2章 第30話 血の洗礼と狂気
レイディアナちゃんのやべー奴化が始まってまいりました。っていうお話
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イーストエンド トイナ騎士国城
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姫騎士レイディアナはトイナ騎士国の王として即位し、その後に獣人との間に休戦条約を結んだ。休戦の条件は獣人が十分に生活できる"食料"を獣人に提供することであった。トイナ騎士国の領主の中にはこれに反対するものも居たが、現状獣人以上の脅威であるユーミン遊牧民国と同時に戦争を継続することが困難であったため、しぶしぶ納得するという形で決まった。休戦条約は獣人要塞で姫騎士レイディアナと魔王マオザウルフの立会いの元で調印された。
その後、野営地強襲によって追い返したユーミン遊牧民国の再侵略に対処するため、トイナ騎士国は河川を境に南西の領土を放棄した。百騎兵及び300の騎士という僅かな兵力でユーミン遊牧民国の騎馬弓兵に対抗するには、川で戦闘域を狭め馬の機動力を抑える必要があったからである。これにより、ユーミン遊牧民国と騎士国領の間に戦線が引き直され、硬直することになる。
依然として騎士国を取り巻く状況は厳しいものではあったが、ユーミン遊牧民国に制圧されていない騎士国領内では略奪が行われることはなくなった。騎士国に住む人々は、つかの間の安息を得ることができたのであった。
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執務も終え、部屋で一息を入れていると紅い目をした侍従の女性が声をかけてくる。
そういう時は大体"いつもの"の件と相場は決まっていた。
「失礼致しますレイディアナ様、今日も流行り病の患者が出たそうです」
「そうか、では私がその者に会いに行こう」
そういって流行り病の閉鎖病棟に向かうのが最近の私の日課であり、使命だ。
病室に着いた私は、一人のやせ衰えた中年男性とその家族と相対した。
中年男性には流行り病特有の斑点が浮かんできているが、
まだ腐ったり壊死はしていない。運が良ければ十分助かるようにみえた。
「レイディアナ様、どうか主人を、主人を助けてください」
そう言って涙目になりながら私に助けを請うた女性は、
恐らく中年男性の妻なのだろう。
「確実に助かることを保証する事はできない。最悪命を落すことになるがそれでも治療を受けたいか?」
「お……お願いします。このまま病で弱って死ぬくらいなら、僅かでも助かる可能性がある方法を選びたい」
「そうか、では」
私は腰にさしてあるスティレットを抜き、指を切る。「んっ…」
指に紅い線が走り、徐々に血が染み出て、滴り落ち、杯に垂らす。
そうすると次第に杯が血のワインで満たされていく。
何度もやってきたのでいい加減に慣れてはきたが、
血が抜けていく感覚はすごく気持ち悪い。
そして、血が飲みたくなる衝動が沸きたってくるんだ。無性に。
……ただ、それをやると色々とまずいことになるので我慢している。
「これを飲むと良い」
「血…… ですか。本当に飲んでも大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫…… とは言い難いが、上手くいけば病で死ぬ事はなくなる」
中年男性は躊躇いつつも、目を閉じて一気に血のワインを飲み込んだ。
血の洗礼を受けた中年男性が目を開いた時、瞳の色が紅く染まっていた。
……私があの御方から頂いた力。
眷族を作り出す力によって中年男性をあの御方と同質の肉体に変える事に成功した。
「あれ……身体が……凄く楽になった。ありがとうございます。レイディアナ様」
「どうやら助かったようだな。これでもう"貴公が"病で死ぬ事はなくなる」
「良かった… 本当によかった。ありがとうございます」
中年男性はすぐ起き上がり、妻の女性と抱きしめあった。
……本来これを行ってしまうとたまに感染ってしまうのだが。
「だが、貴公はこれから暫くの間、隔離所の村まで行ってもらうことになる」
「え?どうしてですか。私の病は完全に治ったのではないのですか」
「すまない。流行り病の害を抑えただけで実の所治ってはいないんだ。だから、そのままでは他の者に感染してしまうので隔離所に行って流行り病の事について学んでもらう必要があるんだ」
「そうなんですか……」
「それでは、私は主人と離れ離れになってしまうのですか」
……流行り病の性質上、家族、親しい人と引き裂かれてしまう。
一緒に居ると病が伝染してしまうことがあるから。
「貴女が望むのであれば、貴女のご主人と同じように血の洗礼を受ければ一緒になることはできるが…」
「受けます。どうか、私にも洗礼を受けさせてください」
こうやって病の患者と親しい者達も誘う事にしている。
離れ離れにすることと一緒に化け物に堕ちる事。
どちらがが正しいのかは私には決められないから。
「そうか。だが、厳しい生活になるぞ」
「構いません。主人と一緒になれるのなら」
「分かった」
先ほどの中年男性と同じようにその妻も眷族にした。
私は、こうやって流行り病を患う騎士国の民達を眷族に作り変え、
流行り病の隔離所(スカージの村)の開発を行っている。
流石に以前の制度と同様に丸腰で行かせるのは問題なので、
必要最低限生活できる資材と一緒に送っている。
あの御方と同質の肉体となった者達は強い。
だから、あの哀れな村を少しずつ人の住める村に変えようと思っている。
あの御方に頼んで、
隔離所(スカージの村)で過ごす者にはデーモンナイトの護衛をつけてもらうようにしている。
今のところは村民達は守られるだけではあるのだが、
いつか自力で狩りを出来るようになる土壌や制度に整え、
最終的にはあの御方のための尖兵や労働力にする予定だ。
長く、長く続けていけば騎士国の民は獣人達と争う必要はいずれなくなる。
互いに手をとる事だってできるようになる。
そうすれば、ゴブリン達を再び騎士国の民として迎え入れる事だって出来る。
オーク達には酷だが兵として働いてもらうことにはなるだろうが。
全て、私と同様にあの御方と同じ種族になってしまえば、
騎士国の民同士でいがみ合う必要がなくなる。
流行り病に悩む者達もいなくなる。
ふふっ……我ながら、酷い女だと思う。私は。
だけど。私のこの身も心も魂も既にあの御方に既に捧げてしまっているのだから。
そして、騎士国の民もあの御方のために捧げると言ってしまっているのだから。
もう、引き返せない所まで来ている。
でも、これが正しい事だと私は信じている。きっと……
黒死病医師が使途を作り出していく様子がコレ。
なまじ善意でやっているだけに性質が悪いという奴。
知らないうちにまおー族という勇者の経験値が大量増殖し始めるという悪夢。
終末のラッパが鳴り始めてますね……
第一使途のデモナちゃん改めレイディアナちゃんの暴走でまおー様の危険度レベルがマッハになりました。
というお話が2章なのでした。
もうちょっとだけ続くんじゃ。




