閑話 天使ちゃん
別に今投稿する必要もない話だけど、投稿しちゃう。そんな話
単にレイディアナちゃんの再起のセリフ回しが上手くまとまらないから書いただけなんだけどね。
それは今から1年程前でまおー様がまだ暇していた頃のお話
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サウスポイント 南帝国領 西部辺境
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そこは周囲が木々で囲まれている辺鄙な農村だった。
周囲には魔獣や魔物の脅威はあんまりないが、
帝国領の都市や神王国領の都市とも道も繋がってはおらず、
交易商人も殆ど立ち寄る事はない。
その村に住む村人達はそれ程大きくない畑から取れる農作物や、
周囲の森から木の実等を取って生活していた。
不作によって蓄えがないまま冬が来れば餓死者が出る。
そんな何もない辺鄙な農村だった。
先行きの見えない村の現状に対し悲観し、傭兵、盗賊、物乞いとなる若者がいる。
中には冒険者となって一攫千金を狙って古代遺跡の盗掘を行ったり、
奴隷に身をやつしてしまうような若者も後を絶たなかった。
若者達は村から離れていく一方であり、農作業従事者の後継者も不足していき、
働く者達も高齢化しきった限界集落。
年老いて働けなくなったり病になった者達は静かに息を引き取っていく。
もう数年もすれば全てが廃墟になっているかもしれない。
それがこの名もなき村なのであった。
そんな村に、一人の女の子が足を運んでいた。
ただ、その女の子の姿は普通の人間の姿と比べると大分異質なものだった。
一人旅で辺境を歩いているというのに、
短袖の純白の白いドレスに木綿のサンダルと旅に全く適していない服装。
背中まで届くであろうこげ茶色の長髪は風でたなびいており、
ドレスの隙間から覗かせるふくよかな胸はとても扇情的に映る。
背中には白い翼、頭にはどういう原理で浮いているのか分からない輪が浮いている。
そして、儚くもあどけない顔立ちは庇護欲を刺激させるのだった。
それは、一言で形容するならば天使だった。
「あのぉすみません」
天使ちゃんは畑を耕している最中の、
人のよさそうなおじいちゃんとおばあちゃんにそう声をかけるのだった。
「あんれまーこんな辺鄙な村さ。どうしただか」
「えらくめんこい天使がお見えになったべさ」
「その…… 暫くの間匿ってもらえないでしょうか……」
天使ちゃんは申し訳なさそうな表情で割りと厚かましいお願いを言うのだった。
「ここはなんもねぇところだけんども。おめぇさえよければいいべ」
「わぁ…… ありがとうございます。本当に困ってたので助かりました」
天使ちゃんはお爺さんの承諾を得て破顔する。
そして、ふかぶかと礼をするのであった。
「おじいさんや。孫娘が遊びにきたんかの」
「ワシ等に孫なんぞおらんて。ばあさんや。ボケたか。それでおめぇの事をなんと呼べばいいんだべ」
「フレイアルです。以前は、豊穣を司る天使をやっていました」
実の所、老夫婦には息子が居た。
ただ、その息子は二度と帰ってくる事はないのだ。
お爺ちゃんが二つ返事で了承した理由なんて、単に寂しかっただけなのだ。
天使ちゃんに何かやんごとなき理由があったとしても、
それを聞く気なんてない。聞いた所でどうにも出来ないのだから。
静かに一生を終える手前に可愛い孫娘ができた。それでよいのだ。
その日から数十年ぶりにご飯の用意は二人前から三人前になった。
老夫婦にとってはそれで十分幸せだった。
天使ちゃんは優しい子だったので老夫婦の畑仕事を手伝ってくれるのだ。
不思議な力でちょっぴり畑が元気になる。そんな力も使ってくれたのだ。
その年は例年よりも作物は大きくなったような気がしたし、
病害で駄目になってしまう作物も減ったような気がした。
婆さんが風邪で寝込んだ時に、
天使ちゃんが看病してくれたので何時もより治りが早かった気がした。
時折ぽぉっと光ったりするけれども、お爺さんは特に気にする気はなかった。
村の者達の中には、
そんな天使ちゃんを目の当たりにして神聖視する者が現れ始めたりもした。
村人達にもてはやされて天使ちゃんは最初は嬉しそうにしていた。
他の村人達の畑にもちょっぴり元気になる力を使ったりするようになった。
この年の冬では、村に飢餓が発生することはなかった。
噂は次第に広がり、天使ちゃん見たさに集まってくる旅人が現れたりする。
ただ、天使ちゃんはあんまり目立ちたくなかったようなので、
老夫婦は村人や旅人には天使ちゃんの事を口外しないようにお願いするのだ。
そう、お願いするのだ。
でも、人は珍しいモノを見かけたら、それを口に出さずにはいられない。
哀れな人に指を指して哀れだと言わないと気がすまないし。
愚かな人には嘲笑をもって愚かと言ってやらないと気がすまない。
そういう事を口に出さない人たちであっても、
酒が入ればボロっと自慢話ついでにもらしてしまう。そういうものなのだ。
遠くない未来、噂は大きな国にまで広がっていくことになる。
老夫婦と出会った時に天使ちゃんは匿って欲しいと言っていた。
それは、何かから逃げてこの村にやってきたという事になる。
そのことを思えばあまり良い事は起こらないのだろうという予感はあった。
天使ちゃんは時折お祈りをしていた。
それは懺悔であったり、生きとし生きる者達の幸を願うを祈りだったりする。
お爺さんは後で聞いた事なのだが、
彼女は自身の事は天使ではなく、悪魔であると言っていた。
でもどこからどう見ても天使ちゃんなのだった。
老夫婦以外の村人達にとっても、
無邪気に農作業を手伝ってくれる天使ちゃんは天使ちゃんなのだ。
天使ちゃんを匿う老夫婦は静かな安息を願うのであった。
願わくば何も起こらない事をと
茶ばつでふくよかな胸であどけない顔の天使ちゃん。マジ天使ちゃん。
ただ、まぁ、名前アリな時点でロクな目にはあわないんですけどね。はい。
なんたって悪魔なんだし。悪は断罪されて当然なんですよ。




