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第二話 雨の降らない村

異世界生活二日目。

朝、目が覚めると目の前には美少女が、そんな夢のような朝を迎えた俺だった。

テラと二人で別々の部屋で寝たねだが、ひとりが寂しかったテラは俺の布団に潜り込んだらしい。


「ごめんなさい、朝はご迷惑お掛けしました」

「ん〜。それは別に全然いいんだけど…」


テラが申し訳なさそうな顔でこちらを見てくる。


「いっそ部屋を同じにするか?」

「カケル様が嫌でなければお願いします!」


即答だった。

美少女とひとつ屋根の下で過ごすだけでなく、毎晩同じ部屋で寝ることになるなんて。

朝から喜びと期待の目覚まし時計が鳴り止まなかった。


「そろそろ腹がすいたな。今朝は俺が作るよ」

「いえ、わたしが」


時間的に朝食の話題にシフトチェンジするとテラが朝食作りに手を上げた。


「いいよ、コマンド使うだけだから」


コマンドを使い、パンとサラダ、スープを出した。


「すいません。私がやらないといけないのに」


テラは、まだ奴隷だった頃の記憶から抜け出せないようだった。

無理もない、ついこの間までそうだったのだから。

でも、うちに来て少しは変わったと思う。彼女らしく生きて欲しいと思った。


「なんでテラがやる必要がある?俺はテラを受け入れたかったから受け入れた。そして、家事やなんかを押し付ける気もない。もっと俺を信用してくれ」


テラは無言で頷いた。


「さて、今日は何しょっかなー」


話を変えるついでに今日の予定を決めることにした。


「またコマンドの実験ですか?」

「ん〜。それもいいけど、今日は散歩かな。テラ、一緒に来てくれるか?」

「はい!」


朝食を終え、散歩という名の異世界調査の準備を始めた。

と言っても、必要になったらコマンドで出すだけだから、衣服くらいだった。

俺は、ゲーム会社のロゴが入ったシャツにジーパンにマント一枚だったが、魔法使いのようなローブに身を包んだ。

テラは夜渡したものとは別に白いワンピースと麦わら帽子を出した。


「昨日もありがとうございます」

「いいって、女の子は綺麗な服を着た方がいい。てかもう義務だわ」


(やべー、最高に可愛い!ドストライクだ)


「は、はい」

「ふっ。似合ってるぞ。そうだ、昨日見つけた新しい魔法使ってみるか」

「新しい?」


(magick 12/1)


コマンドを打ち込むと氷の魔法が発動し、身体中を薄い冷気の膜で覆った。


「寒くないか?」

「いいえ、すごく涼しいです!」

「そっか、良かった。それじゃぁ行こっか」


俺とテラは家を後にした。

今日は快晴、絶好の散歩日よりだ。

散策しながら歩いて一時間程だった。

今は草原を抜け、森を歩いていた。


「素敵な魔法ですね、夏なのに汗一つかきません」

「俺も最近知った魔法だけどな、汗かかなくて住むのは助かる」


(この世界にも四季があるのか、そんでやっぱ夏なのな)


ゲームを制作した時には、季節の概念は設定していなかったので、新しい発見ができた。

帰ったらテラにこの世界について詳しく聞くことにした。


「汗を書かないと言っても、さすがに疲れるな」

「そうですね、もう一時間近く歩きましたし」


時計を持っていない俺だったが、テラが太陽の位置から的確に経過時間を教えてくれた。


「なんかいい移動手段ないかなぁ」


俺だけなら、今移動してきた距離も数十秒で移動可能だ。

だが、テラがいるのと今回の目的は異世界調査だ。その手段は取れない。


「あっ、魔法使ってみるか」


(magick 56/12)


調査にも色々ある。今までは地上から植物や動物を見てきたが、今度は空だ。


「テラ、俺に掴まれ」

「は、はい!」


テラは恥ずかしそうにローブの袖をつまんだ。


「行くぞー!」


飛行魔法を使い、地上から1キロほど上昇した。


「キャッ!」


いきなりの急上昇に、袖を指でつまんっいたテラが腕にしがみついた。


(色々当たっているんだが…)


