2章 第15話:くっ殺せ…!
2章のノルマ達成。くぅ…疲れました!
このネタをやるためだけに戦争をおこしてたらい回しにされるレイディアナちゃんなのであった。
レイディアナちゃんに対する執拗な死体蹴りの底がここになります。やったね!
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獣魔領 西部 スカージの村のはずれ
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「あっ……」
私はその様子に思わず息を飲んだ。
目の前にある圧倒的なまでの死の象徴に気圧されたのだ。
騎士国にも共同墓地はあった。だが、それと比べても墓の量が異常なのだ。
ただの小規模な村でしかないこのスカージの村にある墓地としては、
あまりにも不釣合いな巨大さだった。
それは、流行り病による犠牲の壮絶さを物語っていた。
それだけの数の人間が、この村に運ばれて死んでいったのだ。
きっと私もそう遠くない未来にその中の一人になるのだろう。
ミイラ男の墓守は気にする様子もなく、墓地を進んでいく。
そのうち遠くから地響きが響いた。何度も。何度も。
そして、墓守は足を止める。
「あちらにおられる御方こそ"あのお方"です。」
墓守が目配せした先にいる存在に見覚えがあった。
いや、忘れるはずも無い。父を殺したあの上裸の男は…… 魔王だった。
ただ、以前要塞で見かけた時とは装備が違っていた。
蒼天色の厚手の具足の類は一切纏っておらず、
鎖と皮でできた腰巻一丁の他には筋肉の鎧しかなかった。
その手に持つのは人の丈よりも巨大な戦斧。
腰には漆黒のロングソードや金属製の小型ハンマーなどを複数携えている。
それは、狂戦士としか形容できなかった。
魔王の周囲には大小様々な岩が転がっていた。
「ふんっ」
魔王は震脚すると石柱が突如そそり立つ。そして、
両手で持った大斧を振るう。途端に石柱がバターのように切り裂かれて崩れ落ちた。
そして、崩れ落ちた石柱だったモノを短冊切りにしていく。
上裸の男が一仕事終えたかのように一息いれた頃には、
雑に散らばった大小様々な石材がそこいらに転がっていた。
魔王はこちらの様子に気がついたようだ。
「なんだ、墓守か。邪魔しているぞ。石材はこれくらいで十分だったか」
「お疲れ様です、まおー様。今回も態々墓石の準備までして頂きありがとうございます。今となってはこの村の面倒を見てくださるのはまおー様くらいですので」
「なに、気にするな。余が好きでやっていることだしな」
目の前でやってのけた圧倒的暴力の跡、そして、
ここに魔王が存在するという事実もさることながら。
魔王が墓石加工業をやっているということに少なからず衝撃を受けた。
いや、こんな事はどうでもよい。重要な事ではない。
「ところで墓守よ。そこの女は何だ。態々連れてくる程となると新しい獣魔候補か?」
「いえ、騎士王のご息女であるとのことでしたので、折角ですので話相手にでもと連れて参りました」
魔王はしげしげと私を見ると納得したかのような様子になる。
「ほう、騎士王の娘か。確かに面影はあるな」
「それでは私は遺体を埋葬して参ります。また後ほど」
「うむ、お主も程ほどにしておけよ」
墓守は立ち去っていき、この空間で魔王と二人きりになってしまった。
目の前の存在からは殺気は感じられない。
だが、無意識に身体が強張り、冷や汗が流れた。
対話は可能だろう。だが、そんな事をする気は一切ない。
魔王、それがここにいるだけで私が短刀を抜く理由は十分だった。
それは、教会が曰く絶対悪の存在。
生きる人々全ての敵であり、世界に混沌をばらまく存在。
ここに父の仇がいる。仲間の騎士達を殺し、獣人を騎士国にけしかけたであろう存在。
だが、今の私にあったのは復讐心でも正義感でもない。
もっと別の、暗い悦びにうち震えていたのだ。
それは酷く浅ましく、自分勝手極まりない欲望。
「そういえば名乗ってなかったな。余の名はマオザウルフ。9代目魔王だ。それで、女。お主の名は」
