騎士団長とオーガ
「グラァァアアア!」
気が付いたら俺はオーガに襲いかかっっていた。 圧倒的な早さで距離を詰めて一気に一撃を食らわせる。
クソッ! 思ったより傷が浅い。 ならもう一撃!
「「グガァアアアアア」」
俺とオーガは同じ声を出しながらお互い攻撃に出る。
俺の剣と、オーガが持っていた棍棒が交わる。
俺の方が威力が高い。 攻撃も早かった。
殺った!
次の瞬間には俺の体は吹き飛んでいた。
場所が悪かった。 吹き飛んだ先には瓦礫になった民家の飛び出ていた角材。
「ウガァァアアアア!」
右肩の部分を遠慮なくもぎ取っていく。
今の異常な回復速度が備わっている俺には致命傷にはならないがまだ完治までには時間がかかる。
俺はオーガが迫ってくると思った。 オーガから俺は見えている。 俺に止めを指すはずだ……と。
「おい、どこ行くんだよ!」
そっちは皆がいる避難所だろ?
やめろよ!
しかしオーガは棍棒を振り回し避難所を壊していく。
「や、やめ、止めてくれよ……」
俺は馬鹿だった。 この剣を取ったとき自分の力に溺れていた。
勝てると思った。
守れると思った。
だが現実はどうだ!?
何も守れていない!
力で負けて吹き飛ばされて……
何も出来なかった。 これが俺だ。 あの時信じて待ってくれると言ってくれた村の人たちにも顔を会わせられない……。
「きしだんちょーさまぁあ~!」
俺の後ろの遠くの方から女の子の声が聞こえる。
昨日今日と俺に元気をくれていた女の子の声だ。
守れなかった声だ……
…………。
「ん? あれ? なんで……?」
「にい様、どこ行っていたんですか! って、その傷どうしたんですか!?」
「来るのが遅いんですよ、騎士団長……」
「「騎士団長さまが戻ってきたぞー!!」」
皆……無事だったんだ。
それなら、まだ、皆を守れる。 せっかく廻ってきたチャンスだ! 絶対に気を抜かずこのオーガを倒す!
だがさっきみたいな攻撃だと逆に俺が吹き飛ばされる。 それだったらオーガを切り上げる方が安全だ。 多分だがオーガと俺は今のところ若干俺の方が一枚上手だ。
…………って、またうぬぼれが出てきていた。
「来い! オーク!」
今度は一際の気を抜かずぶっ殺す!
俺は走り出す。 できるだけ腰を下げて剣を構える。
「ここだぁぁああ!」
俺はオーガの棍棒に合わせて切り上げる。 俺の予想は当たっていたらしく俺は吹っ飛んでいない。 しかしオーガのほうが力が強かった。
俺のほうが全て一枚上手じゃなかった。 油断していたら最悪つぶされて死んでいた…………。
「もう一回、喰らえ!」
俺はオーガより動きが早いそれは事実である。
だから迷わず切り上げた剣をオーガに振り下ろす。
腹を切り裂いた。オーガが大きく後退する。
今回の一戦、俺の勝ちである。
「やっと一発!」
だがオーガも致命傷ではないのだろう。
まだ立ち上がって大きな声をあげている。 さっきの俺の状態だろう。
要するに、今からはオーガも全力で来る。
今まで俺なんて眼中に無かったんだ。 今までのが全てお遊びだったオーガにとって、次の一戦は段違いに強くなっているはずである。
───────────────
剣と棍棒を交わり初めてから30分がたつ。 いまだに決着はつかず、終わりの目処も立たない。
オーガが本気になってから俺は力では完全に負けた。 棍棒を弾き飛ばすことは出来ず、ギリギリ受け流すか避けることでオーガの重い一撃一撃を防いでいる。
だけど弾き飛ばさなきゃ反撃できない。
「クソッ! 何でスタミナ切れないんだよ!」
悪態をつく。 スタミナは俺も問題なかった。
ただ集中力が持ちそうにない。
「ウガァアアア!」
オーガがいきなり叫ぶ。
あいつも精神的にきついんだろうか?
そうだったら今の俺とオーガは総合的な戦闘能力において、ほぼ同じだ。
スタミナはお互い底が見えないのならばあとは神経勝負。
「先に間違えた方の負けだ!」
オーガが武器を振り回す。
更に時間がたっていく。
どのぐらいたったのだろうか?
手の感覚がもうない。 足が思うように動かない。 だから気力だけで動く。
後ろには村の皆が信じて待ってくれている。
心が楽になった。 心に余裕が生まれた。
俺は冷静になれた……。
「そうか、わかったぞ……」
一か八かのかけ、俺の人生最大の分岐路だ!
俺は今までと同じくオーガに突っ込んでいった。 オーガは俺を殺すために全力で棍棒を振り下ろす。
「ここだ!」
俺は手に握った砂をオーガの顔面めがけて投げつけた。
オーガは精神的に疲れていて、もろに砂を顔面に喰らった。
「ぐ、グァァアアア!」
オーガは目が開けれないのか棍棒をめちゃくちゃに振り回し始める。
「ガァァァアアア!!」
俺は石を手に持ちオーガの後ろ側に放り投げる。 オーガは物音に反応して俺に背中を向けた。
これで終わりだ!