上昇を停止させた。


「テラ、目を開けて」


テラがゆっくりと目を開けた。

視界には広く青い空、下には広い台地が広がっていた。


「わぁー。凄いです!」


感想を言いながら、自分が俺の腕にしがみついている状態を把握し、顔を赤くして離れた。


「すいません」


笑ってみせる俺だったが、内心すごくテンションが上がっていた。

テラとの距離にもだが、何より、自分が作り上げたゲームの世界が現実になっている事にワクワクが止まらなかった。


「気にしないで、怖くない?」

「カケル様の魔法なら大丈夫です」


頬が赤くなったのを隠すためにそっぽを向いた。


「こうして見ると、広い草原だな」


眼下には家を中心に広く丸い草原とそれを囲う山々が見えた。

下からでは気が付かなかったが、山と山の間に建物がうっすら見えた。


「なんだあれ、街か?」

「はい。あれはランド村、最後にお世話になったのは一年ほど前ですが、住人はす三十人くらいの小さな所でした」


この世界の設定を作ったのは俺だ。だが、この草原や周りの山々、俺の知らない設定外の情報がこの世界には沢山ある。

ゲーム製作者として、一人の男として調べずにはいられない。


「一度行ってみるか。この辺のことよくわからんから情報収集に」

「ご一緒します」


空の散歩をテラと楽しんだ後、昼ごはんを済まし、村へと出発した。

ちなみに昼はテラ製のかぼちゃパイを食べた。

今回は村へ行くことが目的だったので、覚えたばかりの飛行魔法を使って数分で村に着いた。


「ほんとだ、遠くからじゃ分からなかったが小さな村だな」


村の入口付近の林に着地し、村に入った。

村人達が何やら揉めていた。


「何かあったみたいです」

「だな、行ってみよう」


テラと共に人混みの中に入ると殴り合いにはなっていないが口論になっていた。


「もう無理だ、この村は捨てるべきだ!」

「俺たちの村だぞ、そんな簡単に手放せるかよ!」


屈強な男達が胸ぐらを掴み合い真剣な表情で訴えていた。


「まてまてまて」


男達の間に割って入った。


「なんで揉めてるんだ。」

「この村はもうおしまいだ!」

「いや、まだなんとかなる!」


要領を得ないやり取りに救いの手が指し値べられた。


「やめなさい、醜態を晒すな!」


背後から声がし振り返ると、白い髭を生やした五十代くらいのおじさんが鬼の形相で立っていた。


「あなたは?」

「私はこの村の村長、ディーガだ。恥ずかしいところを見せたな。」


ディーガがそういい男達を睨むと、口論は途端に収まり、解散した。


「見たところ、かなり切羽詰まっている様子。何があったんですか?」


ディーガは表情を暗く落とし話し始めた。


「実はこの一月、雨が全く降らんのだ。おかげで村の農業がとだえ、食料すらろくに調達出来ん」

「原因は分かっているんですか?」


ディーガは首を横に振り分からないと言った。


「利用がからないなら仕方がありまへせんね、このまま村がなくなるのも惜しいですし」


ディーガと後ろで話を聞いていたテラは首をかしげた。


(weather clear)


快晴だった空に突如雲が発生し、村にはひと月ぶりの雨が降った。


「何ー!」


ディーガやテラ、村の住人達は驚き、膝ゆ着いて空を見上げていた。

今のコマンドは天候を設定するコマンド。

俺の予想だが、このコマンドは世界の設定自体を変えるものだ。きっと世界中に雨が降っている。


「ある程度ふらせたら元に戻さないとな。」


ディーガが俺の両肩を掴んだ。


「今のはあんたが?」

「は、はい、俺の魔法です、けど」


肩を掴んでいた手の力が緩み、ディーガは両膝を着いた。


「神だ、神が現れたー!」

「ウォー!」


村中が騒ぎになり、俺は神様として感謝を受けた。


「あの〜。そんな大したことやってないので」

「そんなことは無い、あんたはこの村を救ったのだ!ありがとう」


こんなに感謝されたことは生まれてこの方なかった。

村人数十人が走ってきて礼をし、胴上げをする。

逃げ出したいくらい恥ずかしい。


(コマンド使っただけなのに〜)


心の中で涙ながらに叫んだ。

数分続いた胴上げは、テラが止めてくれたおかげで納まった。

それからしばらく雨ん降らす、適当な所で天気を戻し、ディーガの家に呼ばれ、今回の礼として金銭を渡されたがコマンドがあるので使わないし、雨を降らせた程度で貰うのは気が引けるので断った。


