新訳1章 第4話:回復魔法の使い道
ああ、うん。あれなんだ。
ここから新訳1章終了まではかなりヘヴィな胸糞展開になるので注意してね。
そして、出来れば"これから"のタカシ君のことは嫌わないであげてほしいな。
彼も"普通の人間"だと思うので。
ソフトな表現が好みならブラウザバックした上で、旧訳の第2話の方を見てあげてください。
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ノース村
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タカシがノース村に住み込み始めてから2週間が経った。
タカシは大森林に毎日のように素材狩りに行き、
服飾屋の美人看板娘のミリィに素材を貢ぐ生活を謳歌していたのだ。
「はい、昨日取れた絹糸だけど。あげるよ」
そう言って素材袋の中から、真っ白い繭をもそっと取り出し、ミリィに手渡す。
繭を受け取ったミリィは花が咲いたかのような笑顔でタカシを迎える。
「わぁ、いつもありがと~タカシ。あ、今回は血がついてないんだね」
「俺は学ぶ男だからな!これくらい勇者なら当然の事さ」
結局、なめし皮はミリィの方では取り扱っていなかった。
そのため、行商人が通った時に処分したのだ。
ミリィに聞いた所、兎毛や生糸であれば凄く助かるということだったので、
タカシの素材狩りの対象はフォーレストキャタピラーと兎になった。
フォーレストキャタピラーとは等身大程度の大きな芋虫であり、
蛹になる際に糸を吐き、繭を作り、成虫になるとマッドバタフライになる。
なお、基本的にでかくて生理的嫌悪感がある事を除けば人畜無害だ。
そこでタカシは大森林で蛹になっているフォーレストキャタピラーを探し、
中身を繭から引き摺りだして殺して繭だけ持ち帰ったのだ。
最初は面倒だったので中に剣を突き刺して中身を殺してから繭を回収していた。
だが、血で汚れた繭をミリィはえらく嫌がったので狩り方を改善した。
タカシは学ぶ男なのだ。
「タカシがこの村に来てからほんと助かっちゃった」
「いいよ。それよりミリィは明日休みだったよね。その日に予定あるかな?」
「うーん。明日はヨングルト君と一緒に隣町まで買出しに行く予定があるんだ」
ヨングルト君とは、タカシと同行している荷物運びの金髪の男の事だ。
「あ、そっか。あ、今度も繭とってくるね」
「うん、期待してるね~」
とカウンターでおしゃべりしている横にお客のおじさんが現れた。
「ちょっといいかなミリィちゃん」
「あ、ごめんなさい。いらっしゃいませ~」
「あ…また今度来るよ。じゃあね」
なるべく平静を装ってはいるが、若干表情が崩れているタカシであった。
客が来てしまった手前でこれ以上おしゃべりするわけにもいかないので、
タカシは服飾屋を後にするのであった。
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本日の大森林での狩りも終わって帰路についてる所だ。
道路まで出てしまえばもうモンスターは現れないから気が抜ける。
今となっては『練習相手にもならない雑魚』ばっかの大森林とはいえ、
狼に囲まれたりすると今でもちょっと面倒だからな。
そろそろ別の狩場を考えないといけないかもしれないなと思う。
それとは別にこの金髪の雑魚に一つ聞いておきたい事があった。
「なぁ、お前ってミリィと仲よかったりすんの?」
「ああ、言ってなかったっけか。俺とミリィは幼馴染なんだぜ。俺ってほら、ブータローで何の職もつけなかった奴だからさぁ、こうやってアイツのために働けるのってすげー嬉しいんだよ。だからこの機会をくれたタカシには感謝してるんだぜ。俺。まぁ、今でも大森林はちょっと怖いけどな…」
他人の惚気話は聞いてるとイラっと来るのは何故なんだろうか。
だけど俺は勇者なので一々そんな事で目くじらは立てない。
「ああ、それで明日あいつと"デート"があるんだよ。何か買ってやりたいんだけど何がいいかな?」
「花でも渡せばいいんじゃね?」
正直凄まじくどうでもよいので適当な回答をする。
ほんの少し僅かにだけぶん殴ってやりたい気持ちになったけどな。
「花かぁ… 白いカーネーションとかどうだろうな。ちょっとキザっぽいかな」
白いカーネーション。生前の暇つぶしで花言葉をググった時の記憶では、
"純粋な愛"だったか。キザったらしい事この上ないな。ほんとにな。
「まぁ、いいんじゃね」
「タカシが言うなら間違いないな。俺、明日のデートでそれをミリィにプレゼントするわ」
態々同じ事を二度復唱するとはな、
この金髪の雑魚がブータローな理由が分かった気がする。
ノース村にはもう未練はなくなった。
明日からは次の村でも探すかな……
経験値稼ぎの狩場も変えないとだし。
「上手くいけばいいな?」
「ああ」
「ん…?あれは…馬?」
「んあ?」
……どうでも良い話をしていたせいで気がつくのが遅れたが、
何だ?この影…馬?いや、羽が生えた馬が空を飛んでいる。
それだけじゃない。なんだ?あの悪魔みたいな連中は。
降ってくる…!
