2章 第26話 捧げる
祝:10万文字達成! わーいわーい!
でもまだ2章終わってないんですか!やだー!
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獣魔領 魔城シュールストレミング
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玉座の間、今度はヘレナも含んだ何時もの面子が揃っていた。
そして、まおー様の前で跪いたデーモンナイトが一人。姫騎士デモナだ。
「それで、またのこのこと戻ってきた理由はなんだ」
「……魔王、もう一度お願いする。騎士国の民を助けてやって欲しい。私に出来る事なら何だってする覚悟はある。だから…… 頼む」
「何でもとは?」
「私の身も心も魂だって貴公のために捧げる。貴公のために何だって、する。だから……」
それは姫騎士の悲痛な覚悟。己全てを持ってまおー様に尽くすという事だ。
神に背き、悪魔に魂を売ってでも民を守りたいという姫騎士の想い。だが。
「全く持って話にならんな」と無慈悲に一蹴するまおー様であった。
「…え?」と姫騎士は呆然とした様子でまおー様を眺める。
「貴様如きの安い命一つのために数百のデーモンナイト共に無駄死にしに行けと命じろと? 余を舐めておるのか?貴様」
所詮、姫騎士の命とは個人の命、そんなものより調教済みのヒポクリフの命の方が重い。
まおー様は一途なので姫騎士の平べったい身体を張ったハニートラップなんて効かないし、
自分に出来なくて姫騎士に出来る事なんてないと思っている。
つまり、交渉材料にもならないのだ。
そして、慈善事業で数千といる馬上弓兵と戦った挙句、
騎士国には人間の敵として後ろから矢を放たれる。そんなもの承認できるはずないのだ。
「ううっ……」
「ねぇ、マオ。それくらいにして助けてあげたら?」
あんまりな姫騎士の現状に見かねて魔族の娘のヘレナはまおー様に頼んでみるのだ。
友達が困ってたら助けたいなって。
「いや、ヘレナ。お主は黙っておれ」
「むっ、そういうマオは嫌いかも」
「ぬぅ…… だがな」
まおー様はちょっと揺らいだ。けどまおー様には魔王としての責任があるのだ。
いくらへレナの頼みとあっても流石にそれは譲れなかったのだ。
その様子を尻目に、わなわなと震えながら姫騎士は呟く。
まるで、押し殺すかのように「…捧げる……」と僅かに聞こえる声量で姫騎士は言った。
「騎士国の民も……全て、貴公のために捧げる。捧げてみせる」
姫騎士の口から出た言葉、それは。無責任極まった言葉である。
自分一人では価値が無いというのであれば、民も巻き込んでしまえと。
「貴様、正気か?」
「私は……正気だ。騎士国の民に獣人達のために食料を作らせ、オーク達の生贄だって用意させて…みせ、ます。だから、お願い、します……魔王、様……」
つまり、騎士国の民を獣人のための家畜とする。
姫騎士は涙を流しながら、搾り出すようにそう言い放つのであった。
騎士国の略奪のために動いているデーモンナイトの労働環境と、
獣人の生活環境は多少改善される。そんなに悪い話ではないのだ。
獣人も遊牧民族もどちらの勢力も民の命を奪うだけの畜生でしかない。
だが、富むのであれば、獣人の方が良い。
あのような惨い殺戮を好む連中に騎士国の民を渡すよりなら。と。
だから姫騎士は決断したのだ。闇に完全に堕ちる事を。
「どのようにしてそれを実現すると?世迷言では話にならんぞ」
「それは…… 私が……騎士国に戻って王となる事が出来れば…… 」
だが、姫騎士には王になるための道筋が考えられていなかった。
その先の言葉を詰まらせる姫騎士であったが、救いの手が差し伸べられる。
「まおー様、案外いけるかもしれませんぞ?」
「どういうことだ」
「魔族と関係のない架空の軍隊をデモナに率いらせればよろしいかと。大義名分、王として即位できる地位自体は十分あります」
魔族の軍隊では人間側に敵視される。
そのため、第三勢力を装った軍団を作り、
騎士王の娘に軍団を率いらせて遊牧民国に制圧された町や村を開放する。
それは、遊牧民国の略奪に困る人々にとっては英雄に見えることだろう。
「病を克服し、帰還したデモナを英雄として祭り上げて傀儡の王とする。か。少々無理矢理ではないか」
「人間共は己さえ助かってしまえば細かい事は気にしないものです」
「そういうものか?」
