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まおー様は絶望の未来を歩む  作者: 粘々寝
新訳1章:異世界転生勇者・タカシ
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新訳1章 第6話:最期の晩餐会

旧訳第2話までの焼き直し完了。



ーーーーーーーーーーーーーーー…

獣魔領 シュールストレミング

ーーーーーーーーーーーーーーー…


 玉座の間でまおー様は大魔導から報告書を受け取り、読み進めていた。

 読み終えた後、まおー様は報告書を大魔導に返す。


「ライノスウォーロードが勇者タカシを討ち取った。か」

「集落への封じ込めも現時点では成功しております。まおー様の目論見通り事が進んでおりますな」


 だが、まおー様も大魔導も特に楽観ムードというわけではない。


「むしろ、本当の戦いはこれからだ。綻ぶ可能性は幾らでもあるのだろう?」


「……そうですな。例えば、神王国(クソッタレども)がこの件に気付き"兵器"を持ち出してくればライノスウォーロードで抑えるのは厳しいかもしれませんな…… せめて、竜魔族を派遣できればよかったのですが」


 神王国、ウエストエンドの地にある勇者と神を信仰する国であり、

 勇者の作り出した"兵器"を持って魔族を滅ぼす事を信条とする国である。

 歴史的に勇者とは深い関わりがある事から、魔族との対立も根深いものとなっている。


 竜魔族は地力で空を飛べ、生半可な攻撃を通さない硬い鱗の鎧に守られているため、

 単純な強さだけならばライノスウォーロードより遥かに強い。

 大魔導の懸念する"兵器"に対してもある程度戦えるのだ。


「あやつらは余を嫌っておる。頼みなど聞くまいよ。それに、あやつらに任せようものなら人間共を焼き払って計画を頓挫させるのがオチだ」


 かつて、世界を復讐の炎で焦土にし、

 人間共を大虐殺した魔竜王アジ・ダハーカという魔王が居た。

 その末裔が竜魔族であり、力こそが全てを地で行く者達である。


 竜魔族は強力無比であり、強すぎるが故にプライドが高く、

 人間や弱者を相手に奢り高ぶる性格の持ち主である。


 まおー様は竜魔族との間に確執もあるために関係は険悪であり、

 よわっちい獣魔族のまおー様の命令なんてまともに聞いてくれないのである。

 現状、無理矢理抑えてはいるので不満を抱えている。


「下手をすれば勇者が出現したことに乗じて命令を無視して暴れるかもしれませんな」

「全く面倒事ばかり増える…… 一応グウェイルとサウスの南帝国の動きは特に警戒しておけ」


 グウェイルとは竜魔族の筆頭魔貴族であり、

 反まおー様体制派閥の主流派にあたる人物だ。

 

 過去に竜魔族は勇者に徹底的に攻め滅ぼされた経緯があるため、

 個体数は僅かしか残っていない。

 竜魔城シーチキンに至っては勇者の星落(メテオ)しでクレーターと化している。

 

 そして、サウスの地では、南帝国という国がある。

 周辺の小さな国を武力併合し、全国統一を狙う覇権国家のひとつだ。

 現状、南帝国は竜魔とは争っていないのでのうのうと勢力圏を拡大しているのだ。


「御意に、ところでライノスウォーロードの後釜はどう致しますか」


「現地にいるオーク大将軍にそのまま指揮権を委任すれば問題ないのではないか?」


「オーク共は多少知能面に難がありますのでやや不安ですが…… まぁ、ここ150年間はイーストエンドの騎士国も目立った動きは見せておりませんし、大した武力も持ちませんので今のところは放置しても問題ないでしょう」


 イーストエンドの地では、獣人と騎士国との間に常に小競り合いが起こっている。

 獣人は貧しいため、騎士国に略奪を働く事で生計を立てている。

 その略奪部隊の指揮しているのが獣魔将ライノスウォーロードなのである。


 また、獣人達の住む獣人領は過酷な地であるので、

 ぬるま湯に浸かった魔城シュールストレミング勤務からの転勤を嫌がる者達が多い。

 現状上手く回っているのだから餅は餅屋に任せておけばよいという主義である。


「……何も起こらぬ事を願いたいものだが、これからはそうはならんのだろうな」


「そうでしょうな。50年前の敗戦の傷も未だ癒えておりません。もはや魔族側にはロクな後継者も戦力も残っていないというのが現状です。ここ数百年の戦いで唯一被害を免れているのはノースエンドで日和見主義を貫く屍魔族(ヴァンパイア)共と獣魔族くらいでしょう」