俺はオーガの心臓に剣を突き立てた。
それで長かった戦いは終わりを告げた。
終わってみれば呆気ないものだ。
俺が今回勝てたのは不意打ちが成功したからだ。 もし失敗していたら、オーガの攻撃を喰らっていたかもしれない危険な綱渡りだった。
まぁ、こんな反省点は今はどうでもいいのだ。 それより、何が言いたいかというと…………
「勝ったぁ…………」
「にい様!?」
「騎士団長!」
俺は二人に囲まれたまま、意識を手放した。
今回は昨日の変な夢は見なかった。
───────────────
「おはよう……」
「あ! にい様、目を覚ましたんですか!?」
俺は珍しくアリアに起こされずとも目が覚めた。 アリアは丁度朝御飯の支度をしているらしい。
「他の団員たちは?」
「昨日から寝ずに村の復興作業を行っていますよ」
今日はクリート・ハリストさんもいない。
「でも、もうすぐ皆さん……あ、帰ってきましたよ!」
「団ちょー! ただいま~!」
「お腹すきましたぁ、団長さん……」
「魔法送が見たいので今日は朝御飯は要りません!」
皆元気そうだ……。昨日は働き詰めだったからな……。
「お疲れ様です。 団長さん」
「クリート・ハリストさんもお疲れ様」
「あ、あの団長さん……」
何故だかクリート・ハリストさんが顔を赤くさせてもじもじしている。 これは何か怒られるのかもしれない。
昨日のオーガとの戦い、もっと早く来ていれば……とか、もっと早く倒せだとか……
「あの、私の事は名前で……呼んで、欲しいんですけど……!」
「それくらいなら全然問題ないんだが?」
そんなことか? 確かに毎回フルネームって言うのも可笑しいだろう……
「これからも頼むよ、クリートさん!」
「…………まぁ、良いです……お疲れ様でした、団長さん」
「団長、それより、魔法送が……」
魔法送大好きなキルシュが帰りたそうにしている。
魔法送とは魔力で映像のイメージを音声魔法と言われる魔法と映像魔法の複合体である。 遠くの映像や、魔法を記録したものを流している。
「そういや、キルシュもお疲れ様」
キルシュは今回、オーガの見張りに着いていてくれた。 遠くの場所を見る事ができる能力があり、今回、いち早くオーガの行動を察知して、避難所から皆を避難させてくれた。
いつもは魔法送好きでずっと部屋に籠っているような根暗い青年だが、キチンと村の皆を守ってくれた。
「別に、仕事なんで……」
「素直に受け止めろよぉ~」
「やめてよ、姉さん……」
キルシュを肘でグリグリしているのはキルシュのお姉さんのモネラ、通称『モネラ姉さん』。
といってもまだまだ18歳だったはずだ。
「モネラもありがとう」
「そんなこと言わなくても大丈夫だよ」
彼女は笑って立ち去っていく。
あれ? いつもなら「朝ご飯~!」とかいっているのに今日は言わなかった? いやここに来たとき朝御飯の事言っていたような……?
もしかして、何かの病気だろうか?
「ん~……」
「あの、団長? そんなに見られると……」
「あぁ、ご、ごめん!」
そうだよなぁ~、7歳も年上の男からガン見されるって嫌だよなぁ~。
「どこか具合悪いのか?」
「べ、別に何にも……」
「何かあったらちゃんといってくれよ? お前は俺の大切な人なんだから……」
「そこだよ! このたらし!」
「あ、あれ~?」
あれ? これもしかして俺のせい?
モネラは俺の大切な仲間だっていっただけなのに……
「にい様のたらし……」
「団長さん、やっぱりあなたは色々な女性に手を出して……」
なぜだろうか? 俺の評価が騎士団内でどんどん下がっているような気がする……。
「ま、まぁ、それは置いといて……」
「逃げましたわ」
「逃げたね」
「逃げた~!」
……。
「お疲れ様、リドール」
「お疲れ様、団ちょー!」
うん、今日も元気だ。
「オーガの応援呼びにいってくれてありがとうな?」
「大丈夫だよ、それが私の仕事だもん! ねー、団ちょー……?」
「どうしたんだ?」
いつもなら天真爛漫、誰よりも元気なリドールが元気がない。
「今回の事件で私、活躍出来なかった……」
それを気にしていたのか……。
「気にするな、もう済んだことだ。 それと避難所に移動したあとオーガが村に来るまで皆お前が騎士団の応援を呼んできてくれるって……」
「それなら──」
「だからこそ、皆避難所でも楽しそうにしていたんだと思う。 僕たちを、騎士団を信じて居てくれたからこそパニックにならずにすんだんだよ?」
「本当に?」
「あぁ」
「私、団ちょーの役に立てた?」
「あぁ」
リドールの目のキラキラが戻ってきた。
「私、役に立てたんだ! ふふふ……」
さっきからニヤニヤしまくって正直気持ち悪いが、機嫌が直ったからいいのか?
「そういや応援はどうして来なかったんだ?」
「……それが…………」
『キリダート騎士団! 直ちに門を開けろぉ!』
っと、リドールが言いにくそうにしているところに彼らは現れた。