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まおー様は絶望の未来を歩む  作者: 粘々寝
2章:姫騎士レイディアナ
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2章 第13話 スカージ

引き続きレイディアナちゃんタイム(恍惚)

ーーーーーーーーーーーーーーーー…

イーストエンドポイント北部 魔領

ーーーーーーーーーーーーーーーー…


 日が傾くまでの間、重くなった足を引き摺ってきた。

 私は歩き続けるしかなかった。

 ここが何処なのかも分からない。ただ、整理されていない道を歩き続けた。

 本当に村なんてあるのかも疑問に浮かぶくらいだった。


 だから、今、目の前にある白い綿毛を見たとき、私は安心してしまった。


 白い綿毛は振り向くと愛くるしい表情を見せた。

 それは、透き通るようなつぶらな赤い瞳と細長い耳した可愛らしい兎だった。

 兎は人懐っこくはねながら近づいてくるのだ。鼻の髭を僅かに震わせて。


 私は、抱きしめてしまった。

 何でもいいから味方が欲しかった。ただ、寂しかったのだ。

 兎の柔らかで暖かな感触は私の心を少し癒してくれる。


 ギチッ


 何かが擦れる音がする。


 ギチギチギチギチギチ


 今、私が抱きしめている兎からその音が聞こえる。

 金属が噛み合わされるような音、それは歯軋りだった。

 悪寒と共にぶわっと汗が吹き出てきた。

 

 「うわっ」

 ガチィ


 私は咄嗟に兎から手を離し後ろに跳びぬいた。

 先ほどまでの私の首元の位置に兎は噛みついたのだった。

 

 兎の表情は先ほどの愛くるしさから一点した。

 赤い瞳が血走り、鋭い歯をのぞかせた。そして、

 殺人兎ボーパルラビットは飛び掛ってくる。


 「うわぁああああああ」


 咄嗟に選別でもらったスティレットを引き抜き、

 口を開けて迫ってくる殺人兎の眉間に突き刺した。


 まだ息がある。足りない。もう一撃突き刺す。

 足りない。もう一撃、刺す、刺す、刺す……


 「あああああああああ!」


 気がついた時には、白い綿毛は赤く染まり動かなくなっていた。

 我に返り、自身も兎の返り血で真っ赤になっている事に気がつく。

 愛くるしい動物だったモノを滅多刺しにしたという事実だけがそこに残った。


 「ああっ…あああああ……」


 何なのだ、これは。私は、何処にいるのだろうか。誰か、教えて欲しかった。


 突如、草木が擦れる音がした。

 周りを注意深く見回すと、木々の間を獣が通りぬけるのが見えた。

 幸いこちらに関心はなかったようだ。


 全身が震えた。

 今、この場は危険な場所だという事だけは理解した。

 病による身体の倦怠感も今や恐怖で麻痺してしまった。

 

 私は歩き続けた。震える手にスティレットを握り締めながら。

 

 日がすっかり暮れる頃には門が見えた。その先は、村だった。

 私は思わず駆け寄る。人に会える。それだけで何かが救われるような思いだった。

 門の前には人が一人立っていた。


 「ヒヒッ。ようこそ、スカージの村へ」


 男は歓迎する様子を見せた。

 だが、男の格好の不気味さに少しばかりの不安を覚えた。

 その男の顔は包帯でぐるぐる巻きのミイラ男のようになっていたのだ。

 ただ、意思の疎通が出来る人に出会えた事に比べれば些細な事だ。


 「よかった。ここが"隔離所"…であっているのだろうか。その、私はそこに行くように言われていて……」


「ええ、ここがその"隔離所"です。ここにくる者は皆決まっておりますから。ああ、申し送れました。私はここの案内役をやっております。まぁ、墓守とでも呼んでください。」


 私は墓守という響きに不安が強まる。

 ざっと門の置くを見通すとボロボロになった廃屋が見えたからだ。

 とても、人が過ごしている…… という風には見えない。


「こちらこそ申し遅れてすまない。私は、レイディアナだ。その…騎士王の娘…だったものだ」

「ヒヒッ騎士王陛下のこれはこれは失礼しました。それではレイディアナ様はこの場所についてどの程度ご存知でしょうか」

「すまない。その…流行り病の隔離所であるとしか…」


「ヒヒッそうですか、ここはですね。天罰を受けし者達の墓場なのですよ」

「墓場……だと?」


 末期になった患者を看取るためだけにある村…故に墓守であると。

 私は、天罰を受けた…という事なのだろか。

 

「そうですとも、流行り病を発症した者が残された最期の時を過ごす場所。まぁ、中には"例外"もございますが。とりあえず村の中をご案内致しましょう。ついてきてください」


