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まおー様は絶望の未来を歩む  作者: 粘々寝
2章:姫騎士レイディアナ
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2章 第12話 喪失

こっから先はスーパーレイディアナちゃんタイム(恍惚)

と言う名の死体蹴りですので苦手な方はご注意を

 トイナ騎士国は此度の獣人要塞遠征で約半数の被害を出す事になった。特に、上級騎士で構成される騎兵隊とそれを率いる騎士王が魔王に直接戦いを挑み壊滅したことにより、騎士国の国力は大きく低下することになった。そして、獣人要塞に出現した"漆黒の騎士"が付近の村々への略奪に参加し始めることになる。当時ライノスウォーロードが指揮をとっていた頃と比べると略奪の残虐性は日を追うごとに増していき、犠牲者の数も増えていく一方となる。

 王が不在のまま魔族と獣人の脅威に怯える騎士国を取り巻く空気は暗々としていたのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー…

イーストエンドポイント トイナ騎士国

ーーーーーーーーーーーーーーーーー…


 父が戦死したあの遠征から大よそ1週間が経った。


 父だけではない、多くの見知った騎士達もあの戦いで帰らぬ者となった。

 以前の任では共に戦った青年の騎士、

 口だけはやたら達者で訓練ではいつも突っかかってくる騎士、

 よく父とチェスをしていた引退間際の老騎士、

 お節介を焼いて結局戻らなかった騎士、

 皆、帰ってくる事はなかった。


 騎士として命をかけて戦う以上、いずれは起こりえた話だ。

 覚悟だってした。つもりになっていた。なのに……

 思っていた以上に私は脆い人間だったという事を今更気づいた。


 あれからずっと体調がすぐれない。食事も喉を通さない。

 風邪をひいたのか咳も時折でて倦怠感が抜けない。

 こんな事ではいけないはずだというのに、身体が言う事を聞かない。


 名のある上級騎士の多くが倒れてしまった以上、

 父の代わりに私がこの国を引っ張っていかなくてはいけない。

 だが、ただの騎士としての責任しか全うしてこなかった自分に、

 それが出来るのだろうか。

 父は、どうやって国をまとめていたのだろうか…

 この重圧がまた私を締め付けるのだ。


 だが、こんな事を考えていられるうちはまだマシだったのかもしれない。

 今日の目覚めは特に最悪だった。


「ケホッ…え?」


 視線を下に落すと着ていたネグリジェが血で汚れていた。

 一瞬何が起こったのかがわからなかったが、

 口元に血がこびり付いていた事から自分が咳で吐血したのだということは分かった。

 身体を確認すると腕に斑点のような痣が浮かんでいたのが目に入った。

 明らかに自分の身体は正常ではない。


 だから、とにかく人に会う事を考えた。


「お目覚めでしょうか?レイディアナ様、キャアアアア」


 侍従のメイドと顔を合わせたら悲鳴を上げた後に血相を変えて走っていった。

 そして、自分がどうなっているのかを知る事になった。


「レイディアナ様が流行り病を患われたぞ!」

「ま、待ってくれ、私は……」


 それからの事はあんまりよく覚えてはいない。

 ただ、酷く傷つけられた気がした。


 先日まで私にかけられた言葉は同情や励ましといったものだった。

 しかし、本日から私に向けられた視線や言葉は筆舌に尽くし難い。


「妃に続いて娘まで流行り病にかかるとは…騎士王家は呪われているとしか思えませんな」

「王が不在の騎士国はこれから荒れる事になりそうだな」

「騎士王が獣人要塞など攻めるからあてつけのように略奪が増えていく。全く迷惑な話だな」

「近寄らないでください。流行り病が感染る」

「騎士王の娘も哀れなものだな。まぁ、娘が隔離所に送られる所を見ずに済んだのはある意味では幸いだったのかもしれないな」


 知っている者も、見知らぬ者も、先日までとは全く違う台詞を言うのだ。

 心無い暴言や父の行動を咎める言葉、

 哀れむような視線や汚物を見るような視線は私の心を深く抉った。


 父はどうして責められなければならない。

 私はどうして哀れまなければならない。

 国や民のために戦ったのではなかったのか。どうして……


 魔王との戦いに勝利できなかった事が罪になるのだろうか。

 それが、王の責任だというのだろうか。

 流行り病にかかるのは罪になるのだろうか。

 私は罰せられなくてはいけないほどの悪行を尽くしてしまったのだろうか。

 考えると辛くなった。


 色々な場所をたらい回しにされた結果、

 私はどうやら制度に則って"隔離所"に送られる事になったらしい。

 そして、最低限の服装と食料だけを与えられ、輸送馬車に詰め込まれた。

 この馬車はまるで罪人を拘留するための牢屋のように思えた。


 今、私はきっとすごく酷い顔をしているのだろう。

 以前見かけた輸送場所に乗っていたみすぼらしい格好の人々、

 彼らのような冥い目をしているのかもしれない。


 涙は一週間前に既に枯れたと思ったが、案外まだまだ流れるみたいだ。


「なぁ、これから私はこれからどうなるんだ」

 

 馬車から見える風景をただ眺めるのは辛かったので御者に問う事にした。


「知らねぇよ。あそこに行った奴は二度と帰ってくる事はないからな。」

「そう…… か……」


 今まで"当たり前"だと思っていたモノは酷く脆いものだったのだと知った。

 全てを失くすまで、”当たり前”のありがたみは気づかないものだ。

 父も、知り合いも、王城暮らしも、騎士としての地位も、暖かい食事も。


 私は何処か"他人事"で見ていたのだと思う。この馬車に乗っていた者達の事を。

 何処かでこう思っていた。自分は流行り病とは無縁の存在であると。

 今思えば傲慢極まる話ではあるのだが。

 痛い思いをするまで気づかないのが人なのだな。と。


 2日の旅路を経た頃、堅牢な砦が目に入る。

 馬車で通るときに鉄格子が上がり、その先を少し行った所で馬車は止まる。


「降りろ。ここからは道なりに真っ直ぐ歩いていけば数刻で村に着く」


 そういうと御者は輸送馬車の牢の鍵を外し、私を外に出した。


「まぁせめてもの餞別だ。必要になったらこれを使え」


 そう言って御者は一本の鞘付きのスティレットを投げ渡すと馬車に乗り込み、

 私を置いて馬車を走らせて踵を返したのだ。


「ま、待ってくれ。お願いだ」


 御者は私の懇願を無視する。

 馬車が門を潜ると鉄格子が下がった。


「誰か、頼む。ここを開けてくれ!」


 鉄格子を掴んで私は繰り返し叫ぶ。

 だが、そんな言葉を聞いてくれる者は誰も居ない。


「誰か……」


 いくら叫んでも泣いても、誰も言葉はかけてくれない。

 ここを守っている者達はきっと見飽きているのだろう。

 一々構っていたらキリがないというように。


 私は、独りだった。


人って結果論で叩きたくなっちゃうモノなので、

まおー様に敗北した騎士王は戦争の責任を負う事になっちゃいます。酷い話ですなぁ


でも、ある意味では騎士王は生き残るより死んだ方がマシでしたね。

娘を流行り病の隔離所に送り込む様を見せつけられるハメになるんですからね。


あの戦いは仮にまおー様に勝ってたとしても騎士王は救われません。

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まおー様の対勇者戦線の設定

ネタバレありだけど設定気になったらこっち見てね

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