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まおー様は絶望の未来を歩む  作者: 粘々寝
2章:姫騎士レイディアナ
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2章 第17話:まおー様の食生活



ーーーーーーーーーーーーーーー…

獣魔領 スカージの村のはずれ

ーーーーーーーーーーーーーーー…


 ガンガンとハンマーが叩きつけられる音が辺りに響く。


 姫騎士は気まずい思いをしていた。何が気まずいのかといえば、

 目の前の上裸の男が石材加工をしている様をただ無言で眺めているからだ。


 断髪後に「とりあえず仕事が終わるまで待て」と一言言われたきり、会話もしていない。

 それから数刻が過ぎている。


 上裸の男は無心でハンマーで釘を打ち、岩を一気に削りとって大まかな形を作り、

 漆黒のロングソードの腹や刃で岩をガリガリと研いで表面に艶を作っていた。


 姫騎士は見事な十字架の墓石が作られる様をまじまじと見ていた。

 それは職人の技であった。

 ロングソードで岩を研ぐという出鱈目さ加減には筆舌にしがたい。


 姫騎士は堪らず言うのだ。このどうにもならない空気を変えるために。


「み、見事な墓石だな」

「分かるか?」

「ああ、分かる。だが、その、なんだ。何で魔王である貴公がそのような事をしているのだ」


 話題作りに努めるのであった。まおー様は手を止めると話をする体勢になった。

 どうやら仕事がひと段落したらしい。


「余が作らねば誰も墓も建物も作らぬからな。まぁ、先祖の墓参りついでよ」


 土属性まほーが使えるまおー様でもなければ、

 この膨大な墓石を作り続けるのは困難なのである。

 付近の岩場を削って運んで来るのは大変なので誰もやりたがらない。そういう仕事なのだ。

 ましてやスカージの村に良い思いでのある魔族も少ない。ふつーは誰も帰ってこないのだ。


「貴公の先祖か…… 魔王だったのか?」

「魔王も一代おった。かつて、流行り病を発症し、それを克服した最初の獣魔。サルヴァ」

「克服…… か」


 姫騎士はない胸に手を当てる。

 まおー様の眷族となった事で病によって死ぬ事はなくなった。

 身体がまおー様と同質のモノになった事で病を無毒化できるようになったからだ。


「迫害された事で哀れな復讐者と成り果て、多くの人間に死の病と無秩序の混沌を振りまいただけの男よ。今の形に治まるまでに多くの人間も獣人も犠牲となった。らしいがな」


 今の形、とはスカージの村に末期患者を隔離すること。

 昔はこのおぞましい病がどこに居ても発生し、

 明日には自分がその病に感染するかもしれない恐怖が日常的にふりかかっていた。


 流行り病がトイナ騎士国周辺にだけ発生する奇病に収まっているのは、

 長い年月をかけてこの病と戦い続けた人々の努力によるものである。

 だが、そういった事実は長い年月を経ることで次第に忘れられていくものだ。


「貴公は、サルヴァと同じように人間を攻めないのか」

「そのような真似をして何になるのだ」


 まおー様やその配下の漆黒の騎士、

 ライノスウォーロードが本気で攻めてくれば、騎士国は一月と持たない。

 それは、獣人要塞での戦いで痛い程理解させられた。


 魔族が騎士国を滅ぼすことなんて容易なのに、それをやらない。


「魔王とは、人々を憎み、混沌を振りまく存在だと聞いている」

「そのような魔王も過去には居た」


 "教会"の教えでは魔王は絶対悪であり、混沌を振りまく存在とされている。

 だが、本当にそうであるならば、こんなところで墓石を作ってるのはおかしいのだ。

 人が憎いのであれば、まおー様は姫騎士に情けをかけることもない。

 姫騎士の胴体は今時真っ二つになっていることだろう。


「……どうも貴公は魔王らしくない。気がするな」

「よく言われる」


「なぁ、魔王とは何なんだ」

「勇者に殺されるのをただ待つだけの贄よ」


 まおー様はどこか寂しそうに言うのであった。


 勇者……流行り病を治す事のできる存在。

 少し前にそんな話を聞いたなと姫騎士は思い出した。

 贄という不穏な言葉に違和感を覚えて続きを聞こうとした。が。


 …突如ぐぅと姫騎士の方から音がなる。


「何だ。腹でも減ったのか?」


 突然の恥ずかしい出来事を前に思考が乱れ、

 先ほどの会話内容は姫騎士の意識の外に消えていってしまったのだった。


「そ、その。すまない。もう昨日から何も食べていなくて」

「ふむ、ならばこれでも食べるか?」


 まおー様はそういうとチェインベルトに吊り下げてある雑嚢から何かを取り出す。

 だが、姫騎士は取り出されたモノを見て血の気が引くのであった。


 それは、手の大きさ程ある揚げた芋虫だった。


「えっ…!?」

「何を驚いておる。こう見えてとろっとしてふわっとしていて旨いぞ?」


 まおー様は一つまみに千切ってモシャっと食べるのであった。

 千切られた部分からは白い液がたれていた。


「そ…… その出してもらって申し訳ないのだが……」

「ああ、お主もヘレナと同じでこれが駄目なクチか。そんなんで生きていけるのか?」


 仮にも魔王がこのような食事をとるのだろうか。

 という疑問が一瞬頭に浮かんだ姫騎士であった。


 だが、気持ち悪いからという理由で食べないというのは、傲慢な気がした。


 姫騎士はまだ、前の生活を引き摺っているのだ。幸福だった頃の王城での生活。

 動物の乳を煮詰めて作ったシチュー、形状の整った果実。色とりどりの野菜。

 当たり前のように食べてきた。何不自由なく。


「すまない。一つ頂く」


 姫騎士は千切られた揚げた芋虫をまおー様から受け取り、目を閉じて食べた。


 歯ですり潰した瞬間にかすかに果実の香りがした。

 そして、とろけるバターのような味が口いっぱいに広がる。

 美味しいのだ。とても。


 空腹だった姫騎士には極上の料理にさえ思えたのだった。


「…私の知らない味だ。それでいて、とても、美味しいな…… 」

「そうだろう?」

「ああ」


 …なんだ。話してみれば案外魔王も気さくなのだな。と姫騎士は思った。


 そんな他愛もない時間が過ぎていった。

 人と人との間の行われる取るに足らないふつー会話。くだらない単なる与太話。

 だが、姫騎士にとってはえらく尊いように思えた。

 最近は、特に重く苦しい話ばかりだったから。


 後にまおー様は石材を運び、墓守の所までもっていった。

 ゴブリンの少年の遺骨は墓穴に埋葬され、その上に十字架が建った。

 簡易的に祈りを捧げるので追従して冥福を祈った。


 まおー様も冥福は祈るし、仕事もする。食べ物も食べるのだ。

虫の味って食べた果実とか木の蜜によって変わるらしいですよ!

芋虫は割りと旨い。誰かがそう教えてくれた……


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まおー様の対勇者戦線の設定

ネタバレありだけど設定気になったらこっち見てね

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