺が頷くとミルはとびらを開けて中に入って行った。
ギルドの中はとても騒がしかった。
ギルドは酒場と一体になっているようで冒険者が話をしながら飲んでいた。
「いらっしゃいませ!」
職員の人が愛想いい声が通る。
カウンターに進むと受付嬢がいる。ここで会員登録ができるようだ。
「ギルド会員登録がしたいんですけど」
「はい、ではまずこの紙にお名前と年齢を書いて下さい」
ちなみにこの世界には一般人に名字はない。名字を持っているのは貴族階級の人間だけだ。だから俺のカードにもハヤトとしか書かれていない。
するとミルが小さな声で聞いてきた。
「登録するときはミルでいいかな?」
「確かに怪しまれるとアレだしミルでいいんじゃないか?」
「わかった。そうするね」
書いた紙を渡すと受付嬢が確認をする。
「ミルさんで年齢は十六でよろしいですね?ではこの水晶に手をかざして下さい。能力値を計測しますから」
十六って絶対嘘だろ。
「ハヤト、今もしかして失礼な事考えた?」
「そ、そんな訳ないだろ?」
こ、怖い!なんて勘がいいんだ!
ミルが手をかざすと水晶が光り、文字が出てきていて受付嬢が紙に書いていっている。
「ミルさんすごいですね。能力値は全体的に平均以上、中でも魔力と魔力量がとても高いですね。しかも特性が『魔法使いのセンスA級』ですから期待のルーキーですね」
そう言って、受付嬢は専用の機械のようなものに紙を通す。すると中からカードが出てきた。
「そうなんですか!ありがとうございます」
ミルはとても嬉しそうにカードをもらっていた。
「お二人は初心者のようですので、ギルドの説明をしますね。ギルドには通常FからAまでの六段階の階級があります。Sというのもあるんですがこれは特別な功績を称えられて、なることができる階級です。クエストを成功させると上がっていくので頑張ってくださいね。逆に失敗し続けると、降格もあり得るので注意してください。クエストはそこの入って正面にある掲示板から受けたいものを探して選んでここに持ってきてください……ところで、そこのあなたは登録しなくていいんですか?」
「俺はもう登録が済んでますから」
俺がうっかり自分のカード見せたのが失敗だった。
「ええっ!?あなた『剣士のセンスS級』を持っていらっしゃるんですか!?S級なんて世界的に見ても五百人はいないと言われていますよ!はじめてみましたよ!……あっ、し、失礼しました!つい驚いてしまって……話は変わりますが、お二人は初心者のようですので安物ではありますが銅の剣と木製の杖を支給させていただきます」
おっと?これはギルドで期待の大型新人として噂されるアレではないのか?
魔王が倒されたと言ってもすごいものはすごいんだな!自分の運に感謝だ。
するとギルドの中にいた冒険者たちが話を聞きつけて近づいてくる。
「へぇ、すごいなS級とA級のコンビか。これは成長すればすごい戦力になりそうだな」
「がんばれよ!期待してるぜ」
しかし俺は気付いていた。祝福してくれている人は半分だけだ。残りの半分の人たちは可愛い子侍らせやがってとか、才能ある奴はいいなぁ、とかそういう視線を向けて来る。
ここは初心者冒険者の街なのだ。
それぞれに夢があり、有名になってやろうと考えている奴が山ほどいる。
逆を言えばこの仕事が上手く行かなかった奴だって山ほどいるのだ。
だが、あえて言おう。
俺はその敗れ去った者さえ、踏み台にして自分の幸せを掴むと……なんて、カッコいい事を言いたい俺だが、そこまでの信念もないし、普通に目線が怖い。
「ではハヤトさんミルさんこれからのお二人のご活躍を期待していますよ」
この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。
趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。
御意見、御感想、御評価を頂ければ幸いです。
下にスクロールしていくと手軽に評価できるのでお願いします。