閑話 天使ちゃんは懺悔したい
閑話なのに続いちゃったお話。
それはまおー様が暇していた頃から1,2ヶ月くらい前の話
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サウスポイント 南帝国領 西部辺境
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冬を越えて木々が花を咲かせる季節。
薄明るく、お日様が昇りきっていない時間帯に肌寒い風が吹いていた。
辺鄙な村で桑を持って畑を耕す一人の女の子が居た。
それは、畑を耕す格好に相応しくない薄着の純白のドレスを着た天使の女の子。
フレイアルだった。
泥や土がドレスを汚してもおかしくないはずなのだが、
何故か彼女は土や泥で汚れる事はない。
ザク、ザクと桑を振るう度に彼女の豊満な胸が揺れていた。
そこに一人の老人が駆け寄ってきて声をかけるのであった。
「おーいフレイアルや。お前さんがこんな朝早くから働く事はないべ。ゆっくりしぃや」
「あ、お爺ちゃん。おはようございます!」
おじいちゃんの朝は早い。が、天使ちゃんの朝はもっと早い。
満面の笑顔をお爺ちゃんに向けて挨拶する天使ちゃんなのであった。
「えへへ~、私が好きでやっている事ですから。お爺ちゃんの方こそ無理しないで休んでてね」
「ほんとワシ等にはもったいないくらいめんこい子やのう。だが、まだまだ若いモンには負けんてな」
そういってお爺ちゃんも桑を持って畑を耕すのであった。
初めて天使ちゃんがこの村に来てから一年程が経っていた。
彼女はすっかり老夫婦の家族の一員として溶け込んでいるのであった。
天使ちゃんは自分を受け入れてくれた老夫婦に恩返しをしたいと思って、
老夫婦の農作業を手伝いはじめた。
天使ちゃんは農作業をする事が大好きなのだ。
だって元は豊穣を司る天使だったのだから。堕ちた今だって志は変わらない。
今、自分の事を必要としてくれる老夫婦の事も大好きなのだ。
お日様が真上に昇るまで、
お爺ちゃんと一緒に桑を振るい続ける天使ちゃんなのであった。
ただ、今日は何時もの平凡な日とは少し違っていた。
数人の無骨な若い男達がやってきたのだ。
最近、この人里から離れた村に旅人が現れるようになった。
「おお、本当に天使が居やがるな」
「すっげぇ可愛い子だな」
「なんじゃお前さん達は」
「なんだ、爺は黙ってろ」
「ふえ?」
理由は単純、天使ちゃんが目当てだったのだ。
最近は特にこの手のやからが増えてきた。
彼女の端麗な容姿、特異な能力に関する噂は村の中だけではなく、
近隣の村、町、国にまで広まってしまっていたのだ。
それは、山賊やそれに準ずる連中を呼び寄せるのには十分すぎた。
「悪いが、ちょっとつきあって貰うぜ」
「わ、や、やめてください!」
男のうちの一人が天使ちゃんの腕を掴もうとする。
天使ちゃんは後ろに後ずさりながらひいていく。
「これ、若造ども、フレイアルを放さんか!」
お爺ちゃんは桑を手に持って若造を威圧しようとする。
しかし、男は2人がかりでお爺ちゃんを殴り倒すのであった。
「ううっ」
「爺。痛い思いしたくなければは黙ってろよ」
「おじいちゃん!や、やだぁ!」
「へへ、大人しくしろよ」
殴られて地面に倒れこんだお爺ちゃんは頭部を強打する。
頭からは血が流れていた。
天使ちゃんの悲痛な叫びが畑に響き渡る。
男達はお爺ちゃんが動けなくなったのを確認すると、
下卑た笑いをうかべながら天使ちゃんに近寄ってくる。
天使ちゃんは意を決して、集中する。
徐々に風を周囲に集め、『ウインドバースト』を男達に放つのであった。
それは一度だけの暴風。
暴風を受けた男はたまらず吹き飛ばされ、背中から地面にうちつけられた。
