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道連れ毒

作者: クロブチンC
掲載日:2018/10/22

あの頃は本当に参っていた、毎日が苦痛でしかなかった。

だから、あんなヘンテコな広告が目に入ってしまったのだと思う。


”誰にも迷惑をかけずにこの世を去ってみませんか?幸せな奴を道連れにして!”


…まぁ、結果としては、良かったのだが。



「道連れ毒」



あの頃は本当に酷かった。

休みなんてもらえたもんじゃない、残業、残業、残業…

1日休みを貰えるが、家でベッドに倒れているだけでその時間は終わってしまう。

社会の歯車なんて言葉をよく聞くが、人間は金属でできている訳じゃあない。

無理に使い続けていればいつかバラバラになってしまう。


俺は本当にその一歩手前だった。

25時間ぶっつづけで会社にいたとき、とあるポップアップ広告が会社のPCに映し出されたんだ。

「誰にも迷惑をかけずにこの世を去ってみませんか?幸せな奴を道連れにして!」


普段ならそんなもの気にも留めないはずだ、むしろポップアップブロックをしていない会社に呆れを覚えるようなところだ。

でも、その時は違った。

自分でもその時、何を考えていたのかははっきりとは覚えていない。

ただ、「それもいいか」とか思っていた気がする。


マウスカーソルがその広告に這っていき、カチリと俺の人差し指が動いた。


その日の帰り道だったと思う。

電球の切れた街灯の下で、真っ白なスーツに身を包んだ男がいた。


「新郎かよ」なんて思いながら、変な奴にかかわるのはまっぴらごめんと横を通り過ぎようとしたんだ。

そしたら


「〇〇さんですね?」


俺の名前を呼んだんだよ。

えっ、と思ってそいつに振り返ると、そいつはニコニコしながら


「お買い上げありがとうございます。こちら、ご注文の”道連れ毒”でございます。」


って言って小包を出してきたんだ。


「こちら、道連れ毒。飲みますと最短1時間で心臓がピッタリと必ず止まるスグレモノでございます。しかもそれだけではございません、あなた様がこの毒をお飲みになられた瞬間、あなたの知らない場所であなたの知らない幸せな方がポックリと、ええ、道連れでございます。」


「その人が死ぬんだったら、その人の周りの人に迷惑がかかるんじゃないか。」


「ええ、ええ、ご懸念の方は分かります。しかしご安心ください、私たち、保険業のようなものもしておりまして、道連れになる方にもそういう契約はしてありますので…」


幸せなのに死にたいやつもいるんだな、てか最近の届け物は早いな。

疲れきっていてそこまでしか頭が回らなかった。

俺はフラリと手を出し、小包を受け取った。


「必ず死ねますよ、旦那様。」


応援なのか感謝なのか罵倒なのか、よくわからない言葉を受けながら俺は帰路に戻った。


自分の家の中、コンビニ弁当の容器がゴミ袋の中でひしめき合っている。

まあ、会社のデスクも似たようなものだ。


早速小包を開けてみると、なるほど透明な小瓶のなかになにやら黒い液体が入っている。

「これを飲めば楽になれる」

一歩手前というのはいささか間違いだった。

俺はもう壊れていたんだと思う。


栓を開け、ぐいと中のものを飲み干す。

最後の一滴まで口の中にいれたところで、会社に電話しなければと思った。


死ぬ前に、やってやろうと考えたのだ。

携帯で会社に電話をつなげる、課長が出勤していた。


「課長、〇〇です!辞めます!ありがとうございました!」


何か言われるのが怖かったのでそのまま電話をきり、電源を落とし、床に放り投げた。

どうせ死ぬんだ、迷惑をかけないように好きにやろう。


使う暇のなかった金を全部引き出して、俺は外に繰り出した。


それから、不思議なことがおきたんだ。


バーで高い酒をどんどん頼んでいたら、それが目に止まったのか、美女が声をかけてきたんだ。

話してみるとなんだかの財閥の娘らしい。

その娘が言うには俺のその退廃的な雰囲気に惹かれたらしい、ただ自棄になっていただけなんだが…

結婚相手をちょうど探していた、ということだったが、なんと俺は酒の勢いで二つ返事でオーケーしてしまったのだ!


そこからは早かった。

何故か相手方の父親に気に入られ婚約が完了、財閥を俺が引き継ぐことになり、子宝にも恵まれた。


何もなかった俺の人生に、急に全てがやってきたのだ。


そして10年が過ぎて、今に至る。

思い起こしてみると、あれは全部夢だったのではないかと思う。

あんな毒、あるわけがないのだ。

だが俺はこうしてこの家で、美人の妻とかわいい子供に囲まれて生きている。

今度の大きなプロジェクトを終わらせれば、さらに財閥は成長できる…


ソファに沈みながら考えていた時、ドアベルが鳴った。

妻の方を見る、隣でウトウトとしている。子供はもう寝ている時間だ。

ずいぶん非常識な輩がいたものだと思いながらドアを開ける。


白いスーツの男が、そこにいた。


「夜分遅くに失礼いたします。まだご存命のようですね、いやあしかし立派になりましたなあ。」


驚きはしたが今の俺はあのころとは違う、余裕がある。


「これは、久しぶりですね。今は幸せに暮らしていますよ、しかしあの毒はやはり偽物だったのでしょう、いつまで経っても効く気配がありません。」


「ええ、ええ、本日はそのことについてお伺いにきたんです。」


「ほう、というと、偽物だったので賠償か何かに?」


「いえいえ、道連れ毒が、売れたのです。先ほど、お渡ししてきました。」


なにか、不安が生まれる。


「まだそんなことをしているのか、毒売りなんて、非常識的な詐欺を。」


「まさか、詐欺だなんて。本日は周りの方々のあなたに関する記憶と、あなたの幸せを回収に来たのです。」


「何を言っているんだ。」


「そろそろ、飲むでしょうからね。」


「おい、誰に毒を渡したんだ!せっかくこうなったんだ!まだ死ぬわけにはいかない!誰に渡した!やめさせろ!」





「あなたの知らない場所の、あなたの知らない不幸な方のもとですよ、きちんと死ねますから、さようなら。」




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