「うわあああああ」「何だ!?」
岩が落下したかのような激しい轟音と共に目の前に現れたのは、
サイ男だ。ゴツゴツとした漆黒の重装甲と黒い禍々しい形状のハルバード。
……見た目からして明らかにヤバイ奴だな。というか既に冷や汗が浮かんでる。
俺は勇者サーチアイですぐさまに強さを確かめる。『その強さは計り知れない』
……俺の今のレベルは7、『とてもとても強そうだ』をすっ飛ばしている。
つまり、今これと戦ったら絶対勝てないのだけは分かる。
「ヘッヘッヘ… よう、会いたかったぜ?」
目の前のサイ男がニヤついているのが分かる。
そして、明らかに敵意を持っている。
「誰なんだよ……お前は……」
「ば、馬鹿、タカシ。教会から聞いてないのか?あいつは、獣魔将ライノスウォーロードだ。魔族の将軍だよ」
「はぁ?何でこんなところに魔族の将軍が来るんだよ」
魔族、ようは魔王の手先。
俺が勇者として倒すことを義務付けられている相手だ。
いやいやいや、冗談じゃない。クソ過ぎるにも程があるだろう。
「お前が、タカシとか言う勇者サマでいいンだな?悪いンだがちょっくら俺様と付き合ってもらうぜ」
ああ、明らかに俺を狙い撃ちしてやがる。
何でだ?どこで?何時の間に?正体がばれた。いや、何で場所もばれている。
俺は目立った動きは今の所殆どしていないはずだろうが!
「お…… おい、何のために俺の前に出てきた」
「俺様ン所の総大将がな、お前にブルってんだよ。だから態々俺様が直接お前を狩りに来てやったンだよ」
駄目だ。三十六計逃げるに如かず、もはや考える必要もない。
「おい、逃げるぞ」
「ちょっ、ちょっと待ってくれタカシ。足が」
俺は震えて動けない金髪の雑魚を置いて背を向けて逃げる事にした。
だって仕方がない。人間助けられる分量には限度がある。
だが、駆け出して数歩の所ですぐに足を止めるハメになった。
サイ男の奴がジャンプして俺を飛び越して目の前に降りたのだ。
『勇者は逃走した……しかし回り込まれてしまった』
あの鎧とハルバードだけで重量は少なくとも60kgは超えている。
そんな物抱えて人間を飛び越す跳躍?馬鹿げてる。
「おっと逃げるだなんてつれないンじゃないか勇者サマよぉ。次やったらこうだぞ?」
サイ男は俺の目には留まらない速度でハルバードを地面に叩きつける。
豪快な音を立てて地面は割れ、石礫が飛び散る。その勢いはショットガンか。
あんな物を食らったらひとたまりもない。
「……クッ」
「ひぃいいいいいいい」
パニックになった金髪の雑魚の耳障りな悲鳴が鬱陶しい。
冷静になれ。クールだKoolになれ俺。
駄目だ、体が震えて思うように動けない。
「ハァ…… すっかりブルっちまったか。全く勇者サマも困ったモンだよナァ? こんな辺鄙な場所で大森林の魔獣共を虐殺してっから大魔道に捕捉されンだよ。お前一体幾ら殺してきたよ?」
「殺した?捕捉?つまり俺の経験値稼ぎの様子をモニタリングされてたって事か?どうやって!」
ワイルドウルフ、フォーレストキャタピラー、マッドバタフライ、ボア、その他のモンスター、
そこいらにいる食えそうな小動物。
全部あわせればここ数週間で軽く3桁はぶっ殺してきた。
それのせいか?
