第一話 異世界転移と奴隷少女との出会い
話の始まりは、有名ゲーム会社に務めていた俺が、自分が作ったゲームをリリースした時だ。
ゲーム制作に追われる日々から一瞬解放された気の緩みから寝落ちしてしまったと思っていたが、どうやら異世界に転移してしまったらしい。
しかも、GM(管理者権限)を持って。
異世界への転移を果たし、最初に始まったキャラクター設定を終え、チュートリアルが始まった。
目の前にはゴブリンが三匹。
自分が作った世界だから見慣れたモンスターだ。
ゴブリンが二匹、ゴブリン長が一匹。
「なんだこれ」
だが、俺が気にしていたのは目の前に現れたゴブリンではなかった。
「字が打てる。これGMじゃね?」
視界の左下に表示された入力バーに意識を集中させた。
モンスターとの距離は約二十メートル、こちらからアクションを起こさない限り、戦闘にはならないようだ。
「ためしてみるか」
GMがあったとして何に使えるか分からない。少し実験することにした。
(pureiya ID)
自分がゲームを制作していた時に使ったコマンドだ。
(ID Kakeru)
と左下に小さく表示された。
「自分のIDがちゃんとカケルになってるな。それじゃあ…」
(kill(ID509.ID648))
コマンドを打つと同時に二十メートル先でゴブリンが倒れた。
血を出すわけでもなく、ただ倒れた。
このコマンドは余計なモンスターを除去するために使っていた。
IDはゲーム製作中に割り振ったものが適応されていた。
「使えるのか」
他にも実験をした。
(item(ID104.ID118.ID245))
アイテムを出すと、コマンドを打ち込むと同時に光の粒が出現し、それが集まってアイテムの形になった。
今回は腹がすいていたので食事も兼ねて水袋とカレー、ついでにカッコつけようとマントを出してみた。
「リアルではちょうど一時頃か」
異世界に来て最初のご飯は贅沢にもカレーとなった。
GMのバランス崩壊的強力な能力の高さに最初は動揺したがるさ。とりあえずマントを自慢げに羽織り、冷静になることにした。
「飯にするか」
俺は草原の中心でカレーをほおばった。
「そう言えば、チュートリアルが途中だったっけ」
食事を続けながらガラスの板に視線を向けると、「チュートリアル終了」と表示されていた。
ゴブリンを倒すだけのチュートリアルだったらしい。
終了ボタンを押してガラスのウィンドウを閉じた。
「飯食い終わったらまた実験するか。」
異世界の草原で一人食べるカレーは少し辛かった。
食事を済ましこの世界の状況確認も含め、GMの実験に戻った。
「とりあえず、暑い中外でってのもなんだな」
俺の制作したゲーム、「ライト・オブ・アドベンチャー」には、拠点要素がある。
特殊なアイテムを使用すると、数十種類のパターンの中からアイテムのレア度に応じて家を立てられる要素だ。
(item ID1043)
コマンドを打ち込むと、気がついたら手の中に筒状に丸められた紙があった。
「使ってみたいが、使い方が分からないな」
とりあえず家を建てたい場所、草原の中心から、少し森に近ずいた所で髪を地面に投げてみた。
紙が地面に触れると同時に光、目を覆いたくなるほどの強い光が収まると、シンプルだが、二階建ての木でできた綺麗な家が建った。
「おー。きたきた!リアルじゃアパート暮しだったから、一戸建てなんてサイコー!」
テンションを上げながら家に入り、少し探索したあとコマンドを使い、家具なんかを出した。
「次は机だな」
(item ID954)
家は全部で三部屋ある、その中の入口入ってすぐの部屋にコマンドを使いテーブルを置いた。
「ん〜。向きをミスったな」
手動でテーブルを持ち上げ位置を修正する。
机を回転させていると。
「ドン!」
テーブルを部屋の角にぶつけた。
当たった場所を確認すると凹みになっていた。
「あぁーあ、新居に傷つけちまった。待てよ?」
元のゲームでは、家はあくまでもオブジェクト、傷つくことも無くただキャラクターを置いておく場所だった。
だが、壁に傷がついたことで、ゲームではなく、この世界もリアルなのだと理解した。
「もしかして、この家も自分で好きにいじれるんじゃね?試してみるか」
釘を出して壁に打ち付けて実験してみようと考えた。
しかし、今までのIDは偶然覚えていただけで全てのIDを把握できるわけが無い。
「どうすっかなぁ。あっ、そうだ!」