 男はそういうと背を向けてゆっくりと歩き出した。私はそれに追従する。

 辺りを見渡すと、廃墟、廃墟、廃墟、荒れた畑、廃墟…

 人の住める場所には到底見えなかった。


 そして、小さな人影が蠢いているのが見えたので目を凝らして見る。

 お互いに目があってしまったそれは、犬耳のゴブリンだった。


「なっゴブリンがどうしてここに!」


 私は咄嗟に血錆のついたままのスティレットを引き抜いて構えた。


「ひぃっ」

「いけません。剣を収めてください」

「うわぁあああああ」


 ミイラ男は私を制止し、その間にゴブリンの少年は脱兎の如く逃げ去っていった。


「あれは…なんなのだ?」


「あの者は流行り病を発症しても死なずに"運よく助かった"者の一人です。丁度2週間程前に来た集団の中での生き残りが彼…ですね。他にもオークとなった者もいます」


「な…… あの者は元々私達と同じ人間だった… というのか…まさか」


 私が振り向くとミイラ男は顔に巻いた包帯を取ってみせた。

 鼻が崩れ、口は頬まで裂け、顔の左半分はボロボロになった皮膚になっていた。

 そして、左手を見せると指が3本しかなかった。


「ヒヒッ醜い顔で申し訳ございません。ですが最初に私の顔を見せてしまうと皆怖がってしまいますので… まぁ私も運が良い部類の人間だった者です。酷い者は知性もなくなってしまわれますから」


「なんという…… ウグッ」


 理解した瞬間、私は鈍器で頭を殴られたかのような衝撃を心に受けた。

 喉から酸っぱいものがこみ上げてきたが飲み込んだ。


 流行り病になった者達の末路とは、私が今まで散々切り捨てて来た人々なのだ。

 獣人要塞で出会ったゴブリンの少年を思い出した。


 なんなのだ…これは…こんなものが許されていいのか。

 …違う…私がやって来た事は…許されてよい…のだろうか。


「大丈夫ですか」

「…すまない、その、少し疲れているみたいだ。私も、ああなってしまうのか」

「知りません。あのように変わる者も居るというだけですので、大抵は身体が腐り落ちて死んでしまいます」

「そう…… か…… 」

「体調も優れないようですし、休める所をご案内致しましょう」

「……その、すまない」


 一軒のボロ屋に案内される。ただの小屋だ。扉もない。

 寝床も藁のようなものを床に敷くだけ。そういうボロ小屋だった。


「もし、何か叫び声が聞こえたとしても無視する事をお勧め致します。巻き込まれたくなければ、ですが。また明日、続きをご案内致します」

「…分かった」


 不幸には、底という者がないのだろうな。

 狂ってしまえたらどれだけ楽なのだろうか。

 知らずに居られたら無神経でいられたのだろうか。


「は…はは…私は…人殺し…だったんだな…はは…ケホッ」


 民のためといいながら、民であったオークやゴブリンを切り刻んで来た。

 守るべきものだったものを畜生と呼んで率先して切り刻んでおきながら、

 何が騎士か…笑わせる。


 知らなければ許されるというモノではない。これは。

 

 また、泣いた。

 きっと、ここに来た者は皆泣くのだろうな。

 あの獣人の少年もここで泣いたのだろうか。


「これでは、天罰を受けるのも… 当然だな……」


 私は、自分という存在が嫌いになった。

 

 深夜、悲鳴が聞こえた。

 私はすぐに悲鳴の聞こえる方向に走る。


 民を守る騎士としての矜持だけが支えでもあったからだ。

 根拠の無い自信があった。助ける事が出来ると。


 駆けつけた先にある小屋の中は、血と臓物が撒き散らされていた。

 そして、先ほど会ったゴブリンの少年が大虎に貪られていたのだ。

 グシャ、グシャ、と肉を夢中で貪っている。


 ああ、正義感なんて何の役にも立たない。

 わかった。アレに私は絶対勝てない。

 これが、"魔獣"なのだ。


 このちっぽけなスティレットでどうしろと言うんだ。

 私は、無力だ。

 

 「ああ… 」


 幸い、大虎は私の存在など全く気にせず肉を貪っていた。


 私は逃げた。ただ逃げた。小屋に逃げ込んだ。

 小屋の中で小娘のように身体を抱えて恐怖で震えている事しかできなかった。


 その夜は一睡もできなかった。

 途中、腹の音が鳴ってようやく私は何も食べていない事に気がついた。

 でもそんな事どうでもよかった。


 日が昇るまでの間、ただ、震え続けていた。

 時折遠くで魔獣の遠吠えのようなものが聞こえる度に、

 私は単なる餌でしかないのだと自覚させられた。

 騎士として周りの男よりちょっと強かった事なんて、

 何の意味もないのだと。


 朝日がやけに眩しかった。

 "当たり前"のような朝日が、こんなにも遠いものだったと初めて知った。

病気で弱ってるのに存在を全否定される絶望感を描写できる技能がサクーシャになかった。

感情描写とかもう色々立て続けにおきすぎてグッチャグチャだしね。


でもあんまり露骨にゲロインにしてめそめそさせてもなぁっていう悩み

スカージって天罰って意味になります。

でもニト君とかもっと酷い目にあってるしね。



病人しか居ない町に自警団なんているはずもなく、

魔獣は入り込み放題だし、畑作っても荒らされ放題の素敵な村。それがスカージ

ライオンの居る檻の中で震える覚悟はできたか?サクーシャにはできてない。


猫は一応夜行性らしいのでドゥンが夜中に殴りこみかけてきます。やったね!

畑に野菜を植えればブラッククロウがやってくる。やったね!

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まおー様の対勇者戦線の設定

ネタバレありだけど設定気になったらこっち見てね

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