「何言ってンのか意味わからねぇが。まあいい。それじゃあさっさと仕事に入るとするかね」
サイ男はゆっくりと近づいてくる。ヘラヘラと嗤いながら。ゆっくりと。
俺は、後ずさる事しかできない。
横を見ると腰を抜かして動けなくなった金髪の雑魚が居る。
「やめ…… 来るな」
そのうち、金髪の雑魚の目の前にサイ男が立った。
「ひ…ひぃ……」
涙を浮かべてサイ男を見上げる金髪の雑魚は流石に哀れに思えた。
だが、サイ男は金髪の雑魚を見下ろしてへらへらと嗤うのだ。
「ヘッヘッヘ、おお、そうだ。この金髪のジャリを俺様達のイケニエにするならお前だけは"許して"やっても良いぞ。どうだ?」
サイ男は嗤う。俺の答えなど分かりきっているかのように。
正直奴の思い通りになるのはシャクだが、俺に選択の余地はない。
僅かでも俺が助かる可能性があるならそれにかけるべきだ。
それに、金髪の雑魚が不慮の事故で死ぬなら俺にもメリットがある。丁度良い。
「分かった。そいつは好きにしろ。だから俺だけは助けろ」
「た、タカシ?嘘だよな?俺達…友達だろ?なぁ?」
「都合のいい時だけ友達扱いするんじゃねぇよ」
名前を呼んだ事すらもない荷物持ちなんだし。
金儲け話で呼びかけてついてきただけの男に命なんてかけられるわけもない。
「……えっ?」
金髪の雑魚は一瞬きょとんとした顔をする。
「ゲッハハハハッ良かったなぁジャリ。っということで悪いな?勇者サマのお望みとあらば仕方ないよな」
サイ男は耳障りな嗤い声をあげ、金髪の雑魚の頭を鷲づかみにして持ち上げ始めた。
「や、やだ。やめろ。やめてくれ」
金髪の雑魚は恐怖から失禁する。
「それじゃ、"一発目"といこうか。ナァ?」
「うぐっ、…ぁあああああ!」
金髪の雑魚のみぞおちに鉄拳をめり込ませる。
口から赤の混じったすっぱい吐しゃ物を吐き出した。
ライノスウォーロードは雑に俺の方向に金髪の雑魚を投げ捨てる
投げ捨てられた際に服は裂け、擦り傷が至る所に出来上がる。
「いてぇ……いてぇよぉおお…」
止めを刺さないのか?という疑問が一瞬浮かぶ。
「どういうつもりだ」
「これじゃあイケニエになんねぇだろうがよ。お前、"回復魔法"使えるよな。そこの金髪のジャリに使ってやれよ」
回復魔法の事まで知られている。…どういうことだ。
まるで始めから仕組まれているかのような……そんな疑念すら思い浮かぶ。
何故、わざわざ治療を施す必要があるのかは理解できないけれど。
俺は言われるがままに『ヒール』を金髪の雑魚に施す。
見る見るうちに擦り傷などが元通りになるのだ。
「タ、タカシ……何を…」
「おっサンキュー。これで"もう一発"いけるな」
「…え?」
ああ…そういうことか。つくづく魔族って奴は下種だなと思う。
ヘラヘラ嗤いながら近寄ってくるサイ男を軽蔑の瞳で見据える。
そして、また、金髪の雑魚を鷲づかみにするのだ。
「良かったなぁジャリ?勇者サマのありがたい奇跡のおかげで"もう一発"楽しめるぜ?ゲッハハハハハ」
「タカシ…てめぇ……うぐぁ!あああああ!」