(item ID0)
コマンドを打つと、設定と書かれた本が手元に現れた。
これは、ゲーム制作時にメモとしてIDやコマンドの一覧を書いたファイルを本にしたものだ。
「ちゃんと出たな。そんじゃ…」
早速本を開いてID一覧のページを開いた。
「何だこれ…」
ID一覧にはゲーム制作中に割り振ったID以外にも、様々なIDがアイテムのあいうえお順で書かれていた。
「すげぇな、IDが何万もある。道理で辞書みたいに分厚いわけだ。」
コマンドの一覧を見ても、ゲーム制作中には登録していないようなコマンドや見たことの無いコマンドも大量に書かれていた。
「なんにしても、これでなんでも好きなもの出せるぜ!」
テンションを上げながら当初の目的だった釘とハンマーをコマンドを使って取り出した。
壁に向かい、早速釘を刺してみた。
「ドンドン」
「刺さる、つまり、日曜大工みたいなリフォームも自由。凄いな、ただのオブジェクトじゃないんだ」
最初のチュートリアルからゲーム要素が強いと思っていたが、ちゃんとリアルらしい。
そのため、元からるアイテムは破壊不能なオブジェクトでしかないと言うことは無く。自由に手をつけられるようだ。
「これは自由の幅が一気に広がるぞ!」
さらに多くの知識を手に入れ、異世界を満喫しようと実験を進めていると。
「バタン」
と音がなり家の扉が空いたら、驚いて扉の方をみると。
「す、すいません…」
ボロボロな白い服にフード付きのマントを羽織った少女が入ってきた。
「どうしたんですか!入ってください!」
「ありがとうございます」
家に入り扉を閉めると、少女はフードを脱いだ。
フードを脱ぐと、服と同じで汚れていたが、美しい白髪と猫のような耳が現れた。
耳?
(ついに来たこの主人公的展開!きっとこれから俺はこの子の聞くも涙、語るも涙の辛い過去を聞き、一生守っていくことを誓うんだろう。そこからの物語、スタートなんだ!)
少女には見えないよう、後ろを向いて涙を浮かべながらガッツポーズをした。
だが、状況はそんな悠長なことを言っていられるようなものではなかった。
閉めた扉を蹴破り、中に三人の男たちが入ってきた。
「誰だ、お前たちは!」
「俺達は奴隷商人。商品を返してもらいに来た。」
ゲームに出てきそうな展開に笑いそうになったり。
自分が作ったゲーム手は違った新しいシナリオにテンションが上がったりしたが、冷静に戻りこの場をどう潜り抜けようか悩んだ。
「お前ら、こんな可愛い子イジメて楽しいか?」
「あぁ、それで金が手に入るんだからな!」
完全に頭のネジが外れてる男達を痛い目に合わせて反省させるため、ある作を思いついた。
男達と睨み合い、時間稼ぎをしながらコマンドを売った。
(magick 54/12)
コマンドを打った途端男達は室内から外に向かって吹いた強風によって吹き飛ばされて行った。
「なるほと、今のが魔法か。」
今使ったのはコマンド一覧で見つけた実験的に魔法を使うためのコマンドだ。
ゲームでの魔法は158種類あり、魔法は1から12までの力がある。
今回は番号で言うと54番の基本風魔法をレベルマックスの12レベで使ったという訳だ。
「良かったぁ。飯食った後実験のためにマジックポイントカンストさせといて。」
予め用意があったのでスムーズに奴隷商人たちを追いだすことができた。
本来ならレベルマックスの魔法なんて使うことすらできなかっただろう。
「あ、ありがとうございます、」
振り返ると少女が深々と頭を下げお礼をしていた。
「いいよ、女の子をいじめるやつらなんて最低だからな!」
「優しい方なのですね」
GMを使って能力強化をしていることは恐らく理解してもらえないだろう。
男として黙っておきたいというのが本音だが。
「そんなこと、もし行くところがないなら、しばらくうちにいるか?」
褒められテンションマックスになった感情を何とかクールに押さえつけ、今にも泣き出しそうな少女に提案をした。
「そんなっ、見ず知らずの人にそんな図々しいことできません!それに何時さっきの奴隷商人が戻ってくるかわからない…」
うつむき潤んだ目を見せないようにするその仕草にさらに心を鷲掴みにされた。
下心満々だが。
「俺も一人暮らしで寂しかったんだ。一緒にいてくれる人がいたら嬉しいんだ。」
甘い言葉でそう誘ってみた。
「そう、なんですか。それじゃあ、お言葉に甘えて」
「うん、よろしく」
(よっしゃー、人公展開キター!)
