2章 第31話:魔女狩り
やっぱりレイディアナちゃんが酷い目にあうお話
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イーストエンド トイナ騎士国
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黒の神父服の男とずだ袋を被った者達が、城下町を歩いていた。
一目見て異様だと分かるその風貌は町人達を戦慄させた。
ずだ袋の男共が持つのは焼きごて、針が幾つも取り付けられたさすまた、ペンチ。
拷問器具であった。
神父服の男が腰に取り付けている皮で出来た小物入れから僅かに顔を覘かせるのは、
鈍色のグリップ。……この町に住む者達には知らない武器。拳銃だ。
さらに、大砲を小型にした砲が二つと持ち手と引き金を取り付けられた物を背負っていた。
それは、2連式ショットガンだった。
剣と槍と斧と弓と弩以外の物を武器として携える彼らは異様だった。
物陰で町人達が小声で囁いた。
「おい、何だアイツらは」
「シッ聖女教の異端審問官だ。目があったら何をされるか分からん」
「何でそんな奴らがこの国に来ているんだ」
「俺にはわからん……だが、ロクな事は起こらないだろうな」
異端審問官。彼らはそう形容される者達だった。
その彼等が向かう先は城だった。
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謁見の間で玉座に姫騎士王が、その左右に銀騎士が立っていた。
扉を開いて閉じ、入ってきた一般騎士が姫騎士王の前で跪いた。
「聖女教の異端審問官と名乗る者共がレイディアナ様に拝謁賜りたいとのことで急に……」
姫騎士王が何か言い返す直前に突如謁見の間の扉を蹴破られたのであった。
「何奴だ!」
「我々は"教会"の異端審問官である。魔女レイディアナだな?貴様に異端の嫌疑がかけられている」
そう神父風の男は口にし、姫騎士王を睨みつけるのであった。
後ろでずだ袋を被った者達は拷問器具を抱えている。
門番達や一般騎士は異端審問官には逆らえなかったのか、ただ見ているだけだった。
姫騎士王の紅い瞳が神父服の男を睨み、数人の銀騎士達は武器を構えるのであった。
「私が異端だと?何を根拠にそう言っている」
「魔族……それも魔王と交渉し、血を用いた怪しげな邪教の儀式を人に施していると密告を受けた。これは明らかに魔女の所業である」
「な…なんだと……」
姫騎士王には心当たりがあった。
血の洗礼による民の眷族化。そして、自身は魔王の下僕である。
言い逃れようのないまでに神父服の男の言う事は正論であった。
確かに騎士国でも"教会"の主導する宗教は信仰している。
が、それは殆ど形式的なものだったし歴史的にこれまで何かがあったものでもない。
教会がこれほどの強権を振りかざせるとは思ってはいなかったのだ。
だが、不可解な点もあった。
教会の本拠地は遥か遠くの地にあり、
最初から狙い撃ちにしなければ騎士国になど本来異端審問官は現れないのだ。
「その顔は、図星のようだな? 直ぐに神王国の異端審問会に出頭せよ。そこで罪を告白し、裁きを受けるのであれば火刑を免れる事はできるだろう」
姫騎士王には迷う必要性も感じられなかったのだ。その勢いで即答する。
火刑で済むなら問題ないと。
「断る」
「魔女め、言っている事の意味が分かっているのか。異端者が王であれば、それに属する民も全て魔に堕ちた異端者。神敵である。貴国に神の裁きが下るぞ」
「つまりどうするというのだ?」
「神王国は貴国に宣戦布告を行い、征伐することになるだろう。悪魔と交わり、悪魔を信仰し、悪魔に奉仕する者共は皆殺しだ。それを望まないのならば出頭するのだな」
それは、民を人質にした脅迫だった。
ギリっと奥歯を噛み締める姫騎士王だったが、すぐに平静を取り戻す。
神王国、遥か西にある神と勇者を信仰して魔を憎む国である。
トイナ騎士国と神王国では国や都市を複数跨いでいるので、
仮に宣戦布告されたとしても、ただちに戦闘が行われる事はない。
「……私一人が死んで民が救われるのなら貴公の提案を受け入れても良い。が。今、私がここを離れる事で苦しむ民達はどうなるというのだ」
「貴様が居なくても我々の救世主であられる勇者様がいずれお救いになられるであろう」
「いずれとは何時だ。1日経てばその間にも民は蛮族共に次々と殺され、尊厳を奪われる。勇者とかいう得たいの知れない連中が来るまでの間、民達を見殺しにせよと?」
「神を敬虔に信仰するのであれば神の御加護によって守られるだろう。それに、現状でも抑えられているのであれば問題ないだろう」
現状抑えられているのは、
姫騎士王が魔王との契約によって貸し出されている百騎兵と休戦条約のおかげである。
姫騎士が死ぬという事は契約と条約の意義が失われ、百騎兵が騎士国を守る意味が失われる。
獣人との休戦条約も反故にされ、獣人と遊牧民両方からの略奪が再び開始される。
騎士国が滅亡するまでに1週間もかからないだろう。
仮にすぐに勇者が現れたとして、一人でどうにかできるととは到底思えないのだった。
「ではこの国を蝕む流行り病はどうする?」