 魔族は全体的に長寿であり、尚且つ繁殖能力が低いという欠点を抱えている。

 そのため、一度殲滅されてしまえば再び数を増やすまでに長い時間を要する。

 生活資源を十分賄える以上、人間領をわざわざ侵略する意味もあまりない。


 精々不毛な"復讐"によって人間への逆襲を企てる程度でしか戦う意味がないのだ。

 それがかつての魔王達の生き様でもあったわけだが。

 子世代として生まれたまおー様にとって迫害の歴史なんて正直どうでもいい。

 なので適度に争って適度に戦線を維持する。それでよいと思っているのだ。


 魔族という種族自体を保護して立て直すために、

 今は戦争どころではないというのが現状なのだ。

 よわっちいまおー様が魔王になれたのもそういった背景からきている。


 一方、人間は短いサイクルで繁殖を繰り返す。

 人口が増えれば生活圏の拡大のためにどんどん外に進出してくるのだ。


「……勇者の出現位置がノースエンドに近い事が気がかりだな」

「ええ、嫌な予感がしますな」

「念のためドラウグルの奴には勇者を警戒するよう便りを送っておけ」

「御意に」


 大よそ懸念事項の整理が終わったまおー様は深くため息を吐いた。

 これからの話題が一番重要だからだ。


「さて、大魔導よ」

「何でございましょう」

「次の魔王についてなのだが、ドラウグルを推すように今のうちに手配しておけ」


 まおー様は次期魔王候補をヴァンパイアロードのドラウグルにしようと画策している。

 そのため、屍魔族が大きく力を落とすような事態はなるべく避けたいのだ。


「はて、何故そのような事を今お考えになられるのですかな?」

「とぼけるなよ。"念のため"に必要な事であろう」


「……それはあまり良い考えとは思えませんな。何よりもあやつはちゃらんぽらんな奴ですからな。まおー様が早くご子息を作られる方が今後魔族のためなのでは?」


 ドラウグルという魔貴族はすごーくちゃらんぽらんな奴なのである。

 美人な人間の女を攫っては眷属にして妻も子供もたくさん作っている。

 年中遊び惚けているので魔王の適正があるかと言えば、あんまりない。


 だが、まおー様は生き残る気も子供も作る気もない。故の苦肉の策であった。

 魔族の将来を見越すなら大魔導の言う事は一見正論なのでぐうの音もでないのだ。

 

