2章 第33話:獣人達のその後
単なる背景描写回
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獣人領 獣人要塞
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檻付きの輸送馬車と荷台に食料が積まれた馬車が要塞の門の前で止まっている。
馬車を操っているのは空銀色の鎧を着た騎士、
積荷を検閲するのはポールアクスを背中に背負った漆黒の騎士と獣人だった。
「い、いやだ!助けてくれ!獣人の餌なんていやだぁ!!!!!」
「黙れ」
漆黒の騎士は檻の中で喚く男に冷酷に言い放ち、
ポールアクスの柄で腹を突いた。
「うげぇ…ぇ」と苦痛と嗚咽を漏らして檻の中の男は蹲った
檻の中の男はオークのための生き餌である。
遊牧民国領に密かに潜入したガーゴイルに孤立していた敵兵士を拉致させている。
これは例の姫騎士による提案から行われているものだ。
騎士国と獣人は休戦条約を結んだとはいえ、
獣人の住む場所に踏み込みたいと思う者はいない。
さらに、生贄を取り扱う都合上、その行為自体を忌諱する者は多い。
なのでその食料運搬の役目も百騎兵が担っている。
「よーし、もう入っていいぞ」
漆黒の騎士は積荷を検閲し終えるとやる気なさそうにそう言った。
空銀の騎士達は会釈すると、要塞内部に馬車を進めるのであった。
それから暫くの間時間が過ぎると2台の馬車は要塞の門から出て行くのであった。
檻の中にはもう人は残っていない。
その後、暫く時間を置いて一体のゴブリンが漆黒の騎士の元へ駆け寄ってきた。
「ハウルの旦那、そろそろ飯にしましょうぜ。見張りは俺が引き継ぎますでさぁ」
「ん?オーク共はもう喰っちまったのか?アイツらの食事をうっかり見ちまうと食欲がうせちまうんだが」
「ええ、大丈夫ですぜ」
「そうかい、それじゃあ代わり頼んだわ」
ハウルは要塞内の食事所へ歩みを進め、テーブル席に着くとアーメットを脱ぐ。
ボサボサになった銀色の髪がだらしなく垂れ、銀色の犬耳がぴょこっと立った。
テーブルの中央に雑に置かれているのは果実や野菜だった。
ハウルは一つ、赤い丸い果実を手に取る。
「あの…隣よろしいでしょうか」
「あぁ? なん……っとココちゃんか失礼。ええどうぞ、構いませんよ」
いきなり横から声をかけられて何時もの調子で対応しようとしたが、
声の主の容姿を見て即座に態度を切り替えたのだ。
ハウルが密かにお気に入りにしている儚げなゴブリンちゃんだったからだ。
会釈して隣の席に座るのはココ、猫耳獣人の少女だった。
ハウルはココに見た目のよさそうな果実を拾って渡してやるのであった。
「これでいいか?」
「あ、ありがとうございます。ハウル様」
やや、困惑しながら果実を受け取る獣人の少女であった。
「遠慮するこったないぜ。ココちゃんみたいな女の子には優しくするのがナイトの務めだからな!ハッハッハ」
騎士の戒律の一つに女性に優しくしろというものがある。
なので、ハウルの妙な態度はそこからきている。別に下心とかは関係ない。
「は…はい」
余計気まずそうにする獣人の少女であった。
「失礼… まぁそのなんだ、最近の生活はどうだ?」
「騎士国の人達と争う事がなくなって、皆少し余裕がでてきたように思います。でもどうして急にこうなったんでしょうか」
「そうだなー、どっかの馬鹿な姫さんがお前らの有様を見て放っておけなくなったんだろうよ」
「そうなんでしょうか?」
「そういうもんだよ。まぁ、俺もそういう馬鹿のうちの一人ってもんだ」
獣人要塞勤めはデーモンナイトにとって不人気な職場である。
魔城勤務と比べると単純に飯が少なくて不味く、
水も貴重なので水浴びも満足にできない。
そのクセオークが死体を食い散らかすのでそこらで腐臭もする。
獣人や獣魔は常人より嗅覚も優れているので慣れないと本当にきつい。
そういった事からストレスも相当溜まるので周りに当り散らす者は少なくはない。
なので、自分から獣人要塞勤めを志願する奴は馬鹿な奴だけなのだ。姫騎士含め。
「ハウル様とデモナ様が来て下さる時は皆も安心しています」
「ハッハッハ、そう言われると照れちまうぜ」
ハウルは大きく口を開けて牙を覗かせて笑い、調子よく振舞う。
「そう言えば、デモナ様はどうなされたのでしょうか。最近お姿を見せられなくなりましたが」
「ああ、案外王様でもやって忙しくやってるんじゃないか?」
「…?」
獣人の少女は何故王様という単語が出てくるのか理解できていないのだ。
「……まぁ、これからお前達を取り巻く環境は良くなっていくだろうさ。あの馬鹿が頑張り続ける限りな」
「私達は本当にこのまま食べ物を頂き続けてもよいんでしょうか。この食べ物だって、元々は騎士国の人達が作ったものじゃ……」
「いいか?お前達は十分過ぎるほど、割り食って生きてきたんだ。少しくらい楽したって罰はあたらねぇよ」
「そうでしょうか?」
「そういうもんだよ。まぁ、何時かは人間共と一緒に働く日は来るかもしれないがな」
「そんな日が来るんでしょうか?」
「来るもんだよ。今この環境を作った連中がソレを望むのを諦めなければな」
「……そういう日が来るのなら、ニトにも見せてやりたかったな」
「……まぁ、しょうがねぇよ。でも多分、そいつが死ぬ気で頑張ったからこそ"今"があるんだと思うぜ?」
「そう……なんでしょうか?」
「そういうもんだよ。そう思った方が気が楽だぜ?」
「っそうですね」
っと無駄話をしながら獣人要塞の昼食時間は過ぎていったのだった。
英雄は死んでこそ英雄って言葉があるように、
ニト君の頑張りは後世に語り継がれるべき。そうすべき。
この章の真の主人公は実の所、彼なのでした。というネタばらし。
彼自身デーモンナイト未満の強さしかないし、やった事と言えばそれは単なる時間稼ぎ、
だけど時間稼ぎがあったからこそ援軍は間に合ったし、デモナちゃんも生まれたわけです。
でもまおー様やデモナちゃん死んじゃったら全て元通りになっちゃいますけどね!