「き、貴様に名乗る名など。ない。よくもお父様を!うわぁあああああ」
スティレットを両手に持ち、魔王に向けて突き出しながら駆け出す。
目はぎゅっとつぶる。
そうしたら…… 次の瞬間には全てが終わる気がしたから。
ズブッ
肉に刃が突き刺さる感覚があった。硬い筋肉に顔をぶつけてしまう。
ちょっとだけ暖かい感触がした。
「……え?」
目を開けると上裸の男の腹筋にスティレットが突き刺さっていた。
血が刃を伝って滴り落ちているのだ。ぽたぽたと。
上を見ると上裸の男は退屈そうに私を見下ろしていた。
思わずスティレットを手放してしまう。
刺したはずの私が一番困惑していた。
だって、そうだ。
無力な女でしかない私が魔王に対して攻撃を当てられるはずなんて、
ないのだから。
本来はあの戦斧を振るわれて一撃で首を飛ばされていたはず。
それくらい、隔絶たる実力の差があったのだ。
「ふん」「あうっ」
私は突き飛ばされて地面に倒される。
両手を地につけて姿勢を支えた。だが、立ち上がる気力はなかった。
「くっ…… 殺せっ」
上裸の男は心底つまらなそうに私を見ていた。
「貴様如き余が直接手を下すに値せん」
「……え?」
上裸の男は自分の腹筋に刺さったスティレットを引き抜く。
引き抜く際に勢いよく血が吹き出ていた。
「これで殺す気ならばココか、ココを狙え。騎士王は片手を失ってでも狙いにきたぞ? そこらの騎士でも死を覚悟して己の身を犠牲に余に挑んできた。騎士王の娘だからと期待してみてみれば、なんだ?貴様は」
上裸の男はそういうとスティレットを左胸と喉元に当てて見せた。
そして、私の足元にスティレットを投げ捨てた。
「今の貴様は余の嫌いなクソッタレの羊共と全く同じ濁った目をしているな。絶望と死に魅入られて自暴自棄となり果て、はた迷惑な玉砕で周りを巻き込み果てるうつけ共と同じ目をな。そんなに死にたいのならばその慈悲の刃で自らの喉でも貫け」
ああ、見透かされていた。だって、仕方がないではないか。
もう、私に未来なんてないのだから。
ここで生き続けていても先にあるのは絶望だけ。
もう二度と、人の世に戻る事も適わないのだ。
化け物に成り果てるか、死を前にして狂った連中の慰み者にされ続けるか、
魔獣の餌になるか、餓えて死ぬか、病で死ぬか。それくらいしかないのだから。
だからせめて魔王に立ち向かって死ぬという名誉が欲しかった。
そんな浅ましい考えが全て見透かされていた。
そして、御者が慈悲の刃を私に与えた本当の意味を知る。
このスティレットは、自決用の刃なのだ。
私は言われるがままに震える手で慈悲の刃を拾い、刃を喉元に目掛ける。
「うっ…うう…」
突けなかった。慈悲の刃が手元から零れ落ちた。
「う…ぁ…あああああああ」
ただ、泣き崩れるだけだった。
死ぬのが怖い。でも生き続ける望みもない。
そんな板ばさみの状況で、仕方なく殺される理由ができたと思ったのだ。
本当に、浅ましく、つまらない理由で魔王に殺されたかったのが私だ。
私は魔王の突き刺さる視線を前にして、ただ泣きじゃくっていた。
墓石石材まおー(株)
獣魔領の人材不足っぷりでこの有様である。
なんでまおー様が塩対応してんのって疑問あると思うけど。
いきなりナイフ持って切りかかってくるような奴相手に大分マイルドな対応してます。一応国民だし。
レイディアナちゃん的にはいきなり切りかかって当然だしね。仇だし。
まぁ本当は無抵抗に刺し殺されるつもりだったというのは内緒。(戦争も終わって役目を終えるのも丁度いいし死んでもいいよねって奴)なので実はまおー様のセリフはブーメラン投げて自身にも刺さってますけど。だからこそ妙に感情的になってる場面でもありますが。
まおー様は仕事帰りでフランクに接しているけどレイディアナちゃんは絶望に染まりきってるというシュールな図に
やっぱ王道的くっころって良いよね。
うつけ共とは神王国の"聖戦士隊"の事なんですが。まぁこの際にはどうでもいい話ですが。