「……グッ」


 よい考えが浮かばず言葉につまるまおー様だが、

 その沈黙はすぐに破られる事になる。

 突如、玉座の間の入り口にある金属の扉がドン!と勢いよく開かれたのだ。


 駆け込んできたのは、二つのリボンと髪を揺らす魔族の娘ヘレナだった。


「マオ、勇者をやっつけたんだって? やったじゃない!」


 爛々と表情を輝かせながら明るい調子でまおー様に声をかける。


「ヘレナよ。会議中にいきなり扉を開けるのは止めよ。心臓に悪い」

「むう……なによ、折角来てあげたのに」


 魔族の娘は頬っぺたを膨れさせて邪見に扱われた事に悪態をついた。


「今、余は大魔導と重要な話をしていて忙しいのだ。また後にせよ」


「マオなんてどうせ全部大魔導に任せて椅子に座ってるだけじゃない。それより重要な事があるの!」


「ぬぅ…… まあよい。何用だ」


「何って決まってるじゃない!勇者撃破の祝勝パーティよ!」


 そういえば約束していたなと思い出すまおー様なのであった。


「ヘレナよ。今はそんな事をしている暇は……」


「いえ、まおー様、ここはパーティを開くべきですぞ」


「ぬ……? 大魔導までどうした?」


「今後の戦いに備え、今は英気を養う事が重要なのです。 余裕があるうちに飴をまいておきませんとデーモンナイト達の士気にも関わりますぞ」


 大魔導は明らかにてきとーな事言ってるな。とまおー様は看破する。

 だが、何を言った所で無駄であることも理解したのだ。

 この場にいる有力魔族は3人であり2対1の構図となっている。

 つまり、多数決的にまおー様の意見は少数派になってしまったのだ。


「……仕方あるまい。ではデーモンナイト共よ。すぐに祝勝パーティの準備を始めよ」


 こうして、デーモンナイト達は直立不動で剣を掲げる以外の仕事を始める。

 彼らはいそいそと城内を駆け回り、

 魔城の警備は一時期非常に手薄になったのだ。


 だが、手薄になった所で訪問者など殆ど来ないし、

 意図せずに訪問者がやってきて彼らの警備が必要になる事態になるならば、

 彼らが警備してようがしてなかろうが大して差異はない。


 その時が来るとすれば、それは終わりの時だから。


 会場はガヤガヤと賑わっていた。

 普段は漆黒の鎧を着ているデーモンナイト達も鎧を脱ぎ、兜を外し、

 様々な形相をのぞかせる。


 ある者は猟犬の顔がそのまま頭に着いているものもいれば、

 耳だけが獣耳になっている者、一つ目で角が生えている者、

 様々いる。なお、一部の巨人はサイズが巨大すぎて会場に入れないため、

 外で寂しく料理をつまむ羽目になっている。


 会場のグラスには果実酒が注がれ、

 豪勢な肉や野菜料理が所せましとテーブルに並べられる。


 まおー様は上座に座り、その両隣には魔族の娘と大魔導が座っている。

 頃合いを見計らったまおー様は立ち上がってパーティ開幕の挨拶を

「今宵は好きに楽しむがよい」と雑に一言で済ませるのであった。


 そして、一斉にグラスが叩かれる音が鳴り響く。


「はい、マオ、かんぱーい」「うむ」


 カランっとグラスの音が鳴った。


 魔族の娘のグラスに注がれているのは果実酒ではなく、果実飲料である。

 このご時世では保存も効かないので高級なのだが、彼女ならばそれも許される。


「んん、美味しい」


 一口、果実飲料を口に含んだ魔族の娘は思わず漏らすのであった。

 その様子は微笑ましく、まおー様にとっては尊い光景だった。


「マオは飲まないの?」


 言われてまおー様もちびっと果実酒を口に含む。

 芳醇な香りと濃厚な酸味が口いっぱいに広がる。


「美味いな」


 ふと、まおー様は視線を横に向けると魔族の娘と目が会った。

 いつ、どこであっても、

 この魔族の娘と目を合わせると気恥ずかしい気持ちになる。


「えへへ」


 はにかむ魔族の娘の顔を直視し続けるのは心臓に悪いので視線を反らした。

 それがまおー様なのだ。


「だ、大魔導はどうだ?」

「ええ、私の事は放って頂いて結構です。どうぞお楽しみください」


 大魔導は気を利かせる。その事を恨みたい気持ちになるのがまおー様なのだ。


 その後、アルコールが入って気が緩み、

 ついつい魔族の娘と軽口を叩きあってしまう。


 不意に、まおー様は魔族の娘と距離をとるのだと心に決めていた事を思い出す。

 そうして、無理矢理今回の件の功労者の名前を口に出して話題の転換を図る。

 

「お、おおそうだ。大魔導よ、今度ライノスウォーロードには新しいデーモンハルバードでも送ってやれ」


「御意に、あやつも何だかんだで仕事は真面目ですからな。褒美も必要でしょうな」


「マオ、今は仕事の話するの禁止」「むう……」


 パーティ中にそぐわない話題を振った事で魔族の娘に咎められる。

 じーっと目を見られ、思わず赤面してしまうまおー様なのだ。


「それでね、マオ」「どうした?」……


 魔族の少女との他愛もない会話は晩餐が終わるまで続く事になる。

 まおー様にはやっぱり魔族の娘を拒絶しきる事は出来ないのだった。


伏線まきまき、甘酸っぱさましまし。一方タカシ君は……


ただ、2章の序盤と若干矛盾が生じてるな……と思わなくもない出来。

後付けで加筆すると情報の公開タイミングがどんどん狂っていく。

無計画に話を作るとどんどん解れていくのは何故なんだろうか。


……設定はちゃんとゴールまで見据えて作りこんでから話作れって事ですね。

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まおー様の対勇者戦線の設定

ネタバレありだけど設定気になったらこっち見てね

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