金髪の雑魚は首を捻り、憎悪を含めた視線で俺を見ようとする。
再び金髪の雑魚に鉄拳がめり込む。
そして、もう一回金髪の雑魚を投げてよこすのだ。
擦り傷だらけになり、苦悶の表情を浮かべる金髪の雑魚を見ていると流石に可愛そうだ。
「それじゃあ、"もう一回"、頼むぜ?」
当たり前のようにヒールの再使用を要求される。冗談ではない。
「……ふざけるなよ。こんな拷問みたいな真似、もういいだろ。殺してやれよ」
「つれねぇナァ。まぁいい。勇者サマのありがたい協力のおかげで俺様も久しぶりに楽しめたしナァ。ゲッハハハハ」
協力だと?結果的にそうなっただけだろうが。何言ってやがるんだこいつは。
だが、サイ男は一応満足してくれたらしい。
「それじゃ、もういいか。俺の事は"見逃せ"」
「約束どおり。"俺様個人は"お前の事を"許してやる"よ。まぁ、総大将からの命令なんでな。お前にはどの道死んでもらわなきゃならないンだ。悪いな」
「はぁ?騙したな!」
「ゲッハハハッ騙すも何もてめぇが勝手に勘違いしただけじゃねぇか」
サイ男は地面を蹴る、ジェット噴射のように地面が抉れて土ぼこりが舞う。
ハルバードの間合いの3倍は離れていたが、瞬く間に距離をつめられる。
見る者が見れば戦車と見まがうが如くの突進だ。
「うわあああああ」
俺はがむしゃらに剣を振るうが、サイ男はハルバードを縦に振り下ろす。
結果、俺の腕が切り飛ばされた。
熱い。熱い。なんだこれ。腕が。痛い。血がたくさん吹き出る。痛い。
「いってええええええ『ヒール』」
転げまわりながら回復魔法を唱える俺。
だが、傷口がふさがっただけで腕がにょっきり生えるなんてことはない。
これは下位の回復魔法だから。重症を治療する事が出来ない事を知った。
だが、痛みは多少なくなった。
その様子をヘラヘラ嗤いながら見下ろすサイ男を見て気づいた。
ここで悪あがきするって事は、さっきの金髪の雑魚と同じ目に遭うのだ。
「ちっどうせならもっと粘ってくれると面白かったンだがな?まぁいい。死にな」
ズッと胴体を冷たい物が通りすぎる。
「ガフッ……」
口から血がこぼれて上手く喋れない。
まただ。また、熱いのが来る。なんだよこれおかしいだろ。いてぇよ。『ペインキラー』なんて何の役にもたたねぇじゃねぇかふざけんなよ。何でだよ。何で俺がこんな目に遭う。おかしいだろうが。理不尽だろうが。ふざけんな。痛え、痛え、死にたくねぇよ。こんなクソみたいな終わりなんてねぇ…よ。
「ゲッハハハハハッ!そうだ。冥土の土産に教えておいてやる。勇者サマが"勇気"を出して最初っから俺様に立ち向かってきてれば。てめぇは腹に2発もいれられずに済んでたぜ?ゲッハハハハッ」
誰に向かって言ってるのかもう分からない。
だが、多分コイツは、わざと心臓を狙わず、胴体を貫いた。
可能な限り、俺を痛めつけるために。
クソが…意識が遠くなる。
誰も幸せにならない絶望の戦いはここから始まる。
旧訳の方では若干恩情加えて濁したけど。ねっとり書こうかなって
ライノスウォーロードおじさんがよりかっこよくなって帰ってきました。ゲッハハハハ!