心の中で天高く拳をあげ、飛び上がっている自分が少し恥ずかしかったが、今日から美少女と一つ屋根の下で暮らすことになるんだ。
テンションが上がって何が悪い!と開き直った。
「一緒に住まわせてもらうんです、かじやん、なんかの雑用は私にお任せください!」
「いや、俺も一緒にやるよ、君だけに任せたら申し訳ないしね」
かっこつけようと意地を貼ったが家事全般が不得意なことは内緒にしておこう。
そんなことを考えていると。
「にしても、さっきの魔法すごかったです。どんな魔法なんですか?」
一瞬ドキッとした、せっかく転移した異世界、主人公的な美少女との展開。
世界バランスを崩しかねない能力を知られてしまうと、せっかくの異世界ライフを楽しめなくなってしまうかもしれない。
だが、焦ってついてしまった。
「さ、さっきコマンド、考えた事を実現する的な魔法…?いろんなこと中使えるんだ」
「コマンド、そんな魔法があるって、すごいですね!」
「あぁ、ありがとう」
苦し紛れの嘘だがなんとかごまかすことができた。
「この度は助けて頂き、ありがとうございます!あっ、自己紹介がまだでした。私、テラと言います。よろしくお願いします!」
「俺はカケルだ、よろしく。君、何歳なの?」
単純に疑問に思ったので聞いてみた。
「十七歳です」
(本当に若いんだな。俺だったらこんな人生耐えられない)
「そっか。若いんだね、ありがとう。いきなりで悪いんだけど、少しだけ家の人に出てくれないか?」
「お払い箱ですか…」
「違う違う、ちょっと実験したいことがあって」
二人で家を出ると、家を作った時と同じようにコマンドを使った。
さっきと同じように筒状の紙が手の中に出現した。
「それもコマンド、ですか?」
「ああそうだよ。」
不思議そうにこちらを見るテルをよそに、今度はさっき立てた家の隣に紙を投げた。
同じように家が建ち二軒が隣り合って立つ形になった。
「よし、運良く同じ木でできたタイプだ。」
「すごい、家が一瞬で立ちました!」
「ニコッ」と笑ってみせると家の中に戻りハンマーを使って壁をぶち抜いた。
「えっ?せっかく作ったのにどうして壊しちゃうんですか?」
「元々三部屋しかなくて小さかったから、家族が増えるなら広くした方がいいと思ってね。でも家が別だったら寂しいじゃん、だからくっつけようと思って」
ぽかんと口を開け固まっていた少女だったが、顔を赤くし「ニコッ」と笑った。
「家族、ですか…」
嬉しそうに笑う少女を見てどうしたのか聞こうとしたが、聞かない方がいいかと思い追求するのは止めた。
だが、彼女の心の傷を少しでも癒すことができたなら良かった。
「ふっふふ〜ん」
鼻歌を歌いながらコマンドを使い、木の板や釘を出して家と家の間を繋ぎ廊下を作った。
「良し、完成!」
「お疲れ様です。用意してもらった食材で料理を作りました」
「ありがとう」
二人でテーブルを挟み、会話を弾ませながら食事を進めた。
「テラの料理メチャクチャうめえじゃん!」
「ありがとうございます。今までいろんな人に買われました、料理番なんかの仕事をする時に身につかなかました。」
本当に今まで奴隷だったのか、と思わせるほど明るく会話をする少女に、疑問なんかを抱いたりすることはなく、美少女と一緒にいられることに感謝し、鼻の下を伸ばしながら会話をした。
「あっ、そうだすまない忘れてた」
「どうかしましたか?」
コマンドを使いあるものを出した。
(item ID1456)
白を基調とした涼しそうな軽い服のセットを出して渡した。
「ずっとそのボロボロの服じゃ可哀想だから」
「あっ…」
テラはいきなり涙を流し始めました。
「ご、ごめん、女の子の趣味とかわからないから、気に入らなかったら捨ててもらって構わない!」
焦って言葉を並べてしまったが。
「ありがとうございます。嬉しいです」
テラは泣きながらお礼を言った。
どうやら彼女も、本当は辛かったようだ。だが、奴隷としての習慣からか、相手にそれを悟られないよう心の奥深くに押しとどめていたようだ。
(どうしてもっと早く気づいてやれなかったんだ、家族なんて言葉を言ったのに、テラの事を何も知る努力をしなかった。)
俺は家族になるということ、テラを守ることの責任をここにきて真剣に考え、改めてしっかり守っていこうと心に決めた。
「これからも何かあったら言ってくれ、俺達はもう家族なんだからな」
食事を終えると、テラは俺がコマンドの実験をしているのを部屋の隅からそっと眺めていた。
「そんなに見られると恥ずかしいんだが…」
「ご、ごめんなさい!」
食事の後、実験に集中していたから気づかなかったが、周りを見てやっと気がついた。
(そういえば、生活に必要なものテーブルと調理器具しか出してねーじゃん!)
