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突き落とされた悪役令嬢?

作者: まのやちお

 



 15歳の時に王立治療院に就職して5年になります。


 王立治療院は王都にある総合治療施設で国が運営しています。

 ここに来れば怪我でも病気でも低料金で治療できるのです。


 腕の良い治療師が揃っているので、平民から貴族、王族まで、王都に住む人々は何かあればまず間違いなくここに治療に来る、そんな場所です。


 今日の私の担当は救急部隊。

 治療院まで来られない、緊急の患者のところに駆けつけて治療するお仕事です。



 今日はもう何もないかな? と思った時、緊急指令が届きました。



 公爵令嬢が崖から突き落とされたぁ?


 大事件じゃないですか?



 容疑者は我が国の貴族学院に留学中の隣国の王女様の侍女ぉ?


 国際問題じゃないですか?



 ⎯⎯イタタタタ、あっ、なんだかお腹が、頭が………………自分で魔法で治せ?


 はいはい、わかりましたよ。行きますよ。




 現場はお城のすぐそばの崖の下。

 幸いあまり高さがなかったことと下が柔らかい土だったことで令嬢の怪我は軽かったようです。


 それは良いのですが……。

 なんでしょう、この不穏な空気は?



「アメリアッ! お前との婚約は破棄するっ!」



 修羅場でした?



 しかしなんと言いましょうか。現場にはなま温かい空気が流れております。


 だってねぇ。


 たった今婚約破棄を宣言した我が国の第1王子、エドワード殿下⎯⎯7歳。


 敷物の上に寝かされて涙目でプルプルしている公爵令嬢アメリア様⎯⎯7歳。


 うん。婚約破棄なんて難しい言葉よくご存じでしたね、殿下。



 アメリア様のかわいらしいお顔が少しずつ歪んで……あっ、泣いてしまう。



 頭部に異常は無し。骨も大丈夫。

 あちこちに擦り傷。

 右手をぶつけたかな?

 足は打ち身だけ。


 では、まず浄化魔法で傷口を綺麗にして。

 回復魔法いきまーす。


 検査と治療の間、アメリア様は目に涙をいっぱい溜めて、口をきゅっと結んでいます。


 でも殿下や駆けつけて来たそれぞれのお付きの人たちの話で、なんとなく事情が見えてきました。



 エドワード殿下とアメリア様は生まれた時からの婚約者同士で、時々喧嘩をしながらもけっこう仲が良い微笑ましいカップルだったそうです。


 ところが今年、隣の国の第3王女セーラ様がこの国の貴族学院に留学してきました。

 セーラ様は御歳15歳のそれはそれは美しいお姫様。


 エドワード殿下はたびたび王宮を訪れるセーラ様にすっかり懐いて、子犬のようにセーラ様のあとを付いて歩くやら、アメリア様の前でもセーラ様のことばかり話すやら。


 すっかりおへそを曲げてしまったアメリア様はセーラ様への攻撃を開始してしまったのです。



 たとえば、王宮の廊下を歩くセーラ様の背中に宮廷礼法指南役、泣く子も黙るキャサリン女史の鬼の形相の似顔絵が貼られていたり。


 このときは絵を見た宮廷中の人々に笑いを提供し、気づいたセーラ様も笑い転げ、取り上げた当のキャサリン女史に〇〇年ぶりに人前で吹き出すという失態を演じさせたとか。


 おおっ。やるじゃないですか、お嬢様。


 またある時は、礼法の授業中、セーラ様だけに見える位置で変な顔を連発して笑い転げさせ。


 ダンスの練習中には窓の外で音程の外れ捲った歌を……あっ、大丈夫ですよ。

 大人になると音程が安定することもあるらしいと……多分?


 そして少し大事になったのが “カエル事件”


 アメリア様からセーラ様へのプレゼントの可愛い箱にカエルが入っていた⎯⎯というよくあるイタズラだったのですが。

 箱を開けた場所が悪かった。


 飛び出したカエルに驚いたセーラ様は、足を滑らせて庭の池に落ちてしまったのです。


 風邪をひいてしまったセーラ様は明日のお茶会で歌を披露する予定だったのを、大事をとって欠席。


 セーラ様の歌を楽しみにしていたエドワード殿下がアメリア様を強くなじったのが今日の午前中。


 そしてアメリア様からの呼び出しで崖の上に行った侍女が崖の下に倒れているアメリア様を先ほど発見した、ということですね。


 なるほど。


 ざわざわとそれぞれ勝手な憶測をささやく声。アメリア様の顔がどんどん青ざめていきます。


 ああもうしょうがない。


 私はパンッと1つ手を打ちました。

 その場にいる人たちは全員黙って、何事かと私に注目しています。

 私はすかさず左手を上げました。


「皆さま、上をご覧ください」


 全員一斉に上を見上げます。


「崖の上に1本の木が崖から突き出たように生えているのが見えますでしょうか?

 あの木はリンカの木といって、あの黄色い実を食べると喉の痛みが治ると言われています」


 まあ、薬として使用するには魔法処理が必要なんですけどね。


「アメリア様はあのリンカの実をセーラ様に食べていただきたかったのではないでしょうか?

 少しでも早く渡したくてセーラ様の侍女を呼んだのでは?」


 私は青ざめて震えているアメリア様に、出来るだけ優しく見えるように、笑いかけました。


「ご自分でリンカの実を採ろうとして落ちてしまったのですよね?」


 アメリア様はビックリしたような真ん丸の目で、初めて私の顔を見ると⎯⎯


「そうです。そうなのです」


 と一生懸命何度もうなずきました。



 その時、


「アメリア様」


 涼やかな声がして全員が振り向くと、そこには王弟殿下とセーラ様が並んで立っていました。


「風邪はもう大丈夫よ。心配させてしまって本当にごめんなさいね」


 アメリア様はセーラ様に優しく抱き締められ、ついに


「うわーんあーんえーん」


 王弟殿下に拳骨をもらったエドワード殿下も


「うわーーーん」


 その場はお2人の泣き声の大合唱になったのでした。





 その後間もなく、王弟殿下とセーラ様の婚約が発表されました。


 王弟殿下は20歳。将来は我が国の外交に携わるお方です。

 国際商業国家出身のセーラ様ならば殿下をしっかり支えてくださるでしょう。





 さて、あの小さな婚約者たちはどうしているかといいますと。



「あっ、いましたわっ、ほらあそこ」


「うわっ、跳んだぞっ! どうやって捕まえるのだ?」


「私がお手本をお見せしますので、見ていてくださいませ」




 その後、エドワード殿下から王弟殿下に中からなにやらごそごそ音がする可愛い箱がプレゼントされたのでありました。






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― 新着の感想 ―
[良い点] とても可愛らしいお話でほっこりしました。
[良い点] ほっこりするいいお話をありがとうございます
[一言] よき。
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