「本当に助かった。これで村を捨てずに済む。ありがとう」

「どういたしまして」


情報提供のため世間話をしていたので、気がつくと夕方になっていた。


「テラ、帰るぞ」

「はい。ディーガさん、村の皆さんさようなら」


さようならと言ってみんな村の入口から手を振ってくれた。

飛行魔法を使った時に何人か腰を抜かしていたが気にしなかった。


「ただいま〜」

「おかえりなさい、カケル様」

「一緒に帰って来たじゃないか」


テラはふふっと笑った。

俺はテーブルにつき、テラは夕飯の支度を始めた。


「ありがとう、晩ご飯は何を作るんだ?」

「お肉をやこうと思います」


(item(ID248.ID269.ID345))


コマンドを使い、豚肉とキャベツ。トマトを出し、寺に渡した。


「ありがとうございます」


鼻歌を歌いながら料理を進めるテラ。

その鼻歌が心地よく聞き入ってしまう。


「その歌。何の歌なんだ?」


料理の手を止めることなくテラは答えた。


「母が寝る時によく歌ってくれた歌です。元々は私が住んでいた地方の民謡らしいのです」

「らしい?」

「私が故郷を出たのは3歳くらいの頃です。自分がどこから来たのかすらいまは分かりません」

「そうか、だが、今のお前の居場所はここだ、無くなったりしない」


「はい」と頷くが、悲しそうなテラの背中を見て、俺も切なくなった。


(こういう展開はアニメやゲームでよくある。でも、実際そういう話を聞くとなかなか心に来るな)


気分転換に話を変えることにした。


「にしても、さっきの村人達の反応。異常なほど喜んでたな」

「本当にひと月近く雨が降っていなかったようです。カケル様は神様に見えたと思います」

「なわけないだろ」

「私はそう思いましたけど」


料理にキリが着いたのかこちらをキラキラした目で見つめるテラ。


「天気わ変えるなんて、どんな魔法を使っても無理です」


可愛くはしゃぐテラを見て、少し恥ずかしくなり話をはぐらかす。


「か、風魔法と水魔法を最高レベルで使ってうまいこと操作すればできるぞ?」


テラは口をぽかんと開けかたまった。


(ん?どうした?なんかおかしい事言ったか?)


しばらくして冷や汗を描きながらテラが我に返った。


「レベルマックス?つまり、レベル12の魔法を使うことが出来るということですか?」

「ああ、そうだが」


俺は思い出した。

ゲームの設定で魔法のレベルはひとつ上がるだけでも威力や範囲が桁違いに変わる。

1から3までが一般の人間が使える魔法の限界。

4から6は勇者や魔王など、伝説の存在が使える魔法。

8から11は神などが世界に影響を与える時に使う魔法。

12はもはやゲームストーリーとして設定できないクラスの魔法として、設定せず、追加パッチなどで追加する予定でいた。


(まずいな、言わなかった方が良かったかも)


つまり、レベル12の魔法を使えるということは、神すら超える魔法を使える存在、魔法一つで世界を消滅させられる存在という事だ。

テラの目は「凄い!」から「ヤバい!」に変わっていた。


「そ、そんなたいしたことないぞ〜」


誤魔化そうにも言ってしまったことは戻らない。

テラに接近し壁ドンをする。


「いいか、この事は絶対に内緒だぞ!」

「は、はい!」


震える声で口止めをし、震える声で了承を受けた。

神すら超えるレベル12の魔法。そんなものを使えると世間に広がればきっと厄介事に巻き込まれる。


(てことは、テラを探しに来た奴隷商人達、どうなったんだ?てか、少しでも角度を間違えたらこの世界が終わってたんじゃないか!?)