「勇者様の御業を賜れば皆、救われるでしょう」
流行り病を治す術を持つと言われる勇者。
確かに、勇者が奇跡をふるえば、ふるわれた者達"だけ"は救われる。
「その勇者様とやらは何時までもトイナ騎士国を救い続けてくれるのか?」
「勇者様は多忙な御方だ。世界をお救いになられるために多くの国々を巡らなくてはならない」
だが、未来、そのまた未来に流行り病に苦しむ者たちが現れる。
その者達は救われない。
その者達を救う唯一の方法とは、皆、魔王の眷族となることなのだ。
ふぅ。と一度大きく溜息を吐く姫騎士王であった。
「全く以って、話にならないな」
姫騎士王は玉座から立ち、剣を抜き放つ
これ以上の問答は無用。そう判断したのだった。
「……これだけ譲歩してやっているというのに。愚かな魔女だ。出頭しないというのであれば、今、この場で貴様に裁きを下そう」
神父服の男は腰のホルスターから拳銃を抜き放つ。
「危ない!」銀騎士の男はそれ見て叫んだ。
姫騎士王に向け、引き金を引く。
激しい爆発音と共に鉛の弾丸が目にも留まらぬ速度で射出される。
その、向かう先は姫騎士王の眉間であった。が。
先ほど叫んだ銀騎士の男が割り込んだのであった。
ミスリルで出来たアーメットを貫通し、穴から血が吹き零れおち、倒れる。
すかさずもう一人の銀騎士が黒神父に向けてクレイモアを振るおうとするが、
頭陀袋の男達が立ちふさがって肉の壁となる。が、切り飛ばされて血飛沫が舞った。
だが、猶予が設けられた。
神父服の男の銃口が距離の近い銀騎士に目掛けて向けられ、引き金を引かれる。
そして、もう一人の銀騎士が崩れ落ちたのだ。
姫騎士はその惨劇の間、冷静に"詠唱"を続けていたのだった。
『魔に堕ち、血に濡れた剣の極意……その身に刻め!、地の剣』
姫騎士は剣を地面に突き立てると、神父服の足元から尖った岩が突き出て胴体を穿った。
貫かれた孔からは血が吹き出、神父服の男は血を吐き出した。
「ガフッ…… 愚かな…… 真似を…… 私を殺した事で貴様の国は逆賊となった。神の敵に呪いあれ…」
その後、残ったずだぶくろの男共は姫騎士王によって"処理"された。
拳銃で撃ち抜かれた二人目の銀騎士は僅かに息が残っていたので姫騎士王は駆け寄る。
「おい、大丈夫か」
「……恐らく私はもう駄目です。銃器で撃たれてはこの薄い鎧では耐える事はできません」
「銃器……先ほどのアレか」
「はい……アレは勇者の作りし殺戮のための兵器です。ですが、アレはほんの一端に過ぎません。神王国のクソッタレ共は、それを……使用します。どうか、お気をつけて……」
そうして二人目の銀騎士も息を引き取ったのであった。
「これが…… こんなものが! 勇者の作った物だと? 私は…… 」
神父服の男が手から毀れ落した拳銃を姫騎士王は踏み潰した。
僅か数秒で2名の歴戦の勇士を殺戮したおぞましい兵器。
その威力は矢の曲射を弾くミスリル製の防具を貫き、クロスボウより早く連射ができた。
そして、それをさらに超える兵器も保有している。と銀騎士は言った。
神王国の者共はそれを使うというのだ。神の名の元に。
唐突に起こったこれらの悲劇は、さらに迫り来る悲劇の前の序章に過ぎない。
そう、確信した姫騎士王は両手で自分の身体を抱えるのだった。
銃器を知る銀騎士にかばわれていなければ自身は既に死んでいた。
これから戦っていかなくてはいけない相手とは、そういう者達なのだ。
「どうして…… こんな事に……」
勇者と神に背いた者は圧倒的な暴力によって断罪される。それがこの世界に住む人の宿命。
あの上裸の男がどこか悲観的だった理由の片鱗を姫騎士王は理解したのであった。
そして、姫騎士王は途方に暮れて天を仰ぎ見るのだった。
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異端審問官との邂逅により、百騎兵は98騎兵となった。
死んだ彼等は鎧姿のまま丁重に埋葬されることになる。
その後…騎士国内に存在する教会は全て取り壊される事になった。
姫騎士王の行動を訝しむ者も居れば、烈火の如く怒り狂う者もおり、
また、我関せずと思う者もいる。
ただ、"密告"を行った教会の神父達はオーク達の餌となるのであった。
異端審問官さんは正論言っててレイディアナちゃんが狂ってます。
世界的にはそれが正しい。けど、袋小路に居る人間に正論言っても受け入れられるわけもなく。
まぁ所詮ミスリルフルプレートは薄いチタン板みたいなものなので、
拳銃を防いだりはできないのでした。
威力はS&Wマグナムくらいだろうか。一応レベル4防弾チョッキなら防げるんだそうですけど。
衝撃ダメージで絶命する事もあるそうですし。
所詮薄い鉄板でしかない金属鎧は重量の割りに大した防御力がならないっていう説。
近距離ではクロスボウも貫通するでしょうし。
まおー様の装備するサルヴァシリーズ防具(1t)くらいの装甲厚なら軽戦車並の装甲になるんですけどね!
ちなみに、神王国はアンチマテリアルスナイパーライフルとかマシンガンとかも持ってるよ!
当然ゆゆうでまおー様如きを瞬殺可能です。やったね!
次かその次で2章はしゅーりょう