「そういうものですぞ。過去にあった事例では星落しの勇者の件なんてその最たる例ではありませんか」
かつて、圧倒的な力で人間の大虐殺を行った魔竜王という魔王がいた。
その魔竜王は星落しの勇者によって滅ぼされ、その勇者は功績を称えられて貴族となり、
そして王となった。最も、後に世界を巻き込んだ恐怖政治が敷かれることとなったが。
「…そうだな。良かろう。ならば大魔道の案を採用するとして、デーモンナイトをデモナに百騎貸そう」
魔城における動けるデーモンナイトの総数は大よそ500、
つまり、全兵力の2割。農場に回す兵力とほぼ同等である。
前の獣人要塞戦で導入した兵力は20人余り。単純に5倍にも及ぶ規模だ。
「ああ……ありがとう……ございます……魔王様……」
姫騎士は大粒の涙を流し、その場に崩れ落ちるのであった。
「よかったね。デモナ」と駆け寄って姫騎士の肩を叩く魔族の娘へレナだった。そして、
「でも、こんな意地悪なんてしなくても助けてあげればいいのにね」と悪態をつくのだった。
それを聞いてまおー様は思う。魔族の娘の考えは尊いものだし、
まおー様がまおー様になる前はその意見にも賛成できていた。
でも今は違う。鎖で縛られきった身では昔程思うようには動けないのだ。
そして、姫騎士は選択した。己と同様に鎖で縛られる事を。
「さて、大魔道よ。そうと決まればユーミン遊牧民国と騎士国の状況を探れ」
「御意に。直ぐにガーゴイルを派遣しましょう。編成まで含めると3日程、お時間を頂く事になると思いますが」
「仕方あるまい。それで、架空軍隊の装備に使う空霊銀の在庫はどの程度残っている」
デモナイト製の装備は漆黒でゴテゴテして禍々しいため、
これを着て人間共の前に出るのはイメージが非常に悪い。
なので、物語の騎士が着込むような美麗な甲冑である空霊銀製の装備が求められる。
獣魔は外見が醜い者や獣に近い者も多いため、フルプレートメイルである必要があるのだ。
「現状、古着のフルプレートメイルで50着……百騎分には足りてませんな」
「デーモンメイルの棘を打ち直しで削って空霊銀でコーティングしたら間に合うか?」
「火の術者を総動員させて3日までにギリギリというところですが、ミスリル鉱石とインゴットの在庫が僅かですぞ」
「空霊銀は魔鉄鉱と比べると使い勝手が悪いから最近掘っておらんかったな」
「まおー様…… まさか、ここ1ヶ月間で魔鉄鉱の採掘量が極端に減った原因というのは……」
「忙しくなって日課をする頻度が減ってしまってな」
実のところ、魔城の鉱石採掘量の大半がまおー様一人によって賄われている。
それもそのはず、危険な魔獣の跋扈する霊山にある鉱脈なんて誰も近寄りたくない。
必要十分な備蓄量があれば、鉱石なんて掘る理由もないのだ。
でも何故か毎年備蓄量は増え続ける。
それはまおー様が一人で"日課"としてせこせこ掘り続けていたからなのだ。
最近忙しくて日課の資源採取をあんまり出来ていない。そう思ったまおー様なのであった。
「まおー様…… 奴隷みたいに働くのは流石にどうかと思いますぞ」
「この身に流れる血は魔族が為に流し、この汗は魔城の富の為に流し、この涙は無念に逝った者達が為に流す。魔王となった時から余はそうすると決めておる。魔族のために働かずして何が魔王か」
魔王が本来やるべき国政の大半を大魔道に委任している。
だが、その魔王としての責務を放棄するわけにはいかない。なのでまおー様は選んだのだ。
せめて、働き続ける事で報いろうと。それがまおー様の日課なのである。
「かっこよさげな詭弁を弄して誤魔化さないでくださいませんか」と大魔道は呆れ、
「マオがまた何か変な事言ってる」と先代魔王の娘は聞き流し。
「……それも、役目なのだろうか」と姫騎士は深刻そうに言葉を捉えるのであった。
デモナちゃんがついに人間性を捧げることで完 全 陥 落
という事で業を背負っていただく事になりました。
ザエボスさんも言ってます。
汚いものは全て他人に任せて自分は綺麗で美味しいものだけを盗む奴が嫌いだと。
王様やる以上、汚い所にから目を背けるわけにはいかないのです。
というデモナちゃん改めレイディアナちゃんの回りくどい王様研修もそろそろ終わりが近づきました。というお話が2章なのでした。
…レイディアナちゃんをポンコツに設定しすぎたせいで随分回り道になった気がするこの頃。
でも綺麗なモノしか知らない正義マンはこんなもんな気がするし…う~ん……