「興味あるか?」
テラはこくっと頷いてこちらへ走ってきた。
「見とけよ」
コマンドを打ち込む手に筒状の紙が現れた。
テラはまたしても目を丸く見開き不思議そうに紙をみた。
今回出したのは家具を追加するアイテムだ。それをひとつの部屋にまとめて配置した。
「こんなもんかな」
部屋はホテルなんかで見るトイレとバスタブが一体化した部屋になった。
「服が綺麗でも体が汚れてたら意味無いもんね」
俺が実験をしている間に風呂の準備をしておくよう頼んだ。
実験を再開して三十分ほど経過した頃、テラが俺を呼びに来た。
「お風呂の準備ができました、いつでも入れますよ」
「ありがとう、俺はもうちょっとやりたいことがあるから先に入ってていいよ」
「ほ、本当にいいんですか!?」
俺が頷くと、テラは驚きながら深々と頭を下げ浴室へ向かった。
ああいう反応は何度見ても可愛いが、彼女が育ってきた環境のことを考えると少し悲しくなる。
テラがお風呂に向かってから三分ほどだった。かくいう俺は実験に集中できるはずもなく、何度か、浴室の壁をチラチラ見ていた。
(何を考えているんだ、十七歳の美少女だぞ、どう考えても犯罪だろ!)
自分の頬をばしんと叩いて煩悩を払い切り替えをした直後だった。
「カケル様、助けてください」
「ふっ、カケル様って。どうかしっ…」
実験を中断し振り返るとテラがタオル一枚をまいた状態で浴室から出てきた。
「お風呂の準備は教えていただいたので、完璧なのですが、シャワー?の使い方がわかりません」
「お、おいちょっと待てー!」
カケル様と言う呼ばれ方に少し動揺したが、それ以上に目の前にタオル一枚の美少女がいるというこの状況に思わず声が裏返ってしまった。
「お前、なんて格好してんだ!」
俺の指摘でテラもやっと気づいたらしい。頬を赤くした。
「ごめんなさい、こんなお見苦しい姿を。こんな貧相な体見たくなかったですよね」
「ちっがーう!男の前にそんな姿で出てくるな!男はみんな狼なんだぞ!」
「そうなんですか?」
どうやら常識がなっていないようだ。
「いいか、男の前に出る時は、あんまり露出の多い服は着るな、男に欲情されたら負けだと思え!」
「は、はい!」
「うむ、それで良い」
とりあえずシャワーの説明をしに浴室へ向かった。
今回俺が出したトイレと風呂はネタで作った近代スペックなものだ。
ボタンを押せば自動で風呂が沸く。シャワーも温度を設定し、ノブを上げればお湯が出る。
異世界にはないような機能が付いているものだ。テラがわからなくても仕方がない。
「いいか、こっちで温度を設定する。」
「はい」
「それでこれを上げるとシャワーが使える。オーケー?」
「オーケー?」
「分かりましたか?って意味だ」
「はい!オーケー!」
そういうてらはまだタオルの一枚の姿だ。
直視したら大量出血で死んでしまうかもしれないのでその場を急いで撤退した。
「はぁー。際どかったなぁ」
何かを期待していた自分を心の中で殴り実験を再開した。
今日みたいなことがあってもいいようにステータスは全てカンストさせておいた。
レベル、体力に魔力。他にも鍛冶師や錬金術のスキルレベルもマックス状態だ。
「これがレベルマックスの体か。軽いな」
ジャンプをすれば、天まで届きそうな身軽さに、この世界の季節が夏なのかわからないが、室内でも少し暑かった環境がまるでクーラーのある快適な部屋にいるかのような過ごしやすさになった。
「いろんなことに耐性がついて無敵状態になってるんだろうなぁ」
(試したい!)