背中を手で押さえてよろけながら男は立ち上がった。
「帰ってください!それ以上近づいたら…もっと…怖い魔法を使います」
天使ちゃんは声を震わせながら虚勢を張る。
本当のところ、天使ちゃんにはもっと怖い魔法なんて使えないのだ。
これが、彼女の全力だった。そう何度も使えるものでもない。
「うわ、化け物!」
「こいつ、魔法使うって事は魔族じゃねぇか!」
「おい、逃げるぞ!魔族に関わってたら命がいくらあっても足りねぇ」
男達は逃げていく。
世間的に4属性の精霊魔法を使うの魔族だけなのだ。
なので、愛らしい見た目をしている魔族であると男達は誤認したのであった。
「おじいちゃん!大丈夫?」
「うう、すまないねぇ」
天使ちゃんはお爺ちゃんを助け起こし、
手をかざすとほのかな光が現れ、お爺ちゃんを照らすのであった。
その後、老夫婦の家までお爺ちゃんを運んで応急手当をする。
血を流しているお爺ちゃんを見ておばあちゃんは驚いていた。
幸いお爺ちゃんは血を流しただけで、重症には至っていなかった。
「ごめんなさい。きっと私のせい…だよね」
「なに、きにする事ではねぇべ」
「全くお爺さんも無茶をするねぇ」
ただ、お爺ちゃんは今回の一見で理解するのであった。
天使ちゃんを目当てにくる連中はロクでもない連中ばかりであると、
そして、彼女をこのまま無防備な状態で外に出すのは危険であると。
それから数日後、天使ちゃんの懺悔時間が増えたのであった。
天使ちゃんの懺悔は村の外れにある廃屋で行われる。
膝をつき、両手を組み、瞳を閉じ、一心不乱に祈る。
「神様、私は人に暴力を振るってしまいました。大好きなお爺ちゃんも不幸にしてしまいました。私は、とても罪深い事をしてしまいました。どうか、お赦しください。」
天使ちゃんは豊穣を司る天使だった存在。
彼女は本来は人々に豊かさと幸福を与える象徴でなくてはならない存在。
その役目を果たす事のできない天使になんの存在価値があるというのだろうか。
役目を果たさず、自らの保身のために老夫婦を危険に巻き込み、
あまつさえ暴力を振るった。彼女は自分自身が許せなくなった。
彼女の純白の翼が少しくすんだような気がした。
彼女はもう天使ではない。人の世に堕ちた悪魔でしかない。
彼女をこの地に堕とした者達が言った通り、悪魔でしかなかった。
「お前さんは少々優しすぎるのではないか」
ふと、後ろから声をかけられる。
「あ、お爺ちゃん。まだ寝てないとだめだよ」
「全く、孫娘が泣いてる所を見る方が辛いべさ。お前さんが来てから不幸だと思ったことなんぞ一度もないべ」
「お爺ちゃん…」
お爺ちゃんは天使ちゃんの頭を撫でるのであった。
一筋の涙を伝うけれども、そんな様子をお爺ちゃんは知らない。
「お前さんは何もわるーことはしとらん。少しは自分のためだけに生きんさい。神様が許さんでもワシとばあさんくらいはそのことを赦してやるべさ」
「ふぇぇえええええん、グスッ…」
お爺ちゃんの前掛けが涙と鼻水でぐしゃぐしゃになってしまった。
…あれから、お爺ちゃんは天使ちゃんの存在を隠すようにした。
村人達にもそれを徹底するよう頼んだ。
天使ちゃんを求めてやってきた部外者にはしらばっくれた。
存在を隠すため、天使ちゃんが廃屋に篭る時間が増えていったのだった。
しかし、村に魔族が潜んでいる。という噂が流れるようになった。
幸せの時間は少しずつ、崩れ始めようとしていた。
フレイアルちゃんマジ天使。
嫌なフラグが立ちまくってるけど気にしたら負けさね。
むなしい努力を知っている人ならこの後のオチは読めてますよね。
まぁ大体はぐれ天使ちゃんの話そのまんまになっちゃうわけですね。はい。
自分のボキャブラリーのなさが怖い。