冷や汗を描きながら、話をさらに変えた。


「明日は村に雨が降らない理由を突き止めに行く。これから何度も雨をふらせに行くのはさすがにきついからな」


食事を済ませ、風呂に入り、今日は明日の調査もあるので早めに布団に入ることにした。

しかし、問題はこれだけではなかった。


(そ、そうだったー。テラと部屋をひとつにしたんだった)


二人で部屋の入口で棒立ち状態となった。

昨日は俺が寝ている間にテラが入ってきたからなんの意識もしなかったが。今回は最初から一緒の布団に入るのだ。

よからぬ妄想が脳内に過ぎる。


「て、テラ、嫌だったら無理に一緒に寝なくていいんだぞ?」

「嫌なんてそんな、一緒に寝てもらえて嬉しいです」


「ドカーン」


脳内に落雷が発生した。

頬を赤く初め、そういう意味で言っているのではないと分かっているが、テラの可愛さに呼吸すら止まる。


(俺、今日寝れないかも)


布団に入る。

何故か向かい合って寝る形になってしまった。

お風呂に入ったばかりのテラは石鹸の良い香りがする。

呼吸でリズム良く肩を上下さするその体も、吐息が聞こえる口も、目のまうに見える。


「カケル様、起きていますか?」

「あぁ、どうした?」

「あの、恥ずかしいですね」


テラも昨日布団に潜り込んできた時は俺が寝ていたからそんなに意識をしていなかったが、今回は全集中がお互い相手に向いている。

やっぱり恥ずかしいようだ。


「さっさと寝ちまえ」

「はい、おやすみなさい」


二人用のキングベッドの上でテラはまっすぐ。

俺は大きく寝返りを打って眠りについた。

朝、目が覚めると目の前には昨日と同じく可愛らしい美少女が寝ていた。


(ほんとに可愛いやつだなぁ)


いたずらに猫耳を撫でると、ピクっと動き、テラは目を覚ました。


「ふぁ〜。おはようございます」

「おはよう、ちゃんと寝れたか?」

「はい、おかげさまで」


布団を出て、服を着替えた。

今日の食事当番は俺だ。

コマンドを使い、スクランブルエッグとベーコン、パン、スープを出した。


「「いただきます」」


二人同時に手を合わせた。

食材や料理人に感謝をする日本のしきたり。

テラに教えたので一緒にしている。


「朝食を済ませたら外出の準備をしてくれ」

「はい」


食事後、食器類を片付け服を着替える。

お互い、外出に使えるような服がまだ少ないため、コマンドを使い、服のレパートリーを増やす。

俺は白シャツに黒いロングコートのような服。

テラは薄い水色のシャツに青いスカート姿だ。


「カケル様、その服、暑くありませんか?」


確かに、夏に着る服ではない。


「温度面は魔法で調整してある。この服を選んだのは魔法耐性が強いからだ」


もう一つの理由はかっこいいからだ。

ま、言えないが。


「確かにあの魔法、便利ですよね」

「あぁ」


準備を終え、家を後にし、村周辺の森を調べてみた。

ディーガや村の住人達は雨が降らない理由を知らなかったが、俺には心当たりがあった。

ゲーム制作中に作ったモンスターキャラで、天候に影響を与えるモンスターも何体かいる。

存在するだけで周囲が曇ったり霧がかったり、雨かま降ったり止んだり。

そんなモンスターがこの世界にもいると仮定し、調査を進めた。


「この辺りはまだ調べてないな」


俺は地上から、テラは俺の魔法で、上空から調べていた。


《カケル様、なにか怪しいものはありましたか?》

《いや、まだこれといった成果はない》


今、テラと俺は離れた位置からでも喋ることが出来る魔法を使っている。

ID.コマンド一覧の本で見つけたコマンドだ。便利だと思ったから移動中に使ってみた。

テラはかなりビックリしていたが確かに便利だ。


(さて、結構見て回ったけど、今回は俺の思い込みか?ただ雨の振りにくい地域だっただけとか…)


俺は足を止めた。


《テラ、上から見えるか?》

《はい、見えます》


俺のいる位置から百メートルほど先に森が少し開けた場所があった。

そこからは、明らかに魔力を感じる。

もし戦闘になってもいいように全ステータスをカンストさせてある。

レベルマックスの魔力感知が何かいると言っているんだ。まず間違いない。


《何かいそうだ。警戒しながら状況報告頼む》

《分かりました。とりあえず、何か大きな生き物がいます》


(やっぱり居たか。そいつが雨が降らない原因かは分からないが、確認する必要はあるな)


相手に気づかれないよう、注意を払いながら近づく。

やっと視界に捉えた。


《あれは、ミノタウロスだ!》

《ミノ、タウロス?》


ミノタウロス、四メートル近い身長に巨大な筋肉。牛のような頭部が特徴的な二足歩行するモンスター。

ゲームではそういうせっていだ。


(ゲームでは天候に影響を与えるような設定は付けていないが…。まあいい)