テラが風呂に入ってまだ五分位か、まだまだ実験できるかもしれない。
そう思い家を出た。
(どうせこのあと風呂にも入るし一織瀬流しに行こうかな)
まずは草原の先にある森に行ってみることにした。
全速力で走ってみた。
まるで出張で乗った新幹線から外を見ているような早さだ。
見た感じ5キロぐらいありそうな森までな距離を数十秒で完走した。
「さすがレベルマックスの身体、早いなんてもんじゃないな。」
恐らくキャラクター設定の時に選んだ種族によってカンスト状態でも能力に差は出るのだろうが、俺はネタで魔族と人間のハーフを選択していた。
今の俺の状態はカンスト状態の人間の何倍も強い。
「木でも殴って試してみるか。物を殴るなんて生まれて初めてだ。痛いかな」
「バン」
木を殴ったつもりが殴った方向の山が消えてしまった。
「なんじゃこりゃ!」
山が一つ、丸々撃ち抜かれたかのように消えてしまった。
「あーこれ、これやばいやつだ。もうバランス崩壊だわ」
棒読みで笑いながら俺は全てを察し、家に帰った。
(もう俺、敵意ねーわ)
再び数十秒かけ家に戻るとちょうどテラがお風呂を出た。
「お先に失礼しました。カケル様どうぞ」
テラはさっき出したものでは別に新しく出した寝巻き用の服を着ていた。
「それじゃあ俺も入ろうかな」
髪をタオルで拭いていたテラだったが俺の姿を確認するなり慌てだした。
「カケル様、どうしたんですか!?」
自分でも今気づいたが山をぶち抜いた時に土砂を被っていたらしい。
髪やマントが泥まみれになっていた。
「あー。実験してて服が汚れちゃった」
間違ってはいない。だが、山を消して地形を変えてきたなどとは死んでも言えない。
「急いでお風呂に入ってください!」
「はいはい」
急かされて急いでお風呂に入った。
「やりすぎちまったなぁ」
シャワーを浴びながら独り言を言っていると。
「失礼します、お背中を流しに来ました」
「ん、ん〜!?」
「いきなりどうしたんですか、テラさん」
「お一人では洗うのが大変かと思いまし」
これも奴隷としての生活をしてきた弊害か。
(これはいかん。これはいかんぞ、教育しなければ)
その後二十分ほど二人ともタオル一枚の姿で説教をし、テラに女子としての常識を叩き込んだ。
(はぁ、こんなことで人として死にそうになるなんて思わなかった。)
なんか考えたらここは日本とは違う、だが、自分の正義の心がやってはいけないと訴えかけてきた。
(俺は家族を大切にする、犯罪者には絶対にならないぞ!)
バカなことを思いながら入浴を済ませ寝巻きに着替えた。
「もう真っ暗だな、そろそろ寝るか」
「はい」
コマンドを使い、ベットを二つの部屋に置いた。
それぞれの部屋に入る前に廊下で軽く話をした。
「それじゃあまた明日な、明日の朝食は俺が作るから」
(まぁ、コマンドで出すだけなんだけどね)
「よろしくお願いします。手伝えることがあったら言ってください」
「ありがとう、それじゃおやすみ」
「おやすみなさい」
俺達はそれぞれ自分の部屋に入った。
異世界に転移した衝撃がまだ冷めない、テンションが上がっているせいでなかなか寝れない。
時間を潰す為に実験をしながら睡魔が襲ってきたところでやっと布団に入った。
(今日は色々あったなぁ、でもテラみたいな可愛い子が家に来てくれて嬉しいぜ!)
恥ずかしさや嬉しさから布団の中で悶え苦しんだ。
目を開けたり閉じたり、布団に入ってから30分ほど経ち、やっと俺は寝た。
目が覚めると目の前に寺が出た。
「何ー!」
「ふぁ〜、おはようございます」
ここは確かに俺の部屋だ、まりテラが俺の部屋に入ってきたという事だ。
「すいません、昨日の夜、一人は怖くて…」
「そ、そうか」
青春でもないのに心臓が爆発するほどドキッとした。
今でもまだ心臓が鳴り止まない。
(あー、可愛い)
そんなハプニングが起きながら異世界生活二日目が始まった。