恋愛、友情、嘘が絡まる
授業の4時間目それは地獄だ。春の陽気でポカポカの昼頃は俺たちの眠気を増大させるし、それが今年定年を迎える老兵坂本の古典ならなおさらだ。だがどんな地獄にも光明はある。例えば次に待ってる昼休み、お弁当それは人それぞれだと思うが俺の場合は
「大輝、消しゴム貸してくれない?」
俺の思考は鈴の音を彷彿とさせる綺麗な声によって遮られた。その音を辿るように視線を黒板から横に向けるとそこには綺麗に切り揃えた前髪をぶんぶんと揺らしながら手を合わせお願いのポーズをしてる俺の光明がいた。
「相変わらずドジだな。真由は。はい」
俺は照れとかうきうきとか出ないよう自然なトーンを心がけながら消しゴムを渡した。真由は可愛い上にみんなに優しく同性からも異性からも好かれている。
「ありがとう。返すね」
真由はドジと言われたのを根に持ったのか使い終わった消しゴムを男子も驚きのストレートで俺の頭にストライクさせた。忘れてた、真由は運動も出来るんだった。
「いてっ!何するんだよ!」
「ドジって言うから……」
「え?なに?」
俺の大きい声に反して真由の声は霞むほど静かで上手く聞き取る事が出来なかった。だから俺は再度問うと真由は今度も言葉を発さず人差し指を立て口の前に持ってきて視線を俺と前に交互にやっている。そうだ……忘れていた。今日の授業は老害……いや間違えた、老兵坂本。自分の声が小さいため生徒の私語が良く通ってしまい、バレる確率は高くバレたら最後頭を白まみれにされるとか……。うん?白まみれ?
「おい!倉野!」
本人は張り上げたつまりだろうが一般人の声くらいしか出てない坂本の俺を呼ぶ声で視線を恐る恐る前に向けると白いチョークが俺の方に真っ直ぐ飛んできてた。ストライクバッターアウト!
「今日二回目……」
俺は頭に付いた白い粉を取り払いながらこの事態の元凶とも言える少女の方に顔を向けると他のクラスメイト同様我関せずで笑っている。坂本はこの笑い声で消えかけた4時間目を終えるチャイムを聞くと号令を済ませ足早にクラスを去った。それを合図にお弁当を食べるためバッグに手を突っ込む奴、食堂に行くため財布を手に持つ奴それぞれが動き出した。お弁当組の俺はバッグに手を入れた。
「白のメッシュにあってるじゃねーか大輝!」
高校生の声変わりした低音は俺の先程の不運について毒を吐いた。クラスでそんな毒を吐く奴を俺は二人しか知らない。しかも発声される声が低音となれば自ずと一つに絞られる。
「何だよ。裕太」
俺は一つに絞られた犯人の名前を挙げながら、裕太の方を向いた。端正な顔立ちにピシッと決まった髪、見た目においては非の打ち所がないこの男。去年から同じクラスという事もあり一緒に過ごす機会の多い男だ。そのせいで去年女子からラブレター配達員という認識になってしまった俺……。
「弁当食おうぜ」
「おう」
そんな口数の少ない会話をすませると、裕太は食堂に行ってしまったのか今はいない真由の席に座った。
「なぁお前って真由の事好きだろ?」
「ぶふっ!急に何だよ」
俺は裕太の唐突に発せられた言葉に動揺し思わず弁当を吐き出してしまった。
「授業中見てたらそう思っただけ。で本当のとこどうなの?」
「どうなの?」
俺と裕太の座る席の間に立った真由は裕太の言葉を繰り返す様に聞いてきた。
「わっ!真由びっくりさせるなよ。てかどこから聞いてた?」
「どこからって食堂行ってお金忘れた事に気付いて戻って来たら裕太が大輝に好きな奴いるの?見たいな事聞いてたから便乗してやろうって思って」
「そ、そうか。てかお金忘れるなんて相変わらずドジだな」
俺はギリギリバレてない事を知り胸をホッと撫で下ろした。
「私ドジじゃないよ。これはきっと神様のいたずらさ」
「神様?」
「そう!ラブの神様が私に大輝の好きな人を聞かせる為に私の財布を隠したのか」
ラブの神様ね。そんな神様がいるなら早いとこ合って彼女いない歴=年齢の俺に彼女作らせてやりたいわ。
「で誰なの?好きな人」
真由の言葉が俺の意識を頭から現実に戻した。やばい、チキンの俺に本当の事を言う勇気はないし、真由は大体のやつと仲が良いので適当に嘘をつく事もできない。もしこの話が拡大でもしたら後戻りは出来なくなる。つまりここはクラスの人気者真由と仲の良くない奴。俺はこの狭い条件に該当する女子がいるか周りをぐるぐる見渡すと、いた!皆が机をくっつけたりして食べてる中一人クラスの隅で飯を食う女子。
「し、白咲さん」
「「え?あの冷徹女王様?」」
二人は同じ言葉を発しながらまるっきり違う顔をしてた。裕太は嘘つくなよと言わんばかりのジト目を向けて来たが、真由は暖かく見守る様な優しい笑顔を向けてくれた。こういう所に俺は惚れたのかもしれない。
「そうそう、あの人をばったばったと斬り捨てる様な言葉遣いとか冷徹なとこが好きで……」
あれ?俺これしっかり褒められてるのか。俺は頭の上にはてなマークを作っていると
「そうなんだ……じゃ大輝の為にもしっかりとサポートしなきゃね、今日は放課後ファミレスで作戦会議だ!」
「いいなぁそれ!でも今日は俺参加出来ないから二人でやってくれ」
真由が声高らかに宣言し裕太がそれに同調した。
「え?嫌いいよ俺のためにそんな」
「友達の一世一代の告白しっかり応援しないなんて真由の名が廃るぜ!やらせてくれ!」
俺のためにここまで言ってくれた真由の気持ちを無下にする事が出来ず俺は首を縦に振った。
「良かったな、思ってたのと違ったけど真由と二人きりでファミレスだぜ!しっかりやって来いよ」
「だから俺が好きなの白咲さんって言ってるだろ!熱いからジュース買ってくる」
俺は照れて赤くなった顔を隠す様にクラスを出た。
「白咲さんが好き」
この一つの嘘から良くか悪くか俺の青春が大きく転機する事を知らずに。
「なぁ真由、何で嘘ついたんだ?」
「嘘って何が?」
「とぼけるなよ。お前最初から俺たちの話聞いてただろ」
「聞いてないよ。何でそう思うの?」
「だってお前、誰が好き?って聞こえたんだろ、なのにお前は大輝にどうなの?って聞いた。それは文脈が合わなくないか?お前は最初から聞こえてたからどうなの?って聞いたんじゃないか?」
「面白い仮説ね、でも証拠無いじゃない。私そろそろ食堂行かないといけないからバイバイ」
「食えない女だな」
「そっちこそ」
今日それぞれの思惑が嘘が絡み合った。