《テラ、一旦降りてきて合流してくれ。俺の位置は分かるか?》

《はい、上から見ていたので。今行きます》


テラと合流し、小さな声で作戦を決める。


「どうしますか?この間のように魔法を使うのはどうですか?」

「たしかにあれなら一発だな」


テラを助け時の風魔法だ。

だが、今回は実験をしたい。レベルマックスの状態で、素手や剣でどれだけ戦えるか試したいのだ。


「今回は他の方法を試してみる。テラはここで見ていてくれ。」


テラにそういい、俺はコマンドを使った。


(item ID1289)


鉄の剣を出し、ミノタウロスの前に出た。


「やあ、ミノタウロスくん。言葉は通じるかな?」

「ガゥァー!」


ミノタウロスは大きな咆哮を上げ、視界にはいつまた俺をにらみつけた。


(言葉を話すほどの知能は無いか)


とりあえず最初は素手でやって見ることにした。

咆哮を上げたミノタウロスがこちらに向かって突進してきた。


「遅いぞ!」


ミノタウロスの猛烈な右フックはスローモーションのように見えた。

それをしゃがんで下からくぐるように避け、背後から背中を殴り返した。


「せい!」

「グゥア!」


子供とじゃれる程度の弱いパンチだったが、ミノタウロスは膝をつき、血を吐いた。


(これがレベルマックスの体か…。それじゃ)


俺は剣を抜き、構えた。


「剣がどこまで通じるかな?」


しばらく待ち、ミノタウロスが悶絶から復活し、再び殴りかかってきた。

しかし、これもまた遅い。

再び背後に回り込み、剣を縦に降った。

確かに何かを切った手応えはした。果物を切るような。

だが、手応えこそ軽かったが、結果的にはミノタウロスが真っ二つになったのだ。


(なるほど、技術では問題にすらならないくらいレベルによる差があるのか)


今回の戦闘で、改めてカンスト状態の能力を図ることができた。


「テラ、終わったぞ」


背後の森を確認したが、テラの気配は無かった。

嫌な予感がし、魔法でテラに話しかけた。


《テラ、おい、大丈夫か!》

《…》


返答がない。

恐らく、気絶しているか、あるいは。


(クソ俺のミスだ、考えが足りなかった。敵が一体だけだと誰が言った!)


飛行魔法を使い、上空からテラを探す。

さっきいた場所から北。村と反対方向に土煙を上げながら走っている何かがいた。


「あいつか!」


今までで一番早い速度で飛んだ。目的の砂埃を上げる何かまでは数秒で着いた。


「テラ、いるか!」


走っていたのはミノタウロスだった。

メスなのか、さっきのミノタウロスより一回り小さい。

ミノタウロスを空から追いかけながら声をかける。


「テラ、いるなら返事をしてくれ!」


返答は無かったが、だが、よく見るとミノタウロスがテラを抱えているのが見えた。


(見えた!)


俺はミノタウロスの前に着地し、退路にふさがった。


「おい、ミノタウロス。俺の家族をどこえ連れて行く気だ?」


ミノタウロスはさっきのやつと同様。咆哮を上げ、突進してくる。

スローモーションのようなミノタウロスのパンチを交わすついでにテラを見た。

殴られたのか、頭から血を流し、身体中小さな擦り傷だらけだった。

その姿を見た俺は視界が真っ赤になり、怒りを抑えられなかった。


「クソがー!」


剣を高く上げ、大きく横に振った。

ミノタウロスは上半身と下半身の二つに分かれ、地面に落ちた。

さらに、ミノタウロスの後ろにあった山が切れ、消し飛んだ。


「おい、大丈夫か!」


ミノタウロスを切り、投げ出されたテラをキャッチし、生死を確認する。


「か、ける、様…」


何とか息をしていた。


「良かった、生きてる」


(magick 40/12)


最高レベルの回復魔法を使い、テラを回復した。

血が止まり、体中の傷がみるみる治り、最後には全ての傷が治った。


「もう大丈夫だ。痛い思いをさせてすまない」

「いえ、ありがとうございます」


テラをおんぶし、森を出た。

村周辺を取り囲んでいた魔力は消えていた。

これで雨が降るようになるかは分からないが、ひとまず今回の件はすんだ。


「テラ、帰るぞ」

「はい!」


俺とテラは家に帰った。



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